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1:日常

 正暦2025年 10月某日

 日本帝国 沖縄県 尖閣諸島沖

 日本帝国海軍 駆逐艦「天霧」



 沖縄県の尖閣諸島沖の東シナ海を1隻の軍艦が航行していた。

 佐世保に司令部をおく第3艦隊に属する汎用駆逐艦「天霧」だ。

「天霧」は沖縄本島の那覇基地を母港にしている第36駆逐隊に所属しており主に東シナ海周辺の警戒任務などを行っていた。


 南西諸島北方にある東シナ海は、東アジアの中でも特に緊迫した海域として知られている。近年、急速に軍事力を拡大している中華人民共和国――北中国――が尖閣諸島の領有を主張し、日本と強く対立しているからだ。

 尖閣諸島周辺には油田や天然ガス田などといった天然資源が豊富であるため北中国はそれらの資源を手に入れるためにここ20年ほど活発な軍事行動を続けており、日本側もそれに対応するために南西諸島などを警備区域としている第三艦隊の増強を進めていた。

 海軍の規模でいえば北中国を日本が圧倒している。

 日本海軍はアメリカ海軍に次ぐ世界第二位の規模であり大型空母を10隻と軽空母を4隻。更に航空機を搭載出来る強襲揚陸艦を8隻と空母クラスの軍艦を20隻以上保有している。それに大型の巡洋艦やミサイル駆逐艦などをあわせた戦闘艦艇の数は500隻に達し、航空機も2000機以上有している。

 一方の北中国の人民解放海軍は近年になりその規模を拡大していた。

 新たに空母を複数隻投入するなどしており、日本以上にハイペースに新造艦を投入しているが規模の面でいえばまだ日本に及ばない。それでも、北方艦隊と東方艦隊という2つの主力艦隊をあわせれば佐世保の第三艦隊以上の戦力ではあるので日本としては決して油断出来る戦力ではない。

 それに、日本にとっての脅威は何も北中国だけではない。

 北方にいるソ連もまた日本にとっては脅威だ。

 ソ連は過去に何度か日本領である千島列島や樺太などに攻撃を仕掛けており北中国以上に油断出来ない国だ。

 まあ、そのソ連は現在ヨーロッパ方面を強く警戒しているので極東での動きは限定的だが、それでも樺太や千島列島の沖合で軍艦や軍用機を用いた挑発行動というのは定期的に行っていた。



「アレが例の新型か……確かにデカいな」


 艦橋から双眼鏡で離れたところを航行している軍艦を見つめながら「天霧」の艦長がボヤいた。

 一応、ここは公海上だが問題の尖閣諸島からはそれほど離れていない。

 北中国は毎日のようにこの海域に軍艦を送り込んでいるのだが、今日来たのはこれまでの軍艦に比べると一目で真新しさがわかった。ここ最近になって北中国が急ピッチで配備を進めているミサイル巡洋艦で「055B型」などとも呼ばれている。

 日本やアメリカが共同開発した「イージス・システム」に似た戦闘システムを搭載した巡洋艦であり、日米のミサイル巡洋艦に遜色のない大型艦だ。


 その新型巡洋艦と数隻のフリゲート艦が尖閣付近の公海にやってきたのは今から一時間ほど前。監視任務にあたっていた海洋警備隊の巡視船が3隻の軍艦を発見し、すぐに警備隊本部と海軍にこのことを伝え。海軍は付近を航行していた「天霧」など数隻を現地に向かわせたわけである。


「向こうの発表では『赤城型を上回る性能を持つ』などと言ってましたが。実際のところどうなんですかね」

「さあな。ただ、向こうの技術もかなり向上しているのは事実だ。軍艦製造に関しては確実にソ連の上をいっているだろうな」

「かつての手下に技術力で上回れたソ連ですか……」

「あくまで軍艦製造に関してはな。ソ連の得意分野はミサイルや戦車――陸戦兵器だよ。それに関しては北中国はまだ遠く及ばないだろうさ」

「……それにしても、勝手ですよね。それまで全く見向きもしなかった土地が利益になると知ったら領有権を主張するなんて」

「まあな。だから、俺らはこうして余計なことをしないように監視しているわけだからな」


 北中国はもともと尖閣諸島の領有権を強く主張してはいなかった。

 なぜ、方針が変わったのか。

 やはり、付近の海域に豊富に存在すると言われている石油や天然ガスの存在が大きい。ソ連が樺太や千島列島を狙っているのも沖合に油田やガス田が発見されているからだ。石油は天然ガスは現代社会には欠かせない資源だ。

 そして、そんな重要な資源が採掘される場所は限られている。

 殆どの国は中東などから輸入しており、それはかなりの負担にもなっている。自国の近くにまとまった採掘が見込まれる油田やガス田を見つけたら欲しくなるのが人間の性なのだろう。なので、世界各地で起きている領土問題の殆どはこの手の天然資源が絡んだものであり、北中国や尖閣諸島の領有権を主張しだしたのも石油や天然ガスが大きな理由だった。

 こうして、頻繁に軍艦を派遣するのも「自分たちのものだ」と世間にアピールするための手段であり、日本への威圧や挑発を込めたものである。

 これで日本側が先に手を出してくれれば「正当防衛」といって反撃することが出来るが、当然ながら日本側もそんな北中国の思惑は知っているので一定の距離をおいて北中国側の動きを常に監視し続けることで北中国側に対抗していた。


