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どんな状況でも英雄は戦う

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 11時近くになって、最初のメンバーが店に入ってきた。


その男は、顔からエネルギーを発散させているような男だった。


 関東一帯で、土地の開発と鉄道の敷設を進めている私鉄の総帥だった。


 必要であれば、強引で違法すれすれの手段を(いと)わないと噂されていた。


 しかし、常人ではとても思いつかない緻密な計画を作り上げ、彼が作り上げた開発地域が東京の郊外に面的に広がりつつあった。


 高羽が近づいておじぎした。


「龍さま」


「私が最初か」


「そうです」


「挑戦者はあの若者だそうだな」


「そうです。レベル1を超える戦争遂行能力の持ち主です。それに今日は保証人がついていらっしゃいます」


「保証人だと。いったい誰だ? 」


「お嬢様です」


 高羽は、部屋の隅に座っているリンの方を見た。


 龍も少しも驚かず、リンを見た。


 生まれてから自分の娘を見たのは、これが初めてだった。


「なるほど。美しさだけは母親似だな。それに、なんでここにいるのだ。神崎信(かんざきしん)とは別れたのではないか? 」


「龍様。お2人の結びつきはもう特別だと思います」


 その言葉を聞くか聞かないうちに、林龍はリンに足早に近づいた。


 全く知らない男の人が自分に近づいてきて、リンは大変驚いた。


 その男の自己紹介を聞き、彼女はさらに驚いた。


「リンか。リンミンメイだな。私は林龍。お前の父親だ。おろかなお前の母親は、私がほどこしてやった医慰謝料を受け取るのを拒否した。一生の働かなくてもよいくらいだがな、ばかな母親だな―― 」


