表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネロ  作者: ナナシの文字
5/12

第五話 少女の選択





屋敷内の敷地にある一人の少女が入っていった

街の中央部にある貴族の屋敷の中でも一際目立った豪邸な屋敷の前には私の家の家名が付いた馬車を止めている

少女の横に広がっているのは高名な庭師が手入れをしているのか季節の花が咲き誇っていた

その先に少女のことを椅子に座りながら堂々と待っていたこの人にはもったいないほど散りばめられていた花はキレイだった


「よう。久しぶりだな()()。……遠征から数えるとざっと一年ぶりか?」


そう気味の悪い笑みを浮かべながら()に向かっていたずらに笑いながらまるで挨拶代わりのように右手を挙げる

どっかから影響を受けたのかその態度は貴族同士の挨拶には程遠いものだった

それに学校も平民とはいかないが貴族の格好とはいかない緩い服装だった

わざわざ昼間と服装を変えてドレスを着ていた少女はうんざりするような声で返事をする


「はぁ、昼頃にあったでしょ。こんなことを追い出して何を言いたいの?わざわざ私の従者から呼びつけて……直接言えばいいじゃないの。」


あれからそのまま近くに止めてあった車に乗り

何事もなくうちに帰ったときに私が背も今の半分くらいしかない子供の頃に雇われたであろう長年連れ添っているメイドからあいつから夜にここにこいという連絡があったというわけだった


「いいだろ。俺の親父とお前の父親は今は王都でいろいろ忙しくしているみたいだからな。当分はこっちに帰って来ないんじゃ無いのか。それにせっかくの年に一度の『収穫祭』で隣でパーティーしているってのにわざわざ来たんだろ?」


「そっちこそ。いろんな方向の貴族のお方に呼ばれているんじゃないの。」


「ああ。」


お父様とこいつのお父様は古くからの友であったらしくいまでも交流があるので当時幼い子供であった私たち三人の関係性が崩壊した後でもその関係だけには何ら変化はない


「……ラインのことよ。あんまり絡まないでくれる?貴方にもお連れ様にももう関係ないでしょ。貴方のお連れ様もよく言い聞かせておいてよね。」


そう少し煽るような口調で昼間の集団のことをいうが不思議な顔をしながら頭を抱える


「お連れ様?一体誰のことを言っているんだ?……ああ。アイツらのことか……?」


目線を少し外し花壇に植えられた花々に視線を向ける


「そういえばアイツらって誰なんだ?」


その目はまるでどうでもいいモノでも見るそんな目だった


「本気で言ってるの?呆れるわ。」


「ラインのことは知らん。ラインよりも父親の方が頭がおかしいと思うがな。今日も来ているんだろ?パーティに。」


「……ええ。私が来たときに入っていたわよ。」


「そんなくだらないことよりもどうするんだ『あの件』は……俺もお前もいい歳だっていうのに。」


お父様とあいつのお父様は周りの人たちからは命を助け合ったと言われるほど仲がいい

さらにお互いの貴族階級も近いこともあり親の間には自然にこういう話が持ち上がってくる


「『()()()()()()()()()()』のこと?あの件は私のお父様と貴方のお父様が()()()提案しただけでしょ。まだ正式に決まっていない。」


年齢的にも貴族という立場的にもすでに婚約している人たちは珍しくない

周りの同世代の人もそう言った話で盛り上がったりするのもしばしば話題に上がってくる


「お前は回答をはぐらかしているって聞いたぜ。貴族なら親に勝手に決められているっていうのに甘いな。そっちの親は。どうするか決めてもらわないと俺も困る。」


「甘いし、それがいいの。それに貴方を困らせるならそのまま引き伸ばしてもいいよ。」


「……勘弁してくれ。」


こいつは呆れた顔で口から一言も発せずに黙っていた

私は何かを少女自身で決断しなければならないこの歳にもなっても

『まだ考えておく』という回答しかできないことを私にはできなかった

もしこの質問に答えを導いてしまったらこれからどんなに頑張ってもすでに壊れてしまった関係すら絶対に修復し戻れないと本能的に感じた

だから……だから少女は目の前のあいつに答える


「私は……」


私の背に太陽みたいに眩しい光が照らされた

後ろを見ると下から打ち上げられた丸い花火が空に描かれる


「もう『収穫祭』の祝いの花火が打ち上げられたのか。こんなにデカいのは久しぶりに見たな……」


私の答えは遅れてきた花火の音で掻き消える

すぐ隣で開かれている貴族のパーティーや街に開催された祭りの賑やかな歓声が聞こえてくる


「行くのか?」


「ええ……もう、行かないと。お母様が待っているわ。」


私の答えを聞いた瞬間隣のパーティー会場が爆発した

窓ガラスが割れ破片が屋敷の庭にまで飛び散るほどの衝撃だった

その異常な明るさに心を奪われたようにただ呆然と立ち尽くすしかなかった

引き払ったメイドや執事が私たちに激しく呼吸しながら向かってくる


「ヨル様……!今すぐお逃げください!」


防御魔法を展開しながらメイドと従者たちが私たちの方へ駆け寄りそれぞれの身体を守るために身を寄せ……


「あ、」


身体が吹き飛ばされる

目の前に見えたのは胴体から飛び散った赤い液体が底に流れてくる

打たれた方向を見ると巨大な機械の上につけられた大きな銃口が私たちに向けられていた


「えっ……な、なんで……よ。」


「おいっ、ヨル。はやくこい!……チッ、突っ立てんじゃねー!動けよ!役立たずがっ!」


ルイが撃たれている側面に防御魔法を形成した

放たれた弾丸がルイの防御魔法を突き破り右に逸れる

放たれた衝撃と吹き飛ばされた石の破片足元に転がりここも安全ではないことは肌で分かった


「乗り上げやがったな……!」


紅茶などが置かれていた机をひっくり返しその下にあった石畳のタイルを剥がした

タイルの下には私がギリギリ入れるほど空洞がよく見るとあり古びた鉄の錆びたハシゴが下に繋がっていた


「こっちに来い。万が一のための抜け道がある。」


「でも!あっちにお母様がいるのよ。」


「クズクズするなそんなのは後でいい!早く手を取れ!」


「……うん。」


私は目の前の少年の手に導かれながら先に進む






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