夢の始まり・後
――――四十一日目。
イーグス。
そう名付けた瞬間、イーグスは倒れた。
限界だったんだろう。
細い体躯だ。
元々身体は弱い方なのかもしれない。
倒れる最後まで心は耐えていた。
尋常な精神力。
どっかの天才魔法使い(笑)にも見習って欲しいものだ。
「あ、あの、ジーク、君」
苦節四十一日目、とうとう双子先輩から話しかけられた。
なぜ今になって話しかけたのかは謎だが、気軽に返事をしてやろう。
「――――なんだゴミ、用でも有るのか?」
「…………」
「……すまん、なぜゴミなのだ?」
話しかけた方ではなく、後ろに控えていた双子先輩が問い返してくる。
なぜゴミなのか?と。
…………なんのことだ?
「わかるように話せゴミ共、何が言いたい」
「「…………」」
ダメだこりゃ、会話にならん。
オレが戸惑っていると、後ろから刺々しい声が来る。
「意味がわからない、あなたさっきから人のことをゴミと言ってなんなの? その人達のことを馬鹿にしてる」
……振り向く。
イーグスに膝枕をしている金髪女が居た。
「……意味がわからないのはこっちだゴミ。
オレがいつゴミと言った」
「あなた頭おかしいわね 、さっきからゴミゴミって言ってるわよ」
思い返す。
……やべぇ心当たりねぇ。
なんのことを言ってんだこの金髪。
頭おかしいだろ。
「話にならん」
「……話にならないのはこっち、この子と話してる時と話し方違うし。ほんと意味わかんない」
訝しげに睨んでくる金髪。
仕方なくもう一度思い返してみる。
ゴミ……ゴミ…………ん?
何処かで聞いたことある。
あれはそう……クソ親共だ。
『ゴミ共め、さっさと並べ』
『ふぅ、ゴミクズの癖に手こずらせてくれる』
『あらあら、貴方達ゴミ共にあまり近づき過ぎないでね、病気が移っちゃうじゃない』
『はははっ、ゴミの苦しんだ顔を間近でいつも見て楽しんでる母さんが言うことじゃないよ』
『ははははっ、なかなか冴えてる冗談じゃないかお前。久方ぶりに笑えたぞ』
『あらあら貴方達を笑わせたなら良かったわ、ふふふっ』
『『『はははははっ!!|(ふふふふっ!!)』』』
もしかしてオレ……っ!感染してる!?
とんでもない事実に気づき、改めて思い返してみる。
…………言ってる。
間違いなく言ってやがる。
クソがっ!なんの呪いだ!!あいつらぜってぇ許さねぇ!
双子の方に向き直し、頭を下げる。
「…………すまなかった」
「「「……え?」」」
「おそらく呪いだ。オレは人をゴミと言ってしまう呪いにかかってる」
「「「……馬鹿な」」」
なんだコイツら仲良いな。
オレも混ぜろよ、んで力を合わせて脱獄しようぜ。
「誓って嘘は言ってないぞゴミ共」
「「「嘘つけ!!」」」
なんで〜?
