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【夢想世界】  作者:
第壱章
7/16

奴隷未満達との冒険・前






 オレの名前はジーク。十歳。

 とある貴族の出て立ち。身内はクソ。

 身内に違法とされている奴隷にさせられた。

 もっとも【奴隷紋】を左頬に付けられただけの、奴隷未満だが。

 奴隷とは主人あっての奴隷だから。

 

 ともあれ、奴隷として売るつもりだったのか地下室の牢屋に閉じ込められた。

 其処で双子のラーグ、ガゼル。【魔女の森】に住んでいたリューネ。そしてイーグスと出会った。


 牢屋生活四十五日目にオレを含めた奴隷未満四十五人は脱獄成功。

 そそくさと地下室の出口である小屋から離れ、身体の気持ち悪さを水で流す為に森の中で奴隷未満達は水浴びをしている。





 そして現在。



 オレは、かつて奴隷未満達にパンとくっそ不味い水をあげていた男と対面している。

 どうしてか火傷だらけで目も合わせようとしない。

 困った困った。

 聞きたいことが沢山あると言うのに。


 暇潰しに火の玉を右手から出現させる。


「ひぇぇぇえええええ!?」 


 奇声を出す男。笑顔の天才魔法少年(笑)ジーク君。

 話が進まないので質問を投げていく。


「人を殺したことはあるか? 使える魔法は? どのように生きて、奴隷商人と出会った? オレ達を見下して愉快な気持ちになったか?」

 

「無いです! 魔法使えましぇん! 酒場でぇ話を持ちかちぇられましや! なっていませぇぇぇん!!」

 

 人を殺したことはなくて、魔法は使えない。

 奴隷商人とは酒場で出会い、監視の仕事をしないかと話を持ちかけられた。オレ達のことを見下して愉快な気持ちになってなかった、と。


 嘘だな。

 火の玉を操作し、顔に近付ける。


「ぎょぇぇぇえええええええ!!」

「お前は魔法を使えるだろうが。いつも水の魔法で、クソ不味い水を出してたんだからな」

「あれは魔具ですううう!!」


 魔具だと。

 だがいつも右手から水をだしていた筈だが。

 火の玉を消し、男の右手を見る。

 指輪、だな。

 たしかに似合わない指輪を付けているな。

 男の右手の中指から指輪を外し、【魔力視】で指輪をじっくり見る。


 ……白い点々は見えない。

 変哲のない魔具か。

 何の装飾もされてない指輪の裏側を見ると、びっしりと魔法陣が書かれている。

 一般的な魔具だ。


 指輪に人差し指を通し、軽く魔力を込めると魔力が吸収され目前に水の玉が出現していく。

 魔力を込め続けると水の玉は大きくなる。

 なるほど、便利だ。

 これならば魔法が使えない者でも簡単に魔法を使える。


 つまりこの男が言っていることは本当か。つまらん。

 指輪を外すと出現していた水の玉は地面に落ちる。

 指輪に彫られた魔法陣の効能は、命令権と水の魔法生成。

 ありきたりな魔具で、どこにでも売っているな。

 指輪を外し、右手で持ち質問を続ける。


「奴隷商人の名前を教えろ」

「し、知らない!」

「本当のことを言え」

「ほ、本当に知りません!!」


 焦ったような顔で言うのだが、嘘か本当かはわからない。

 じっと睨むと、恐怖で顔が引きつっていく。

 オレを恐れている。

 もう燃やされたくないのか。

 

「お前には選択肢が二つ有る。このまま死ぬか。オレに従って生きるか、だ。さて、選べ。死ぬか生きるかを」

「――――――――」





 ……ん?

