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44:視察で知る現実

 新世界歴元年 2月18日

 マリス連邦 南方沖

 帝国海軍 原子力空母「瑞龍」



 瑞龍の飛行甲板にテイルローター式の輸送機「CV-22Jオスプレイ」が着艦した。中から降り立ったのは軍服やスーツ姿の男達――彼らはマリス連邦の国防長官と軍の総参謀長であったが、彼らの表情はこわばっていた。

 視察へ向かう当初は「蛮族の軍など恐るに足らず」といった雰囲気であったが、眼の前で降り立ったオスプレイを見て表情は固まり、そして近づいてきた巨大空母を旗艦とする機動艦隊を見て表情が一気に強張り、今に至る。

 国防長官と総参謀長は、今回の樺太への攻撃を主導した中心人物なのだが、ここに至って自分たちの下した決断は間違いだったのではないか?と思い始めていた。


 さて、彼らをマリス本土から瑞龍まで運んだのはCV-22J輸送機である。

 アメリカで開発されたテイルローター機であり、垂直離発着が可能でありながらヘリコプターよりも多くの物資や人員を搭載することができるため、離島が多い日本にうってつけの機体としてアメリカに次ぐ数が導入された。

 主に空軍・海軍・海兵隊で運用しており、海軍では本土と離島にある基地とを結ぶ輸送機や、あるいは空母搭載の輸送機として運用されている。瑞龍にも3機が搭載されており、今回そのうちの1機が人員輸送に駆り出された。


 そして、帝国海軍の大型原子力空母である「瑞龍」は満載排水量10万トンに匹敵する大型艦であり、マリス連邦が保有するどの空母よりも巨大であった。しかし、これらはまだ「前座」にすぎない。




「…これが、日本の戦闘機か」


 飛行甲板に整列した91式艦上戦闘機を見て国防長官の表情はひきつる。

 更に、その横には新型の17式艦上戦闘機もあり、応対した兵士から「レーダーに映りにくいステルス機」であると説明を受けた時に、表情は更にこわばったものになった。

 レーダーに映りにくいステルス機の研究というのは、マリス連邦も行っているようだがまだまだ技術的に実用化の目処はたっていなかった。そんな苦労しているステルス機が目の前にいるのだから、そんな表情になるのは仕方がないだろう。


「我が国の第2機動艦隊を壊滅させたのもこの戦闘機なのか?」

「いえ。それはまた別――空軍の攻撃機と地上の地対艦ミサイル部隊によるものですね」

「…そうか。ありがとう」


 また、別の手段で艦隊は壊滅したことに質問した海軍参謀長は引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。この時点ですでに、自分たちはとんでもない相手に戦争を吹っ掛けてしまった、と後悔していた。しかし、すでにやってしまったものは遅い。さらに、これまでの日本側へとった態度もまた最悪であった。


(…これはまずいかもしれない)


 瑞龍の視察を続けながら国防長官は内心冷や汗をかきつづけていた。

 だが、これはほんの「前菜」にすぎない。日本は、さらなる爆弾を国防長官たちに見せつけようとしていた。




 一行は、一時間ほど「瑞龍」の視察を終えると待機していた17式哨戒ヘリコプターに乗って別のところへ向かう。

 向かった先は――大和であった。


「大きいな…」


 大和の後部にあるヘリコプター甲板から見えたのは、巨大な主砲だった。

 18式54口径46センチ電磁加速砲――これが、この巨大な砲の名である。

 世界最大クラスのレールガンであり、現代の戦艦「大和」の代名詞といえるこの砲はある程度のステルス性を考慮しながらも、かつての海の主役であった巨砲の佇まいをしていた。


「レールガン…確かに我が国も研究をしていたが。ここまで巨大なレールガンを作れるだけの技術があるわけか…」


 さて、巨大なレールガンばかりに目が向いてしまうが、タヴェンポートなどを攻撃したのはレールガンではない。レールガンから少し離れたところには100を超えるミサイル垂直発射装置――VLS――が並んでいる。

 VLS自体はマリスでも採用しており、新型の駆逐艦などで搭載されているが「大和」には200を超えるVLSが設置されており、多数のミサイルを運用できた。半数は対空ミサイルだが、残りの半数に対艦ミサイルや、タヴェンポート攻撃でも使用された12式巡航誘導弾などが装填されていた。


「――もし、そちらが交渉の席に座っていなければ。レールガンによる艦砲射撃も検討されていました」


 ニコニコと邪気のなさそうな笑顔で特大な爆弾を投げつけるのは「大和」の副長を務める澄川中佐。あまり軍人に見えない妙齢な女性なのだが見た目通りの性格ではない。今も、笑顔でマリス側の心を折りにいっているのだが、それを把握しているのは彼女と付き合いが長い大和の乗員と、そんな彼らから話を聞いている付き添いの外交官くらいだ。


「相変わらず、笑顔で強烈なことを言うなぁ…副長は」

「マリスの所業に人一倍ブチギレているみたいだからな…ほら、あの人の出身」

「ああ…なるほどね」


 少し離れたところで、グサグサと鋭い言葉をマリスの国防長官などに浴びせている澄川中佐を見ないようにしながら話す乗員たち。

 澄川中佐の出身地は北樺太の奥端だった。

 ただし、思うところがあるといってもそれをマリスの高官たちに正面からぶつけるなどということを中佐はしない。多分にマイルドに「お前達はとんでもない相手に喧嘩を売ったな」といった感じのことをマリスの高官タチに向けて話しているだけだ。