「ん……」
微かな声に反応し振り向く。
金髪の足の上で眠っていたイーグスが目を覚ました。
寝転がった状態で目を開け、金髪をじっと見ている。
どうしてか顔を真っ赤にする金髪。
風邪か?、ったく移すなよ〜。
などと考えているとイーグスが声を発する。
「……おはよう?」
「お、おはようごじゃいます!」
……誰だアイツ。
めちゃくちゃ顔赤くなって噛み噛みじゃねぇか。
「あ」
そう言って身体を起き上がらせるイーグス、ゆっくりと顔をオレに向け苦痛の笑みじゃなく満面の笑みを見せてくる。
「おはようジーク!!」
「おう、おはようさん。よく寝れたか、そのゴミの膝の上で」
「……ごみ?」
「……呪いだ、人をゴミと言ってしまうな」
嘘つきという目で見てくる金髪の横でイーグスが不思議そうな顔をする。
「凄い……そんな呪いあるんだ。怖いね世界って」
「あぁほんとにな」
「「「信じた!?」」」
信じるも何も本当の話だ。
純粋に信じたイーグスと違ってコイツら純粋さが足りないと頭に入れとく。
ともあれ、と。
オレは話題を切り替える。
「――――イーグスも起きたことだ。ゴミ共もいい加減に名前を言え。おそらくこの呪いは名前を知ってたらゴミと言わないはずだ」
知らんけど。
適当なことを言って自己紹介をする。
「先ずはオレから――――唯のジークだ。唯一無二のジークと書いて、唯のジーク。天才魔法使いカッコワライにして、唯一無二の存在だ。よろしく頼む」
「うん! 改めてよろしくねジーク!」
「……意味わかんないけどなんか格好いい」
「騙されるな弟よ。とりあえず格好をつけてるだけの男だ」
「関わりたくない人種ね、というかカッコワライって自分で笑ってんじゃない。唯一無二の馬鹿ね」
このアフォ女ァ。
しかし文句を言ってしまえば話が進まないので無視だ。
それとちょっと赤い目を濁らせてるのが双子の兄だな、覚えたぞ。
次は誰が自己紹介をするか決めずに、自己紹介は進んでいく。
「ぼくは名無しだけど、ジークにイーグスって名前をつけられました! ――――無知で無能で馬鹿だけど精一杯奴隷になります!! よろしくお願いします!!」
「は、はひぃ! よ、よろしくおねがいしゅましゅ!!」
「「「……」」」
なんだその可哀想な自己紹介。
精一杯奴隷になるなよ。
辛いぜ奴隷は、見てるこっちが辛くなるぐらいだからな。
というかあの金髪はなんなんだ、噛み噛み過ぎんだろ。やはりアフォなのか。
「……おう、よろしくな。まぁなんだ、自己紹介が終わったら奴隷について話してやるよ」
「う、うん、よろしくね」
「…………どんな境遇だったんだ」
双子兄が感慨深そうに視線を向け、双子弟は一瞬戸惑ったものの純真な目を向けている。
アレ、オレはイーグスにしかよろしくされてないぞ。
まぁいいか、オレは宜しくしたしな。
次は双子弟が自ら名乗り出た。
どことなく気弱な雰囲気が有るのに意外と積極的なんだな。
「ぼ、ボクは”ガゼル”です……えっと、特に何もできません……はい、お、終わりです……すみません。よろしく、です……」
ガゼル、か。
まさかあの童話からの名前とは。
「なるほど、ガゼルか。風の神鳥と同じ名前とはな。気弱な様なのにあの勇敢な神鳥の名を冠するとは笑える。まぁ人生はこれからだ、自分なりの勇気を見せてみろ」
言い終えると何故か金髪に睨まれる。
あ、こいつオレのことずっと睨んでるから痛くも痒くないや。
「……この馬鹿は何から目線なのよ。絶対に自分のことを神とでも思ってるでしょ。ほんとありえない……、ガゼル君よろしくね」
