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【夢想世界】  作者:
第零章
6/16

脱獄・後




 ――――四十四日目、夜食後。



 昨夜、ラーグと絆を深めた。

 あれから話をし、脱獄に可能な限り力を貸してくれることになり感無量だ。


 ちなみに【夢想世界】には行けなかった。

 きっと寝ているイーグスに触れていなかったからだろう。

 

 こちらも心が休まるので良かった。

 今は兎に角にも脱獄をしたい。

 既に計画はできあがった。

 要となるのはラーグとリューネの存在だ。

 オレが魔法を使い魔封じの枷を壊していき、リューネの魔法とラーグの剣術で脱獄の可能性を高める。

 

 当然な話だが、オレはこの地下に居る奴隷未満達を全員助けるつもりだ。




 ラーグに聞かれた、なぜ全員助けるのか、と。

 きっと心にもない疑問だろう。

 純粋に気になっただけの、そこに悪意などなく只の疑問に過ぎない。



 その疑問には言葉を詰まらせた。

 オレはなぜ助けるのかと自問自答をした。


 蘇るのは五年前のなにもできずに吐いていた記憶。

 優しいと思っていた両親と兄の気持ち悪さと、苦しそうにしている奴隷達の前で力なく眺めている不甲斐ない自分。

 両親に、自分に吐き気が抑えられなかった。

 


 ひっそりと奴隷達に会いに行き、話を聞いた。

 なぜ死なないのか、と。

 死んだ方が楽になれるはずだと、馬鹿なオレは考えていた。


 奴隷達はオレを睨みつける。

 しかし、一人だけオレの目を真っ直ぐに見てくる奴隷が居たんだ。



『――――私には娘が居ます。娘の幸せを近くで見ていたい。貴方にはわからないことです。ですが、言わせて頂きたい。私を、私達を解放してください……っ!!お願いします……っ!』


 頭を下げ、藁にも縋る思いでオレに頼んできた人。

 名前も歳も知らない。

 だけど、頼まれた。

 それから五年後にオレは奴隷達を逃がした。







 遅かった、その人は死んでいた。

 手遅れだったんだ。

 一緒に逃げている最中、奴隷達がオレに告げてきた。


 あの人は私達の希望だったと。あの人は三日前に亡くなったと。あの人は私達をよく庇ってくれたと。あの人は、あの人は……。


 数々の賞賛と隠された誹謗(ひぼう)を前に、オレの足は竦んでいた。

 奴隷達に大量の金貨、クソ親共の財産を渡し。

 奴隷達が去った後に。

 泣いて泣いて、クソ親共を腹いせに殺すことにした。


 あと三日早ければ良かっただと。

 ふざけるな、オレの十歳の誕生日だったからクソ親共は家に居なかったんだ。

 王城で誕生祭をした後に急いで帰ってきて計画に移したというのに、なんで死にやがったんだ。


 そんな思いで、オレは牢屋の中で【奴隷紋】を押され泣き叫んでいた。



 ラーグの疑問にオレは言葉を詰まらせた。

 だが、すぐに答えを出したんだ。


『――――助かる命が目の前に有るんだぞ。助けるに決まってるだろうが。ふざけたことを言うな』


 ラーグは笑っていた。

 盗み聞きをしていたリューネなんかは吹き出していた。

 何が面白いか分からないが、認められた気がして……悪くはなかった。



 自分の思いを再確認して、目を開いて告げた。

 


「やるぞ」


「あぁ」

「うん」

「えぇ、やりましょう」

「…………?」


 寝ながら聞いていたガゼルが自分と一緒に返事をしたことにラーグは驚き、リューネの気合いの籠った声にイーグスは首を傾げる。


「イーグス」

「うん? どしたの」

「一緒に脱獄するぞ」

「脱獄? あ、みんな行くんだね。わかった! ぼくも着いていく!」


 みんなが行くならぼくと行くと、イーグスは言う。

 気楽でいて、とても頼もしいやつだ。

 やはり必要不可欠な存在だな。

 ラーグ、リューネ、ガゼルが笑っている。

 