 こいつ、気絶してる。


 

 せっかく喉を治癒して話しやすいようにしたのだが、大して情報は得られなかった。

 仕方ない、起きたらまた聞くか。



 








 気絶した男を観察していると、森の中で甲高い声が響き渡った。この高い声は、リューネだな。

 何があったかはわからないが、仮にも【魔女の森】に住んでいた女だ。スライム、ゴブリン程度では遅れを取らないだろう。

 それに【魔力視】で見た限り、多大な魔力量を持っているんだ。襲われても返り討ちにしているはずだが。


 なぜ、叫んだのだろうか。

 奴隷未満達の中には当然男が居るので、覗かれたのか。

 有りうるな。


 服を着たリューネがこちらに走ってくるのを横目で見る。

 顔は赤く、髪は水で濡れていてる。

 水を浴びたことで垢が抜けたみたいで、十割増で綺麗になってるな。やはり耳長族か。


 息を切らし、オレの右側で立ち止まる。

 肩を上下させ何度も深呼吸をして、ようやく声を発する。



「――――イーグスが、お、男だったの……ッ!」



 オレは火傷を負った男を見ながら、何を言っているんだコイツはと考える。

 まさかずっと気づかなかったのか。

 ありえないだろ、そんなこと。

 ガゼルとラーグは知ってたはずだ。

 イーグス君、と呼ぶんだから。

 しかもイーグスは自分のことを『ぼく』と呼んでるのだから、気づかない方がおかしい。

 おまけに膝枕をしていたはずなのになぜ気づけない。


「なんか言いなさいよ!!」


 黙っていたらうるさいので仕方なく口を開くことにする。


「……イーグスは男だぞ」

「嘘でしょ!!」


 何が嘘なんだ。本当だ。

 よっぽど認めたくないのか、頭を抱えて屈むリューネ。

 そしてブツブツと呟き出す。


「ありえないあんなに可愛くて男だなんて私より可愛いじゃない肌もすべすべだしほっぺも柔らかくて男なんて無理があるでも下半身についてたアレは間違いなく男の象徴で、でも嫌だそんなの考えたくないだって私が男に膝枕してたなんてそれに私が男の子を好きになってたとかブツブツブツブツ」


 あ、はい。怖いです。

 申し訳ありませんが他所でやってくれませんかねぇ。

 というかイーグスのこと好きだったんですね。ウケます。

 

 ともあれ、

 耳長族が男に恋をするのは聞いたことがないな。

 耳長族は女性しか居なくて、女性同士で子供を産むと聞いた。


 あ、そういえばこのリューネとかいう女は耳長族と人族の血を持ってたな。

 なら別に問題ないんじゃないか。


「イーグスは身体付きからして男だろうが。気づけアフォ」

「…………」

「耳長族が男と生涯を共にしないのは有名だが、お前の父親は男だろうが。両親のことを否定するのであれば、女としか関わらなければ良いだろ」

「………………いやアンタ、普通にお前って言えるじゃない」


 意識したからな。

 そんなことはどうでも良いだろと睨む。


 リューネはバツが悪そうに膝を抱え込み座り、足で顔を隠しボソボソと呟き出す。

 

「……私って【魔女の森】じゃ半端者で虐められてたの。人族と耳長族の半分の血を持ったのなんて歴史上は私だけ。だから絶対にお父さんとお母さんのようにはならないって決めてた」


 その気の強さで虐められてたのか。

 たしかに数の暴力にはかなわない。

 虐め怖い。


「絶対に私は女性と結婚してやるんだって…………」


 なるほど。

 両親のようになりたくなくて、女性と結婚しようとしたがイーグスに出会ってしまったと。

 

「知るか」


 思わず声が出た。

 リューネが唖然とオレを見ている。


「好きな奴を選べるだけマシだろ。オレは七歳の時にクソ不細工な奴が婚約者になったぞ。まったく知らんやつで、性悪そうなクソ女だった」


 今思い出しても腹が立つ。

 天才のオレには相応しくない馬鹿なクソ女だった。

 名前は一度しか聞いてないのでもう忘れたが。

 醜い豚のような顔で『ぶすぶすぅ、わぁしはジーク様の婚約者でぇすぅ』と喚きながらよそ様の使用人の膝を蹴ってたから、顔を殴ってやった。懐かしい。そのあと婚約破棄されたから万々歳だ。


「アンタ……」

「なんだ」

「……なんでもないわ。それより、たしかにそうね。私は好きな人を選べるだけマシだわ」

「そうだ、オレ達は自由なのだから」


 自由、か。そう呟き笑うリューネを不便な目で見る。

 何を急に笑ってやがる、怖いやつだ。

 女心はわからん。


 