「うん! よろしくねガゼルくん!」
ボソボソとした金髪の声など気にせず、双子兄に目を向ける。
双子というのは大抵似た名前だが、ガゼルに似た名前の童話の登場人物は聞いたことがない。
似てないない名前だろうか。
「……”ラーグ”だ。弟と同様に薬の調合を素人程度にできる。あとは魔法はからっきしだが、剣術を嗜んでいた。平民出身の奴隷未満だがよろしく頼む」
なるほど、ラーグか。
そうか。
「ラーグよ、よろしく頼む」
「……何こいつ、キモ。ラーグ君よろしくね」
「よろしくねラーグ!」
あのアフォ女ァ。
誠意を見せ特に余計なことを言わなかったら、キモって言ってきたぞ。
この女だけ、名前を教えられてもアフォとしか言わない自信がある。
金髪は無い胸を張り、堂々と自己の生い立ちを話す。
「――――私は”リューネ”。【魔女の森】でのびのびと暮らしてたところをあの眼帯に見つかって、此処に連れてこられた。得意な魔法は風と治癒。使える武器は弓と槍よ。よろしくね」
……【魔女の森】だと。
あの伝説の森だと……っ。
だが待て、おかしい。
「おいアフォ、なぜお前は耳が尖ってないんだ。文献を見た限り【魔女の森】に住まう者達はもれなく全員、”耳が尖っている”はずだ。お前の耳はどう見ても人族だ」
そうだ、【魔女の森】に住まう者達は耳が尖っている。
聴力は人族の何倍であり、”魔力の回復量が人族の十倍”だ。
魔法を使わせたら最強の種族”耳長族”。
どう見てもアフォ……リューネの耳は人族のそれである。
オレの疑問に対し、リューネは眉を顰めながら答えた。
「……アンタ何者よ。どれだけ……いえ、なんでもないわ。それよりも、私の耳が人族と同じなのは……人族と耳長族の血を半分ずつ持ってるからよ。魔法を使う時は耳が長くなるわね。アンタなんか魔法が使えたらぶっ飛ばしてるわ」
なぜオレをぶっ飛ばす話になったんだ。
訳が分からん女である。
「ふんっ、オレをぶっ飛ばすとは大それた夢物語だな。この天才魔法少年ジーク君カッコワライをな、失笑だ。夢は夢の中で見るもんだぞアフォ」
「ピキッ…………」
青筋を立てるアフォの横でイーグスが元気よく声を出す。
「よろしくねリューネ!」
「は、はいぃ!!」
一瞬で顔がドラゴンからスライムになったな。
なんだあの女は。
ガゼル、ラーグもよろしくと言い、自己紹介は終わりを告げた。
さてと、っと……イーグスに奴隷が何たるか教えようとしたが邪魔が入った。
微かな足音が聞こえる。
聴力が何倍もある耳長族の癖にイーグスを見て顔を真っ赤にしてるリューネに溜息を吐き、小さな声で教えてやる。
「ふぅ……静かにしろゴミ共。監視が来たぞ」
「「「え?」」」
「……?」
そろそろ体内時計的に朝だからな、パンと泥水を持ってくる時間だ。
ガゼル、ラーグ、リューネは状況を理解し牢屋の隅っこに音もなく寄る。
イーグスはようやく足音に気づき音の方向に目を向ける。
暗闇の中から姿を現したのは時々だが顔を見せる監視だった。
不気味な淀んだ眼光、フケまみれの赤髪に心あらずと言った表情の男。右手に重みが有る茶色い袋を引っさげている。
もしかしたら、奴隷かもしれない。
初めて見た時から考えていたが、この監視だけ態度が違う。
他の監視は見下して来るが、この男だけ見下していない。
近くに来た。
「……」
茶色い袋からパンと鉄製の器を取り出し。
ぽんとパンと鉄製の器を、イーグスの前へ柵越しに置く。
