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【夢想世界】  作者:
第弐章
15/16

フィンゼル街での出逢い・前

冒頭から汚い表現があります☆





 夕暮れ。



 毛がモサモサになった人狼の上で黄昏れる。

 遠くには恋焦がれていた街があった。

 

 自分が此処まで感情的な人間だったと、初めて知った。

 目が熱くなったので、目を閉じる。

 胸も熱く、身体の底から熱いモノが込み上げてきた。


 本当にオレ達は、成し遂げたんだ。



 人狼が足を止める。


「さーせん大将! 我らは此処までござん!!」


 街の前に人狼が居たら衛兵が出てくる。

 だから自分達は此処までだと、人狼は言っている。

 全員が人狼から同時に降りた。


 顔を見渡す。


 数人の顔が――――青ざめている。


「うぷっ」

「無理、吐く」

「ごたすさ……うっ」

 

 ハクキから【伝心】が飛んでくる。


[……英雄ジーク殿、大丈夫ですか]







 我慢できず誰もいないところまで走って、盛大に朝食べた物を戻した。
















 気を取り直し、皆の顔を見る。

 皆、笑みを浮かべていた。

 まだ気分は悪い、最悪の気分だ。

 出すもの出したので先程よりかはスッキリしてるが。

 それでも空腹感に苛まれ、早く何かを食べたい。


 気持ち悪さを押さえ込み、指示を出す。


「……ハクキ、リューネ、ラーグ、ガゼル。先に街へ行ってこい。ハクキは信頼できそうな者を探し、リューネは……うっ…………、四十五人が一泊できるところを見つけろ。ラーグとガゼルは、二人の死角を護れ」


「私の名前呼んでから吐きそうにすんなし……」


 偶然だ……たしか。

 右手で布越しに口を抑え、わかったなと目で問う。

 四人はそれぞれの反応をした後、言葉を返す。


「然りと承りました」

「あぁ、任せろ」

「うん、みんなを護るよ」

「……泊まれるとこ探してもお金ないじゃない。完全に頭が回ってないわね。このゲ〇男」


 ……ふっ、気分が悪すぎて憎まれ口にも答えてやれない。

 下着(ズボン)から、道中で拾っておいた金貨一枚を取り出す。

 

「受け取れ」

「は? って! わっとぅ……」


 オレが投げた金貨をアフォは慌てて受け取る。

 そしてマジマジと金貨を見つめるアフォ。

 

「……いったい、いつの間に」

「オレ達に生きろって言ってんだろ、運命が」

「拾ったの?」

「そうだ」


 運命ってなんだろ。

 頭回ってないな、本当に。


 アフォは金貨を大事に仕舞う。


 やることを見定めた目の、この中で一番信用出来るやつに言ってやる。

 


「……アフォ、頼んだぞ」


「えぇ、任せなさい馬鹿」



 リューネの弱さを知ってる。

 同時に強さも。

 だから、任せた。










 


 四人が街に入ったのをジジイが伝えてきて、オレ達は木々の間に身体を潜める。

 気分の悪さはもうない。


 赤い太陽を見て、これまでのことを思い返す。






 五歳、クソ親共が奴隷達を地下に置いていることを知る。

 なんとしてでも逃がすことを決意し。

 十歳、知恵を身につけ力もつけた。

 兼ねてより計画していたことを実行。

 奴隷達二十一人を逃がし、兄と戦い敗れる。

 奴隷商人に金貨三枚で売られた。

 【奴隷紋】を眼帯の男に押され。

 牢屋で四十五日過ごす。

 イーグスとの出会いで【夢想世界】なる場所に行き。

 脱獄の決心を強固なものとした。

 ラーグ、ガゼル、リューネと交友を深め。

 奴隷未満達と共に脱獄が成功。

 此処がガルーラ森林だと監視の奴らから聞き出し。

 近くの街、フィンゼル街を目指す。  

 奴隷未満達の中で役立ちそうな者を選定し。

 かつての婚約者セレス・カイゼル。

 理知的な雰囲気の女好きである変人ハクキ。

 アフォなリューネ三人を部隊長に任命。

 食料を見つけ敵を見つけ、絶対の安心感で街まで向かい。

 黒きスライム、大きな鳥ジジイと道中で出会う。


 そして数時間前に人狼を移動手段として、フィンゼル街に着いた。



 思えば、まぁまぁ濃い旅路だったな。

 奴隷未満達が生きていることは、オレが居る限り絶対だったがな。

 

 ともあれ、旅が終わった。

 この経験がきっと、糧となるだろう(・・・・・・・)



 ……すっかり嫌な奴の口調が移ったな。

 仕方ない、【夢想世界】の銀髪野郎はオレとどこか似てるのだから。



「ねぇ、ジーク」

「……どうした」


 蒼髪の無邪気な奴が話しかけて来たので適当に返事する。

 オレと同じように左頬の【奴隷紋】を隠す為、服の切れ端で口元を隠している。

 だが、ニカァと笑ってるのがわかるな。

 頭の上に乗っているクロがブルブルと震えている。

 どうやらイーグスの頭上も気に入ってるらしい。


「ジークと一緒だね!」


 それはさっき聞いた。

 同じように口元を隠すように言ったのはオレだ。

 だからなんだと言うのだ、という話。


「そうだな」

「うん! 親友だね!!」


 それなに理論?

