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花桃の中に妖精がいた

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 電車はここちよい音をたてていた。


 それはなにげなく、疲れていた神崎信(かんざき)の耳に入ってきた。


 毎日何時間も真剣に取り組んでいる税理士資格試験の勉強疲れがあった。


 それに、前の夜にあまり眠れなかったこともあり、不覚にも眠くなってしまった。


 しかし、気がつかないうちに肩がほんの少し重くなっていた。


 ちらっと横を向くと、林の頭がもたれかかっていた。


「すいません。きのうのアルバイトで疲れてしまって。」


 それを聞いて、彼の意識もいつの間にか亡くなっていた。




 神崎信かんざきしんはまた、違った異世界にいた。


 今度は良い香りにつつまれ、その場面で眼がさめた。


(これは桃の花のにおい? )


 隣には、よく知っている娘が、自分の肩に頭をもたれかけ寝ていた。


(ミンメイ皇女様! )


 自分のこれまでは、全くうだつが上がらない人生だった。


 実家は裕福で里の有力者だった、


 少年の頃までは、読み書きはもちろん難しい古典についても、瞬く間に誰よりも完全に理解できた。


 必ず出世して大将軍になり、世の中に名前を轟かせることができるだろうと確信していた。


 ところが、父親が戦死してから収入が途絶えて、食べるものさえない毎日になった。


 仕方がなく、悪党仲間に加わり、盗み、喝上げなどで毎日を過ごしていた。


 見かねた親戚の里長の説得により、その家に居候していた。


 しかし、地味な毎日に耐えることができなかった。


 そして、人の上に立ち、名声・名誉を手に入れるようと思った。

 名声・名誉は、この世で最高の宝物だと思っていた。


 それで、このざまかと自暴自棄になり、里長の家を抜け出して放浪していた。




 なんとか国軍の兵士となることができた。


 彼は戦士として最強で、指揮官としても極めて有能だった。


 そして、信じられないスピードで昇進した。

 今は、まだ若いのに将軍になっていた。


 王宮で開かれる宴席に加わることも多くなった。


 しかし、彼はそのような場が大嫌いだった。


 今日も、こっそり早めに宴席を抜け出したのだが、王宮の中で迷ってしまった。


 かなり歩いてしまったが、そのうち、大きな中庭のような場所にたどりついた。


 とても良いにおいがした‥‥‥‥


 白いピンクの花を咲かせた木々が植えられていた。


 カンシンは人影に気がついた。女性のようだった。


 近づいて、王宮の出口を聞こうとした。すると――――


(えっ! 妖精! )


 遠くから見ても、娘は人間離れした美しさだった。


 人間とは異なったオーラをまとっているようだった。


 近づくと、その娘もカンシンを見た。


 目が合った。大きな、ぞっとするほど美しい目。


「カンシン様ですね。どうなされました? 」


「申し訳ありません。迷ってしまいました。王宮の外に出たいのですが」


「すぐそばに、裏口がございます。お送りします」


 その娘に案内されると、使用人の通行口のような出口があった。


「ありがとうございました。失礼ですが、お名前をお聞きしてよろしいでしょうか」


「ミンメイと申します」


「ミンメイ様‥‥‥‥ あっ!!!! 第五皇女様ですか!!!! 使用人のように道案内をさせてしましました」


 カンシンは大変驚き、その場に平伏した。


「ほんとうに申し訳ありませんでした。皇女様に対し御無礼を致しました」


「ふふふふ 良いのですよ。一つのことだけ約束していただければ―― 」


「どのような? 」


「私はこの場にいることが多いのです。これからも、ちょくちょくこの場に来て、私の話し相手になってください」


「はい。必ず」


 それからカンシンは王宮の使用人の通行口から外に出た。


 ミンメイはその姿をじっと見ていた。


(あれがカンシン将軍。戦いに強いだけではなく、思いやりがある慈悲深い方。勝負が決まった後、たとえ打ち破った敵兵でも追撃せず、敗走を認めた)




 (花桃のにおい、いや、ピーチ系香水か‥‥ )


「神崎くん、神崎くん。」


 目が覚めたら、林の手が顔に触れていた。


「小田原駅ですけど。」


「すいません。1時間ぐらい寝ていましたか。」


「たぶん、私も少し前に目を覚ましたので、ほとんど同じですね。」


 林が大きな美しい目で微笑んでくれた。


「それでは、小田原城に行きましょう。」


 駅を出て、城山の方へ2人で歩き始めた。


 とてもいい季節だった。


 途中に藤棚があって、藤が見事に咲いて垂れ下がっていた。


「ほんとうに綺麗ですね。」


 林が藤の美しさに魅せられたようにそこで立ち止まった。


 確か、何代か前の皇太子殿下も感嘆された逸話があると聞いたことがあった。


 ところが、


 気がつくと無意識に彼は藤よりも林の横顔を見ていた。


(こっちの方が綺麗―― )


 遠慮なく見つめられていたことに林も感づき、彼の方を見た。


 彼は瞬間的にごまかそうとした。


「小田原城は、日本の城ではめずらしく総構えの城です。城下町も全て堀や土塁で囲んで城と一体にすることで、防御力が格段に上がります。そうそう、中国の昔の城郭都市と同じ考え方です」


 林がにっこり微笑んでこちらを見ていた。

 彼は自分がしたことを隠そうと、一生懸命、さらに続けた。


「小田原城は、関東に覇をとなえた北条氏の祖である北条早雲が最初に拠点にしたのですが、実は、北条と名乗ったのは早雲の子供の代からで、早雲は伊勢を名乗っていたのですよ。


なんで早雲の子供が北条と改姓したかというと、鎌倉幕府の執権職だった関東では大変権威のある北条を名乗りました。………」


 林がまだ微笑んでいた。


「減るものではありませんから、ずっと見ていてください♡♡ 」

 

 そういって、また藤の方を見て、彼に横顔を見せてくれた。




 しばらくして、天守閣の方に歩き始めた。


 3重4階の見事な白い天守閣が近づいてきた。


 最上階の方を見ると多くの人々が眺めを楽しんでいた。


 春の景色は素晴らしいだろうなと思いながら、2人で中に入って階段を昇った。


 途中に大変貴重な展示物が多くあったと思うけど、見ないでひたすら上を目指した。


 展望回廊に出てみると、春のすがすがしい空気、微風が心地よかった。


 南側では小田原の街並みの向こうに相模湾が見えた。


 春の海はとても優しく感じられて、心を落ち着かせてくれた。


「そんな風に景色を見つめるようになったのですね。1年生の時、毎日、ベンチに座ってコーヒーを飲みながら、人の流れを見つめている神崎さんの険しい表情が、とても気になって心配しました」


「すいませんでした。やはり、第一希望の大学に落ちたことをまだ引きずっていたと思います。僕のプライドは、異常なほど高いのです。おもしろくない気持ちが表面に出ていたのですね。」


「とても気になったのは、別の理由ですよ。当然、C大に入ってから、神崎さんを初めて見たはずですが、実は昔から、何回も見たことがあるような気がして‥‥ 」


「神崎さんに元気になってもらわなければ、話しかけなければ、絶対後悔すると思いました。」


(ああ、優しい人なんだ)


「あの時、話しかけていただいて有り難うございました」

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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