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41:力の差

 新世界歴元年 2月11日

 マリス連邦 南方沖




 マリス連邦政府のとったのは「反撃」であった。

 攻撃を受けていない基地から対艦ミサイルや爆弾を搭載した戦闘機や爆撃機が続々と離陸した。その中には、偶々海軍飛行場にいて攻撃に巻き込まれなかった第1機動艦隊の艦載機も含まれていた。

 彼らは、母艦を失ったこともあり敵艦隊に対艦ミサイルを浴びせて壊滅した艦隊の仇をとることを胸に秘めており、他のパイロットたちに比べて非常に士気旺盛であった。

 彼らが操るのはML-11の一世代前の艦上戦闘機である「ML-9」だ。

「ML-9」の外観はフランスが開発した戦闘機「ミラージュ2000」によく似ていたが、尾翼がついたデルタ翼。エンジンは双発で大きさも「ミラージュ」よりも一回りほど大型化していた。

 マリス海軍では120機ほどを現在でも運用しており、今回は射程200kmを超える対艦ミサイルである「ホビット」空対艦ミサイルを各機2発ずつ搭載していた。


「ところで、基地を襲った連中の情報って何かわかってるんですか?」

『いや、なにもわかってはいない。だが、基地を攻撃したのは巡航ミサイルということだけしかわかっていない』

「…そうですか」


 隊長からの返答に質問をしたパイロットは「本当に大丈夫なのか?」と内心不安になる。確かに、母艦である空母などが破壊されたことへの復讐心はある。かといって、相手の情報が一切ない状態での攻撃はリスクがありすぎるのでは?とも思った。


『心配するな。我々は列強の中でも最高の練度を持っているんだぞ?どんな相手だって返り討ちにできる』


 などと、隊長は不安になっている部下を勇気づけるためか「問題ない」と返すがそれだけで彼の不安が解消されることはなかった。




 同日

 帝国海軍 空母「瑞龍」



 マリス側の動きはすべて帝国軍は把握していた。

 その理由は偵察衛星の存在もそうだが、空母「瑞龍」に搭載している早期警戒機「E-2D」によるものが大きかった。

「E-2D」はレーダーにてマリス連邦が攻撃機を離陸させたのを確認すると、すぐに艦隊にこのことを報告した。そして、報告を受けた艦隊はすぐに空母「瑞龍」より迎撃機が発艦しようとしていた。

 艦首のカタパルトで発艦の準備を整えているのは、主力戦闘機「91式艦上戦闘機」だ。

 四葉重工業によって開発された「91式」の外観は、同社が製造に大きく関わったF-15戦闘機によく似ている。実際、一部の設計はF-15から流用されたものだ。ただ、艦上機であるためF-15に比べれば一回りほど機体サイズは小さい。一方で、エンジンに関してはより強力なものを搭載しておりF-15と同等かそれ以上の格闘戦能力を持っていた。

 これは、海軍が伝統的にドッグファイトを重視しているためだ。

 そのため、空軍と海軍の戦闘機は似ているようで細部で大きな変更が加えられている事が多い。空軍はそれほどドッグファイトは重視しておらず、むしろより多くの兵器を搭載できるのを重視していた。



「05式をぶっ放して戻って来るというのも味気ないな」


 第41戦闘飛行隊の指揮官である宮下中佐が独り言のように呟くと、すぐに無線から呆れた声が返ってきた。


「そう言って、最初からドッグファイトするつもりなんでしょ?」

「当然だ。ドッグファイトに持ち込むことこそ、帝国海軍の流儀なんだからな」

「だから、米軍さんたちに『鬼神』とか言われて恐れられるんですよ…」

「俺達にとっては最高の褒め言葉だな!」


 そう言って豪快に笑う宮下。

 帝国海軍飛行隊が世界的に知られるようになったのは、1933年に勃発した太平洋戦争であった。日本に攻め込んできたアメリカ軍に対して、洋上の空母から飛び立った32式艦上戦闘機などが効果的な迎撃を行いアメリカ海軍の空母機動艦隊に甚大な損害を与えたのだ。

 更に続く、第二次世界大戦においても帝国海軍の機動艦隊は新型の40式艦上戦闘機を使って練度が高いとされるドイツ空軍と互角以上の戦いを繰り広げ、結果的にそれが「帝国海軍は近接戦に強い」という認識をより強いものにした。

