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幸せは必ずつかめる

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。

是非是非、お楽しみください。

 神崎信(かんざきしん)が指示し、大河を渡る船が出航した。


 だんだん岸は遠ざかった。


 そして岸辺では、火をかけたたくさんの船が燃え始め煙が立ち上っているのが見えた。




 立ち上った煙は敵が陣を構える穀物貯蔵庫の山の上からも見えた。


 林龍が問いただした。


「あの煙は何だ? 」


「すぐに確認致します。物見を送ります」


 やがて報告が上がってきた。


 報告しに来た兵士は大変あせっていた。


「大変です。コウウ(神崎)の軍が逃げ出しています。そして、もう大河を船で渡河し、向こう岸にたどりつこうとしています」


 それを聞いた途端、コウウ(本人)は林龍をにらみつけながら言った。


「だから申し上げたじゃないですか。もう、はるか遠くに逃げられました。ましてや大河を渡り‥‥ たぶん、ここから見えるあの炎は、近辺の船という船を全て焼いたのでしょう!! 」


「いや。まだ大丈夫だ。船が無いのなら今から調達し対岸に渡ろう」


「それでは時間が経過してしまいます。これが麻雀ゲームでウィルスに書き換えられているとはいえ、基本的なルールは変えることができないはずです。時間切れになります」


「‥‥ そうか ‥‥ 仕方が無いな」


 その時、コウウはあることを想い出していた。


 彼が現実に体験した「がいかの戦い」の最終場面のことだった。




 800人になった彼の軍は、劉から総攻撃を受けた。


 最後の最後で逃げることを決めたが、囲みを切り開くことが大変だった。


 やっとのことで大河の岸にたどりついたが、その時はもう数人になっていた。


 船を探した。


 すると、小さな小舟が泊っており、そばに年老いた猟師がいた。


 血まみれでボロボロのコウウは言った。


「御老人、船を出していただけませんか。それで、私を対岸まで渡していただきたいのです」


 老人は少し驚いた様子だったが、やがて微笑みながら言った。


「あなたはコウウ様ですね。世界に名高き英雄、我々貧困な民のことまでよくお考えになっていただきました。お疲れでしょう。でも急ぐのですね、今すぐお渡しします」


「コウウ様、追手が参ります。馬を走らす砂ぼこりが、もうあんなにそばに!! 」


「‥‥‥‥ 御老人。前言を撤回する。船は借りない。敵が来たら、最初から私の申し出をこっぴどく拒否したと申せば良い。ありがとう。最後にお話できてよかった」


「何をおっしゃいます。あなたは多くの人にとって真の英雄。また対岸に逃げれば、再起の未知も必ず開けましょう」


「いえいえ。もう私は疲れました。船を出した後、岸辺から矢を射られて、あなたに命中してしまったら、申し訳ありません。あなたの家族にも顔向けできません」


「私の家族はもう1人もおりません」


「息子さんは? 」


「コウウ様の軍で将校に引き立てられていただいて‥‥ もう戦士しました」


「親子で私のために尽くしていただき心から感謝申し上げる」


 彼は愛馬の(すい)にまたがった。


「ヤー」


 もう、こうするしかなかった。


 少し前、彼の愛する虞美人(ぐびじん)は戦いの前に彼の目の前で命を絶った。


 愛馬の横腹を足でたたき、彼は迫り来る敵に向かった。


 やがて、驚くべき大軍と無限の矢が彼に向かうところまでは覚えている。




 突然、


 コウウは急に麻雀ゲームからログアウトした。


(どうしたんだ)


 すると、彼のことを心配して見つめている女性の顔が目の前に見えた。


 眉間にしわを寄せたその顔は絵に描いたように美しかった。


「お疲れ様でした。もう戦わなくても良いのですよ。コウウ様。モニターで見ていました。それに申し上げなければならないことがあります。私も記憶持ち転生者です」


 具美玲(ぐみれい)の顔が明るく微笑んでいた。


(ああ。この時を迎えるなんて!! )




 残りの2人、神崎真(かんざきしん)と私鉄の総帥林龍(はやしりゅう)もログアウトした。


 ゴーグルをはずすと2人はしばらく無言でいたが、林が口を開いた。


「今日は引き分けだった。だが、娘の結婚式には出ることにしよう。私も父親だからな。それに、私の跡継ぎになれる立派な若者が夫になる。見事な判断力だった。とても私にはかなわない!! 」


 神崎は起立して深くおじぎをした。


「ありがとうございます。心の底から感謝申し上げます」


 それから、彼は腕時計で時間を確認した後、急いで外に出て行った。


 外に出ると、冬にはめずらしく雨が降っていた。




 新宿駅で彼を待っているミンメイにうれしい報告を、早くしたいので彼は急いだ。




 ところが、


 私鉄の総帥林龍が統治する企業グループの末端。


 違法な行為も(いと)わない会社のある男に林の命令が誤って、誇張して伝えられていた。


「総帥が大嫌いな男。お嬢さんをたぶらかし結婚詐欺をしようとしている。どんな手段でもいいから消せ」



 その男は店の前で見張っていた。


 そして、店から出て来た彼をやり過ごすと、距離を開けて後をつけ始めた。


 男は、刃渡りが長いナイフを手にかくし持っていた。



 偶然、新宿の町を歩いていた久美さんがその光景を見た。


「あっ!! 何!! あの子、変な男につけられている。あぶないわ―― 」


 その時、無情の雨がとても激しく降り始めた。


 誰もが自分の前をはっきり見ることができないほどだった。


 ナイフの男には絶好のチャンスだった。


 男は神崎信(かんざきしん)に全力で走り近づいた。


 刃渡りの長いナイフが振り下ろされようとした。




「あ――た 振り払いなさい!! 」


 久美さんが彼に向かって、人間とは思えないほどの大声で叫んだ。


 彼は何がなんだかわからなかったが、腕を振り払った。


 転生前に武人だった彼は、無意識に自分の体を守る動作をした。


 それはタイミングよく、ナイフの刃先を反対にした。





 ここは都会、しかも大都会。


 この国の全ての若者達があこがれる首都、その中の繁華街。


 雨は降り続く、


 そして激しく彼の体を打つ。


 背の高い考え深そうな若い男だった。まだ、大学生かもしれない。


 呆然自失だが、本能的におそるおそる足下に横たわる体を見た。


 原色の赤を基調にした、はでなジャケットの上下を着た、おきまりの姿、闇の世界の男だった。


 もう生きてはいない。道路の路面には大量の赤い液体が流れ出していた。

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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