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彼の友達は深みに足を踏み入れた

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 広々とした一室に、その老人は腰かけていた。


 机や椅子、その前に置いてある応接セットといい最高級品だった。


 その部屋の全面ガラス張りの窓からは、高層ビル郡が見えていた。


 電話が鳴った。


 老人は間髪を入れず受話器をとった。


「なんだ? 」


 腹心の部下からの報告が電話口から流れた。


「明美お嬢様に虫がつきました。ただ、その若者が虫といえるかどうか。内々、政府のメインコンピュータから麻雀の記録を手に入れたのですが、かなりの強さです」


「おう、楽しみだなあ」


「戦う相手は、ほとんど固定されていますが、AIが力を測ったところ唯一無二の力を持っているという結果がでました。レベル1です」


「レベル1だと!! 我々4ドラゴンに匹敵するじゃないか!! 」


「もう少し詳しく申し上げます。研究員がAIにさらに詳しく解析するよう指示すると、回答がありました。すると、レベル1より強い確率が99.99%だということです」


「う――ん。そんなチートな若者と親しくなるなんて、国際結婚して、ごく短期で終わった形式的な結婚生活で生まれ、ほとんど役に立たない我が娘だが、ようやく役に立ってくれるようだな」


 老人は怜悧な細い切れ長の目を光られながら、そう言った。


「どうしましょうか」


「そうだな。常に監視しておけ。そして大学を出る時には、必ず我々の企業グループに就職させるのだ」


「了解致しました」


 その老人の名前は林龍(はやしりゅう)といった。


 彼は関東一帯で、強引な手法で土地の開発と鉄道の敷設を進めている私鉄の総帥だった。




 神崎信(かんざきしん)は4年生になった。


 当然、ほとんどの学生が、卒業に向けて就活など忙しい日々を送らなければならなかった。


 ところが中には、将来のことを全く考えられない学生もいた。


 神崎の同級生の太田だ。


 太田は、入学した学科の専攻が合っていなかったのか、大学の授業に全くついていけなかった。


 それで、多くの単位を落としていた。


 卒業までに必要な単位を取りきるためには、ほとんど絶望的な数だった。


 ところが、太田と神崎(かんざきしん)は全く反対だった。


 ほとんどSやA評価で単位を取り、しかも3年生までに税理士試験の2科目に合格していた。


 このままでは、卒業までに必ず税理士の資格をとることが確実な神崎に、太田は嫉妬していた。


 最初は、有名進学髙を出ただけではなく、ほんとうに能力があり運も味方にして、ここぞという時に必ず力を発揮できる彼を尊敬していた。


 しかし、うらやましいほど相性がいい林と大学ではいつも一緒にいて、幸せそうに笑い合っている姿を見ているうちに、嫉妬の心が強くなることを押さえることは難しかった。


 自暴自棄になって太田の毎日は荒れていた。


 彼はいらいらする気持ちを抑えるために、大きな刺激を求め始めた。


 手っ取り早く導き出した行き先は、悪名高いフリー麻雀荘だった。


 C大学がある八王子から電車が直結している新宿をぶらぶら歩いた。


 そして赤の他人の対戦できる、フリー麻雀荘に入り浸る毎日だった。


 このごろ頻繁に入る店では、いつも、どこの誰か知らない3人と対戦していた。


 何の職業で生きているかわからないくたびれた中高年ばかりだった。


 それで、若くて頭の回転が早く、麻雀の本を多く読み込んでいる太田は連勝していた。


 しかし、そのうちに物足りなくなってきた。


 ある日、麻雀ゲームが終了した後、聞いた。


「おじさん達、申し訳ないけど弱いから、もうこの店はいいや。もっと強い人達が来る店を知らないかな」


 中高年の一人が言った。


「お兄さん、辞めときな。まだ社会に出ていない大学生だろう。麻雀に限らないのだけど、上には上の本物が必ずいるものだよ。現実の修羅場を数多くかいくぐってきた本物には、お兄ちゃんは絶対勝てないよ」


 この言葉は太田の自尊心にカチンときた。


(こいつら、社会の敗残者のくせに何を言うのだ)


「僕みたいな生まれつきの天才もいるのですよ。しかも、僕は努力も怠らず勉強もしっかりしていますから。天才が努力すれば、誰にも負けるはずはないじゃないですか」


「そうかい、それならばこの新宿では誰もが知っていることだけど、選りすぐりの強者が集まる店がある。そこに実力を試しに行きな」


 そういって、メモ用紙に地図を書いて太田に渡した。


 地図に書かれた場所は、そこからあまり遠くない所だった。


 太田はしばらく歩いて、選りすぐりの強者が集まるというフリー麻雀荘の前に着いた。


 意外なことに、外見はお洒落な喫茶店というような感じで、事実、店のビニールの緑色の日よけ庇には、コーヒー、軽食の下にフリー麻雀と書かれていた。


 普通の人は躊躇(ちゅうちょ)するが、太田はすぐにドアを開けて中に入った。


「いらっしゃい」


 奥にカウンターがあって、そこに立っていた髭がもじゃもじゃの、いかにもマスターが声をかけた


 中を見渡すと、麻雀の卓は全くなくて、喫茶用の席があるだけだった。


 しかたなく、その中の一つの席に座った。


「何になさいます。」


 コーヒーを飲みに来たわけではないから、マスターに聞いた。


「あの、表にはフリー麻雀荘って書いてありましたが」


「お客さん、新規ですね」


 マスターから聞かれて太田は答えた。


「そうです。ここには強い方が来ると聞いて、実力を試しに来ました」


 マスターがさらに聞いた。


「お客様の腕はどの程度でしょうか。ここは、ほんとうに強いお客様が勝負される所です。大変申し訳ありませんが、すぐにメンバーに入っていただくわけには参りません。半荘(東場と南場の2回)で試させて


いただいて、ふさわしい実力を確認できた方だけ、扉の奥の麻雀ルームに入っていただきます。負けたら技芸の指導料として5万円いただきますが、いいですか? 」


 太田の財布にはほぼ同額が入っていた。負けることなど思いもよらなかった。


 さらに、政府のスーパーコンピュータに接続しているゲームでお金をとるのが疑問だった。


 しかし、太田は答えた。


「問題ありません」


 それを聞くと、マスターはどこかに電話をかけた。


 しばらくして、3人の若い男達が店に入ってきたが、太田よりは年上のようだった。


 太田を見ると、


「よろしくお願いします。」


 3人とも極めて低姿勢な挨拶をした。


 それから、店の奥からシートが(かぶ)せてあったVR機が出された。


 ゴーグルをつけて、戦いの用意が整った。

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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