不思議そうにパンと器を見るイーグス。
赤髪の男は気にした素振りを見せず、続いてリューネの前にパンを置く。
そして手をかざし、丸い水の玉を瞬時に出現させポチャリとリューネの前にある鉄製の器に落とす。
「わぁ! 水だ!」
……不思議そうな顔から一転、イーグスはとんでもなく嬉しそうな顔で声を上げる。
一瞬、赤髪の動きが止まったが表情は動かさずイーグスの前に戻り、同じように水を器に落とす。
さらに目を輝かせ「うぉ〜」と声を出すイーグス。
なぜ、ただの魔法で驚いているのか後で聞こう。
「おじさん凄いね! ぼく初めて見たよ!」
聞く前に答えられた真相に、ありえないと考えた。
現にリューネも目を見開いている。
この世界なら魔法を見たことないなんてありえないんだ。
「…………そうか」
「うん! 」
――――無愛想で無表情な男と無邪気な笑顔の子供。
どうしてか、記憶に焼き付いた。
男が完全に去っていき、オレと双子は同時にパンと鉄製の器に手を伸ばす。
イーグスが来る前から繰り返された情景。
一つ違うのはガゼルがオレに笑みを見せて来たことだ。
「なんだ」
「う、うん、な、なんでもないよ」
ぎこちない笑みになるガゼルの後ろでラーグが声を出す。
「……知らないことをほど怖いものは無い。今迄知らなかったやつが、頼もしいやつだと知れたんだ。少しは安心する」
……ようわからん。
気にせずいつもの場所に戻り、パンを齧る。
相変わらず硬い、口の中の水分が全部持っていかれる。
不快になり、口の中で風魔法を使い切り刻み飲み込む。
無くなった水分を補給する為に口の中で氷の魔法を使いながら鉄製の器に持ち、傾け飲み干す。
魔法のお陰で温い水は冷たくなるが、クソ不味い。
黙々と食べ終えると双子はまだパンを食べていた。
魔法が苦手だと言っていたな。
そもそも天才魔法使い(笑)であるオレしか口の中で魔法を使えないか。すまんな、天才で。凡人じゃ思いつく筈もないしな。悪い悪い。
「…………凄く馬鹿にされてる気がする」
「人を見下す傾向があるんだろう」
双子が何やら言ってるがよく聞こえない。
「ねぇリューネ」
「ど、どうしたの!?」
「すっごく硬いね!」
「は、はいぃぃ……」
後ろの奴らがのほほんとした会話をしている。
――――たった半日で多数の変化。
脱獄の決心を強くし。
双子の名前を知り、金髪の名前まで知れた。
そして、蒼髪の名無しが隣人となり。
オレの視野を広くした。
これならば、話を持ちかけれる。
だが、まだその時ではないだろう。
イーグスがこの牢屋生活に少し慣れてから話すか。
今は、まだ――――――。
――――夜。
誰もが寝静まった頃、ふと目を覚ました。
オレはなるべく寝たいのだが、目を覚ましたものは仕方ない。
「……っ」
小さな声が聞こえた。
右からだ。
寝る時は壁に背中を預け眠っているため、パンを食べる時の場所の後ろから声がした。
イーグスだ。
リューネだったり双子とかと話して疲れて眠っていたのだが……、どういうことか苦しそうにしている。
あんなに痛みを我慢して笑ってたやつが、ただただ苦しそうにしている。
何があった。
リューネが寝相で不可視の風魔法でも使っているのかと一瞬疑ったが、リューネの両手両足にはしっかり魔封じの道具がつけられている。つまり魔法は使えないはずだ。
なおかつリューネはぐっすりと寝ている、それもヨダレを垂らして。
なら、どうしてイーグスが苦しそうにしているのか。
悪夢でも見てるのか?
