強く
そろそろ名前が多くなってきたな……。
「隊長が、スタンピードの生き残りだと……」
「嘘でしょ……」
ナグールとエイリーンが目を見開いた。
「ただ運が良かっただけだ。実はあの時、我々D8隊は屈指の強さを誇っていた」
「じゃ、じゃあ隊長も強かったりするんですか?」
エイリーンの部下がおずおずと聞いてきた。
「自分で言うのもなんだが、スクラープの出力レベルは5だった」
5と言うと、ルリたちと同じ小隊長レベルである。
「だが、俺より強い奴はたくさんいた。レベル8の奴だってな」
「レベル8!?」
ラギルスが声を張った。
「そんな我々は、私を含む5人以外は壊滅した」
「人型ですか?」
ルリは人型モンスターにやられたと推測した。
「……その通りだ」
「やっぱり――」
「だが、俺は確かに見た。人間がモンスターになる瞬間を」
瞬間、部屋が静寂に包まれた。
全員が隊長の言葉を理解できなかったからだ。
「どういうことだ!」
声を上げたのはグラルバだった。
「スクラープか……ッ!」
ルリが眉間に皺を寄せた。
「その通りだ。スクラープは、人間を限りなくモンスターに近づけるものだ」
またしても沈黙が訪れる。
その沈黙を破るように、隊長は話を続ける。
「ラギルス。スクラープとはどのようなものだと習った?」
「えっ、体の動きを補助することで、何倍もの力を出すことができる装備です……よね?」
隊長の問いに、ラギルスは不安になりながらも、ちゃんと答えた。
「実は違う。人間の力に合わせて、スクラープは力を引き出すんだ。補助ではない。無理やり引き出しているんだ。もちろんリミッターはあるから分かりにくいがな」
「ええっと、つまりどういうことですか?」
ラギルスは助けを求めるように、ルリの方を向いた。
「……スクラープを使って力を解放すると、それに伴ってスクラープが力を引き出す。お互いに依存していき、最終的には制御不能になる……ということか?」
「概ね合ってる。私の説明が少し下手だったか。ハハハッ」
「笑ってる場合か......」
吹き出した隊長に、ルリは引いてしまう。
「その理論なら、10代から20代の隊員が多いことも納得だ。年寄りにはキツすぎる。それで、主な基準は?」
グラルバは詳しく言及した。
「基準のスクラープ出力レベルから、2つ以上上昇するとかなり危険だ。気づかぬうちに何かしらの機能が失われている可能性が高い」
「でもそれって機密事項なのでは?」
ナグールの部下の男が聞いてきた。
「ああ、このことがバレたら私は首が飛ぶだろうな。いや、もしかしたら消されるかもしれない」
とんでもないリスクを冒している自覚はあるのに、隊長の口角は上がった。
「まあそれは考えあってのことだ。問題ない」
「それで? スクラープについて、これから変更することはあるのか?」
ルリは解決策はあるのか聞いた。
「ハッキリ言わせてもらうとない。これでもかなり安全に作られてる方だ」
「……」
解決策はないようだ。
このままではいつかモンスターになってしまうのではないかと、みんな黙ってしまった。
「まあそんな顔するな。無理に出力を上げなければいい話だ」
「でもスタンピードは無理に出力を上げなきゃ乗り切れないんじゃないんですか? 今の話の流れじゃ」
エイリーンの言った通り、これからモンスターになる可能性がある、スタンピードがある。
そもそも、生き残れるかも分からない。
「だから言っただろ? 俺はスタンピードの生き残りだと。同じ轍を踏む気はない」
隊長は自信満々にそう言うと、これからの計画について話しだした。
内容を簡潔にまとめると、任務は一旦止め、スタンピードのための準備をすることになった。
主に基地、部隊の強化である。
「――以上だ。改めて、今までスクラープのことを黙っていてすまなかった」
隊長は計画を伝え終わると立ち上がり、ベレー帽を脱いで頭を下げた。
「…………」
――誰も言葉を発せず、部屋を出ていった。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……」
「あっ! ラギルスおかえり!」
ラギルスが部屋に戻ると、アリナが元気よく迎えてくれた。
今回報告会はないと、隊長のアナウンスで告げられたので、ラギルスは真っ直ぐ部屋に帰ってきた。
「おかえり」
ミーナも奥から顔をひょこっと出した。
物資を運び終えた隊員たちは、一足先に部屋に戻ってきていたのだ。
「遅かったじゃん。難しい話でもしてたの?」
「後でまた連絡あると思いますが、スタンピードに向けて準備をするそうです」
「へぇー。じゃあ任務はしばらくなし?」
「そうみたいです」
「ラッキ〜」
アリナは万歳しながらベッドに倒れ込んだ。
「でもずっと訓練と座学じゃない?」