 突如立ち上がるリューネ。

 危うく敵かと思って攻撃するところだった。

 急に立ち上がるなと睨むが先程走ってきた方向を見ていてこちらを見ていない。

 

「私、戻って謝ってくるわ」

「……好きにしろ」


 謝る要素が有るのかは知らないが、本人が決めたことだ。

 好きにしろとしか言えない。

 素足で地面を踏み、去っていくリューネ。

 背中が見えなくなるまで見送り、オレは気絶している男に目を向ける。


 平凡な顔つきをした男だ。

 髪は黒、一般的な”非魔法使い”。

 魔力を宿さない生物はいない。

 草木にも、地面にも微量の魔力は宿っている。

 しかし、黒髪の人族は魔力が少ない。

 【夢想世界】で出会った奴らは例外だ。

 アイツら全てにおいておかしいから。

 シュラは普通に魔力は有ったが、さておき。


 一般的には『髪色が明るい者は魔法を多く使える』と言われている。

 つまりリューネのように金色の髪は、魔法が多く使える。

 ガゼルは白髪であり、たしかに明るい色だ。

 魔力が多いのも頷ける。


 だがラーグも同じ髪色なのに、身体に宿す魔力は少なかった。不思議だ。

 












 考え事をしていると、薄紅色の髪を持つ奴隷未満が遠くから寄ってくる。

 オレの顔を見て、とてつもなく顔を綻ばせている。

 はて、何かしたか。

 変顔はしてないので笑う理由がないのだが。


 遂にオレの前に立つ。

 態々、火傷を負った男を隠すように。

 まるで私だけを見て欲しいと言わんばかりだ。


「――――ジーク様ですね!」


 名前を呼ばれ、なんだコイツはと睨む。

 顔立ちは整っているが、生理的に受け付けない顔をしている。なんだこの感情は。

 どこか懐かしさを覚える感情だ。

 腹ただしい? 人として無理? この二つの疑問が頭に浮かんだ。謎だ。

 言を待つ。


 意気揚々と薄紅色の奴隷未満(女)は声を上げる。



「お久しぶりです! わたくしはジーク様の婚約者(・・・)

        ”セレス・カイゼル”です!」



 …………。


 …………あらヤダ、婚約破棄したセレスさんではありませんか。どうして奴隷未満達の中に混ざっているのでしょうか。

 などと内心で混乱しながらもマジマジと顔を見る。

 たしかに似ている。

 オレが顔を殴ったセレス・カイゼルという元婚約者と。

 しかし顔と身体にあの頃(二年と半年前)のふてぶてしさがない。

 痩せたのか、あの豚が。

 【奴隷紋】は顔に見当たらない。

 身体の何処かに【奴隷紋】があるのだろう。

 

 心を落ち着け、ゆっくりと聞く。いや、聞こうとした。

 どうして此処に居るんだ、と。


「…………」


 無理だった。

 なんか生理的に受け付けない。話しかけたくない。

 

 だが、健気にも相手は話しかけてくる。


「――――手を差し伸べ、ジーク様はわたくしを助けてくださいました。わたくしのような屑に『オレ達と一緒に生きろ』と声をかけていただき、本当に感謝してもしきれません。生きてることを実感できない二年でしたが、ジーク様と再会を果たして再び生きることを決意しました。つきましては、婚約破棄をなかったことにして頂けないでしょうか?」

「断る」


「……」


 つい断ってしまった。

 飛ばしてしまった人に説明をしよう。

 オレの元婚約者であるセレス・カイゼルは二年前に奴隷未満となっていたようだ。

 生きてることを実感していない時にオレが手を差し伸べ、再び生きることを決意。

 そしてどさくさに紛れ、また婚約者になって欲しいと言ってきたんだ。当然断った。

 断った理由は一つ。





         生理的に無理。





「セレス・カイゼル。貴様がなぜ牢屋に居たかは知らんが、オレは貴様を生理的に受け付けない。これ以上、口を開くのが辛い。何処かに行ってくれ」


 目を逸らす。

 感情的になり口は勝手に動いた。

 よっぽどオレは嫌だったんだろう。

 あまりに急展開過ぎて受け止めれなく、現実味がないので客観的だ。なんだ、ついさっき話してたヤツが目の前に現れるって。それも『クソ不細工な奴』と『性悪そうなクソ女』って言った奴が現れたんだぞ。3分もしないうちに。


 客観的にもなる。

 これは現実か?