……違う。
明確な根拠がある訳じゃない。
生まれた時からオレに備わる絶対的な”直感”が告げている。違う、と。
ちなみに直感は働かない時の方が多い。
だが、直感が働く時は大概がその通りにした方がいい。
オレが天才魔法使いである由縁は直感のお陰と言っても良いぐらいだ。
ガバッ、そんな音が鳴るぐらいイーグスは勢いよく起き上がる。
そして微かな声で息を切らしている。
「っ……」
じっと身動きせずオレは見る。
静かに息を整えるイーグスの姿を。
しばらくし、呆然としたイーグスに話しかける。
「……なにかあったのか」
「……っ!?」
ピクリと驚き、振り向くイーグス。
深い蒼き瞳が見開かれている。
しかし、すぐに落ち着きを取り戻した。
苦痛の表情から、ぎこちない笑みを浮かべる。
「ジーク……、良かった」
何が良かったのか。
オレには想像もできない。
直感が告げる。
――――想像もできないことだ、と。
あぁ、そうなのか。
コイツは、
何かを抱えているんだ。
直感が珍しく働く、煩いぐらいに。
――――何も聞くな、と。そう告げた。
「……あぁ、よく寝ろよ。如何せん寝心地が悪いだろう。だが、慣れればどうってことはない」
「あ、うん。そう、なんだね……」
何処か安心したようなイーグスを、ゆっくりと目を瞑ることで視界から無くす。
笑っていたが、なぜか悲しそうに見えた――――。
――――四十二日目。
朝に配られた食事を食べ終え、元気に話すイーグスを見やる。
「凄いねリューネって! ぼくは魔法使えないんだ!」
「わ、私も今は使えないです。この、”魔具”があるから……」
「まぐ?」
「え、えっとあの、ま、魔法陣が彫ってる道具のことです。私達がつけている四つの魔具は魔封じの枷と言って、まほうが使えないんです」
ふーんと納得したような顔をしているイーグスだが、おそらく意味を理解してないだろう。
辛うじで、まほうがつかえない、という話は理解しているようだが。魔法陣云々はなんのことかさっぱりという顔だ。
しかしこの魔封じの道具は、魔封じの枷というのか。
「そっかそっか大変だね、リューネってば」
「は、はい……」
いやお前も魔封じの枷付けてんだよ。
大変なのはお互い様だ。
アフォリューネはなんで慰められてんだろう。やっぱアフォなのか。
「なんだか、すっごい明るくなったね」
「……イーグスは安心感があるからな」
「うん、イーグス君って凄いよね。不安な筈なのに、全然そんな風に見えない」
双子の話に心の中で同意しておく。
気楽に話しかけてしまう安心感があり、話しかけなくてもあちらから話しかけてくる。
おのずと場の雰囲気も明るくなる。
さすがはオレが認めた男だ。
交友を深める為に話に入る。
「不安な気持ちを隠すことはガゼルもやっているが、あそこまで心から笑えることはないだろう。貧弱な心のガゼルとは違い、アイツは心が強すぎるから比べる必要は無いぞ。」
「……あ、はい」
「弟よ、安心しろ。ジークに悪気は無い」
なぜ悪気云々の話になるかはサッパリだ。
あまり人と会話をしたことないので、ラーグの考えを推し量ることも出来ない。
「悪気などあるはずないだろ。オレは賞賛したのだからな」
「……あ、うん。たしかに」
「でもその後がいけないんだ、貧者な心とは人によっては悪気が有ると思われるぞ」
……何言ってんだ。
「事実だろうが」
「……いいよ兄さん、その通りだから」
「そうか、だがこれからも関わるであろうジークの性悪さを少しでも改善したい」
誰が性悪だ。
たしかに誰かにとっても良いは誰かにとっての悪いだが、そんなことどうでもいいと思えるぐらいオレは性格が良いぞ。
「勝手にしろ」
「勝手にさせてもらう」
誇らしげな顔のラーグから目を逸らす。
交友が深まったと見ても良いだろう。
最初と比べれば、会話ができるだけ凄まじい進歩だ。
――――夜。
またしても誰もが寝静まった時に、微かな声で目を覚ました。
苦しそうにするイーグスが見える。
リューネは遠くでヨダレを垂らしている。
一切気づかず寝てやがる。
双子は寒いのか身体を寄せあい寝ていて、気づいているのはオレぐらいだろう。
柵越しだが、イーグスは手が届く位置にいる。
今日は三回目の食事が終わった後、ガゼルと話していたからだ。
眠くなった、とも言わず急に柵の前で寝ていた。
オレは音を立てずに、ゆっくりと立ち上がり……イーグスに近づく。
”関わるな”。
何かが聞こえた。
天才を導いた直感の声だ。
自分の声でもあり、世界で一番信用している声でもある。
だが、足は止まらなかった。
理由は知らない。
素足の先が、イーグスの前で止まる。
屈み、ゆっくりと手を伸ばす。
”触るな”。
警告だった。
初めての経験。
されど、オレの手は止まらず――――イーグスに触れた。
――――かくして、夢の中に誘われた。




