第二話 焦燥
「使えないくせに。」
その短い言葉が耳から脳に届いたとき怒りの感情が頭からふと消え不思議と正気に覚めた
「もうやめた。せっかく帰還したってのに余計な体力使うだけでだるいくなった。」
「そ、そうですね。俺も醜い害虫の顔にもそろそろ飽きちまったな。害虫の服を剥いでどっかに捨てようぜ。」
「暇だし道端にこのみじめな姿さらしておきます?」
増えた足音が踏み鳴らしていく中その場にいる全員の身体が吹き飛ばされそうな突風が吹く
後ろの二人が不自然な突風に身体が持っていかれ壁やそこら辺に置かれていた空き箱にぶつかりグルグルと回りながら気絶する
二人の様子を観察してからすぐに前に向く
「ヨル……わざわざ来たのかよ。少し遅いんじゃ無いのか?俺は久しぶりにこっちに帰ってきたがお前も少し歳とって少し顔立ちも前よりマシになったんじゃねーのか?」
腰に届くような長い少しごけたような赤髪をたなびかせた少女はながら大衆がいた大通りから少年たちに一歩一歩近づき正面をまるで獣が威嚇するように顔を詰める
「何をしているの。」
「うん?見てわからないか?この無能に教育だよ。」
全く態度が変わらないその姿を見て少女は少しため息をつきながら淡々と答える
「そう。なら私もくだらない講義をしてもらいたいものね。」
少女の背後から――三本の炎の矢が展開される
その炎の矢は身体が焼き尽くされるみたいに熱く目の奥に光が届いていた
二人の会話の隙に起き上がり曲がった足をそのままにしながら見つめている
「『ファイヤーランス』」
少女の矛先に魔法によって展開された炎の矢が放たれる
「お前も昔と変わらないな。いや、性格面ではもっとひどくなったか?」
三本の炎の矢が消え下を見ると炎により焦げた後ができており一直線上に伸びていたルイを避けるように分かれていた
昔は三人で仲良く平和にただ日々を過ごしていたのに今になってはあんな手も届かない遠い存在になるとは思わなかった
「『魔法』とは何も持たないただの俗人には到底成し得ない超的な力!この魔法を会得し操れる俺たちのことを『魔法使い』だと崇める!……まぁライン。お前みたいな無能には一生なれないものだ。」
「……」
そう言い残し大衆の道に消えていなくなった
そのときに少女が少年に駆け寄りポケットの中から絆創膏を取り出し額とところどころ付いていた足の擦り傷に付ける
「そんなに気にしなくていいじゃない。別に魔力を持っていない人なんか珍しくないんだから。」
魔法を使える人口は全体的に見れば圧倒的に少ない
なので平民でも魔法の適性を持っただけで将来は安泰と言われていても不思議では無い
彼女のようにヒトに対しても攻撃的な『魔法』を会得し行使できるまでになるとさらにその人数は絞られる
「……これで勘弁してやるよ無能。俺の代わりに現実を教えてくれたからな。それにこんな街中が魔法を使ったんだ。面倒事になる前に俺は先にいくぜ。」
後ろを振り返らず二人を置いてそのまま大衆の道へと消えていき静寂と化したこの場を後にした
その数秒後ポケットの中から絆創膏を取り出し額とところどころ付いていた擦り傷ににつける
「ごめん。」
地面に垂れた焦げた赤髪を見ながらそう謝る
「……別に気にしなくていいわよ。どうせいつもの変哲もない癇癪よ。気にするだけ無駄よ。」
「でもアイツが言ったのは全部事実だからさ。何も言えないよ。」
元々の『魔法』の源である魔力が異常に欠落していること二人のようにうまく『魔法』が使えない
だからこんな裏路地まで引き込まれて暴力を振るわられたりする
「私用事ができたからもう行わ。こんなところに座り込んでいないで早く帰りなさいよ。……あと。」
彼女を少年に見せつけるように波風ながら後ろを振り返る
少女は少し躊躇しながら重い口を開けるように言葉を発する
「あんまりこういう風に関わらさせないで。お互い迷惑だってことわかっているでしょ?」
「……分かっているよ。うん、よくわかっている。」
そう言い残しこの少年しかこの世界にいないかのように静寂に包まれ少年の心臓の音もよく聞こえていた
数分後その場には誰もいなくなりあんなに騒がしかった路地裏が無音になり
耳を研ぎ澄ませると遠くから薄ら聞こえる人の叫び声しか残されていなかった
後ろの二人「俺たちは?」