夢の中・三『何処までも行ける』
――――陽気な風が頬をさす。
目を開け、満天の空に目を細めた。
【夢想世界】にいることを理解し、眉を顰める。
イーグスと離れて寝ていたのに、なぜ此処に居るんだろうか。不思議だ。
上半身を起き上がらせ、見られていることを知った。
「――――やぁジーク、良い目覚めだね」
以前、人の身体を斬った銀髪の男が相変わらず憎たらしいほど整っている顔を微笑ませ、目覚めを祝福してくる。
【夢想世界】の住民であるオリアスが、其処に立っていた。
風が靡く。草が揺れる。
太陽がない空の下、オレは再びこの男に出逢う。
とても不思議だ。
目を合わせれば不確かな感情を抑えきれなくなり、勝手に涙を流していたのに……今は何も感じない。
強いて言えば、なんだこのバケモンみたいに整っている顔はと思うぐらいだ。
「……三日ぶりか」
なんとなしに聞くと、オリアスは人を安心させる笑みを深ませて答えた。
「さてね、俺達は現実と関わらないから気にしたことないよ」
なるほど、たしかにこんなところにずっと居たんじゃ日付なんて分かりやしない。
牢屋生活四十二日目の夜にオレは【夢想世界】に初めて来て、四十四日目の夜に脱獄して深夜……四十五日目の朝の光が出始めた頃に眠った。
つまり大体三日ぶりだな。
自分の中で答えを出し、気になったことを聞く。
「なぜオレは此処に居るんだ」
寝る前にイーグスに触れてない。
寝ているオレに寝相でイーグスが触ったのか。
牢屋で見る限り、寝相は悪くなさそうだったがな。
不思議そうにするオレにオリアスは言う。
「ジークは不思議な存在だからね」
と。
不思議以上の何者でもないやつに言われても首を傾げるだけだ。
気味の悪い目で見ながらも言葉を待つ。
「【夢想世界】の主人であるイーグスは、現実世界に記憶を持ち込めない。【夢想世界】の住民である俺達はそもそも現実に行けず、【夢想世界】を彷徨うだけ」
……たしかに、そう考えると不思議だ。
オレは現実世界に記憶を持ち込めるんだから。
「そしてジークは【夢想世界】に居た記憶を現実世界に持ち込める。そうだね、さしずめ【夢想世界】の客人でどうだろうか? 客人は気ままに此処に来られるのかな」
知るか。
だが、しっくりくる。
【夢想世界】の客人、か。
この世界について疑問は腐るほどあるが、一つ一つ疑問を出しても日が暮れるだけだ。もっとも日が暮れるという概念はこの世界にはないんだろうが。さておき。
「……呼び方などどうでもいい。それよりも、イーグスは来ているのか?」
「そうだね、イーグスは居るよ。今はアヴァロンと【英雄の特訓】をしているから会えないけどね」
【英雄の特訓】、いつやらか聞いたな。
なんだそれは、と聞く前にオリアスは答える。
「俺達四人は別世界の英雄だ。いつの日かイーグスが言った『ぼくもみんなのように英雄になりたい』って。その日から俺達英雄による、イーグスが英雄になる為の特訓が始まった。それが、【英雄の特訓】だよ。ちなみにジークも英雄として【英雄の特訓】に参加してもらうよ」
俺達四人か。
オリアスが言う四人を思い浮かべる。
オリアス、銀髪のこの世の者とは思えないほど顔が整った男。別世界では神様をしていたらしい。あほらしい。
アヴァロン、金の髪を持つ太陽みたいに笑う大きな声を出す男。別世界では騎士王と呼ばれていたらしい。馬鹿か。
ヒュウガ、黒髪の不審者。オレを普通か異常か見極める為、突如として襲ってきた男。まじゅうと呼ぶ武器を扱う。
アカ、なんとも言えない顔をしている美女。【全槍】と呼ぶ”ほうぐ”を扱うらしい。自称、人を見るのが得意なヤツ。
そいつらは全員、別世界で英雄と呼ばれたようで。
英雄になりたいと言ったイーグスの願いを叶える為に【英雄の特訓】を今も尚している、という訳か。
そしてその【英雄の特訓】にオレも参加する、と。
なんでやねん。まぁいいけど。
「具体的にオレは何を教えればいいんだ」
「乗り気だね。それでこそ英雄ジークだ」
黙れ。その英雄を一刀両断したことは忘れてないぞ。
オレの思いが届いてるのかはさておき、オリアスは「簡単なことだよ」と言って、言葉を続けた。
「イーグスと殺し合いをして欲しいんだ」
……溜息一つ。
あぁ、そうだな。
たしかにこの世界で死んでも、現実世界で目が覚めるだけだ。オレが実体験済みだ。
だが、なぜ殺し合いをするのか。
強くなるためか? 確かに実戦で強くなることは可能だ。
ヒュウガとの戦いでオレも一つ成長した気がするからな。
しかし、だ。
意味は有るのか?
