第11話「文化祭ミッション・裏任務開始!」
――前編(開幕!文化祭艦隊大作戦)
「はい、それじゃあ今年の文化祭、艦隊部の出し物は――」
放課後、部室に集まる艦隊部メンバーたち。
部長・澪がホワイトボードに書いたのは、でかでかとした横文字。
《宇宙艦隊シミュレート体験ブース!》
「……やっぱそれかー!」
真白が机をバン!と叩いて笑う。
「やばっ、私、整備員のツナギ着ていい?レンチ持って写真撮ってもいい!?」
「そういうところは抜かりないね、真白」
葵が呆れたように言いながら、手元のデザインラフを見せた。
「制服風デザイン、こんな感じで。私はナビAI役だから、スーツっぽくしてみた」
「うわ、絶対似合うわそれ」
「さすが葵ちゃん」
「こういうのは早いよねー」
智陽は部室の隅っこで、ペンをくるくる回していた。
「説明パネルの校正だけでいいからね俺。裏方だし」
「ううん、天野くんはねぇ……ナビゲーター役」
光理がにっこりと謎のマーク付き企画書を机に置く。
「艦隊の中核を支える、冷静沈着なモブ男子A……ってことで」
「それ地味に傷つくヤツ!」
そのとき、ドアがノックされた。
「失礼しまーす、文化祭実行委員からお届けモノでーす」
段ボールを手に現れたのは実行委の男子。
中から出てきたのは一枚の分厚い封筒。
【任務指令書:Project GAKUEN FRONT】
「……なにこれ?」
澪が開封して中身を読み上げる。
「『文化祭×艦隊ゲームの共同プロモーション計画』……?
“本校艦隊部は、公式ゲームと連携し、文化祭を盛り上げる裏任務を担うこととする”……え?」
「まさかのコラボ依頼!?」
真白が目を輝かせて叫ぶ。
「……これ、運営のやつだ。たぶん、光理さんの仕込みじゃ?」
智陽の視線が、光理に向かう。
光理はくすっと笑って答える。
「さあ、どうかな?
でも“特別報酬”があるらしいよ。艦隊部予算、倍になるって」
「これはもう……やるしかないわね」
澪が力強く言い切る。
「艦隊部の意地にかけて、文化祭という“戦場”で勝利をつかむ!」
「うぇーい艦隊祭りー!」
「よっしゃスキンもコスも映え狙うぞー!」
「……祭り、ね」
智陽は少しだけ笑って立ち上がった。
(でもこの“任務”、ただのイベントじゃなさそうだ)
(Project GAKUEN FRONT……この響き、どこかで……)
【校舎裏・澪と智陽】
その日の放課後、帰り道。
澪がふと、話を切り出す。
「……ねえ、文化祭ってさ、なんかさ」
「うん?」
「“好きな人と一緒に回るイベント”ってイメージない?」
唐突な言葉に、智陽は思わず立ち止まる。
「……なにそれ、フラグじゃん」
「立ててるのは、どっちだと思う?」
澪が微笑む。
「でもね、今はまだ“一緒に回る”って約束しない。
……だって、天野くんが“どんな戦場を選ぶか”を、私は見てたいから」
智陽は何も答えられなかった。
けれど、その横顔には確かに――少しだけ、期待が浮かんでいた。
(バレてるな、完全に)
(でも、なんで“待ってる”んだよ。……お前、ずるいよ)
――後編(戦場のフェスティバル)
【ゲーム内・宙域:GAKUEN FRONT】
「……こんな派手な戦場、初めて見た」
フレイア――智陽の目の前に広がるのは、ネオン装飾の施された模擬学園惑星。
宙に浮かぶ文化祭ステージ、ホログラムで再現された屋台通り、そして敵艦隊の名は──
【風紀艦隊・3年指導班】
【軽音部艦隊「ビートクラッシュ」】
【生徒会艦・ヴィルヘルミナ直属艦】
「いや、どういうセンスだよ運営……」
呆れつつも、どこかワクワクしてしまう。
だが、その楽しげな戦場には、もう一人“確かに”いる。
《Rizel:こちら援護ラインに入った。視界確保していくわね》
《フレイア:了解。進路上にミラージュ艦、4秒後に消える》
智陽と澪――2人の操作は、一切の無駄なくかみ合っていた。
誰よりも、深く、静かに“呼吸”が合っている。
「ねえ、君って──」
一瞬、Rizelからチャット欄にメッセージが打たれかけたが、フレイアが先に送ってきた。
《フレイア:……今日は、そういうのやめとこう。祭りだから》
しばらくの沈黙のあと、Rizelから返ってきたのはただ一言。
《……ふふ、そうね》
そのあとに続いたのは、爆発的な連携だった。
Rizelの索敵機がステルス艦を炙り出し、フレイアがピンポイント砲撃で沈める。
演出画面には「COMBO x18」表示が点滅する。
観客用リプレイには、ふたりの艦隊の動きに合わせて**「学園ジャズBGM」**が流れていた。
ゲーム内イベントでありながら、観ているプレイヤーたちが「これ公式カップルか?」とザワつくほどの完成度。
「やばい、Rizelとフレイアの連携美しすぎ」
「これ、絶対運営が仕組んだペアでしょ」
「なんか泣けるんだけど何?」
そんなチャットが流れるなか、フレイアとRizelだけは、ただ静かに、目の前の戦闘に集中していた。
【戦闘終了後】
報酬画面が表示される。
◆限定称号獲得:「学園宙域・最優秀ペア艦隊」
◆特別報酬:学園イベント・裏ログ断片「No.07」
「……裏ログ?」
智陽は眉をひそめる。
説明欄には、こう記されていた。
『この宙域の下層には、“旧宇宙演算体”のデータ群が格納されています』
『キーワード:REBOOT-V』『分類:Silent Order 前任記録』
(Silent Order……フレイアの旧コードネーム。俺の、昔の名前)
智陽は無言で画面を閉じた。
「また、過去が来るのか……」
【現実・文化祭準備室】
「おっかえりー、艦隊部トップペアさん♪」
真白がコスプレ制服で出迎え、葵は淡々とノートPCのログを整理している。
光理は笑いながら、智陽の後ろから声をかけた。
「Project GAKUEN FRONTって、単なる文化祭コラボだと思った?」
「……違うんだな?」
「当然。だってこれは、“始まり”なんだから」
光理は、意味深な笑みを浮かべる。
「フレイア。君の『最初の名前』を、あの子に明かす日も近いね」
「……!」
智陽は言葉を失った。
振り返ると、廊下の向こうに澪の姿があった。
彼女は笑って手を振る。
「ねえ、天野くん。文化祭、楽しもうね」
それだけ言って、立ち去っていった。
──けれど、彼女の言葉の裏には、確かに“知っている者のまなざし”があった。
(……終わらせる気か? いや、違う)
(澪はきっと、“もう一度、始めたい”って思ってる)
智陽は小さく深呼吸し、スマホを見つめた。
ゲームは、まだ終わらない。
この“戦場”も、この“文化祭”も。
本当の始まりは、まだ先にある。