第一話 一声
「たすけ……」
「あははは!害虫のちっせい声なんか聞こえないぞ!何言ってんだよ!」
「うまく喋れよ。頭でも故障したのか!あははは!」
顔を上げ横を見るとレンガ造りの道の端に今日も誰かが家事を勤しみ誰がが作った食事を食べ日々淡々と住んでいる人間が交互に行き帰りを繰り返し道の真ん中には後ろに砂の煙を立つ
そこにはエンジンをかけた車がただ走り続けている
その日常的な賑やかさの光景を大通りから少し外れた裏通りに傷だらけの一人の少年が今にも閉じそうなまぶたで眺めていた
そばには麻製の鞄の中からこぼれている丸く黄色いパンや片面だけ少し潰れた赤く熟したトマトが転がっている
「だ、誰か……誰か助けてよ。誰でもいいから助けて……」
地面と四つん這いになったいる少年が平穏な日常を暇を持て余したように謳歌している大衆たちに手を伸ばし助けを求めるが誰かの足に踏みつけられ手の甲にまるで骨が砕けそうな激痛が走る
「あああああぁぁ!」
手の骨が折れた音と同時に少年の悲痛な叫びが鳴る
「やべ!少し力入れすぎて変な音が鳴りやがった。」
「もう少し手加減してやれよ。貴族の俺たちと凡族以下の害虫では体の構造からなにもかも違うからな!」
周りにいた観客である二人の少年は目に涙をこぼし青くなった手の甲を抑えて悶えている虫をあざけ笑いながら真上から見ていた
それでも人がいる大通りに少しでも近づけるために無事な左手と両足を泥や砂を擦り付けながら逃げるようとする
『逃げる』という行為には彼らにとって許されない決定的な行為でありその動作も二人にとって笑いの種だと知っていた
「害虫が這いずりながら逃げるぞ!」
「がんばれ!がんばれ!もう少しだぞ!あはははは!」
後ろから聞こえる笑い声を噛みしめながら前に進む
進んだ先に薄暗かった裏通りに差し込まれた太陽の光が視界を照らす
その光をもっと見たくて震える両足で立ち上がったが目を覆いつくした水滴が反射して前が見えなかった
次に見えたのは薄暗い影が覆い尽くし顔が身体が吹き飛ばされる自分を映した水たまりだった
「おまえは本当に邪魔だな。消えてくれよ。ライン。」
地面に垂れる赤い鼻血を見ながら質素な安物の服の袖で拭い顔を上げると二人の奥に自分を見ている顔がそこにいた
「久しぶりだな!」
「もう帰ってきたのかよぉ!」
そう久しぶりの友に会うみたいに懐かしみながら二人は喜ぶ
とっさに倒れた体を起こすために何かにつかまった
掴んでいた何かが勢いよく顔面に直接めり込んだ
「俺の足に触るんじゃねー!害虫のきたねえ血が俺の服に付いただろうが!」
「おいっ!害虫の分際で何誰かに助けを求めようとしてんだ。お前はよぉ!ライン!」
再熱した暴行が続いたが差し込んだ光によってなのか妙なもやがかかった顔が二人を制止する
今自分がどこが痛いのかわからなくなるまで身体に限界が近ずいていた
髪が掴まれ正面に相対したのは蔑んだ顔をした懐かしい顔がそこにいた
「お前まだこんな所にうろついていたのか?無能。せっかく遠征から久しぶりに帰っていたっていうのに気分が悪くなるな。」
唾を吐き捨てながらそう言う
「なんでこんなことをするんだよ……!ルイ!昔はあんなに一緒にいたのに!友達だったのに!」
口調に怒りの感情が入った言葉で懐かしい顔だったルイに責め立てる
この少年の言葉を聞いてため息を吐きながらこう答える
「お前はバカか。昔は昔だろ。今と昔とは全く違う……そうだろ?それにこの話何回したんだ?それにしても血まみれでひどい顔だな。」
「くっくっく……!」と笑いながらそう返事をした
下を見た後ろの二人も反響するようにさっきよりも腹を抱えて盛大に笑っていた
その態度と笑い声にこぶしを握り締め自分の顔がどんなに悲惨な姿をしているかを忘れていた
「『魔法』さえ使えればお前らなんて……!」
そう呟くような小さな声で発した言葉の後に下から何かに引っ張られるように顔が地面触れた
時間が止まったように何もされずに不思議と何も聞こえなかった