彼はデートの場所を適当に選んだ
第5作目の投稿です。
1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。
是非是非、お楽しみください。
神崎信と林明美は、大学の中で常に一緒にいた。
それを見ていた仲間達がうらやましがった。
「付き合っているのか。」と何回も聞かれた。
けれど、事実として「普通の友達だよ。」としか答えることができなかった。
そこで、ジリジリした仲間達は、白黒つけてやろうと考えた。
ある日、彼は太田から映画の前売り券を2枚渡された。
「行けなくなっちゃったからあげる。だけど、絶対に1人で行くなよ。2枚とも使うんだぞ」
(林さんと2人で行けという意味か)
意を決し、珍しく彼のほうから林を大学の中の○△ールに誘った。
ところが、話題は全く別の方にそれてしまった。
C大だけではなく、東京中の大学で話題になっていることがあった。
いわゆるフリー麻雀ゲームだ。
うわさによると、この異世界を支配している4ヘッドの意向だそうだ。
特に若者のうちから、戦争遂行能力が高い人間を選抜する。
そして、極めて高額なお金を交付する。
将来、大忠実に4ヘッドのために働く家来を育成しようとしているのだ。
普通の麻雀荘は4人を揃えて、麻雀荘の卓を借りてVRゲームを行う。
けれど、フリー麻雀荘は1人でも、4人を完成させてゲームする仕組みだ。
他の3人は、AIが最強の存在を作り出す。
その若者が極めて強いと認識した場合は、現実の人間である4ヘッド自らが参加する。
ずっと卓を囲んで性格や実力を良く知っているような仲間ではないことが大変な問題だった。
負けた若者は高額な指導料を払うのだという噂もあった。
大学生がかなりのお金を巻き上げられたこともあった。
社会問題とすべきだが、マスコミは沈黙していた。
「必要悪」とするよう、強い力が働いていたからだ。
「神崎さんは、あんな怖い所で麻雀ゲームをするのはやめてください。たぶん、勝つと思いますけど、あなたはあんな所で無駄に能力を使わないでください。」
「このごろ、新宿にもフリー麻雀荘がいっぱいできました。新宿駅から鈴木税理士事務所までいくまでに等間隔に「一人でも遊べます。」という看板をいっぱい見ます。でも、絶対入りません。」
「安心しました。‥‥ところで、今度の日曜日、やっと時間が開きました。神崎さんにどこかに連れて行っていただきたいのですけど。」
(えっ、えっ―― )
(林さんは大学から帰る時間になると、そそくさと一緒に帰ることを避けるように帰ってしまう。アルバイトがそんなに忙しいのかと思っていた。でも時間を開けてくれたのか。)
彼は、ものすごく恐縮してしまった。
しかし、それと同時に、決定的な問題に気づいた。
(これまで1回も女の子とデートしたことがないから、どこに行っていいのかわからない。)
ようやく、出てきた言葉だった。
「小田原なんてどうでしょうか。」
そう言った後、彼は非常に後悔した。
単純に、自分の実家のある○○県に帰る時のルート上だった。
小田急線から東海道新幹線に乗り換えるとき、小田原城に行きたいなといつも思っていただけだった。
「小田原には、行ったことがありません。あまり東京近辺から離れたことがないのです。ありがとうございます。何時にどこで待ち合わせますか。」
彼は、林がどこに住んでいるのか知らなかった。
「9時に小田急線新百合ヶ丘駅の改札でどうでしょうか。」
「わかりました。楽しみにしています。」
全てが決まったこのタイミングで、彼はようやく映画の前売り券のことを思い出した。
次の機会にしようと思い、ポケットから取り出して、上映期間を確認しようとした。
向かい合った席で、林は彼のその動作と前売り券をじっと見ていた。
そしていきなり、その2枚の券をひったくった。
そして、その場で立ち上がって、2枚の券をビリビリと破り始めた。
破った後、林が彼に言った。
「行きましょう!! 」
彼の手を強く引っ張って立たせた後、出口に向かって歩き始めた。
「林さん、どうして!! 」
「だまって。店の中で神崎さんのお友達がみんな見ていましたよ。気が付きませんでしたか。」
店から出て遠ざかった後、林が彼に笑いながら言った。
「あの券、お友達の誰かからもらったのでしょう。でも、おかしくないですか」
「どうしてですか」
「エンドラブという映画でしたよ―― 」
日曜日になった。
彼は絶対遅れてはいけないと思い、早く起きて電車に乗った。
それで、新百合ヶ丘駅に8時前には着いてしまった。
その異世界は、現実世界とよく似ていた。
その頃、小田急新百合ヶ丘駅の周辺はまだ開発途中で、更地が多くほとんど何にもない状態だった。
日曜日だから、重機も何も動いていないむき出しの土だけの風景の中で、1時間くらい林さんを待った。
「遅くなりました。」
9時少し前の多摩線の電車から林が降りてきた。
改札前に彼がいることを見て、約束の時間なのに謝ってきた。
「僕も、林さんのすぐ前の多摩線だから、あんまり待っていませんよ。」
そういって、彼が林をもう一度しっかり見た時、これ以上ないほど大変似合っていた。
見とれてしまった。
高価なブランドの服ではないけど、色合いやコーディネートが見事だった。
たぶん、まじまじと見ていたのだろう。
「この服、変ですか、安物ですから。」
「そんなこと全然ないですよ。ものすごく似合っていますよ。」
「これ、古着です。私、きらきら目立つ服はきらいです。年月を経た古着を合わせると、何か重みのある調和のとれた美しさが出てくるのですよ。」
確かに言うとおりだ。
でも見とれてしまった原因がわかった。
(彼女が外見だけではなく、心根が美しいことがほんとうの原因だ。美しい!!!! )
彼は思った。時刻表を見ると、小田原行きは十分後だった。
2人がホームに出て待つと、電車はすぐに来た。
日曜日だけど、新宿からの下り電車はとてもすいていた。横並びに座った。
「神崎さんは小田急線によく乗るのですか。」
(とうとう聞かれてしまった)
仕方がいないので正直に、実家に帰る時に利用することを話した。
「でも、車窓から見える景色が好きです。最初は、人が多く住んでいる都会の街並みですが、だんだん変わって、緑が多くなり山や川が見えるようになります。いつも、心が落ち着きます」
「だんだん変わる自然がいいですね。私の故郷では、ある地点で都会の街並みは急に終わります。その後急に、山も川も極めて雄大になります。人間と自然は完全に分離し、反発しているかのようです」
「林さんの故郷はどちらですか? 」
「ずっとずっと西の方です」
(そうか、四国か九州か)
「小田原まで1時間ちょっとかかります。少し長くてすいません。」
「いいですよ。問題ありません。今日は天気が良くてよかった。神崎さんが好きな車窓の景色の変化を、思う存分見ることができますね」
(車窓の景色を見るまでもなく、時間が過ぎていくのだろうな)
お読みいただき心から感謝致します。
今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。




