こんな場所に彼女はいた
第5作目の投稿です。
1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。
是非是非、お楽しみください。
それから、日が暮れて夜になるまで麻雀ゲームをしたけれど、あまり盛り上がらなかった。
太田の戦い方が、以前に比べて非常におとなしくなっていて、自信がなくおずおずと消極的だった。
AIがランダムに戦いの環境を設定するが、やる気のないプレーヤーをすぐに識別した。
そして、そのプレーヤーが徹底的に1人負けするように習練するようになっていた。
2回目の戦いが終わったとき、誰が言い出したわけでもなく、終わるような雰囲気になっていた。
ゴーグルをとった時、太田がみんなを誘った。
「じゃ、良い店があるから、飲みに行こう。」
「もう、目星をつけているの。」
井上さんが聞くと太田がうなずいた。
4人の中で、太田だけが留年して大学を卒業できないことは事実だった。
暗い雰囲気になることが予想され、太田以外のみんなにとって、飲みにいくのは気が進まなかった。
しかし、神崎信、井上、太田は思いやりがある友人達、仲間だった。
それで、ここで帰ってしまうような、いかにも相手の気持ちを無視した冷たい態度はとりたくかった。
太田がみんなを連れていった飲み屋は、なんでここがと思うぐらい、全く普通の店だった。
頭に手ぬぐいを巻いた大将が一人でやっていて、メニューも平凡なものしかなかった。
考えてみると、さっきの麻雀荘といい、この店といい、太田はどうして目星をつけたのだろうみんなが思った。
お酒を飲み始めると、太田のピッチが異常に早かった。
「やっぱり、神崎は○○高校出身だな。成績は全部A以上、税理士資格も取ってしまうのだろう。それにもう一流企業の内定を受けているのか、それとも開業するのか」
酔いが回ってきた太田が、いつものとおり神崎信にからんだ。
(ここでほんとのことをいうと、太田に喧嘩をうっているみたい。でも仕方が無い)
「実は流通最大手から内定をもらっているよ。税理士資格を取ったとしても開業するまでには時間がかかるかるし、それまでが難しい」
井上さんが言った。
「流通最大手って、あの、これから革命を起こそうとしている○○○のことかい? 」
神崎は太田のことを意識しながら、そっと、うなずいた。
「最高責任者はC大の先輩で、優秀な後輩を物色しているという話だよ。普通の企業のような通り一遍な面接ではなく、地頭を試されるような難しいことを聞かれるそうだとけど。すごいな!! 」
「最初に面接官から、これからは、千差万別な地域経済の需要と供給を経済学的に計量して、勝ち目があったらどんな所にも進出するという説明を受けて、更に確実に勝つための方法を聞かれました」
「その質問にどう答えたのかい」
井上さんが更に聞いた。
「地域の消費者の嗜好を的確に把握することを基本にして、他品種適正量販売を行うべき。ただし、売上げ情報を正確に管理するクラウドシステムが必要ではないかと答えました」
「神崎には輝かしい将来が待っているな。ところで、林さんとはどうなっている。結婚するんだろ?? 」
太田が酔いに任せて、突っ込んだ質問をしてきた。
「神崎、許してあげてくれ―― 太田、そんなことを聞いちゃあだめだよ。」
井上さんが話を止めようとした。
「じゃあ、もう帰ろうか。」
中村が気を利かせてお開きにしてくれたので、彼は安心した。
その店の勘定は井上さんが全部出してくれた。
店を出て新宿駅の方面に歩き出した。太田の酔いがすごく、のろのろとしか歩けなかった。
みんなの1番後ろを歩いていて、だんだん距離が離れていき100メートルくらい遅れた。
中村が気になって後ろを確認した。
その途端、びっくりした声を出した。
「あっ、入っちゃった!! 」
太田が、ある建物のドアを開けて入ってしまったのが見えたということだった。
酔っ払いが不法侵入して、なにか問題を起こしては大変だと考えた。
みんながその建物まで走って戻った。
そのドアの前に立った時、「チャイニーズパブ」と書かれていた。
鈴木税理士の関与先にも似たような店があったと思って、彼は井上さんに聞いた。
「どうしましょうか。こういう店って一旦入ると座っただけで、料金が掛かると聞いたことがあります。定額料金、明瞭会計をうたっていることが多いですけど―― 」
しばらくみんなで考えたが、最後に井上さんが決意した。
「しょうがない、太田を置いてはいけない。ここで2次会をしよう。お金が足りなかったら僕が出すよ。今日は結構いっぱい持っているからね」
中村が言った。
「神崎はここで2次会をやったことを、林さんには絶対話すなよ。」
「いかがわしいことをする店ではありませんから、話しても大丈夫ですよ。」
彼はそう言いつつ、ドアに貼ってあるポールダンサーの写真が気になった。
(似てるな。 でも気のせいだ)
店のドアを開けて中に入った。
「いらっしゃいませ。」
入り口から奥まで通路が続いていたが、3人の女の子がおじぎをして挨拶した。
深いスリットが入ったチャイニーズドレスを着ていた。
妖艶な美しいメイクをしていた。
「どうぞ、3人様ですね。こちらです」
案内されて通路の突き当たりを曲がって歩いていくと、大きな部屋で大勢のお客がお酒を飲んでいた。
店の女の子も含めれば100人ぐらいがあちこちで大きな声で話しており、とても楽しそうな会話がはずんでいた。
3人は席に案内されたが、長いソファー席になっていて、お客と女の子が対面して座るような配置だった。
彼らの席は壁を背にした端だった。
大きな部屋の真ん中にはポールが立っていた。
注文をとりに男の人がやってきた。
「お客さん、3人連れですね。当店は良心的ですので御安心ください。」
民間勤めの経験があり、このような店に入ったことのある経験も適度にある年長の井上さんが受け答えしてくれた。
回りの声がうるさくて、大きな声でしゃべらなければ会話にならないぐらいだった。
「少し前に入った若い男、知りませんか。一緒になりたいのですが。」
「申し訳ありません。店内は大変混雑していて、なかなか難しいです。」
「ところで、お飲み物はどうなされますか。」
井上さんも飲みながら、太田を探せばいいと思ったらしい。
「ウィスキー、オールド、ボトルで」
「つまみは乾き物、お任せでいいですか」
「お願いします」
「少々お待ちください」
男の人は去って行き、代わりに、中年の女の人が僕の前に座った。
「お話する相手の女の子は私が選ばせていただきますね。年配の方には落ち着いた、おとなしそうな方には真面目な女の子がいいですね。」
最後に神崎信は、その中年の女の人にまじまじと見られた。
「それから、あなたは、なんて大きな美しい目をなさっているのでしょう。ぴったりな女の子がいます。この店のナンバー1ですが、今からポールダンスをして終わってから、この席につかせましょう―― 」
しばらくすると、2人のやはりスリットの深いチャイニーズドレスを着た女の子がやってきた。
お読みいただき心から感謝致します。
今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。