 バチーン


 部屋中に響くような音がした。


 リンが龍のほおを全力でビンタした。


 高羽が彼女をたしなめた。


「お嬢様。お父上にそんなことをしてはいけません」


「良い―― 我が娘の縁でレベル1超の若者が手に入るのだからな」


「他の方々が来るのが遅れています。会場で少しお待ちいただけますか」


 マスターがあわてて言った。


「わかった」


 総帥は、扉から入っていった。


 しばらくして、2人目のメンバーが店に入ってきた。


 最高級の灰色を基調にしたコーデに身をつつみ、全身が冷静賃借なたたずまいのその男は、バンカー中のバンカーと(たた)えられた大銀行の頭取だった。


 人間離れした、極めて的確な判断能力をもち、将来を読む力をもっていた。


 倒産寸前の企業グループであっても、玉石混交の中から将来性のある技術や人材などの経営資源を見抜き必要な支援を行い、業績をV字回復させていた。


 総帥と同様に秘書を一人連れてきていたが、そこで待つように指示してからマスターに尋ねた。


「もう何人来ていますか」


「林龍様だけ来られています」


「4人目は大学生だと聞いていますが。実力的に大丈夫でしょうか」


「いえいえ、大丈夫です。「新宿のマザー」から特別な若者だとお墨付きをもらうほどの実力です。それにAIの測定ではレベル1を超えています」


「そうですか。それほどの逸材を今まで知らなかったとは、私の失態ですね。久し振りの勝負だから楽しみにしています。」


「申し訳ありません、会場で少しお待ちいただけますか」


 軽くうなずいて、頭取は、扉から入っていった。


 3人目のメンバーが店に入ってきた。


 世界トップシェアを誇る同族会社のメーカーのオーナーであった。


 一般的に、企業と創業家が分離しないのは経営学的には問題があると言われている。


 しかし、この一族は創業者から代々全て、極めて優秀な資質を持ち、現状にあぐらをかくこと無く時代の流れに的確に対応し、会社を発展させてきた。


 今も世界の潮流に疑問を投げかけ、独自路線を進もうとしていた。


 特に現オーナーのこの男は中興の祖と呼ばれ、新しい主力製品を次々に市場に投入してきた。


 会社のトップとしてさまざまな問題に正面から立ち向い、冒険者としての資質を持ち合わせていた。


 既に来ている2人と同様に秘書を1人連れてきていたが、マスターに尋ねた。


「秘書も中に入っていいですか? 」


「それは、御遠慮ください。」


「他の方はもうお揃いですか」


「お2人は来られています。ただ、挑戦者が来るのが遅れていますので、しばらくお待ちください」


「挑戦者なのに、なぜ遅れるのですか」


「直前に、より実力のある者に交替させたからです」


「わかりました。例の若者ですね。メーカーとして最適な資質」


 オーナーは、扉から入っていった。




 彼は、12時少し前の電車で新宿駅に着いた。


 太田と電話で話した時、リンを残して逃げ出した店のだいたいの位置を聞いていたが、「バー・ともしび」に近いので、久美さんに確実な場所を聞こうと考えた。


 彼は、夜でもきらきらとした光に満ちあふれている街の中を全速力で走った。


 その街は、午前零時になっても大群衆が歩いていたが、人混みをかき分けながら最短コースを走って、すぐに「バー・ともしび」に着いた。


 ドアを開けて中に入ると、店内ではカウンターに2人の男が座っていた。


 久美さんが相手をしていた。


 座っていたのは鈴木税理士とあの史上最高の釘師だった。


 鈴木税理士が言った。


「君が来ることを久美さんが予言して、僕たちが呼ばれて待っていたよ」


 釘師のおじさんが言った。


「にいちゃんがパチンコで負け始めた理由を、久美さんから聞かせてもらっていたよ。それはそうとして、これからあの店に行き、麻雀ゲームの勝負をすることになるよ。おじさんにも関係ないわけでもない」


 それから、釘師のおじさんが彼に、あの店のことを教えてくれた。


 現世で最高の強者をメンバーにして、あの店で戦いが行われること。


 実は史上最高の釘師として、数年間まではおじさんも4人のメンバー4ヘッドの1人だった。


 しかし、あまりに殺伐な戦いがいやになり抜けさせてもらったということだった。


 その後で、3人のメンバーに挑戦者が挑むというような構図になった。


 さらに、釘師のおじさんが追加した。


「『敗者は勝者の要求を拒めない。』という簡単なルールだけど、何百億単位の会社の経営権やノウハウ・特許権などが要求されることがあったよ。さすがに、今はそのようなことはなくなったそうだけど、


挑戦者は若者が多いということを逆手にとって、適法な範囲内で敗者を奴隷に、その一生を勝者が描いたとおりに生きることを要求することが多いそうだ」


 久美さんが言った。


「リンの気持ちをわかってあげてね。いや、たぶんもうわかっているのね。‥‥あら、意外に君は緊張していないのね。リンを助けてね。」


「彼女との約束です。決して諦めず、最後に勝利するまで戦います。それと、なぜかわかりませんけど、これ以上の厳しい戦いを、これまで多くしてきたような気がします。大丈夫です」


 釘師のおじさんが心配して言った。


「にいちゃんが相手をする3人は、現この世界、それぞれの社会で既に勝負に勝ち抜き、今、トップ3と言ってもいいぐらい真の実力がある。それだけじゃなく、もって生まれた運に恵まれている。


でも、にいちゃんは、彼らを上回っているような気がするよ。じゃ行こうか、戦いの場まで案内するよ。」


 3人はその店の入口の前までついて来てくれた。最後に3人とも笑顔で彼を見てうなずいた。


 彼も笑顔でうなずき返した。


 その時、季節はずれの全く不自然な雷が新宿中に鳴り響き、雨が降り始めた。


 彼は釘師のおじさんといっしょに店の中に入った。


 その後姿を見て、鈴木税理士が冷静に言った。


「不思議ですが、全然心配じゃないです。彼ならば必ず勝つと確信できます」


 久美さんが言った。


「英雄は神の試練である大きな不運に見舞われ、それを長い年月背負わされるものだけど、最後には必ずそれを跳ね返すわ。たぶん、彼にとっては転生前からの宿業。千年を越えて決着させるでしょう」

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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