イーグスは此処での記憶を現実世界に持ち込めない。
戦いの経験も何も持たずに現実世界のイーグスは生きていく。
何一つ意味が無いように思う。
しかし、他の三人はどうか知らないが。
このオリアスという男がそんなことに気づかないはずもない。
「訳を聞かせろ」
オリアスは屈み、オレと目線を合わせてくる。
吸い込まれそうな銀の瞳だ。
「ジーク、この世に産まれてから俺は意味が無いことをしたことがない。きっと、【英雄の特訓】はイーグスも糧となる」
……あまりにも不遜。
天才であるオレでさえ意味の無いことをしたことはある。
しかしこの男は意味の無いことをしたことがないという。
これを不遜と言わず、何を不遜と言うか。
高慢でいて、思い上がった男を睨む。
男は笑みを深くする。
「この世界のイーグスは強いよ。きっとジークと互角だね」
……考えたくもないな。
あの無邪気で何を考えているか分からない奴が、オレと同じぐらいの強さを持つことを。
たしかに現実世界でイーグスの魔力は凄まじい。
何処かに吸われているような魔力。
きっと【夢想世界】を型どる為の魔力が毎秒、消えている。
それでも、イーグスの魔力はオレを超える。
ありえない話では無い。
イーグスが互角の力を持っていることは。
「――――笑ったね、ジーク。なにか楽しいことでも想像したかい?」
オリアスに聞かれ、立ち上がる。
屈んでいるオリアスを見下ろす。
「早くイーグスに会わせろ。思い上がった鼻っ柱を折ってやる」
オレも成長し、【夢想世界】のイーグスも成長する。
悪い話ではない。少し、乗せられた感はあるが。
ニヤリと笑い、オリアスは芝居がかったように立ち上がり「では英雄ジークよ、【英雄の特訓】に参加ということですかな?」と告げてくる。
無言で頷きを返しておいた。
城に入り、イーグスの元へ案内される。
白き空間だった場所は、城の中だと思えない木製の造りとなっている。
不相応な城の中を一瞥し、オリアスの後をついて行く。
数え切れない程の扉を通り過ぎ、通路を歩いていく。
木製の床を素足で歩いていき、なぜ城なんだと思う。
が、考えても答えは出ないので、”不思議空間”だと結論を出す。
見覚えのある扉の前でオリアスの足が止まる。
【夢想世界】で初めて住民達に出逢った場所だ。
抵抗なく扉を開き、身体を潜りこまらせるオリアスに続き、オレも中に入っていく。
広がる光景は、大きな台を囲う七つの椅子。
縦長い台の上には白い敷物。
敷物の上には白い皿が並べられており、皿には何も置かれてない。
硝子の飲み物入れが綺麗に並べられ、何処か寂しさが押し寄せてくる。
前に来た時は【夢想世界】の住民達とイーグスが居たから分からなかったが、此処はなんとも寂しい場所だと思った。
此処はイーグス曰く食堂と言われてるらしい。
食堂には入ってきた扉しか出口がない。
オレはイーグスと戦わせろと言ったんだが、此処にイーグスは居ない。
オリアスは何がしたいんだろうかと、睨む。
睨みなど気にせず、椅子に座る銀髪の男。
ニコリと笑い――――消えた。
……なんだと。
驚き、オリアスが座った椅子に近づく。
誰も居なくなった食堂を見渡し、どこに消えたんだと考える。
椅子に触る、何も無い。
なんだこれは、そう悩んだ瞬間――――告げられた。
”己が椅子に座れ”と。
久々に直感が仕事をした。
久しぶりという訳でもないか。
これでも頻繁な方だ。
牢屋生活の時なんか大体四十日間、仕事をしなかったんだから。
おのがいすにすわれ、か。
自分の椅子に座れ?、何を言ってるんだ直感は。
もしかして、前回シュラの隣に座った椅子のことか。
一人悩み、答えを出す。
オリアスの椅子の正反対に周り、椅子に座る。
特に何も無い。
考える、オリアスが消えた理由を。
”魔力を込めろ”。
告げられ、反射的に魔力を込めた。
自分が座っている椅子に。
――――暗転。
身体が浮いている。
目を開けているが前は暗闇。
