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その銀河(うた)が、ぼくたちを結ぶ《Silent Order》ーゲームと現実とー  作者: 南蛇井


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第8話「夏祭り艦隊戦! 正体すれ違い恋バトル」

――前編(屋台と横顔、名前を呼べない距離)

 


「えー、艦隊部代表として参加してくださる皆さん、こちらがブース配置図です」


放課後、校門前。

手渡されたのは、A4用紙に印刷された夏祭り会場の模造マップ。


「……って、なんで私たち、焼きそば係なの?」


「すばるが“焼くのが得意です♡”って前に言ったからでしょ」


「は? 言ってないし。“爆破”と“炒め”を間違えて覚えてんじゃないの、委員長」


「……爆破は葵の担当でしょ」


「ちょ、私いつそんな火力特化キャラになったの?」


智陽は、女子たちの掛け合いに目を細めながら、会場案内の掲示板を見上げた。


この日は、地元と連携した「文化交流イベント」。

地域住民との親睦のために、校内に仮設屋台が設けられ、

艦隊部も一ブースを任されることに。


やがて、日が沈み、夜の校舎が灯りに包まれる。


 


 


智陽は、浴衣姿のすばると並んで、鉄板の上でジュウジュウと焼きそばを炒めていた。


「やっば、鉄板の上で焼くのって、めっちゃ楽しいかも!」


「なんかテンション上がってるな。真白って、地味な仕事苦手そうだったのに」


「いや、むしろこういうのこそ私の天職っしょ。火と鉄と油と……テンパってる智陽、最高においしい!」


「焼くな俺を」


「えー、だって最近、ちょっと距離縮まった気がしない? ゲームの話とかもさー」


すばるはさらっと言う。だが、そこには**わずかな“踏み込み”**が込められていた。


 


智陽は、焦る。


彼女は、ゲーム内でのSilent Orderの話を時々していた。

でもそれは、ただのファン的なノリのはずだった。


(……まさか、こいつも何か勘づいてる?)


だがその懸念は、次の瞬間に吹き飛ぶ。


 


「っていうか、あの人に似てるのはフレイアの方なんだよね。声の感じとか。

あのAI、なんか“君”って言い方好きでさー。やばくない?」


「……そっちか」


 


助かったような、でも針の穴をくぐり抜けたようなヒヤリが残る。


 


その頃、隣のブースでは澪が接客中だった。


「あら、いらっしゃいませ。たこ焼き一舟ですね。はい、300円になります」


隣から聞こえる智陽とすばるの笑い声に、ちらと目を向ける。


(……あの距離感、最近ずっと変わってきてる)


(でも、気づいてないふりは、もうできない)


スマホに通知が入る。


【ゲーム内メッセージ:Silent Order】

《焼きそば、焦げた。イベント戦、代わりに出て》


(……これは偶然? それとも、“メタ”の誘惑?)


澪は、既視感のある言い回しに眉をひそめる。


「……やっぱり、あなたなの?」


 


 


一方、グラウンドの奥では葵と光理が灯籠の設営作業中。


「……ここ、もう少し下げて」


「はい、先輩っ」


作業は黙々と進む。


ふと、光理が訊く。


「先輩、最近……天野先輩と、仲良いですね」


「……そう?」


「なんか、演習でも、言葉交わす頻度が多いような」


「演習だから」


 


淡白なやり取り。

でも、光理の目は鋭い。


「じゃあ、フレイアとセレスの連携は? あれって……まるで、心が通ってるみたいでしたよ」


葵は一拍置いて、言った。


「……フレイアが、上手なのよ」


光理は、笑った。

そして、そっとスマホを取り出す。


画面には、演習ログの比較データ。

“フレイアの動き”と“天野智陽の癖”を重ねたグラフ。


(あともう少し。確証さえ取れれば……)


 


でも、彼女は今すぐそれを暴く気はなかった。


「……秘密って、秘密にしてる方が、ちょっとだけ優位ですよね」


その呟きは、夜のざわめきに紛れて消えた。


 


