第六話 疾走
僕は先が見えない一直線な道をただ先に進むことだけを胸に額に汗をかきながら走っていた
点々と昇っている黒煙と暗い夜に照らされる炎の光が僕の目に集まっていた
前から感じるのは口から出てくる熱い息から匂うのは薄れたトマトの淡い匂いだけだった
細道を抜けると爆風の衝撃によって割られたガラス片の上には街の人たちが往来していた
「だれかぁぁぁぁー!来てくださぃ!」
『収穫祭』に出店していた露店の建物が崩れ下敷きになった人や瓦礫が吹き飛んで足が潰されていた人が悲鳴と絶叫を辺りに響かせていた
数時間前にはあった賑やかな雰囲気と違って燃え盛る地獄みたいだった
「なんだよコレ。こんなの本当に現実?……早く行かないと間に合わなくなる。また助けられなくなる。」
僕が方向転換をしてまた走り出そうとした時
ふと目に映った建物が謎の光線が発光したそのときレンガの壁を突き破り砲台が搭載された『機械』が現れる
吹き飛ばされたレンガの一部が頭上を舞い下にいる道にいた僕たちに降ってくる
機械の出現によって街の人たちの混乱はさらに激しくなり機械の側から一斉に離れようとする
僕は人が逃げている道の真ん中に立ち止まり機械の壁に塗られたある柄に注目する
「『ノスト帝国』の国旗……また戦争を始める?」
停止していた機械の砲台が埃を払いながら回転する
そのとき突然手を掴まれて僕を無理やり引っ張った
「おい!そこのガキ立ち止まっているんだ早くしろ!ここは危険なんだぞ!」
手を引っ張っていたのはさっき裏路地でぶつかった麦わら帽子のおじさんだった
下から横目で見ると僕に小言を言いながら酒のせいなのか真っ赤になった顔で前に進んでいた
おじさんに続きここから避難しようとしたがさっきの機械が気になり機会が現れた屋根の上に視線を向けるがさっきの機械が消えていた
「おじさん。」
僕はふとおじさんの袖を少し引っ張る
「あぁ?」
おじさんは悪態をつき立ち止まったとき底から衝撃が走る
僕は衝撃で地面に倒れ込んでしまった
僕はすぐさまおじさんが居た位置に眼を向けると金属板の足のようなものが地面に食い込み硬く固定されていた
僕はおじさんが何処にいるかを見渡して探したがどこにもいなかった
見上げると屋根の上にいた機械が金属音を鳴らしながら大砲を街の人たちがいる方向へ向けられ……放たれる
「うわァァァァ!」
放たれた弾丸と共に飛び散る火薬と火花
そして人々の悲鳴で頭が押しつぶされるかのような衝撃を受ける
早くこの轟音から一刻も早く離れられるように足を動かす
「何で。何で。何で。何で。何で!」
気づいたときには僕は両耳を塞ぎながら木箱のそばに縮こまっていた
背後にはまだ金属がすり減った音が鳴り続ける
うっすら目の前を見ると街中に流れている河川が見える
あれだけの轟音がした街の中と同じとは思えないほど静かな場所だった
「おじさんは……死んだんだ。」
そのとき人影のようなものが前に見えてくる
「ライン?」
ヨルがそこに立っていた
「ヨル。何でここに……いや、よかった。無事だったんだ!よかった。本当によかった!」
さっきまでの喜びのあまりに足の鈍い痛みも忘れてしまった
本当に……死ななくて本当に良かった
僕はヨルの服が所々土で汚れていたしすり減っているのに気づいた
「ラインは大丈夫だったの?それにどうしてこんな所にいるの?」
「うん。大丈夫……だよ。」
目の前でふき飛ばされたおじさんのことを一瞬脳裏によぎったけど僕は話を変えた
「それに心配だったんだ。僕が帰ったときに爆発みたいな音が鳴り響いたから……何があったの?」
ヨルは少し黙ってから震えた声で僕に話した
「詳しいことはわからない。でも私の屋敷のすぐ隣のパーティー会場が爆発が爆破されたのよ。」
「じゃあ、もしかして。」
「いたのよ。私のお母様もそこにね。あなたのお父様も一緒にいたはずよ。あの様子から見て無事かどうかも分からない……」
父上もあそこにいた?
爆発に巻き込まれて……もしかして死んだ?
「そんな……そんなのってないよ。」
暗い表情をしたヨルが突然言葉を途切らせ道の先を睨んでいた
その挙動に不思議に思った僕はその方向への身体を動かしたとき僕の口元を塞ぐように後ろから手の甲を当てられる
「しっ、少し黙ってて。」
僕の口元から伝わる熱をひしひしと感じながらヨルの見ている方向を見ると地面からなにかが光っているのが見えた
そこから竜の紋章を胸に模った軍服を着て剣を横に携えている二人の軍人が光と共に現れた
「なんでこんな所に……」
僕がその言葉を発したとき何かの力が働き地面が振動すると同時に僕は背中から引っ張られた拍子に地面に着く
目の前を見ると石の針のようなものがさっきいた場所に生えていた
「え?」
「ラインしゃがんで!」
僕の頭が押された瞬間に岩の針が破裂し破片が飛び散る
全身に岩の針が突き刺し傷がつく
ヨルは僕のことを引っ張って前に進む
「魔力残滓とあの反応速度からして『魔法使い』が少なくとも一人。どうする?逃げていく。まだ俺たちは戦闘命令は受けていないけど。」
「さっきの魔法当たったか?」
「いや残念ながら。」
「……そういえば。この作戦民間人及び『魔法使い』生死不要らしいな。」
「つまり?」
「殺すしかないだろ。」