数秒、自分の身体から重さが消える。
身体の在り処がわからない。
右手は、動く。
ゆっくりと動いている、前に。
途端に身体の重さが戻る。
眩しい光に照らされ、目を一度瞑る。
明るさに慣れるようにゆっくりと、目を開けていく。
広がる景色は森林。
何処かで見たことある。
間違いない、此処はガルーラ森林だ。
オレが寝た場所だ。
当たり前の様に黒髪の少年、シュラが隣に立っていた。
オレに気づき、朗らかな笑みを見せてくる。
「よぉジーク! 先ずは脱獄おめでとうって言っておくぜ!」
純粋な視線と賞賛を受け入れ、頷く。
「……サンキュー、シュラ」
ありがとうという意味の、シュラ特有の言葉を返すと嬉しそうに笑った。
「おう!」
こちらまで明るくなる返事をされ、
認め難い現実を見た。
ずっと目を逸らしていた。
なにかの間違いだろう、と考えていたんだ。
――――現実世界では見れない蒼髪の姿を。
交じり合う剣。
二つの剣が交差し、離れ。
隙を伺い、両者が一撃を交わす。
黄金に輝く剣を振るうは金の髪を持つ男。
蒼く透き通った剣を振るうは蒼髪の男。
金の髪を靡かせる男は楽しげに笑う。
蒼の髪を震わせる男は苦悶の表情で駆ける。
蒼き剣閃煌めく。されど黄金の剣にいなされ、蒼の剣は行き先を見失う。すかさず黄金の剣が首を狩る。躊躇いはなく、これは死合いだと認識し。行き場を見失っていた蒼き剣が確かに首の間に入り、黄金の剣の斬撃を防ぐ。
見据える。
蒼髪の男は遊ばれているのだと。
黄金の剣は破壊力が凄まじく、蒼髪の男の身体を蒼き剣ごと吹き飛ばした。
金の髪を持つ男は即座に動き、蒼髪の到着点へ身体を運ばせていた。
蒼髪は宙で身体の自由が効かない筈。しかし、微かに蒼き剣を振るう。振るわれた先には黄金剣があり、一瞬だけ高い音が響く。
勝機はない。
だが、蒼髪の男には負けを認めぬ眼の輝きが在る。
吹き飛ばされ、綺麗に身体を回転させ地面に着地。
仕切り直しだと、蒼髪の男は金の髪を持つ男へ再び駆け行く。
否、駆けようとしたところで足を止めた。
金の髪を持つ男は黄金の剣を消し、蒼髪の男と同じように視線を向けた。
二人の中心点に立つ男へ。
「ありがとう二人共、俺を巻き込まないでいてくれて」
――――オリアスは笑みを浮かべ、そう言い放った。
金の髪を持つ男、アヴァロンは戦いのあと賞賛していた。
蒼髪の男、イーグスは照れ臭そうに頬を人差し指でかく。
まるで夢でも見てたのか、二人は仲が良さそうに話し出す。
「素晴らしいよ! 熱く滾る殺意! 内に響く剣圧! 合格だよイーグス君! 君は何処にだって羽ばたける! 一緒に願いを叶えよう!」
「はは……、アヴァロンの剣は相変わらず重いね。ぼくは一撃打たれる度に身体が持っていかれて、戦略が練れなかったよ」
「慣れるさ! 君は英雄の卵なのだから!」
「うん、一生懸命頑張るよ。だからまた、手合わせお願いね」
当然さ、と相も変わらず大きな声を出すアヴァロン。
次は勝つよ、と現実世界ではお目にかかれない落ち着きを持ったイーグス。
隣に居たシュラが、舌打ちをした。
面白くなさそうに、二人に背を向け歩いていく。
何かが、シュラにも有るのだろう。
身体が熱くなっていた。
戦いと呼べるものが、目前であった。
熱くならない方がおかしい。
オレは決めた、イーグスと全力で戦うと。
二人の後ろに居るオリアスがオレを見て笑う。
全てわかったような顔しやがって、と歩み寄る。
近づくにつれ、イーグスが傷だらけだとようやく気づいた。
何度、剣が交じり合ったのだろうか。
アヴァロンには傷が一つもついてない。
力の差は歴然だ。
だと言うのに次は勝つと宣言したイーグス。
どこまでも負けず嫌いな男だ。
二人の前に立つ。
アヴァロンが太陽のように笑う。
その隣で嬉しそうに顔を綻ばせるイーグス。
「やぁジーク君! 今日は戦いに来たのかい!」
「そんなところだ、クソ異常者」