「それでこそだ、イーグス」

「うん、そうだね兄さん」

「えぇ、一緒に参りましょうイーグス」


 うん、と元気よく返事するイーグスを横目に口元が緩くなるのを自分でもわかった。
















 想像する。

 小さく、鋭利な刃を。

 氷でできたそれを魔封じの枷に近付ける。

 魔力で作られた鋭利な刃がゆっくりと拡散していくのがわかる。

 しかして、込められた魔力量が多く、崩れない。


 ――――斬る。


 抵抗はなかった。

 右手に有った魔封じの枷が斬られ、石の床に落ちる。

 オレは唖然とした。

 まさか、ここまでとは思わなかった。


「……本当にできたのか」

「凄い……」

「ふ、ふん、当然よ。あそこまで啖呵切ったんだから。調子に乗らないでよ」

「わぁ、ジークってば凄いね!」


 何やら周りが言っているが耳に入らなかった。

 斬れ味は想像した通りだった。

 しかし、だ。


 ――――こんなもんなのか、と驚いている。


 オレは左手に魔力を込める。

 当然、左には魔封じの枷が付けられているので魔力は拡散していく。


 微量。

 

 思い切り左手に魔力を込め強引に左手と両足に付けられている魔封じの枷を風の魔法で斬る。


「「「……ん?」」」

「わぁ! 一瞬だ!」


 つまりだ。

 要するにだ。

 考えたくないが。

 

 オレは初めから強引に魔封じの枷を斬れたみたいだ。

 魔力を思い切り込めて、少量の魔力が拡散しても全力でやってれば魔封じの枷なんか最初から壊せた。


 よし、この数日で魔力を溜めれたから無駄ではなかった。

 さて、と全員の魔封じの枷を風の魔法で壊す。

 音なく斬れたが、石の床に魔封じの枷が落ちたことでガチャンと音が鳴る。


 暫しの静寂後、周りから音がしないことに安堵し全員の顔を見る。


 【魔力視】発動。

 全員の魔力量を見る。

 ラーグは自己紹介の通り、魔法が苦手なので納得の魔力量だ。

 しかし、ガゼルとリューネは見てきたどの大人よりも魔力が有る。


 イーグスは…………なんだこれ。

 規格外どころの話じゃない。

 もはや頭おかしい。

 今も魔力が増え続けている。

 だがこれは……どこかに魔力が吸われている(・・・・・・・・・)

 有り得ない現象だが、イーグスなら有り得るかと納得してしまう。


 イーグスから目を逸らし、魔封じの枷を見る。

 目を細める。

 魔封じの枷からは”白い点々”が放出していた。

 天才的頭脳(笑)で即座に原理を理解する。

 白い点々は魔力だ。

 【魔力視】しないと見えないってことはそうだろう。

 青い点々をぶつけると白い点々が青い点々を分けて、拡散していく。

 別の魔力だ。

 魔封じの枷は、魔力を放出する魔法陣が彫られているってことだ。


 それも――――この世界の魔力じゃない魔力を放出している。


 有り得ないな、しかし別世界の人間を見た後じゃ有り得ることだと納得してしまう。



「アフォ」

「なによ」

「魔封じの枷は誰が作ったかわかるか」

「……アンタそんなことも知らないで私にアホっていうの? 自分の方がアホだって認めたら教えてあげてもいいわよ」


 減らず口を叩くリューネに頭を下げる。


「オレの方がアホだった。教えてくれ」

「…………”ヒガミ・カルラ”よ。三十年前に現れた年齢不詳の女性。【”異世界人(いせかいじん)”】で王に”召喚”されてこの世界に来て一年で功績を認められ、貴族の位を授かった人。ていうかなんで知らないのよ。結構有名な話だけど?」


 ……何の話をしてるんだ。

 知識の前には自尊心なぞ要らぬと思って簡単に頭を下げたが、何の話をしてるんだ。


「ふむ、有名な人だな。しかし魔封じの枷はその人が作ったのか」


 ラーグが納得して、リューネに聞く。


「えぇそうよ。あまり話は広がってないでしょうね。なんせ犯罪者の為に作られたものだから」

「犯罪者には有用な魔具だけど、ちょっと勘弁して欲しいかな」

「まさか当人も奴隷未満に使われてるとは思ってないでしょうね…………って、今はこんな話はどうでもいいのよ! さっさと逃げるわよ!」


 オレにとってはこんな話で済まされないが、確かに一理ある。今は脱獄すべきだ。


「おいアフォ。脱獄が終わったら詳しく聞かせろ」

「だからアフォって呼ぶな! さっき頭下げたのはなんだったのよ!」

「演技だ」

「死ね!」


 喧しい女だ。

 だが悪くない。

 緊張など一切してないようだ。

 あぁ、悪くない。


 行くとするか。


 ――――牢屋の柵を斬る。



















 


 石の床を小走りで足を進め、すぐに見つけた。

 涙で顔を濡らしている奴らを。

 信じられないような目でオレを見ている。

 右手に風と氷を纏い、右手を鋭利な刃とする。

 抵抗無く牢屋の柵を斬り、声を掛ける。

 