 自分に問い掛け、時の流れを肌で感じる。

 

 

 

 

 気まずい。

 早く何処かに行ってくれ。


 じゃりじゃり、と音がした。

 目を向けなくてもわかる。

 目の前で立っていた奴が素足で地面を踏んだ音だと。

 近づいて来ている。


「……わたくしは、ジーク様に取り返しのつかないことをしました」

 

 あぁ、お前はオレの使用人を蹴っていたな。


 だが別に、それはどうでも良いんだ。

 オレはお前が生理的に無理なんだ。

 この思いよ届け。

 

「顔を腫れ上がらせて家に帰り、お父様から『自分を見直しなさい』と言われてもわたくしは反省のは文字も頭になかったです」


 ダメだ、届かない。

 てか距離が近いですね。離れてください。


「反省しないわたくしを見て、お父様は婚約破棄をしました。当然ですよね、ジーク様とわたくしが釣り合うはずないんですから」

 

 ポタリポタリと地面に水滴が落ちる。

 コイツ……、泣いてやがる。


「何がダメだったのかと考え始め、知識を身につけました。太っているのは駄目だと思い、走り始めました。ですが、ジーク様に一歩も近づけた気がしませんでした」


 ……。

 …………え、何が?

 知識とか太っているとかオレに関係ないだろ。

 

「常識もなく、豚のようなわたくしを殴ってくださりありがとうございました。ジーク様はきっと、誰かを変えれる人です。わたくしには手が届かない存在で……とても眩しいです」




 ……クソが。


 目線を戻し、しかとセレス・カイゼルの目を見る。

 あの時のように無邪気な悪意を振りまく目ではなく、怜悧でいて暖かな印象を持たせる目だ。

 たしかに変わったのだろう。

 人は変われる。

 コイツが初めてだ。

 オレにその事実を教えてくれたのは。


 右手を伸ばす。

 少し、オレより背が低いセレス・カイゼルの右目から流れてる涙を人差し指で拭ってやる。

 驚いたような、嬉しさを隠すような顔でオレを見ている。


「手が届かない筈がないだろうが。オレは貴様と然程変わらぬ背丈なのだから」


 至極真っ当なことを言ってやる。

 わかってる、コイツが言う『手が届かない』の意味を。

 オレみたいに天才になれるはずがないんだ、普通の人間は。


 何せ天才だからな。


 オレの人差し指を勝手に右手で掴み、セレス・カイゼルは幸せそうな顔で人差し指を頬に寄せる。


「――――この想いが消えぬことを今、実感しました。いつまでも、ジーク様はわたくしの太陽です」


 …………どうしてこうなった。

 やはり女心はわからん。












 ムズ痒い時は過ぎ。

 奴隷未満達が全員、オレの前で話し合いをしている。

 此処はどこなんだろ、ジークさんがかっこいい、イーグスは可愛いのに男だったのか、リューネたんは女神、今から何処に行くんだろ、などなど色々な話をしている。

 リューネたんってなんだ。

 深く問い質したい気持ちをおさえ、声を出す。



「――――騒ぐな。声で魔物が寄ってくる可能性がある」


 一声で静まる場。

 各々が納得の表情を浮かべているが、何処か安心しているような顔だ。まぁここらの魔物などリューネが居れば皆を守れるだろう。

 そこに絶対的天才魔法使いのオレもいるのだから安心しかないな。よくわかっている奴らだ。


「魔法を扱える者は名乗り上げろ」


 わざわざ場を静まらせたのには訳がある。

 オレ1人でも四十四人を守れるが、手が足りなくなる可能性もある。

 故に、隊を作る。

 魔法を使える者を前衛に、大体三部隊に分けたいな。


 