「これは参った!! シュラ君が二人だ!! 面白い!!」
アヴァロンの返答に、シュラの言葉を借りると声が一段と大きくなった。言葉通り面白かったんだろう。
面白くなると声が更に大きくなると、アヴァロンの人物辞書に書いておく。
「ジーク、さっきぶりだね」
「あぁそうだな。それよりお前はイーグスで良いんだな?」
「はは、確かに現実世界のぼくとは似ても似つかないよね。でも、現実世界のイーグスも【夢想世界】のイーグスも、ぼくはぼくだよ」
確認し、それはそうだと無理やり納得する。
めちゃくちゃな話だ。
何が現実世界のイーグスも【夢想世界】のイーグスもぼくはぼくだ。普通に訳分からんわ。
まぁいいと、早速本題に入る。
「そうか、それで――――オレとやるのか?」
「……うん」
現実世界のイーグスと変わらない無邪気笑みを浮かべ、
「――――やろうか、ジーク」
そう宣告してきた。
イーグスの蒼き剣が届く位置で、オレはふと気になった。
「その剣はなんだ」
透き通った蒼き剣。
もう一人のイーグスが武器にでもなったのかと錯覚するぐらい、蒼き剣はイーグスに似ていた。
人の形であるイーグスと当然のように姿形は違うが、どうしてかそう思えた剣。
イーグスはにかりと笑い、オレの質問を躱す。
「勝負は公平に行こうよ。ぼくが使う剣をジークが知らないように。ジークが使う魔法をぼくは知らない。ね、このままの方が公平でしょ」
真っ当な理由で躱され、イーグスの癖にと睨む。
現実世界のイーグスは隣にいて頼もしいが、【夢想世界】のイーグスは全てが頼もしく見える。
面白い。
「その通りだな。では勝負をより公平にする為に」
右手をイーグスに向け、全力で治癒魔法をかける。
数秒してイーグスの身体から傷が消える。
痛みは多少なりとも残ってるだろうが、傷によって身体が動きにくいということはこれで無くなったはずだ。
「傷を負けた言い訳にされては面倒だからな」
オレの言葉に不敵に笑うイーグス。
「あー、これでジークは絶対に負けるね」
「抜かせ」
「事実だからね」
なんとも性格が悪いやつだ。
現実世界のイーグスでは絶対に言えないことだな。
しかし、【夢想世界】で初めて会った時のイーグスは猫を被っていたんだろうな。オレを混乱させないために。
つまり【夢想世界】のイーグスは気遣いもできるのか。
なんだこの無敵イーグスは。
イーグスの癖にと笑う。
オリアスが間に立つ。
「さて、勝負の前口上は終わりかな。後は死力を尽くして戦うまでだね。
わかっていると思うけど、死ぬまで戦ってもらうよ」
殺し合いか。
初めてではない、これで三度目だ。
クソ兄貴とヒュウガ、そしてイーグス。
三度目の正直だ。
今回ばかりは殺させてもらう。
「では、二人とも少し離れて」
言われた通り、後ろに下がる。
十歩でイーグスまで届く距離になったところでオリアスが「そこまで」と声を出す。
始まる。
イーグスとの勝負が。
自分を変えた男との勝負が。
【思考加速】発動。【魔力視】発動。
「――――はじめ!」
時の流れが遅くなった世界でもオリアスは声と同時に消えていた。今はどうでもいいと考え、イーグスを見る。予想以上に速い。土の壁を目前に発動し、後ろに下がる。土の壁越しにイーグスの多大な魔力が見える。
先制はイーグス、右手を振り土の壁を斬った。瞬間、土の壁が爆ぜた。有り得ない事象だ。土の壁がとんでもない斬れ味のもので斬られたとしたら、普通はゆっくりと壁が斬られた箇所から落ちていくだけ。なぜ爆発したんだ。
訳が分からない、しかし考えさせる時間は与えないとばかりにイーグスはオレに駆け寄ってくる。真っ直ぐに突っ込んでくるだけだ。舐めるなと言いたい。瞬時にイーグスの真下、地面に穴を作る。土の魔法で周りの土を圧縮して、真ん中に穴を作っただけで大したことじゃない。
底の浅い穴にゆっくりと落ちゆくイーグス。土の圧縮を解除して、埋める。だが、土が真ん中に戻る前にイーグスは戻り始めた土を蹴って飛翔した。