ミーナは無表情でそう言った。
「えぇ〜」
「まあ生きる為ですから」
「……私たち、生き残れるのかな」
天井を一点見つめたまま、アリナは続ける。
「今日みたいに、S級並のモンスターが現れるかもでしょ。スタンピード」
「……可能性はありますね」
「いくら準備しても勝てるかな」
「それは……」
ラギルスは、きっと勝てると言えなかった。
本人も不安を抱えていたからである。
「――勝つよ」
2人は部屋の奥の窓に目を向けた。
ミーナがじっとこちらを見つめ、ラギルスの代わりに、アリナの問いに答えた。
「根拠は?」
「秘策がある」
ミーナはフフンと笑った。
「秘策? 何それ」
「私ができたら教える」
「まだできないんかい」
「アハハ……」
ラギルスは苦笑いをした。
「まあ何とかなるかもね。ルリもいるし」
「まあ確かに。ルリさんの判断能力、指揮能力共に優秀ですし、何より強いですもんね」
アリナもラギルスも、ルリのことを強者としてもリーダーとしても認めているそうだ。
「頼りすぎるのはよくない」
ミーナは2人の意見を若干否定した。
「そうする為にも頑張ってるけどさ、最後の最後には助けられちゃうんだよね~」
「そこも含めて、準備期間で頑張って強くなりましょう!」
「ん~。まあラギルスがそう言うなら頑張っちゃおっかな」
「もう~。私が言わなくても頑張ってくださいよっ」
これじゃまるで母と子だ。
そんな和気あいあいとしている2人とは裏腹に、ミーナは俯いて暗い顔をした。
「――私はルリに頼られる存在になってるのかな」
◇ ◇ ◇
「……調子はどうだ」
「ベッドで包まってます。表情も虚ろで……」
ルリは、ある第4小隊の女子部屋に来ていた。
2人部屋で、同室の狙撃手のユキに、中の様子を聞いた。
「分かった。あとは任せろ」
ユキの肩に手を置いて、下がるように伝えた。
ユキは一礼すると、その場を立ち去った。
「……よし」
ルリはドアをノックした。
「……入るぞ」
当然中からの返事はないが、一言言って部屋に入る。
部屋の中は散らかされている様子はなかった。
異変があるとすれば、右側にあるベッドに、タオルケットで包まって体育座りしている者がいることだ。
「――リャオ」
顔が見えるように、正面に立ったルリは、隊員の名前を言う。
レオ部隊に所属していた砲兵だ。
「……」
反応はなく、ずっと一点を見つめていた。
目に光はない。
「まずは、よく無事に帰還してくれた。ありがとう」
ルリは膝をついて、目を合わせる。
「……ありがとう?」
ルリの言葉に、掠れるような声で反応した。
「私、アランさんを守れなかったんですよ?」
自分自身を嘲笑うように言葉を続けた。
「あまりの恐怖に、銃もまともに撃てないっ。足も情けなく震えてっ。何よりっ!」
涙を流しながら、声を張り上げたが、その後は口をパクパクさせ、上手く言葉が出てこない。
ルリは黙って次の言葉を待った。
「――アランさんがレオさんを助けに行くと言ったとき、私も行くと言えなかった。体が動かなかった。自分が、情けないっ」
リャオは俯いてしまった。
いつも明るい彼女がここまで心を閉ざしてしまうとは、それほどまでに精神に負荷がかかってしまったようだ。
「……リャオ。アランは助けてほしいと言ったのか?」
「……いえ」
「アイツは自らその道を進んでいったんだ。そしてレオを助け出した。だったらよくやったと、見送ってやれ」
「でも――」
「それでも自分が悪いと後悔しているならば、二度と同じことをするな。どれだけ対策をしようとな、何が起こるか分からないんだ。そんなか俺たちができることは、過ちを改めることだ」
「改める……」
「ああ。そうすれば、前の自分より一歩、心も体も前に進める」
「……もうアランさんは戻らないんですよ?」
「そうだ。もうアランは戻ってこない。改めることができないことだってある」
「じゃあ、どうすればいいんですか……」
「俺を頼れ」
「え?」
リャオは顔を上げた。
「どこにいようと、お前が俺を頼ったらなんとかしてやる」
「……」
「怖がることは情けないことではない。その恐怖が、お前を今日まで生かし、これからも生かすんだ」
「……」
「……俺はこういうのは苦手なんだ。もう行くぞ」
ルリは立ち上がり、ドアに向かっていく。
「じゃあまた後でな。昼飯は久しぶりに、みんなで食堂で食べるから。お前も来いよ」
そう言い残し、ルリは部屋から出ていった。
「――ふぅ」
ドアを閉めたルリは、壁に寄りかかった。
先ほどのリャオの顔を思い出す。
強くなってやるよ。
たとえモンスターになろうとも。
「上等だ」
ルリは覚悟を決めた顔をして、どこかに向かって歩き出した。
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