「……リューネ、風と治癒の魔法が使えるわ」


 先ずはリューネが名乗り上げ、次にセレスが前に出る。

 熱が籠った目でオレを見ながらセレスは笑みを浮かべた。


「セレス、水と治癒の魔法を心得ております。どうかお見知り置きを」


 気品ある立ち振る舞いでオレに向かって頭を下げるセレスを、リューネが怪しむような目でオレとセレスを見る。

 気づいている素振りを見せずセレスはオレから目を離さない。怖い。


 そんなことはどうでもいいとばかりに

 奴隷未満の中から一人、前に出る奴がいた。

 緑の髪に穏やかな表情を浮かべている、何処か大人びた男だ。


「初めまして、と言っても。牢屋の中で顔を合わせてるんですが、自己紹介をする機会がなく失礼ながら今一度紹介させていただきます――――英雄殿」



 ……なんだコイツ。

 誰が英雄だ、やめろ気持ちわりぃ。

 だけどちょっと嬉しいじゃねぇかこの野郎。

 気を良くしてオレは目で言葉を続けるように言う。

 通じたのか、その男は優雅に言を続けた。


「では、僭越ながら……歳は十三。名は”ハクキ”、使える魔法は全てです(・・・・)。よろしくお願いします、英雄ジーク殿。並びに、この身と同じ奴隷未満さん達」


 イーグスが「よろしくね!」と元気よく言い、他の者もよろしくと後に続く。

 変わったヤツだ。

 そんな感想を内心で零しながら【魔力視】を発動する。

 奴隷未満達の中で魔力量が一番多いのはリューネ、次にガゼル、ハクキと名乗った男、そして気弱そうに顔を伏せている名前の分からない男。その他大勢と同じ魔力量がセレス。

 

 確認のため、聞いておく。


「セレス、貴様は本当に魔法が使えるのか」

 

 魔力を宿しているのは確かだから魔法は使えるだろう。

 だが、魔力量が一般的なセレスがどれほどの魔法を使えるのかが気になる。

 セレスは一瞬だけ申し訳なさそうにして、すぐに自信がありますとオレの目を見る。


「……はい、お気づきの通りわたくしが使える魔法は微々たるものですが。少し変わった(・・・・・・)魔法を扱えます。そうですね……ジーク様と同じような魔法が使えます」


 セレスの目に魔力が集まる(・・・・・・)


 ――――【魔力視】か。


 なるほど。

 オレ以外にも使えるやつが居たのか。


「……飲み込まれそうな魔力を持っていますね、ジーク様は」


「当然だ。オレを只人だと侮るなよ」

「心得ております。やはりジーク様はわたくしの太陽です」


 どうしてそうなる。

 が、コイツのありようを気にしては思考が曇るので気にしないようにする。

 足を動かし、セレスの横を通り過ぎる。

 スタスタと素足で硬い地面を歩いていき、顔を下に向けている気弱そうな男の前に立つ。

 やはり魔力量が多い。

 それにコイツの魔力は…………。


「……おい、顔を上げろ。そして名乗れ」

「…………」


 ……無視されただと。

 頭を叩きたい衝動に駆り立てられるが気持ちを落ち着ける。


「返事をしろ、赤髪」

「……はい?」


 二度目の言葉で反応をし、気の抜けた声を出したながら顔を上げる赤髪。

 猫背で気弱そうな顔だが、芯が有る(・・・・)

 自分が決めたことをやり通すような、なにかを感じる。


「名乗れ」

「……えっと、自分は”ヤト”っす」

「歳と、使える魔法は?」

「十二で、土の魔法が使えるっす」


 使える魔法があるのに、なぜ返事をしなかった。

 オレの声が小さくて聞こえなかったのか。

 ともあれ、魔法が扱えるなら使える(・・・)


「今から街まで行く為の、組み分けを伝える。よく聞いておけ」

「あ、はいっす。ところで名前なんっすか? ちょっと此処に立ってるのが夢みたいな出来事で話を聞いてなかったっす」

「……ジークだ。よろしくな、ヤト」

「うっす、自分はヤトっす」


 それは聞いた。

 なんとも気の抜ける男だと思いながらも、元の位置に戻る。


 