夜空に、ぽん、と花火が上がる。


すばるが指を差して笑う。


「やっば! カッコつけて振り返るタイミング間違えた人、何点だと思う?」


「6点くらいじゃない?」


「智陽は7点だなー。ちょっと遅れて、ちょっと照れて、なんかズルい」


「点数制で恥ずかしさを表現するな」


 


笑い声と、人混みと、すれ違う視線。


智陽はそのとき、気づいていなかった。


すばるの笑顔の裏で、

澪と光理と葵の視線が、ほんの少しずつ変わり始めていることを。


――後編(レイド戦と気づきのチャットログ)

 


【ゲーム内イベント宙域:「夏夜の共闘:大規模レイド戦」】


 


「来た……! “幻影艦隊ユグドラシル”! 今回のレイドボス、めっちゃ硬いって評判なんだけど」


「硬いって言うな、真白。それ完全に焼きそばの延長戦だから」


智陽はスマホ画面を睨みつつ、ベンチに座り、イヤホンを片耳に差していた。


あくまで匿名参加。

メインアカウントの「Silent Order」としてではなく、あくまで演習用の別名義アカウントでログインしている……が。


 


《フレイア:包囲線の左右、同時に揺さぶる。三次曲線的にずらしつつ火力集中を》


《Rizel:その進路、私が潰すわ》


《セレス:支援、展開中……》


《ユリシス:敵艦位置の挙動予測中。数秒後に再計算》


 


――偶然にも、全ヒロインのAIが同一宙域に集合してしまった。


 


(うわ最悪、よりによって……!)


心臓が跳ねた。

匿名アカウントにしているとはいえ、フレイアの動きと指揮の癖は完全に“素”。


(このままじゃ、誰かにバレる……!)


でも、退出なんてできる空気ではない。

レイドは今、ボス艦のフェーズ3──全域攻撃→ワープ→索敵の瞬間に入っている。


フレイアの思考が、ぴたりと止まる。


そして――


《フレイア:左翼から第二機動部隊、煙幕航行モードへ。タイミング合わせて“心音爆雷”を》


 


画面が揺れた。

ユグドラシルの反撃が一瞬止まり、戦況が逆転。


《ユリシス:……反応早すぎる。あの思考パターン、どこかで》


《セレス:この手……見たことがある》


《Rizel:あなた、もしかして……Silent Order?》


 


智陽の手が止まった。


まさかの、チャットでの直撃質問。


《フレイア:ちがうよ》


即答した。

だが。


 


《Rizel:あなたのAI、あんな風に“呼吸”するような誘導、するものなの?》


《フレイア:君のAIのように、理詰めじゃなくて、勘だよ。──動きの“違和感”で動いてる》


 


澪の指が止まった。

その文体、その言葉選び。


(……これは、天野くんの言い方)


 


そして、レイド終了の報が画面に出る。


【MVP:フレイア艦隊(匿名指揮官)】

【協力感謝:Rizel/セレス/ユリシス】

【報酬:限定艦スキン「夜天の銀翼」獲得】


 


澪は、スマホを閉じて立ち上がった。

空を見上げる。


 


「あなた……天野くんなんでしょ?」


 


隣には、いない。

智陽は少し離れた木陰にいた。

けれど彼女は、そちらを見ずに言葉を続ける。


「今はまだ、聞かない。……でもね」


「“もう一歩だけで届く距離”って、すごく苦しいのよ」


 


 


その後、智陽は校門のベンチでひとり座っていた。

光理が、隣に腰を下ろす。


「MVP、おめでとうございます。──Silent Order先輩」


「……お前までか」


「ふふ、だって……その指揮、私だけは忘れられませんもん」


「じゃあバラさないでくれるか?」


「もちろん。“私だけが知ってる”って、なんか、優越感ありますし」


 


智陽は空を見上げた。

花火が残した煙が、まだ漂っている。


(どれだけ隠しても、いつかは届いてしまう)


(でもそのとき、俺は──)


 


──誰を選ぶ?


 


そんな問いだけが、夜空に溶けていった。


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