 第二次世界大戦終結後に勃発した第一次中華戦争や、更に続く日ソ戦争においても帝国海軍飛行隊は多くの戦果を残し、その名声を不動のものにしていた。

 そして、時代は近接戦からミサイルによる視界外戦闘に移り変わった現代においても帝国海軍飛行隊は伝統芸ともいえる「ドッグファイト」を想定した訓練を日々行い続けており、空軍やあるいはアメリカ軍との演習でも果敢に「ドッグファイト」に挑み、相手に一種のトラウマを植え付けているのであった。

 もっとも、これにも理由がある。

 ミサイルを使い終わったあとでも1機でも多くの敵を排除するために「ドッグファイト」の腕を磨いているのだ。まあ、この理由を聞いたアメリカ軍のパイロットは「狂っている」という言葉を残しているのだが。


「今回は電子戦機の支援つきだが、油断するなよ?」

『わかってますよ。相手に関する情報がほぼないですからねぇ…』


 現時点でわかっているのは、相手が使ってくる兵器は1980年代終盤頃に地球で運用されていた兵器に似ている――というものくらいだ。そのくらいの時代になると兵器のシステム化はかなり進んでおり、ミサイルの性能もかなり向上している。半世紀ほど開きがあるといっても決して油断できるものではないというのが、帝国軍の中での共通認識であった。

 なので、今回は電子戦機による電波妨害と電子支援が行われていた。

 編隊から少し離れたところに、91式を改良した電子戦機である「2式電子作戦機」が敵へのレーダー及び通信への妨害と、友軍に対しての電子支援を行っていた。


「さて、全機。そろそろ敵さんに挨拶といこうじゃないか」




『隊…何か…』

「おい、どうしたんだ?おい…応答しろ」


 同じ頃。マリス連邦の攻撃隊では異変が起きていた。

 突然、レーダーの反応が悪くなり、無線にもノイズがまじるようになったのだ。これは、帝国海軍の電子戦機による電波妨害によるものなのだが、相手がそのような妨害手段をとってくるとは考えてもいなかったマリス軍のパイロットたちは突然の事態に困惑していた。


「一体何がおきている…レーダーに無線まで一気に狂うなんておかしい」


 彼らの世界でもレーダーなどに対しての妨害と、それに対抗する手段というのはもちろん存在するし、列強の一角に名を連ねているマリス連邦もまたその対抗策はしっかりと固めていた。なのに、それが全く効果がないことに飛行隊長はただ困惑するしかなかった。

 内心「本当に鉄壁の防御なのか?」と疑問に思ったほどだ。

 確かに、マリス連邦が施した対抗策は彼らの世界の中では強固なものだったといえる。しかし、相手はそれよりも技術が進んだ大国であり、日本からすればその対抗策は「時代遅れ」でしかなかったわけだが、彼らがそれを記術はなかった。


「困ったな…レーダーが使えないとなると敵艦隊の位置がわからんぞ」


 搭載しているミサイルはかなり高価なものであり、むやみに乱射することはできない。一応、ミサイル事態に誘導装置は搭載されているがそれでも母機のレーダーなどで確認してからのほうが確実だ。

 目標が見えていない段階でミサイルを発射したところでミサイルはよくわからない方向へ行くだけか、近くを航行している無関係の民間船舶に着弾するだけだろう。そんなことになれば軍人としても社会的にも終わりだ。


「…こうなったら、なるべく近づいて攻撃するしかないな」


 ここで、撤退するという選択肢は彼らにはなかった。

 母艦を攻撃され、親しい者を何人も失っている彼らにとって敵艦隊へ攻撃を仕掛けるというのは味方がやられたことに対する復讐でもあった。



 だが、その復讐が果たされることはなかった。






 新世界歴元年 2月12日

 日本帝国 樺太州 豊原市

 帝国陸軍 豊原捕虜収容所



 後に「樺太事変」と呼ばれる一連の戦闘によって日本側の捕虜となったマリス連邦の兵士たちは、ほぼ全員が豊原市郊外に設置された捕虜収容所に収容されていた。

 捕虜の中には、第2機動艦隊を指揮していたウィリアム・ルックフォード中将と。陸軍第2師団の師団長であるジェームズ・オルト少将の姿もあった。

 捕虜収容所での生活は、一切不便を感じなかった。

 食事はきちんと出るし、ある程度の自由時間は確保されている。

 ルックフォードたち将校は、定期的に聴取という形で帝国軍の将校と対面するが、これも特に高圧的な尋問を受けるということはなかった。これは、ルックフォードたちにとっては衝撃的なことだ。彼らの世界でも捕虜への拷問などは国際条約で禁止されているが、かといってそれを完璧に遵守している国はほぼない。

