彼はほんとうに大切なものに気がついた
第5作目の投稿です。
1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。
是非是非、お楽しみください。
神崎信は2年生になった。
大学生活がすごく充実し、楽しくなっていた。
名声・名誉を得ることより、小さなことでも現実の社会の中で役立つ人間になろうと考え始めた。
高すぎるプライドはいつの間にか消え、林と知り合ったこともあ毎日り、とても楽しかった。
同じようなことは、無限の時間と無限の距離をさかのぼった過去にもあった。
「背水の陣」により、1カンシン将軍は10倍の敵に対して大勝利をおさめた。
馬に乗る彼を先頭に、彼が率いる漢帝国軍は、王都に凱旋した。
追手門をくぐると、たくさんの住民が大歓声で出迎えた。
それは、英雄として賞賛を得て歴史に残ることを目指した彼には、とても心地よかった。
(あ――っ、これこれ。この大歓声こそが私が望んできたもの!! )
その後、王宮で劉皇帝と謁見した。
「朕のため、将軍カンシンは10倍の軍勢を有する斉の国と戦い、見事に勝利してくれた。古今東西、このような偉業が可能なのは、将軍カンシン以外にはおるまい」
皇帝が重々しい、もったいぶった言葉で彼を褒めたたえ賞賛した。
「そこで、我が最高の臣下を極めて正当に評価するため、カンシンに位を授ける。将軍の最高位、数々いる将軍を指揮し命令する大将軍に任命する。つまり、朕の代りの仕事だ」
しかし、皇帝の言葉は彼の耳には全く入らず、心に残らなかった。
彼には大変気になることがあった。
広大な謁見の間、前に並んでいる王族のはるか端だった。
そこは、第5皇女で母親の身分が低い彼女の指定席だった。
ミンメイ皇女がそこにいた。
彼女以外は満面の笑顔だったが、彼女だけは違った。
大きな美しい目から涙を流していた。
(ほんとうによかった。ミンメイ様との約束を守れたことが一番うれしい!! )
神崎信の回りの状況は、かなり、変わっていた。
久美さんの占いが信じられないほど的中することが知れ渡った。
この国のウェブに流されるニュースにも、たびたび出てくるようになった。
彼女は「新宿のマザー」という呼び名で取り上げられるようになっていた。
「バー・ともしび」の前に、信じられないくらい長い行列がたびたびできた。
それは、テレビの画面に映し出されたこともたびたびだった。
挙げ句の果てには、テレビやウェブ上の番組に出演することもあった。
真剣な顔で言われた久美さんの予言は、怖いほど彼の心の中で意識された。
今この瞬間に恐ろしい試練が自分に降りかかってくるのではないかと、フラッシュバックになった。
しかしその都度、林明美に試練に必ず勝つことを約束したことを想い出した。
それで、いつの間にか恐怖は消えていた。
頻繁に一緒に彼女と行動するようになっていた。
キャンパス内にいる時だけに限られてはいたが――
鈴木税理士事務所でのアルバイトを続けながら、大学の講義も真剣に聞きた。
税理士資格試験を目指して勉強も一生懸命やった。
必然的にパチンコや麻雀に費やすのは、息抜きのための必要最小限の時間だけになった。
史上最高の釘師には、このごろ大きな心配事があった。
毎日、彼がパチンコ台を調製している100店がここ半年間、足並みを揃えて黒字を積み上げていた。
さらに、パチンコ店全体で黒字が積み上がっているにもかかわらず来店者数が増加していた。
パチンコブームの到来をマスコミが報道し始めた。
このような状況にもかかわらず、彼の大きな心配事があった。
少し前の時期、例の1店舗だけ赤字にさせた原因のあの若者だ。
今でも、彼が見せた本物の目を忘れることができない。
(あの店が黒字になったということは、彼が負けているということか、それとも、もう止めたのか)
史上最高の釘師は、再び見に行こうと考えた。
ある日、神崎信が息抜きでパチンコをしていた時、
「にいちゃん、このごろ変わったね。」
非常に怖い顔だけど優しいおじさんが話しかけてきた。にこにこしている。
「どこか変わりましたか?? 」
「真剣に勝とうと考えてパチンコをやらなくなったね。息抜きかな。このごろあまり勝っていないと思うけど、短時間でそそくさと帰るね。にいちゃんが変わったから、この店も黒字になったよ。ありがとう!!
何か他に夢中になれることができたのかな。彼女かな?? 」
一瞬、林の顔がちらりと彼の心の中に浮かんだ。
大学の中だけに限り一緒に行動しているだけでデートすらしたことがないから、彼女ではないと思った。
「厳しい世の中に出ていくために、毎日やっている実学の勉強がおもしろくなりました。机上で理論を覚えているだけではなく、アルバイトで実地訓練もしています」
「実学の勉強ってなんだい」
「会計学ですよ。ねらっている資格もあります。大企業の外部監査をする公認会計士ではなく、中小企業や個人事業主をお客さんにする税理士ですけどね」
「そう、にいちゃんのように能力のある人間が税理士になったら、みんなに頼りにされるだろうな。ところで、にいちゃんと似た若者が新宿を歩いているのを見かけたのだけど、他人のそら似かな? 」
「いや、たぶんそれは僕です。新宿の税理士事務所でアルバイトをしています」
おじさんが反射的に聞いた。
「鈴木税理士のところかい」
「そうですけど。よく知っていますね」
「知っているも何も、パチンコ店が加盟する遊技場組合の顧問税理士さ。知識、経験、それから人間的に立派な人だ。いい先生のところで勉強しているな」
(これまで全く感じなかった。あの先輩、そんなにすごい人なのか。)
「毎年毎年、東京に多くの若者が出てくるけど、やはりいつも同じだな。思いどおりにいかない、どんなに悪い環境に放り込まれても、持っている若者は必ず抜け出して何かを絶対つかみ取る」
「じゃあにいちゃん、息抜きを十分にしてくれ。それから税理士になったら、うちの顧問になってくれるかい。鈴木税理士から乗り換えるからさ。」
「地元の県に帰るつもりだから無理だと思いますが、東京に残ることになって、独り立ち開業できたら、契約しますよ」
「はははは。おおいに期待するよ。じゃあ。」
おじさんは去って、店のバックグランドに戻ったようだった。
すぐに、玉が亡くなって負けた。
「今日の夜はカップラーメンにしよう。明日の昼は、大学のレストランで、せめて一番安い定食を食べないと、林さんにしかられるから、お金は大切にしなくちゃ」
お読みいただき心から感謝致します。
今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。




