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はるか昔、彼は絶対に勝つと言った

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 税務調査が終わったあと、神崎信(かんざきしん)は鈴木税理士に聞いた。


「久美さんの描いた絵はとても素敵だと思いますが、大企業が無名の新人の作品を購入するのに、数百万円の経費を正式に支出するのは大変難しいと思うのですが」


「無形の価値があるのだよ。もう一度、じっくりと久美さんの絵を見てきてごらん。」


 久美さんと2人の従業員がこちらを見て、にっこりと笑っていた。




 もう一度、奥のドアを開けて展示されている絵を見に行った。

 

 やはり、さきほど見た時と同様に美しい風景画が数点飾られていた。

 その中の一つの絵に強く引きつけられた。


(たぶん、この景色は見たことがある。過去に必ず見た。いや、そこにいたことがある!! )


 川が流れていた。

 その川辺にはたくさんの花々が咲き、夢のような世界でとても美しかった。




 突然、彼の意識が飛んだ。

 無限の時間と無限の距離をさかのぼった。




(えっ、水の音?? )




 水の流れる音がした。

 それはここちよく、彼の心に響いた。


「カンシン様。勝てるのですか? 」


 心配そうな声がした。


 気が付くと、誰かに膝枕をしてもらっていた。


 上を向くと、大きくて美しく優しい目が彼を見ていた。


「ミンメイ様。我が国に戦いをしかけたのは、大国の(せい)です。軍勢は我が国の10倍―― しかし御安心を、なにしろ、このカンシンが戦いの指揮をとりますから」


「私にはほんとうのことを言ってください。10の内、勝てるのはいくつですか? 」


 カンシンは10倍の相手に勝つ方法を既に考えていた。


 しかし、その方法でも、運が十分に味方した場合のみ勝てると思っていた。


 確率は、10の内、10にはるかに及ばなかった。


(しかし、このような戦いで負けて死んでもいい)


「‥‥‥‥ 」


「負ける可能性もかなりあるのですね」


「はい。皇女様、10倍の敵に勝つのは、この大将軍でも大変なんですよ」


「死なないでください」


「‥‥‥‥ 」


「死なないでくれますか」


「‥‥‥‥ 」


「カンシン様、私に誓って!! 私のために死なないでください!! 」


「‥‥‥‥‥‥‥‥ ミンメイ皇女様。私は絶対に勝ちます」




 気がつくと、彼は大剣を背負って馬に乗り、軍勢を率いてひたすら山間の谷、狭い道を進んでいた。


 早くこの狭い道を抜けなければいけないと直感した。


(城から出撃され、ここで挟撃されたら、負けだ)


 この狭い道の出口の先にある城で待ち構えている相手の軍勢はこちらの10倍だった。


 自らの軍勢を死地に置き、逆に勝ちが見えた相手の軍勢の心を踊らせ油断させる。


 ずっと前から、心の中で何回も何回も構想を練った必勝の戦法があった。


 うまく出口を抜けことができた。


(幸運が味方した)


 城から注視している相手によく見せつけるように、ゆっくりと迂回して山に登った。


 その後、唐突に山を下り、その麓に流れているかなり広い幅の川を渡り、川の前面に陣を築いた。


 ドラを鳴らして、今から戦うことを相手に示した。


「兵法のことを全く知らない。ばかな将軍だ。」


「川を背にするとはな。はははははははは」


 城から相手の大軍が出てきて、対面に陣が、極めてゆっくりと出来つつあった。


 相手の多くの兵が声を出して笑い、こちらをおおいに侮り見くびっていた。


(このままいけば勝てる! 間違えはない! )


「よし、いくぞ。いまだ。」


 軍勢の半分をその地に残し、残りの半分で突撃をかけた。自らは先頭で馬を走らせた。


 敵と交差する瞬間、


「我がカンシンである。」


 雷のような声を発して、相手の勢いがたじろいだ。


 数人と剣を交えて討ち取った後、


 ちょうど良いタイミングで馬を反転させ、川の前の自陣めがけて駈けた。

 退却して逃亡したように見せたのであった。


「逃げたぞ、生け捕りにしろ。勝ったぞ。」


 天下の大将軍として、自分の名声が鳴り響いていることは良く知っていた。


 後ろを確認すると、恩賞目当てに、信じられないぐらいの大軍の敵が後ろから彼についてきた。


 川の前の自陣に着くと乱戦が始まった。


 昨日から全軍に徹底していた。


「耐え抜いてくれ。死に物狂いで戦えば、順調な勝利しか予想していない相手の不安がだんだん大きくなり、最後は恐れをいだき逃げ出すだろう。」


 全軍が大将軍の言葉を固く信じ、戦った。


 自分達は川を背にして、当然、後ろに逃げることは不可能だった。

 1人1人の兵士は死に物狂いで戦った。


 すると、予想したとおり、楽勝気分で心が躍り、相手を侮っている敵の軍勢に変化が生じた。


 死地にあり絶対逃げることができない味方の軍勢から重圧を感じ始めた瞬間、


 底知れない恐怖が伝染し、逆に自分達の城に向かって逃走を始めた。


 その刹那、カンシンは全軍に追撃を指示した。


 城が見える場所まで相手の軍勢が逃げた時、城には大将軍の多くの旗が掲げられていた。


 戦い開始の時点で彼が数千の遊軍に命じ、空となった城を占領させていたものだった。


 心を完全に折られて、相手の軍勢は大混乱に陥った。

 



 気がつくと画廊の部屋にいた。


 意識が飛んだのは2~3秒だけだった。


 けれど、大がかりなスペクタクル映画の主人公のようだったということは、はっきりと覚えていた。


 大変な疲労感を感じて、若干ふらふらしながら部屋を出た。


 久美さんに聞かれた。


「あーた、今見たでしょ。」


「信じられないくらい意識がはっきりしていたのですが、違った異世界、たぶん過去の大きな戦場で軍勢を指揮していました。」


 鈴木税理士が言った。

「神崎君も水晶で占ってもらったそうだけど、久美さんは強い霊感を持っていて、その人の過去や未来を透視できる。1回占ってくれた後は、インスピレーションで風景画を描いてくれて、占ってもらった人は、


それを見るたびに大切なことを心の中で見ることができる。一寸先もわからない暗闇の中で、右も左もわからない過酷な競争の中にいる大企業の重役にとって、その絵は大きな宝物になる。


これが、いつの間にか、数百万円の値打ちがついた理由さ。」


 久美さんが、僕の顔を非常識なほど真剣な顔でじっと見て行った。

「あーたの顔を初めて見たとき、これまでで占った人の中で一番印象が強い、とても大きなイメージが浮かんだわ。多くの人の上に立ち、賞賛され、名声・名誉を手に入れて、生きている時だけではなく、


死んでからも世界中にその名前は残った。だけど、幸せではなかった。前世で、手に入れることができなかった大切な宝物を今度は必ず手に入れることができるわ。恐ろしい試練に立ち向かう必要があるけど。」

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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