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バーの奥には画廊があった

第5作目の投稿です。

1千年をかけて結ばれる2人の恋愛物語です。

是非是非、お楽しみください。

 その翌日は早く起きてしまった。


 大学生のアルバイトだから、基本的にはお客様気分になってしまうのが自然だった。


 しかし、、先輩の鈴木税理士が税務調査官にどのように対応するのか、とても興味があった。

 

 さらに、「バー・ともしび」の異常ともいっていい、上昇した売上げの理由をどうしても知りたかった。




 K王線に乗って、新宿駅まであっという間に着いた。


 ちょうどお昼時だったので、駅近くの中華料理店で大好きな味の濃いラーメンとチャーハンを食べた.


 それから、税理士事務所には、調査開始の1時間前に着いた。


「先生、税務調査の最中には、録音用のマイクを置いておけばよいですか? 」


「たぶん不可能だと思います。彼らの立場で、録音は許さないと思います 」


「申し訳ないけど、今日の税務調査とのやりとりは、紙にメモらないで全部君が覚えておいてください。それと、今日、覚えたことは誰にも言わないでください。


職業会計人の守秘義務は、たとえ親にも言えず墓場の中までもって行くことだけど、できますか? 」


「はい、大丈夫です」


「それでは、少し早いけど行こうか」


 税理士事務所のビルを出て、「バー・ともしび」に向かって歩き始めた。


 到着すると、久美さんと2人の従業員が待っていた。従業員も久美さんと同じゲイだとすぐに分かった。


「先生ありがとう。あ、君も来てくれたのね!! 奈央ちゃん、花ちゃん、この子がさっき話していた英雄の生まれ変わりよ。」


 従業員の2人が僕の方をじっと見た。神崎信かんざきしんはだまって会釈をした。


「それでは待ちましょうか。」


 鈴木税理士が言った。




 それから2、3分で税務調査官はやってきた。


「新宿税務署の個人課税部門の者ですが、先に通知しました税務調査に伺いました。」


 まだ20代で自分と年がほとんど変わらない若手と、50は過ぎているベテランの2人だった。


 若手は沢田、ベテランは箕輪と名乗り、季節的にまだまだ暑い時期なのにスーツを着ていた。


 対面席に座って、久美さんと鈴木税理士が対応した。


 彼と2人の従業員は、カウンターに座って聞き耳をたてた。


 沢田調査官が質問を始め、久美さんが回答した。


「バー・ともしび」さんは、飲食業をしていらっしゃるということでいいでしょうか? 」


「いわゆる水商売ですから、乾き物のつまみや簡単なお料理も出しますが、ワインやウィスキーをお客様に提供するのがメインで、私も含めて3人で接客しています。お話をすることが一番の仕事です。


もう、お気づきだと思いますが、私達のようなゲイは、女の子以上に細やかな気づかいができると自負しております。」


「1か月でだいたいどのくらいの来店数があるのでしょうか。」


「1日というか、一晩で平均5人ぐらいですから、1か月にならすと延べ150人から200人ぐらいでしょうか、中には週1

ペースで来ていただく常連さんもいます。」


「人気店ですね、それでは客単価はいくらぐらいでしょうか」


「だいたい1万円ぐらいです。ここだけの商売上の秘密ですよ。私は、人によって席料を調整しますから、もちろん5千円しかいただかない方もいますし、2万円いただく方もいます」


「そうすると飲食に係る売上げは、多い時でだいたい200万円ぐらいというところでしょうか。」


「そうですね、飲食はそのくらいです」


久美さんのその言葉を聞いた時、沢田調査管の顔色がほんの少し変わったように感じた。


「帳簿を見せていただきますか。」


 ベテランの箕輪調査官が一瞬、まだ現物確認に移るには、進行が早すぎるというような表情を見せた。


 しかし、わざとだまっているような感じだった。


 沢田調査管が帳簿をめくり始めた。


「毎日の通常の飲食の売上以外に、ここ半年ぐらいの間に、A、B社、C社などから数100万円単位で振り込みを受けていますね。当然、お金の単位としては、飲食代ではあり得ません。


事業所得ではないとすると雑(不労)所得ですか。まさか、次回の申告内容から除外しようと思っているのですか。非常に問題な事実と、国税庁のAIも90%以上の確立で脱税を指摘しました」


 その質問に、久美さんは落ち着いて答えた。


「さきほど、飲食の売上げについてのみ御質問にお答えしましたが、その他、絵の販売もやっているのです。このごろ、皆様がその良さに気づいていただき、時には数100万円の値をつけていただいています。」


「画廊があるのですか。見せてください。」

 

「こちらです。おいでください。そうそう言い忘れました。全ての絵の作者は私です」


 久美さんが2人の調査官を案内した。

 

 店内は暗かったからよくわからなかったけど、奥にドアがあり彼も後ろからついていった。


 ドアを開けて中に入っていくと、結構広い展示スペースがあり、数点の絵が展示されていた。

 

 山や川など美しい自然を描いた風景画が多かった。


 それらは、見る人の心の中に優しく語りかけ、何か不思議な波動が放たれているような気がした。


 沢崎調査官が反論した。


「この絵を売ることと、飲食とどのような関係性があるのですか。まさか、この検査に合わせて、不労所得の言い訳話のため急遽(きゅうきょ)画廊をお作りになられたのですか」


「今の競争社会の中、毎日の戦いで心が疲れている方々を癒やしてあげるために、この店を開きました。バーと画廊も同じ目的です。」




 ここで、初めて鈴木税理士が話に加わった。

「10年以上前の開店当初から関与している税理士として申し上げます。開店当初から飲食とセットで、この部屋に画廊を作りました。事業を開始した年からかなりの年数、大きな欠損が発生しました。


税制上は、欠損を3年間しか繰り越せませんけど、借金を返済するつい最近までかなり苦しんでいます」


ポイントだと考えて、箕輪調査官が初めて口を開いた。


「一体的な事業だという説明には納得しました。私どもが不振に思っているのは、売られた絵に急に数百万円単位の値がつき始めたということ、もう一つは絵を購入しているのが大企業だけということです。」


 鈴木税理士が回答した。


「絵のような美術品がどのくらいの値段で取引きされるのかは、理論的な説明をする鑑定の専門家もいるけど、実は明確な基準はなく、契約自由の原則で任意に決まるのが原則だと認識しています。


後、この店のママはH大の出身で、年齢的に大企業の重役になっている同級生が多いということです。」


 彼は一瞬、久美さんが、自分の第1志望だった超1流大学のH大の出身だということに驚いた。


 このごろ金余りの大企業が、美術品を企業資産として買い集めているというニュースを想い出した。


「非常に疑問ですが、大企業の重役が個人的な権限で、取締役会などの機関決定を得ないで数100万円の経費を出して、絵を資産として購入できません。あまりに頻繁ですよね」


「この「バー・ともしび」の経営者久美さんの同級生達は、重役と行っても、みなさん代表取締役社長なんです。しかも、世界的に有名な大企業ばかりなのです」


「‥‥わかりました。」


 箕輪調査官が調査を打ち切った。


 ぼそぼそと沢田調査官が不服そうだったが、それをさえぎり、丁寧に挨拶をして2人は帰った。

お読みいただき心から感謝致します。

今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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