上段に剣を構え、飛んでくる。予想は出来なかった。しかし飛んでくる速度は宙に居るので遅い。故に魔法の準備など幾らでもできる。右手に氷と風を纏い、焔を咲かせる。右手をイーグスに掲げ、焔を放った。
しかと見る。イーグスの蒼き剣を。魔力は宿っていない。魔具の類いではない。何故だ。それなのに何故なんだ。
――――焔が斬られた。
否、魔力が斬られたんだ。
不可思議な現象。
目に見えぬ斬撃が向かってきていると知覚する。
右手から放った焔が裂け、裂け目が右手に向かってくる。
即座に魔法を解除、宙に居るイーグスがしてやったりと笑みを浮かべている。ふざけるなと氷と風の魔法を両足に纏う。イーグスの蒼き剣を紙一重で避け、両足に触れた地面を滑走する。
信じられないモノを見た目でオレの移動手段を見るイーグス。ヒュウガとの戦いでは地面が凍らなかったのであまり使えなかったが、本来はこう使う。
滑走しながらもイーグス打倒計画を練る。あの蒼き剣に触れた魔力は斬られる。推測だが土の壁は魔力本体が斬られ、制御出来なくなり土の爆発を引き起こしたんだろう。
ともあれだ、逃げ回ってもイーグスに一打を与えれない。ヒュウガとの戦いで使った風と水の檻に閉じ込めることは出来ない。魔力を斬られるから。
なら魔法自体がイーグスには効かないのか。そんなことはない、剣に当たらず身体に魔法を当たれば攻撃は通るだろう。何せ、わざわざ魔法を斬っているぐらいなのだから。
【魔力視】を解除し、右手に極小の火の玉を作りながら滑走する。恐ろしいことにイーグスは中段に剣を構えながらついてくる。右手で作った火の玉をイーグスの通り道に設置する。
イーグスは凄まじい反射速度で小さな火の玉を斬る。
――――爆発。
当然だ、圧縮した火の玉なんだから。魔力の操作を斬らしたら盛大な爆発を起こすだろう。だがどういうことだ。身体のあちこちに火傷を作りながらイーグス笑いながら追ってくる。
ならばこれはどうだと、風の球――――不可視の球体を作り設置する。イーグスは斬る。まるで見えているかのように。【魔力視】で見た限り、イーグスは【魔力視】を使っていない。ならばまさか感覚か。
とんでもない化け物だ。
しかしだ、感覚に頼ると言うならこちらも頼らせてもらおう。
――――来い。
告げる、絶対的な直感が。
”作れ”と。
何を作れば良いんだ。
いや、わかったぞ。
なるほど、とんでもない無茶ぶりだ。
まさかこの土壇場で”魔法を”作れということか。
一万年の歴史で作られた魔法を今作れだと。
巫山戯るな。
そんなこと、この天才にしかできない。
水、風、火、土、本に書かれてあった魔法を繋ぎ合わせる。
無理だ、この状況じゃ。
魔法の同時発動も間に合わない。
更にイーグスも追ってくる。
ならばどうする。
当然、足止めだ。
大きな火の玉を右手に作る。
イーグスが動きを止めた。
両足に発動している魔法を解除し、【思考加速】も解除する。
火の玉をイーグスに投げた。
瞬間、オレは全神経を両手に注いだ。
右手で火の玉と風の玉を作り、左手で水の玉と土の玉を作る。
合わせる。
火の玉が爆発した、イーグスが斬ったのだろう。
隙ありとばかりに、大きな足音が迫ってくる。
四つの玉を一つに圧縮する。
一つ一つの玉が反発し合う。
顔が熱くなり、ポタリと赤いモノが地面に落ちたことさえ気づかず圧縮していく。
すぐそばだ、イーグスは。
見なくてもわかる。
振り返り、未完成の無理やり固めた玉をイーグスに向ける。
目を開いているイーグスに向け、放つ。
視界が白く染まった。
なんだこの感覚は。
全てが白くなっている。
オレ以外が白い。
身動き出来ず、白い光に包まれる。
――――色が戻る。
剣を両手で振り上げたイーグスの頭にまじゅうと呼ばれる武器を置くヒュウガ。
オレが放った未完成の玉を【全槍】と呼ばれるほうぐで、叩き潰すアカ。
何が、起きたんだ……。
「――――そこまで。 今回は引き分けだね」