 振り返り、全員を見渡す。

 オレを希望と崇めている表情だ。

 悪くないが、責任が重い。

 オレは天才だが、人に指示を出す人間では無い。

 どちらかと言えば一人で好き勝手やりたいんだが。

 致し方ない。

 希望を持たせたオレには責があるのだから。


 声を張り上げる。


「ではこれより、組み分けを決める。魔法を扱える者が先頭に立ち、皆を守れ。力ある者は古来より、弱者を守ってきたのだからな」



「リューネが先頭に立つ遊撃部隊には、体術で戦える者を置く。体術に自信がある者は名乗り上げろ」


 名乗り上げた者達をリューネが睨む。

 八人が名乗り出た。その中にはラーグが含まれている。

 体格が良い奴らばかりで、全員が十二歳以上だ。

 

「次に、セレスが先頭に立つ調査部隊には食料に詳しい者、又は魔物に詳しい者を置く」


 そこまで言い終えると、セレスが前に出て言葉を発する。


「魔物に詳しい人、又は食べれる物がわかる人は挙手してください」


 気品のある佇まいでそう述べると、十一人が手を挙げた。

 ガゼルもその中に入っており、恐る恐るといった感じだ。

 セレスの前に立ち、自己紹介をしていく十一人を横目に声を出す。


「ハクキが率いるのは偵察部隊だ。どの部隊よりも前に進み、魔物を発見してなるべく戦闘を避けるように進んでいく部隊だ。足が早く小柄な者は名乗り上げろ」


 穏やかな表情を浮かべるハクキの前に九人の男女。

 女が七人に男が二人だ。

 女の割合高いな、たしかにハクキは落ち着いていて安心ができる雰囲気があるからな。

 にしても女が多い。役に立つのか疑問だな。


 まぁいいかと、残った十三人を見る。

 体術もできず魔法も使えず、魔物と食料の知識もなく足も早くない奴ら。

 イーグスとヤトも含まれており、どいつこいつもイーグスを除いて自信がなさそうな顔だ。


「残った者達はこの天才魔法使いカッコワライのジーク様が引き受ける。ゴミ共(お前ら)の仕事は食料を運びながら、


  オレに鍛えられること(・・・・・・・・・・)だ。光栄に思え、ゴミ共(お前ら)


 ゴミ?と一斉に首を傾げる奴隷未満達へ、オレを声を張り上げる。


「返事をしろ!!」

「「「はい!!」」」

「わかった〜ジークについて行けば良いんだねー」

「え、っと、つまり雑用っすかね……?」


 ヤトが核心をつき、オレは頷いておく。

 やる気のない顔を更にやる気ない顔をするヤトを見ないようにし、各々を見る。


 自己紹介をし、勝気な表情で浮かべているリューネ。

 遊撃部隊の中にはそんなリューネを見て、顔を赤くする者達が居る。やめておけと心で呟き、セレスを見る。

 笑みを浮かべて、調査部隊の者達に何かを説明している。

 ふむ、問題ないようだな。

 ハクキも穏やかな顔で何事かを説明して、士気を上げている。素晴らしいな。偵察部隊を任せてよかった。


 オレは雑用部隊に目を向け、一人一人から名前を聞いていく。













 時は過ぎ、調査部隊が見つけた広々とした安全なところで全員が腰を休めている。

 食料もなく、木々に囲まれた変哲もない草が生えた地面。

 魔物と魔獣は食料に寄ってくるので、此処は安全だろう。ほんと良いところを見つけたもんだ。

 あの地下室があった小屋から三時間も離れた場所なので、追っても来ないだろう。

 そもそも追ってが来るのかも謎だが。念には念を。


 周りを見渡すと、既に寝いっている者が多数。

 安心しているのか皆が気持ちよさそうに寝ている。

 ハクキとラーグは警戒しているのか、森の奥に目を向けている。

 先程『仮眠はしておけ』と言ったが、曖昧に返事を返されただけだった。きっと寝ないつもりだ。

 なんとも安心できる奴らだ。

 

 せっかく守って貰っているので、イーグスの横で目を瞑ることにする。

 既にイーグスは寝ている。

 こちらもぐっすりだ。


 夢の世界には街に着くまで行きたくないので、少し距離をとって寝ることにする。


「……いざという時は起こせ、二人とも」


 ハクキとラーグが小さな声で返事をしたのを最後に、オレの意識は暗転する。







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