 今のところ、北中国側から明確な「攻撃」は受けていない。

 だが、いつまでも攻撃を受けないなどという楽観視する者もこの場にはいない。常に緊迫したにらみ合いを続ける――ここはそんな戦場一歩手前の危うい情勢であった。



 正暦2025年 10月某日

 日本帝国 樺太州 敷香市

 帝国空軍 敷香基地



 樺太中部にある都市・敷香。

 人口は約20万人で樺太の中では4番目の人口を抱える中心都市だ。

 かつては南樺太北部の拠点であり、北樺太監視の前線であったが北樺太も日本領になってからは軍事的要衝の意味合いは薄れた。それでも、この町には陸軍の連隊も駐屯しているし、樺太に4箇所ある空軍基地の一つが置かれており、主に北樺太の防空警備任務にあたっていた。


 午後二時。もはや日常ともなったスクランブルを告げる警報が基地の中で鳴り響くと、パイロットたちは急いで準備してあった戦闘機に乗り込み5分ほどで基地を飛び立っていった。

 ソ連にほど近い樺太は、ソ連軍の戦闘機や偵察機による領空侵犯が頻発しておりその対応のために戦闘機は毎日のようにスクランブル発進していた。一連のソ連の行動は一種の挑発行為であり、日本側の戦力を見極めるために行われているものである――とされているが実際のところソ連がどのような意図で連日のように軍用機を領空侵犯させているのかはわかっていない。

 ただ、北中国と異なり。ソ連は極東に戦力を割けるほどの余力はない――というのが多くの専門家が共通していることだ。まあ、これは西側とソ連の関係性を見れば専門家でなくてもわかることだろう。

 ソ連と西欧諸国はソ連建国時から対立しているのだ。

 現在ではそこにアメリカも加わっており、ヨーロッパには多数のアメリカ軍と西欧諸国によって構成されたNATO軍がいてソ連にとってはこの存在が最大の脅威であった。特に、ここ30年ほどはソ連の衛星国であった東欧諸国が次々と民主化していき西側陣営に加盟しているため、ソ連と西ヨーロッパは直接国境を接している事態になっており、ソ連の危機感は年々増しているという。

 とはいえ、西欧側がソ連と直接対峙を望んでいるのかといえばそうではない。仮にソ連とぶつかれば甚大な被害が出るのは西欧側も理解している。西側が軍備を固めている理由は強力なソ連陸軍を恐れてのことだ。ソ連が大人しくしているのならば西側とすればそれでいいのだ。

 まあ、現実はそう上手くはいかないのだが。


 さて、話を戻そう。

 敷香を飛び立った2機の戦闘機は空中管制機などの指示に従ってソ連の軍用機が飛行しているポイントへ向かっていた。

 敷香から飛び立った戦闘機――83式戦闘機(FJ-5)は日本企業が開発した国産戦闘機であり、マルチロール機(汎用戦闘機)に区分される。その外観がアメリカが開発されたF-16戦闘機によく似ている。これには理由があって、当初F-16は日米企業で共同開発する計画だったからだ。しかし、アメリカ側と日本側で求める性能が違いすぎることから共同開発計画はなくなり双方が別々に機体を製造したのだ。それでも、一部は両国で共同開発したものになっている。外観が似ているのもそれによるものだが86式戦闘機はF-16に比べると一回り以上大きいのが特徴だった。

 83式戦闘機は日本以外には満州や東南アジア・イランといった国々に輸出されている。世界各地に輸出されているF-16に比べれば導入国は少ないが性能面での評価は86式も高い。


『<ファルコン・アイ>から<フレイム1>へ。ソ連機は2機。機種はSu-27の模様。いつもの挑発行動だと思うが突発事態に警戒するように』

『<フレイム1>了解した。いつものように警戒しておく』


 83式のパイロットである逸見康晃大尉は上空で誘導してくれている早期警戒機のオペレーターからソ連機の情報を受け取る。領空に接近しているのはソ連空軍の主力戦闘機であるSu-27。

 西側からみればF-15と同程度の空戦能力をもった戦闘機であるが、極東に配備されているSu-27は近代化改修が施されていないことからその性能は近代化改修が施されている83式にも劣る――と言われているが、それでも操縦するパイロットの腕次第では手痛い一撃を食らうこともあるため相手が旧式戦闘機といってもパイロットたちが気を抜くことは基本的にはなかった。

 そんなソ連も近年は西側への対抗からかステルス機であるSu-57の増産を急いでいるらしく、いずれは、極東にも配備されるのではないかと密かに噂されている。仮にSu-57が極東に配備されれば敷香もF-35かあるいは国産のステルス戦闘機である3式戦闘機に置き換えられるかもしれないが、それがいつになるかはソ連次第だろう。


 この日も、日本軍機がやってくるとソ連機はそそくさと自国の方向へと戻っていった。挑発はするが本格的に事を構えるつもりは今のソ連にはないようだが、だからといって連日のように続く南北での挑発行為は日本にとってはどうにかしたい悩みのタネであった。





 それから2ヶ月後。

 2025年が終わり2026年になろうかという頃。

 日本を含む世界各地の空ではオーロラのような発光現象と、更に地震が発生した。この奇怪な現象を経て地球から陸地は突如として消失するのだった。


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