私の5年は彼らと共にあった
ぶぅ…ん…ぶぅ…ん…
唸るような羽音が響く中、白い防護服姿の者は養蜂箱の蓋を開け、巣板を一枚引き出した。
喉が鳴る。
薄い膜に守られたハニカムの中には黄金色に輝く蜂蜜がとろりと詰まっている。白き者はたまらず、その琥珀のような露を指で掬い舐めた。
「んん~……!」
防護服から漏れ出したのは、女性の満足げな声だった。今年の蜂蜜は申し分ない。これなら、また市場に出せるようになるだろう。
長かった。
養蜂家の父が倒れたのは、5年前の事だ――。
しかし、独りでがむしゃらに頑張ってきた訳ではない。
彼女の最強の相棒は、この蜜蜂達。
その羽音はいささか攻撃的ではあったが力強く、彼女は彼らが飛んでいる様をいつまでも見つめていた。
◆ ◆ ◆
狭い箱の中に我らは巣を作り、慎ましやかに暮らしていた。
しかし、時折開く箱の隙間から伸びる白い手は、我らが懸命に集め熟成させていた蜜をあっさりと奪っていく。
これの繰り返しである。
ある時、箱に伸びる手の者が変わった。女だ。
それからだ、どこか居心地の悪い箱になってしまったのは。
それでも、我らのする事は変わらない。
蜜を集め、固め、貯蔵する。
それだけの暮らし。
いつも通り手袋をした白い手が蜜を舐めた。
「んん~……!」
敵でしかなかった白き者が、今日は妙にはしゃいでいる。美味い美味い、と蜜を啜る。
その瞳には涙が浮かんでいたような気がした。
訳の分からん事で泣く女だ。
我らは変わらず蜜を集めていただけだと言うのに。