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絶望の主人公、運命はどうなるのか

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 自分の身に何が起きたのか、全く理解できなかった。


 ほんの少し前まで、林明美(はやしあけみ)が横にいて、彼女と進む未来以外には考えられなかった。


 神崎信(かんざきしん)の未来は遠くの遠くまで輝いていた。


 しかし、それが突然、プツンと切れた。


 林明美は完全に消えて、リンミンメイが彼の目の前に現われた。




 K王線の座席に腰かけていた。


 いつの間にか眠ってしまい、電車の中で夢を見ていた。


 またあの国、遠い異世界にいた。


「花桃の良い香り―― 」


 それは、悲しい体験をした神崎を、また元気づけた。


 英雄、大将軍カンシンは第五皇女ミンメイと並んで歩いていた。


 王宮の追手門への続く道を行き交う全ての人々が彼に会釈(えしゃく)した。


 あの日か――


 皇帝(りゅう)に呼ばれ謁見し、カンシンはミンメイに宝剣で胸を刺され、


 命を落す。


 カンシンは考えていた。


(大将軍として数々の戦いに勝利し、皇帝(りゅう)が宿敵に打ち勝ち新しい国を建国するのを助けてきた。ところが、皇帝になった途端、皇帝は将来自分にその地位を簒奪されることを心配し始めた)


(父親に命令され、どうしようもないとはいえ、ミンメイが自分を刺す。2人には永遠の別れがくる)


(いやいや。そんなことない。絶対に!! )


 追手門の横には、皇族の専用通路があった。


 2人は立ち止まった。


 カンシンは精一杯の心の力を振り絞り、ミンメイに微笑んだ。

 ミンメイは精一杯の心の力を振り絞り、カンシンに微笑み返した。




 K王線で下宿の最寄り駅に着く直前に目がさめた。


 耐えがたいほどの惨めな気持ちが、心を重く覆っていた。


「にいちゃん。にんちゃん。どうした。どうした。暗い顔して、元気だしなよ」


 もう終電近い電車から降りてホームを歩いていた時、酔っ払いが話しかけてきた。


「はい。がんばります‥‥ 」


 ふだんならあり得ないほど小さな、か細い声で彼は答えた。


 しかし、どうやって?? がんばれば良いのか、全くわからなかった。


 その夜は結局一睡もできなかった。


 神崎信(かんざきしん)にとって、勉強以外で徹夜したのは初めてだった。


 下宿は小高い山の頂上にあるので、日が昇るとすぐに明るい光が差し込んでくる。

 

 リンが自分を大嫌いだと言った時の、顔を真下を向けてしまった場面を思い出した。


(あんなに、あからさまに下を向いて‥‥ もう大きな美しい目で、ぼくを見てくれないのかな‥‥ )




 翌日から、彼にはとても辛い毎日が始まった。


 このようなシチュエーションは全ての若者が体験する。


 それぞれの辛い体験は全く異なる。


 ただ一つだけ、リンが休まず講義に出ていることには安心した。


 しかし、大講堂の中で、いつも、彼より最も離れた席に座るようになった。


 そして、偶然にすれ違うことがあっても、あの店の時と同じように、いつも真下を向いていた。


 井上さんと中村は彼のことを気遣い、あの夜のことは一切話さなかった。


「神崎はイケメンで性格も良いから、美しい女の子達がほっとかないよ」


「我がC大の最大のホープだからな。一体、どんな大企業に入るんだい。でも、税理士試験の残りの科目に合格して資格もとっておくんだよ。オニに金棒さ」


 食堂でいっしょに食事をした後、彼が勉強疲れでうとうとしていたら、寝ていると2人が勘違いしたようだった。


 会話が聞こえてきた。


「太田はこのごろ大学に来ないな」


「来ないのではなくて、罪悪感で来ることができないと思います」


 あの時のことを思い返すと、彼も太田が意識的にチャイニーズパブに行くよう計画していたと思った。


 現在、過去、未来、同様な状況に投げ込まれた多くの若者と同じように、彼はこの悲惨な気持ちを一瞬でも考えることのないよう、死に物狂いで勉強した。


 その結果、税理士資格試験の残りの3科目にも合格できた。


 それはびっくりするほど、あっけないほどだった。


 心の傷は埋まらなかったが、ほんの少しだけ彼は喜んだ、




 ある日の遅い夜、「バー・ともしび」のカウンターにリンはいた。


 カウンターで泣き崩れていた。


 リンの大きな美しい目が涙でいっぱいになるのを見ると、久美はとても悲しくなった。


 あのチャイニーズパブは、久美の行きつけの店で、そこで働いている多くの留学生の将来を占い、相談を受けることが多かった。


 久美は、特に心の優しいこの娘のことが大好きだった。


 最初この子を見て占った時、前世も含めて何か特別なものを感じた。


 そして、後で神崎を見た時それが何かを確信した。


(2人はお互い強く結ばれた異世界転生者。多くの時を超え、多くの次元を超えてきた)


(うん。私もそうだったかもしれないわね)


 少し前までは、神崎のことをとても楽しそうに笑いながら話すこの娘の表情が好きだった。


 小田原までデートに行った時の話など最高だった。


「ふふふふ。彼は意外に度胸がないのね。こんな美女にそう言われたのに、結局、あーたの部屋に泊らなかったのね。ずんと、やらなければだめよね。ふふふふ」


「久美さん」


「なに」


「とても下品です」





「大勢の前であんなことを神崎さんに言ってしまいました。彼のことをひどく傷つけた。私のことは大嫌いになったでしょう」


 久美はほんとうのことを言いたかった。


(あなたがたは、今度こそ必ず結ばれる。ものすごい転生をして、2人の間には遠い距離があったのに、再びお互いの大きな美しい目を見ながら話すことができるようになったじゃない)


 必要最小限のことだけを、強く優しい顔をして行った。


「いや大丈夫、彼はあなたのこと絶対に嫌いにならないわ」


 久美はもう少しで、ほんとうのことを話してしまいそうになった。


 しかし、2人のうちどちらかで運命のことを知ってしまうと、運命が成就されないような気がした。


(運命にネタバレは許されないから、もうこれ以上話せないわ。許してね。ただ、これから恐ろしい試練が2人に襲いかかってくる、それを2人で見事に超えて。幸せをつかんでね)


「もう、終電が出ちゃったでしょう。私の家に泊まって」

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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