「――――オレ達と一緒に生きろ」


 魔法を拡散させた右手を差し出す。

 

 








 





 ――――オレを合わせて総勢四十五人。


 奴隷未満達に声を掛け、連れてこられた奴隷の場所も教えてもらい十八の牢屋を見つけた。

 オレとイーグスが居た牢屋を合わせると全部で二十の牢屋。

 おそらく全ての奴隷未満を見つけただろう。

 後尾にラーグ、ガゼル、リューネ、図体が大きい奴隷未満を配置して守らせ、前はオレ一人で守る。


 隣に居るイーグスはこんな状況でも笑みを浮かべている。

 何処までも頼もしいやつだ。

 オマケに奴隷未満達を会話で和ませているのだから。

 なるほど、一生勝てないという認識は間違っていなかったようだ。


「ねぇジーク、どこが出口なの?」


 呑気に質問してくるイーグスに、オレは頷く。

 確かに全ての道という道を歩いた。

 なのに出口らしきところは無いな。

 

「……イーグス、お前は運ばれている時のことを覚えているか」

「運ばれている時のこと?」

「そうだ」


 奴隷未満は大きな袋に入れられ運ばれる。

 中は真っ暗で、人によっては恐怖しか感じない世界。

 音が響き渡り、自分は何処に運ばれるんだろうかという不安が押し寄せてくることもあるだろう。


「あ、あの時ね! 楽しかったね!」

「……そうか、お前はそうだな」

「?」


 不思議そうな顔をするな。

 普通は怖くて何も出来ないだろう。

 しかし、オレは違う。

 足音に眼帯の男の足幅をしっかりとこの耳と目で計算した。


 故に知っている。

 この場所を通ったことを。


 足を止める。


「――――此処だ」


「…………ジーク、壁だよ?」


 そうだね、壁だね。


 気楽な声に緊張感を無くしながらも、オレは壁に左手を入れる(・・・)

 貫通する左手を見て、奴隷未満達は驚愕に目を開かせる。

 イーグスだけは目を輝かせている。


「行くぞ」


 一声かけ、オレは壁に足を進めた。

 壁の中【魔力視】で下を見る。

 床には魔法陣が彫られており、風の魔法で魔法陣にバツ印の線を付け足す。


 白い点々が拡散する。


 つまりこの魔法陣もヒガミ・カルラが作ったのだろう。

 壁が有った場所で、いつか顔を殴ろうと決意した。


 振り返り、奴隷未満達を見る。

 全員がオレを見ている。


 希望に満ちた目で、生きて良いんだと。


 責任感が押し寄せてくる。

 覚悟がまだ足りなかったみたいだ。

 足が震えそうになるが、キッと前を見る。

 そうだ、オレがお前らの希望だと睨んでやった。


「「「「「ひぃ」」」」」

「あははは! ジーク顔が怖いよ! はははは!」


 ……。

 たしかに睨んだが、そこまで怯える必要あるのか。

 まぁいいかと、再び進む先へ振り返る。

 階段だ。

 ようやく地下から地上に出れるのか。


 長いようで短い日々だった。

 少しだけ感慨深くなるが、脱獄してから感動することにしよう。


 今はまだ、地獄だ。

 ボロボロの素足で階段を上がっていく。

 何が起きてもいいように風の魔法を身体に纏う。

 魔力が勿体ないが安全性を高める為だ、仕方ない。

 もし階段を上りきった先で監視が待ち構えていて攻撃されたら防げるように、だ。


 自分に言い聞かせ続け、ついに階段の先に着いた。

 重々しい扉だ。

 取手も何も無い、押しても開かない。

 つまり、何らかの魔法陣が彫られた鉄製の扉。

 後ろを見なくてもわかる。

 奴隷未満達が不安そうにしているのを。


 こうなれば仕方ない。

 


 右手に氷を纏い、風を吹き荒らせる。

 其処に焔を咲かせた。


 

「か、かっこいい……ッ!!」


 集中し、吹き荒れる焔を目前の扉へ全力で放った。

 轟々と鳴り響く焔は瞬く間に鉄を溶かし、扉を吹き飛ばす。熱さなど無い。何のための氷か。


 焔を放ったと同時に右手で纏っていた氷はオレと、後ろに居る奴隷未満達を護る為に翼の様に広がっている。


 この力で奴隷達(・・・)を護りたかった。

 ついぞ望みは叶わなかったが。

 護る為に力は発揮できた。


「なんだ!?」

「何が起きた!?」


 扉があった場所の奥から声が二つ。

 【魔力視】発動。

 視える、敵の位置が。

 焔を操作し、敵に当てる。


「うぐああああ!」

「ヒィッ、あがあぁぁぁあああ!」

 

