第八話 敵
車をまっすぐ走らせた後城壁の外へ出る門の下に着く
そこにたった一人門の下のふちに座っていた
「なんだ。やっと来るのが遅かったな。」
ルイだった
「なに、してるの?」
「見て分からないのか?わざわざ来るのを待っていたんだよ。そういえば居たんだなライン。何でこんな所にわざわざ来たんだ?奥で引きこもっていたらよかったのにな。」
「それは……二人を助けるために。」
「お前が?人を助ける能力も才能もないましてや『魔力なし』の役立たずが何言っているんだ?今はどうでもいいか。」
ヨルは突然ルイの周りにあった車の残骸を震えた指で刺す
「ねぇ、そこに誰かいる……いえ、いたの?」
僕は無意識に近づくと誰かが車の残骸を背後にもたれかかっていた
「父上?」
地面に倒れた父上の胸に何かで刺した穴から赤い血が流れている
何年ぶりかに見た父上の顔は薄暗く昔の印象とは遠く、まるで別の人のようだった
そして僕が何度直視してもその顔の表情は動かなかった
「貴方……まさか殺したの?」
ヨルが問いただす
「ああ、邪魔だったからな。今更こんなのいてもいなくても同じだろ。誰も気にしない。……そうだろ?ライン。」
「え?」
僕は反応できなかった
父上が死んだことへの現実が実感できなかった
「しかし、好都合だよ。せっかく車を奪ったってのに、エンジンが破損して使えなくなった。殺した意味がなかったよ。……最後まで本当哀れな死に方だな。」
意味がわからない、どうしてこんな状況になったのか。
なんでそんなにも平気な顔をしているのか。
でもルイがその剣で父上を殺したという事実は僕の目が捉えている
「なんだその目。気持ち悪いな。」
またあの目だ。
僕を否定したあの目で僕を見つめる
「お前邪魔だな。」
僕は蹴られ門と向こう側の大陸をつなぐ橋の脇に飛ばされてる
橋の下には川が流れている
「やめて。ルイ!お願い……!」
僕は一連の行動に理解出来なかったが疑問があった
「なんで、父上を……殺し、たんだ!」
僕は立ち上がりルイの胸ぐらを掴む
「言っただろ?邪魔だったからだ。」
そう言って掴んでいた僕の体ごと川に押し出す
水に入った時の鈍い衝撃と寒冷に襲われた
体が押されかなり橋の下川に落とされたらしくすぐには上がることはできなかった
川に流されながら身動きが取れず戻ろうとしても川の流れにはどうしても反抗できなかった
……死んだ。目の前でおじさんが死んだ。
……死んだ。今僕の目の前で父上が死んでいた。
違う、そうじゃない殺されたんだ。
『魔力なし』となってから五年間切れなった一つの線が切れ初めて怒りが湧いた
「ルイッ……!絶対に許さないからなッ!このことも、これまでのことも……!許さないからな……!」
「そうか。勝手にしろ。まぁ、運が良ければ川に流されて逃げられるからよ。生きているか知らんが。」
水面の下にいた僕が最後に見たのは父上の血が付いた剣を片手で持ち見せつけるように振りながら笑っていた の顔だった
「……」
ラインはそう叫び水流に流されていく
それを見ていた私はどうしたらいいのか分からないまま横にいた少年と激流に流されている少年の姿を交互に見る
「何でこんなことをしたの。ルイ。どうしてラインの父親を殺したの?」
「「俺が殺したはずがない」……なんて言わないんだな。」
「ええ。当たり前でしょ。」
数秒川の様子を見た後ルイは口を動かす
「お前は魔力なしのラインと違って『魔法使い』だ。『魔法使い』が死ぬと体内から魔力が外に吐き出されて発散する。そして散布された魔力も近くの物に取り憑く。俺の拾った剣にな。」
だからこびり付いているラインの父親の魔法が拭えないほどに
「お前だってもうわかってんだろ。俺は俺の、俺だけのために決断した。次はお前の番だ。ヨル。」
私の……私たちの日常が壊れたことがこの時初めて実感できた
「私は……決めたわ。」
私の身体が数秒停止した後……川の中に飛び込む