 彼らのマリス連邦でさえ、一部で非合法な手段を用いた尋問をしていたほどである。だが、日本はそういった行為すら一切しない。長い軍人歴の中でこれほど人道を気にしている国はルックフォードたちの記憶にはなかった。


「日本の報復が始まったようだよ」

「ついにですか…本国はどういった対応をとるんでしょうね」

「どうだろうね…最悪の行動に出そうだが」

「徹底抗戦ですか?」

「上層部の連中が『対話』なんて選ぶとは思えないからね」


 そう言って顔をしかめるルックフォード。

 国防省…というよりも、参謀本部のメインに座っているのは現場経験のない「エリート」ばかりだ。直接現場を見てきた者たちではなく、離れた場所から指揮をするのに慣れている彼らは、現場の状況というのを知らない。

 そのうえで、自分たちが設定した時間までに目標を達成できれば喜ぶが、そうではなかった場合は「現場が悪い」と責任を押し付けてくるのだ。

 これでも、まだ強権的ではないだけ他国よりマシだが。現場にずっと出ている人間からすれば、上層部は「文句ばかり言ってくる耳障りな奴ら」としか感じない。そして、今の大統領はそんな軍部の半ば言いなりだ。

 まあ、これも仕方がないだろう。今の大統領――というか議員の多くは軍事の素人だ。一応、専門家である国防省の言い分を信じてしまうのは無理はない。なにせ、彼らは知識がないのだから。

 今回の、樺太攻撃も作戦を立案したのは国防省上層部。政府はそれを追認しただけにすぎなかった。


「日本はどうするんでしょうか…」

「無理矢理にでも交渉の席に引きずり出すことはできるだろうね。なにせ、日本には『ヤマト』がいるんだ。あんな巨艦を持ち出されたら――誰でも交渉の席につくはずだ」

「あの、巨大戦艦ですか…陸の私からすればあんな巨艦はミサイルの的になるのでは?と思ってしまいますが」

「実際、海軍でもそう考えるだろうね。だけど、あの巨艦は普通の飽和攻撃くらいならば耐えることはできるんじゃないかな。それだけ、防空装備が充実しているし…なにより、護衛が凶悪だ」

「凶悪な護衛ですか?」

「ああ、実は。少し前にこの国の海軍基地へ行かせてもらったんだがね…うちの巡洋艦クラスの大きさをした防空艦が大量に停泊していたんだよ。説明によると、敵からの飽和攻撃に対応する防空艦を日本は、多数配備しているそうだよ。それに、この国が本気を出せばマリスに3個機動艦隊くらい送り込むことができるし、1個軍団規模を上陸させることもできるそうだ」

「にわかに想像できませんね…」


 そう言って渋い顔をするオルト。

 1個軍団規模の兵力を上陸させるなど陸軍の彼にとって想像できないものだ。海軍国家であるマリスでさえ一度に送り込めるのは1個師団が限界。民間船などをかき集めれば2個師団はなんとかいける――といった感じだが。日本はその上をいくと言われても信じることはできなかった。

 ルックフォードもオルトの気持ちは痛いほどわかるのか「私だって始めは信じられなかったよ」と肩を竦める。だが、日本の海軍基地(彼が訪れたのは樺太にある大泊基地)には、マリス連邦へ艦隊が向かっているにもかかわらず、未だに大泊基地には多数の艦艇が停泊していたのだ。

 それを見た時に、ルックフォードは察したのだ。

 日本相手に仕掛けるのは間違いだったと。


「さて…少将は国に戻ったらどうするつもりなのかな?わたしはすぐにでも退役するつもりだが」

「わたしも同じです。どうせ、軍にいても肩身は狭いですから」

「そうだね…我々は敗北者だからね」


 日本と直接戦っていない他の将校から色々と嫌味を言われるくらいはいい。

 ただ、もうルックフォードやオルトは「祖国のために戦う」という気持ちになれないでいた。さっさと退役して、ゆっくりとした隠居生活を田舎で送りたかった。


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