 即座に焔と氷を消し、踏み込む。

 燃え盛る木製の床の上で転げ回る二人の男。

 一人は何度も見た顔だ。オレにクソガキと抜かした男だな。

 もう一人は飯を持ってきたことがない男だ。

 おそらく扉の前で監視する仕事をしてるんだろう。

 

「た、助けてくれぇえええ!」

「――――ぁ、が」


 一人は叫ぶ力が残っているみたいだが、もう一人は今にも死にそうだ。

 仕方なく死にそうな男に水を落とす。

 聞きたいことが山ほど有るからな。

 しかし、


「…………」


 物言わぬ死体となっていた。

 今更、殺すことに戸惑いはなく。

 オレの心は一つも傷つかなかった。

 もう一人の男を見る。

 声にならない声を上げ、涙を流しながらオレを見ている。

 助けてくれ、何でもする……そんな声が聞こえてくる。


 水を落とす。

 生き長らえた男は、未だ身体が熱いのか蹲っている。

 近づいていき、頭を蹴る。


「うごぉ!?」

「黙れ、声を出した瞬間に首を切り裂く。オレの質問には頷くだけで応えろ」


 男はみっともない顔でゆっくりと頷く。

 後ろのヤツらにどんな目で見られてるか少し気になるが、ひとまず置いておこう。

 男の背中に乗り、首に人差し指と中指を置く。


「此処は”ガルーラ森林”か?」


 頷く。


 やはり此処はガルーラ森林か。

 オレが袋に入れられてから、”ディグル”という乗り物に乗せられ数時間ほどで着く場所は数少ない。

 地理については教養がある方だ、奴隷達を逃がす為に様々な場所を記憶したからな。

 そして奴隷は本来なら違法で、人目がつかない場所に隠すとしたら街は有り得ない。

 選択肢は簡単に絞れた。


「”フィンゼル(がい)”は西に有るか…………東か…………北か」


 頷かれない。

 つまりフィンゼル街は南に有るみたいだ。

 ガルーラ森林はフィンゼル街を囲うように広がっているからだ。しかし4分の1を3回外すってとんでもなく引きが悪い男だなオレ。いや、4分の1外して3分の1外して2分の1を外したから…………まぁいいか。


 男の背中に座りながら辺りを見渡す。

 此処は……小屋か。


「喋るのを許可する。金はあるか」

「な゛、な゛い゛!!」

 

 喉が焼けている。

 悪い事をしたな。

 反省終わり、次の質問に行くか。


「眼帯の男は何処にいる」


 地面に顔を擦り付けながら首を横に振る。

 知らないようだな。



 次の質問をしようとした時、肩に手を置かれる。

 状況が状況なだけに、即座に魔法を纏う。

 顔だけを動かし、肩に手を置いた人物を見る。



 …………変顔をしているイーグスだ。


「にかーーー」


 何がしたいか分からず、黙ってイーグスを見る。


「にかーーーーー」


「黙れ」

「酷い」


 思わず口にした言葉を即座に返すイーグスは、笑顔のまま言う。


「さっきからジークってば怖い顔だよ。もっと笑おう、にかーーーー」

「いい加減殴るぞ」

「うわぁー酷い。泣いていい?」


 下に居る男が微かに動き、指に魔力を即座に込め少しだけ斬る。


「ひぃッ!?」

「どさくさに紛れて逃げようとするな。次やったら殺すぞ」


 ガクガクと震え出す男を尻目に、イーグスを見やる。

 今から泣くような顔ではない。

 そもそもこの女みたいな顔をした男が泣くところなんか想像もできない。

 

「イーグス、今は大事なことを聞いてるんだ。お遊びに付き合うつもりは無い。分かったら少し離れてろ」

「嫌だ!!」


 笑顔で言ってくるイーグスに頭を抱える。

 いったいコイツは何を考えているんだ。

 奴隷未満達はもう一人の男が倒れている姿を見て、何やら覚悟をしたような顔をしているというのに。


「何が言いたい」


 本当に分からず聞く。

 イーグスは「にかー」というヘンテコな声を出して、提案をした。


「その人を生かそう!!」

「……訳が分からない。コイツを生かしたところで人質にも使えないし、金を貯めてるように見えない。さらに言ってしまえばオレ達のことをクソとか言ってくるクソ野郎だぞ。此処に居るということは奴隷商人にも手を貸している救いようのないクズ野郎。生かしてても価値は無いと思うが?」


 勝手に口から出てきた言葉に、自分で言っていて驚いた。

 感情的になると口が勝手に動くのは五年も前のことで。

 オレはこの男に心の底ではイラついているのだとしれた。

 

