過去とのつなぎ人に会った
第5作目の投稿です。
1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。
是非是非、お楽しみください。
新宿歌舞伎町で、税理士補助のアルバイトが始まった。
神崎信にとっては生まれて初めてのアルバイトだった。
内容は簡単な記帳補助と、鈴木税理士が関与している顧客との間で書類をやりとりするお使いだった。
受託先は飲み屋、バー、キャバレーが大部分だったが、その他の店も数店あった。
最初彼は、新宿歌舞伎町がどういう場所かは事前にほとんど知らなかった。
しかし今は、特別な空間だということがよくわかった。
そして、そこでは、たくさんのいろいろな人々が毎日生きていることがよくわかった。
(皆さんは大変な毎日を過ごしているんだな!! )
驚きの連続だった。
そしてとても大切な出会いがあった。
「神崎くん、この店から書類をもらってきてくれ。」
ある日、彼は鈴木税理士から指示を受け、簡単な地図を渡された。
目的の店は「バー・ともしび」と書かれていた。
時計を見ると、まだ午後の1時。
(早くからやっているのかな?? )と思いつつ、歌舞伎町を歩き始めた。
いつもは、夜に人口の光を浴びている街だった。
昼間の日の光に照らされている街は、夜に華やかな光を放つ前のくすんだ汚い色をして眠っていた。
5分ぐらい歩くと、目的の「バー・ともしび」に着いた。
3階建ての低いビルの2階にあった。
「こんにちは、鈴木税理士事務所です。」
「どうぞ、入っていいわよ。」
中年の女の人の声がした。
初めて訪ねる店のドアを開く時はいつも緊張する。
(仕事だから―― )
鍵がかかっていないドアを開いて中に入った。
「いらっしゃい」
昼間から窓にはブラインドがほぼ完全に下ろされ、光はほんの少ししか入っていない。
奥のカウンターと対面で座れるソファーの席がいくつかあった。
よく見ると、中年の女の人がカウンターの中で菜箸を動かし、何かを料理をしているようだった。
「これ作っちゃうから、カウンターに座ってちょっと待ってね。こっちに来て」
店の中に入っていって、カウンターに座ると、何かが焼かれている音といいにおいがした。
お好み焼きのような感じだった。
それから、ちらっと中年の女の人の顔を見た時、上品だなと思ったけど何か不思議な違和感があった。
フライパンの上で動いていた菜箸が止まった。
「あーた、おなか空いているでしょ。お昼もう食べた」
個人事務所で、昼休み時間というものが決められていなかったから、食べていなかった。
「まだ、食べていません」
「じゃ、食べてって」
「仕事の最中に、お客様からお昼をごちそうになるなんて、先生に怒られます」
「先生は絶対怒らないから、1人で食べるには多すぎるほど作っちゃったから食べてって」
そういいながら、既に、中年の女の人は2つのお皿に盛り付け始めていたので断れなかった。
「それでは、いただきます」
見た目はお好み焼きだった。
味はとてもおいしかったけど、何回も食べたことのある味とは違った。
「つなぎに山芋を使っているのよ。酔っ払いがとても喜ぶわ。」
そう言ながら、中年の女の人が彼の顔をまじまじとじっと見始めた。
「大きな美しい茶色の目、あなたは遠い前世からの大きな宿業を背負う。現世で決着をつける」
彼は、その言葉を聞いて、その顔をしっかり見た瞬間、さっき感じた違和感の意味がはっきり分かった。
男性だけど女性の心をもっている人、いわゆるゲイだと思った。
テレビのドラマの役では見たことがあったが、ほんとうの人と面と向かって会ったのは初めてだった。
「とても不思議。君と同じような魂の色の人をもう一人知っているわ。そうそう、同じというよりも………
食べちゃったら、暇だから、私の道楽に付き合ってくれる。それも仕事の一つとして。いいでしょ」
(お客さんに言われたら断れない。)
「はい。」
ともしびのママは、大きな水晶玉を出してきた。
(さっき、「魂の色」とか言っていたけど、占い師もやっているのかな)
しばらくするとトランス状態に入ったようだった。
「あーた、大変だわ。これから、たぶんそんなに長くない先に、恐ろしい試練が待ち構えていて、普通の人だったら必ず破滅するわ」
(えっ。えっ。何を言うんだろう)
「だけど、あなたは必ず乗り越えることができる。その後で、大切な宝を手に入れるでしょう。前世では、その宝を手に入れることができなかったから―― 最高の名声と名誉を手に入れた英雄だったのにね」
所詮、何も根拠のない占いの話だと考えた。
それで、店を出てしばらく歩いている間に、彼は言われたことをすぐに忘れてしまった。
神崎信がその店を出た後、ともしびのママはひとり言を言った。
「不思議ね。今の男の子とは、はるかはるか昔、会っているわ」
その横で、大きな水晶玉の色が、まぶしいほど強く光り輝いていた。
ともしびのママから鈴木税理士あての封筒を預かって事務所に帰った。
「久美さん。いい人だっただろ。」
先生が笑って言った。
「はい」
確かに、優しく暖かいオーラしか伝わってこない、とてもいい人だった。
神崎信はその夜、不思議な夢を見た。
岸壁に停泊している帆船の上に乗っていた。
最初、船は海に浮かんでいるのかと思ったけど、はるか遠くに対岸がうっすら見えた。
(大きな川なのか。)
船は今にも岸壁を出ようとしていた。
これまでは、大言壮語を吐くことしかできず、何一つうまくいかない乞食のような毎日だった。
軍略については誰よりも真剣に勉強し、実際の戦場で応用すると必ずうまくいく。
彼はは心の中には今、自分と自分の未来に対する強い自信しかなかった。
(戦なら天下の誰にも負けない。大将軍に絶対なる。)
さあ、いくぞという気持ちがみなぎった。
ところがその刹那、声をかけられた。
「あーた。あーた。安くしとくから私に占わせて!! 」
振り返ると、広い甲板の端に机が置かれていた。
そこに座っているのは占い師のようだった。
興味がわいて、近づいた。
「お願いします。でも、僕の未来は僕が思い描くとおりに進むと思いますよ。
「そうかい。それではやってみよう。座って」
占い師は占いを始めたようだった。
すると、みるみるうちに、その顔が驚きに満ち始めた。
「そうね。未来はあなたが思い描くとおりよ。最高の賞賛と名声を手に入れることができるわ。大将軍ね。でもね、宝を得るのはとてもとても長い時間、はるか遠くへ旅した後よ」
お読みいただき心から感謝申し上げます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
今までとは少し違った物語ですので、おもしろいのかとても心配です。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
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一生懸命、書き続けます。