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初めての新宿でアルバイトをする

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 その異世界中の若者は、彼の大学がある首都にあこがれる。


 神崎信(かんざきしん)も同じだった。


 せっかく首都にいるのだから、その間、いろいろ場所に行きたいと思った。


 そこで、学費と生活費をかせぐためアルバイトをしようと思った。


 今日もベンチに座って、スマホでアルバイト募集のサイトを見ていた。


 すると、ある求人広告に目がとまった。


 プロの税理士を目指す学生募集…


「税理士って資格があるだけでプロじゃないのかな。どういう意味だろう」


 興味がわいて、リンクの先を開いて詳細を確認した。


 意味はわからなかったが、税理士事務所が超繁華街の歌舞伎町にあるということがわかった。


 さらに、彼と同じC大の学部学科出身だということもわかった。


 直ぐに、連絡先としてあった番号を押した。


 受付代行のような声がした。


「面接1回で採用を決めます。今から来られますか? 」


「参ります」




 彼は超繁華街の新宿に行くのは初めてだった。


 C大の最寄りのK王線の駅で、発車待ちの電車に乗った。


 そして、一番好きな先頭車両、はじの席に座った。


 発車時間が近くなると、少しずつ乗客が増え始めた。


 すると――


 きまぐれの運命が偶然を用意した――


(もう発車だな)


 なにげなく、彼は顔を上げて乗降口を見た。


 その瞬間、驚くべき姿が見えた。


 同じ大学のあの女の子、目が大きくてブラウンの瞳が美しかった。

 今度もまた、彼の心の奥深くに、なつかしさがこみ上げた。


 そして彼女も、すぐに彼に気がつき、とてもうれしそうに優しく微笑んだ。


 彼の横に座ってくれそうだった。


 ところが――


 電車の中、遠い向こうの車両から彼女は呼ばれた。


明美(あけみ)、こっち、こっち、早くおいでよ!! 」


 友達が呼んだみたいだった。


 彼女は微妙な顔をして、電車の中、彼から離れるように歩いて行った。


 後ろ姿、黒いセミロングの髪が揺れていた。


(後ろ姿も美しい‥‥ 残念、残念。でも、ほんの一瞬でも大ラッキー!! )




 K王線を使い、S宿まで4、50分で着いた。


 S宿からはスマホを使って、ナビに頼ろうと思った。


 ただ、外に出るまでが大変だった


 電車を降りた瞬間からものすごく多くの人が歩いていて、頭がくらくらした。


 どの出口から外に出ればいいのか、なかなか確信が持てなかった。

 それで、駅員に聞いてようやく外に出ることができた。


 その後はナビを使い、とうとう税理士事務所がある古びたビルの前にたどり着けた。


 ところが今度は、中に入っていくのが怖かった。


 多くの人が出入りすることを目的に建てられたビルではなかった。


 建設費を最大限に削った安普請だった。


 1階のエントランスはとても狭く、2つの部屋の入り口と階段が外から丸見えだった。


 神崎信(かんざきしん)は入るのをためらっていた。


 そのうち、くたびれたスーツを着た男の人と、派手な服を着た厚化粧の女の人が外に出て来た。


「先生、じゃあ今後ともお願いします。」


 先生と呼ばれた男の人が、女の人を見送っていた。


 その人は五十歳前後か、細長い目が特徴的な、切れ者の顔をして、背が高かった。


「あのう、鈴木税理士事務所はこのビルの中でしょうか。」


「鈴木は私だけど、ああ、C大の学生さんね。ついてきなさい。ただし、事務所は5階だからかなり歩くよ。」


 それから、いわゆる雑居ビルのくすんだ色の階段を歩いて昇っていた。


 飲み屋、バー、キャバレー、何をやっているかわからない会社がある階を過ぎた。

 

 最後にようやく、税理士事務所にたどり着くことができた。


 部屋の中に入ると意外に明るかった。

 税法に関連するいろいろな本や書類が散乱して、お世辞にもきれいではなかった。


 しかし、勉強好きな彼にとっては全く問題なかった。


「きみの名前は、確か‥‥ 神崎君だね。C大○○学部○○学科かい」


「そうです」


「私の後輩か。税理士か公認会計士を目指して入ったのかい」


 滑り止めに選んだとは、大先輩にとても言えなかった。


「できればなりたいと思っています」


「そうか、ではきみを採用する、机はそれを使ってください」


 指差された場所も、本と書類の山だった。


「片付けていいですか」


「いいよ」


「今日、何かお手伝いできることがありますか」


「そうだね、君は総勘定元帳に仕訳の記帳ができるかい」


「はい、いくらかは、大学で勉強していますから。簿記の2級もとったばかりです」


「それでは、その机の上のどこかの青色の袋の中に、領収書が入っているから、この元帳に記録してください」


 鈴木税理士から、元帳とボールペン、電子計算機を渡された。

 

 それから、机の上をきれいに整理したら、青色の袋があった。


 彼は、その袋の中を開いて、領収書を確認し始めた。


 大学で学ぶ簿記の教科書に記載されている領収書の様式とは全く違った。


 誰に対して何の代金をいつ領収したか、さらに積算内訳を必ず書かなければならないとされていた。


 しかし、袋の中の領収書には代金の額は書いてあったが、

 ほとんど「上様」に対して「品代」を領収したことになっており、領収日は全く書いていなかった。


「先生、こういう記載の領収書って有効ですか」


「売上げの明細は過去の記録を参考に、整合性がとれるように君が領収書に具体的な内容を補記してくれ。つじつまがあうと思ったら元帳に記して売上としてくれ。後で私が確認するから」


「そんないい加減でいいのでしょうか」


「その食料品店は、かなり繁盛しているが、年老いたおばあさんが一人でやっている。レジも壊れているし、領収書をきちんと書く時間がないからしょうがない」


「わかりました」


 現実の社会はそういうものだと、彼は初めて知った。


 やらなければならないのは1か月分だけだったので、前の月の記帳を参考にした。


 そして、できる限り整合性がとれるよう、補記と記帳を完了した。


 完了した後で重大なことに気が付いた。


「先生、元帳の記録を預金通帳ともチェックしたいのですが」


「そのおばあさんは、商売の元手を銀行に預けてなく、通帳なんか持っていないよ。自分のものと借りたものも含めて、元手は全部現金で持っている」


「どうしてですか? 」


「流動性百%、ある意味では合理的な選択だ。もし、売れなくなって赤字がかなり続いても、日銭が有る限り仕入れができるし、商売を続けられる」


 さらに、鈴木税理士が続けて説明した。


「もちろん、これ以上がんばっても仕方がない場合は、おばあさんに、直ぐに店をたたむよう、顧問税理士として責任をもって指導する。場合によっては、間髪を入れず夜逃げしなさいと言うかもしれない」


(えっ、そんなことでいいの?? )


「歌舞伎町の外の遠い町で余生を生きていくということもできるからね。税理士が責任を果たすということは、そこまで考えるということだよ」


 借金を踏み倒せと指導すると真顔で言われて、彼はその時一瞬驚いた。


 しかし、後から何回も考えるとなんとなく理解できた。

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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