 自分の感情に整理をつけ、全ての疑問に答えさせて殺そうという意志が大きくなる。

 

 しかし、それでも、イーグスは言うのだ。



「――――生かそう。その人がぼく達にとっていやなことをしたら、ぼくがぜったいに許さないから。だから、生かそう」


 許さないからなんだと言うんだ。

 嫌なことが取り返しのつかないことだったらどうする。

 

「その人はいままで悪いこといっぱいしたかもしれない。だけど、泣いてる(・・・・)。きっとやり直しができるんだよ」 


 ……なんだそれは。

 泣いてる人間がやり直せる、だと。

 どんな極悪人でもコイツは、やり直せると思ってる。

 危険だ。

 嘘の涙を流す奴が世の中には腐るほど居る。


「たずけ゛てく゛さい゛」


 ……馬鹿らしくなった。

 そうだ、どうせこのみっともなく命乞いをしている男は裏切る。

 ならば、イーグスに教えよう。

 世の中には救いようがないクズ野郎がいることを。


「……手足を縛り、魔封じの枷を付ける。それでいいな?」


「――――うん!! にかーーー!!」


 









 何事も無く小屋を出て、森に出る。

 体格の良いラーグと奴隷未満の男が、火傷だらけの男を紐で引っ張りながら歩く。

 魔封じの枷が両手両足に嵌められているので魔法も使えないから危害は加えないだろう。おまけに傷だらけだからか歩くのが精一杯で、歩を進める度に顔が歪んでいる。ざまぁ。


 確かに生かしておかないとここまでの愉悦感は抱けなかったかもしれない。イーグスに感謝を。




 ともあれ、目指すはフィンゼル街だ。

 時間は月の位置で分かり、方角も問題ない。

 だが、真っ直ぐにフィンゼル街に行くのは危険だろう。

 もし奴隷商人がフィンゼル街にいた場合、ばったり会うなんてことも考えれるからな。

 ならば迂回して行くべきか。


 舌打ちを一つ。

 オレを含む奴隷未満達は四十五人。

 方角はわかるが、距離は正確にわからない。

 

 となると、食糧などが必要だ。

 ガルーラ森林には魔物と魔獣が多数生息する。

 文献で見た限り、魔物はスライムとゴブリン。

 魔獣はコボルトと……”人狼(じんろう)”だったな。


 魔物は知能が少ししかない、だが魔獣は人を凌ぐ知能があると本に書かれていた。

 コボルトは五十以上の集団で群れ、人狼は夜以外は人の姿であり、隙あれば人を食べると言われていた(・・・・・・)魔獣だ。

 スライムは核を潰せば絶命するし、ゴブリンは集団を作り誰彼構わず襲うが弱い。

 コボルトと人狼は危険だと思うかもしれないが、滅多に人を襲わない。コボルトは草を食べてれば生きながらえるし、人狼は月の光を浴びれば何も食べなくてもいい。


 つまり、食糧がない。

 食べれる魔物も魔獣もいない、この森には。

 キノコとかあれば良いが。

 最悪、魔法で作った水で良いな。



「何考えてんのよ」


 リューネが話しかけてきたので適当に頷いておく。


「…………なによ!!」


 喧しい女だ。

 ガゼルがオレとリューネを見て笑っている。

 よく見れば周りの奴隷未満達も笑ってやがる。

 不細工に泣きながら笑っている者もいれば、安心したように笑ってる者も居る。


 

 脱獄は成功した。

 運が良かったんだろう。

 本来ならあの眼帯男とデブが居たはずだ。

 本当なら引導を渡してやりたかったが、仕方ない。

 安全に脱獄できたので良しとしよう。

 

 リューネを無視し、どうしてか大きく息を吸っているイーグスに話しかける。


「すぅーーーーはぁぁぁああ」

「……何をしてるんだ」

「あ、ジーク! 見て見て! 息を吸えてる!!」


 怖い。

 相変わらず何考えてるかわからない女男だ。

 しかし、なるほど。

 オレはコイツのことを何も知らないんだな。


 これからだ。

 知っていこう、これから。

 オレ達の人生は一度止まった。

 この日をキッカケに、また歩きだそう。


「行くぞ、イーグス」

「うん! 行こうか! ……ところでどこに行くの?」


 そんなものは決まっていると、心の底から笑ってやる。



「先にだ、まだ見てない景色を見に行くぞ」


「あ、それ面白そう!!」



 風が吹き、木の葉が舞う。


 牢屋生活四十五日目に四十五人を引き連れ。

 オレの人生はまた始まるのだった――――。






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