…………なんだと。
イーグスを見る。
悔しそうに蒼き剣を消している。
ヒュウガが不気味な笑みでオレを見て、イーグスの頭からまじゅうを放す。消えるまじゅう。
【全槍】で未完成の玉を抑え込んだままアカは、納得したように頷き……直感が”何もわかっていない”と告げてくる。
直感がなぜ仕事したのかは分からないが、アカは何も納得してないんだろう。よくわからんが。
「…………むぅ」
唸り、アカは未完成の玉から【全槍】を外し……もう一度振り下ろした。
パァンと未完成の玉が弾ける。
……有り得ない。
あの未完成の玉は無理やり四つの玉を繋げ合わせた、言わば魔力の塊だ。
それを変哲のない槍で叩いて、なんの被害もないだと。
普通ならここら一体が弾け飛ぶんだが……。
「ジーク、素晴らしい魔法だったね。アレはなんて名前の魔法だい?」
変哲のない槍に妙な危機感を覚えていると、オリアスが話し掛けてきた。
「……名前など一々つけるか。馬鹿らしい」
「…………ふむ、なるほど。ジークの反省点見えたね」
極当たり前のことを言ったつもりが反省点が見えたらしい。
何を言っているんだと睨む。
相変わらず気にせず、オリアスは教えてくる。
「良いかい。魔法に名前をつけることでその魔法は発動しやすくなるんだ。俺が居た世界じゃ当たり前だったけど、そちらの世界じゃ馬鹿らしいことなんだね」
……何を言ってるんだコイツは。
馬鹿にするように見ていると、核心をつく一言を添えられた。
「ジークは、目に魔力を込めるのが速いね。それと、頭に魔力を込めるのも。自分の中で……例えば【魔力視】と名前を付けているんじゃないかい?」
驚愕。
言われてみればそうだ。
【思考加速】と【魔力視】は発動速度が段違いで。
え、なんでオレってそんなことに気づかなかったんだ。
「名前が無いなら俺が付けるよ。土の壁は【土壁】であの格好良く炎を飛ばしたのは【紅蓮拳】だね。どうだい? なかなか格好良いだろ」
驚愕している間に名前を勝手に付けられた。
得意げな顔をしている。
まぁ、名前が有れば発動が早くなるんだ。
名前なんてなんでもいい。
「微妙だが、助かった。オレはこれで更に強くなれる」
「え、微妙? 嘘だろ。滅茶苦茶格好いいじゃないか。ジークはネーミングセンスが無いね。これからだから頑張った方がいいよ」
何を言っているか分からないので適当に頷く。
少し離れたところで大の字で寝転がってるイーグスを見る。顔を右手で隠し、本当に悔しそうだ。
確かに、オレも悔しい。
勝てると思っていた。
アヴァロンとイーグスの戦いを見て、オレは下に見ていた。
なんとも格好悪い。
想像以上にイーグスの動きが早くて、蒼き剣の異常さを目の当たりにして情けなく逃げた。
そうするしか無かったとして、格好悪い。
一つ、決心した。
完膚なきまでに、イーグスを倒そうと。
何故かしょげているオリアスを置いて、オレはイーグスに近づく。
近くに来て、消えそうな言の葉を聞いた。
あの時のように、オレの人生を変えた言葉。
「――――あぁ、ムカつくなぁ」
つい、笑ってしまった。
オレにムカついている訳じゃないのだろう。
勝てなかった自分に、イーグスはムカついているのだ。
あの時のように、弱い自分へ。
なんだ、やはりイーグスか。
オレを変えてくれた、イーグスだ。
笑って、清々しい空を見る。
まだ、強くなれることを知った。
未完成の魔法を自由に使えたら、きっとオレは格段に強くなる。
オリアスを横目に見る。
あの男が使った魔法も使いたい。
初対面の時、手が届かないと思えた。
違うだろうが、ジーク。
この天才なら『何処までも行ける』だろうが。
明日にでもオリアスを超える。
その意気込みで未来の自分を描こう。
決意と共に――――意識が途絶えた。
決めました。
更新は12時にします。
ちゃんと予約するんでぼーっと流し読みでもして評価してください。はい!ありがとうございます!