 まあ、笑顔な分より怖さが増しているような気もするが、奥端が破壊されていたら感情を抑えることは難しく、おそらく艦長も彼女を案内役につけることはしなかっただろう。多少の嫌味くらいはむしろ相手にぶつけてやれ、というのが大和乗員の総意であった。




 同日

 マリス連邦 マリセット

 大統領官邸



 日本艦隊の視察を終えた国防長官たちは、行きと同じように「オスプレイ」にのってマリセットへ戻った。そして、そのまま報告のために大統領官邸へ向かった。

 大統領は、数時間前とまるで雰囲気がちがう国防長官の姿に困惑したが、彼からの報告を聞いて色々と察した。自分たちは間違えたのだと。



「外交長官の懸念通りだったということか…我々は間違えたのだな」

「…すべてを間違えました」


 目先の利益ばかりを優先した結果、自分たちはとんでもない相手に戦争を仕掛けてしまった。そのことに今更ながらに気づき後悔するファルゼン大統領と国防長官。もし、この場にホルス外交長官がいれば「何を今更」と呆れたかもしれない。


「日本側の要求をすべて受け入れよう…すべてが終わったら責任をとって辞任する。私がやれるのはもはやそれだけだ」


 国防長官も「私もすべてが終われば責任をとります」と返す。

 普段の国防長官を知っている者ならばこの発言に驚いただろう。

 次の大統領選挙へ出馬するための準備を各所で行っているほどに野心を持っているのは与党内では割と知られていたからだ。だが、彼も今回の件で自身の政治家生命が完全に絶たれたことを理解していた。なにせ、今回の侵攻を強く大統領に進言したのは彼なのだから。




「相手の言い分をすべて受け入れる…?それは事実上の降伏と一緒じゃないかっ!アリソンがいながらなぜ大統領にそのような暴挙を許したっ!」


 苛立ちげに自分の机を叩くのは政権ナンバーツーである副大統領。

 彼こそが「主戦派」などと呼ばれるグループの代表であり、大統領をいいように操縦していた張本人でもあった。

 今回自分に何の相談もなく大統領が一方的に日本側と交渉を進めるということを聞いて盛大に荒れていた。


「国防長官が敵艦隊の視察へ赴いたのですが…おそらくは、そこで何かがあり大統領に進言したのかと思われます」

「…アリソンが敵に丸め込まれただと?総参謀長もか?」

「おそらくは…」


 補佐官の返答に苛立ちげに舌打ちをする副大統領。

 自身の派閥にいる国防長官まで講和派に傾き、同じく自分と立場の近い総参謀長まで同じ考えをしだしたことが純粋に気に食わなかった。


「いかがなさいましょうか?」

「他の主戦派をまとめて反対するしかないだろう。軍の強硬派にも声をかけろ。もしもの場合は――大統領には退いてもらうしかあるまい。まったく、自分が傀儡だということを忘れて勝手なマネをするとは。ファイルズもえらくなったものだな」


 そう言って悪どい笑みを浮かべる副大統領。

 しかし、クーデターが実行されることはなかった。

 翌日。副大統領が贈賄や汚職などの疑いで身柄を拘束されたからだ。副大統領だけではなく主戦派の閣僚も何人か同様の疑いで身柄を拘束され、大統領はただちに拘束された副大統領たちの職務を停止した。

 それまで大人しく、傀儡という形で副大統領たちの言う通りに動いていた大統領であったが、その影で彼らを追い詰めることができる「証拠」を確実にまとめあげていた。今回の件で、副大統領たちは間違いなく抵抗するとわかっていた大統領は捜査機関にこれらの「証拠」を送りつけたのだ。

 副大統領とその一派は、様々な企業から便宜を図るために賄賂を受け取り。更に、裏社会にも通じていたことから自分たちの障害になる組織や個人を裏社会を使って排除し続けた。

 当人たちは一切証拠を残していないと考えていたが、当人たちはともかく依頼された裏社会側はそういった証拠を残していた。もしも、自分たちが売られた場合に副大統領たちを追い詰めるために保管していたのだ。

 今回、それらの証拠もまた捜査機関に提出された。裏社会側の罪を軽く司法取引によってだ。

 拘束された副大統領一派は、数日以内に解放されると考えていた。

 しかし、捜査機関から消したはずの証拠を次々と目の前に突きつけられた結果自分たちが消したはずの証拠を、裏社会側が持っていたことに気づく。


「自分たちはやっていない」「政治家よりも裏社会の言い分を信じるのか!」と副大統領とその子飼いの部下たちは捜査員たちを罵倒したが、そんな罵倒が捜査員に通じるわけがなかった。

 そして、副大統領たちの所業は、大統領の手によってメディアへ直接流されてこの一大スキャンダルは連日にわたってメディアで大々的に報道されることになり、国民の関心は副大統領が行っていた様々な「悪事」へと向かうのであった。

 その間、大統領は記者会見において「先の軍事作戦の失敗と、副大統領などの犯罪行為を見抜けなかったことへの責任をとるために一ヶ月以内に辞任をする」と表明する。



 この一連の流れは、国防長官たちが日本艦隊を視察してわずか3日ほどで行われた。そして、こういった動きは何らかの意識の変化はあるだろうと思っていた日本側ですら予測できないほどに激しいものだった。


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