 同じことをして親友になるなら、奴隷未満達は全員【奴隷紋】を持ってるから親友だな。わぁー幸せー。

 と思ったが、アフォリューネと親友にはなりたくないのでその理論は否定していこう。


「やめろ」

「えぇぇええ!! なんでさ!」

「これを外したらオレ達は親友じゃないんだな」

「…………あ、そっか」


 え、待って。めっちゃ恥ずい。

 今遠回しに親友って言ったわ。

 やばぁ、頭に蛆虫が湧いているイーグスが気づいてないのマジ幸い。


「……それより、【伝心】は使えそうか?」


 話を逸らすため、気になってたことを聞く。

 実の所、奴隷未満達の中で唯一イーグスだけが【伝心】を使えない。

 数時間ほど魔力の使い方を教えたら誰でも出来るんだがな。


「うーん、でんしんは無理かなぁ。ほんと残念」


 諦めんな。

 まぁ、コイツは身体の中にある魔力はオレ以上に巨大だが【夢想世界】を創っているのでおそらく自分の魔力が使えないんだろう。ただの推測だが。


「魔力を感じるようにはなっておけ」

「はいジーク先生」

  

 誰が先生だ。


 そんな会話をしていたら、怠惰代表のヤトが寄ってくる。

 淀んだ赤い髪を揺らし、やる気のない眼をこれでもかと見せながら。

 右手には不相応な錆びた槍を持っている。


「……これ捨てた方がいいっすか」


 さっきのラーグを見てなかったのか、この怠惰代表は。


「持っていろ、武器を持っていたら子供でも侮られん」


 武器の所持はどこの国、街でも許可はされている。

 いつ戦争が起きるか(・・・・・・・・・)わからないのだから(・・・・・・・・・)


「うっす。じゃあ持っておくっす」


 そう言って、トボトボと離れていくヤト。

 本当にやる気がない猫背だ。

 だがあれでも、人狼との戦いで遊撃部隊の一人から錆びた槍を借りて戦おうとしていたからな。

 やる時はやるやつで、これでも評価している。


 

「――――ジーク様、よろしいですか?」


 何をよろしいのか知らないが、許可をしていないのにオレの隣に座るセレス・カイゼル。

 薄紅色の長髪がオレの肩に当たる。

 どれだけ近いんだ。離れろ。


「……なんだ」


 さっさと話せという意味を込めて聞く。


 元婚約者の女は三年前とは比べ物にならない整った顔で、オレが知らぬ事実は話してきた。



「――――異形(・・)の領主がフィンゼル街を治めています。実はわたくし、以前に一度だけお会いをしたことがあり……話を聞いてくれるかと」




 …………え、なんでそんなこと今言ったの?

 頭良さそうなフリして馬鹿なのか。

 

「今になって何故話した」

「……出逢ったのはジーク様と婚約破棄された一ヶ月後でございます」


 それ関係あ…………るな。

 三年前のコイツは太ってて醜かった。

 向こうはもう覚えてない可能性高い。

 なるほど、希望は持たないでいてください、ということか。



「わかった、だが異形が領主か……」



 異形とは――――人と魔獣の子である。

 人に忌み嫌われる存在だが……、領主になってるということはそれを有り余る力があるんだろう。

 人と魔獣との間で産まれた子は【異能】と呼ばれる力を使う。


 異端なる力と書いて、【異能】。

 目が合った者を石化させる【異能】、心を読む【異能】、様々な【異能】が存在する。

 その領主はなんの【異能】を持ってるんだろうか。



「……セレス、領主の【異能】はなんだ」

「申し訳ありません、あの時のわたくしは目も当てられない愚図でしたので……」


 どうやら知らないようだ。

 過去を思い出し、悲しげな顔で遠くを見つめるセレスに言ってやる。


「あぁ、愚図だったな。だが今は違う、前を見ろ。貴様が抱えてる過去など、所詮は過ぎ去ったモノだ」


 変わったコイツを見て、そう思う。

 好ましいやつだ。

 オレに、変われることを教えてくれたのだから。


「……勿体なきお言葉。ジーク様、婚約破棄を解消していただきませんか」

「断る。そもそも今のオレ達にそんな権限は無い」


 強かなやつだ。

 きっとこいつを幸せにしてくれるやつは、いつか目の前に現れる。


 遠くで街に入っていく人々を見ながら、心の底から思う。


 時は過ぎゆく。












 ――――数十分後。


 木々の真上に居るジジイが【伝心】を飛ばしてくる。


[あの子達が戻ってきたぞい]

[……わかった]


 眼を開け、街の入口から出てきた四人を…………五人を見る。


 おかしいな、五人に増えているぞ。

 リューネを先頭で後ろにはハクキ、ラーグ、ガゼル、そして真っ白な服を着ている大人か。

 遠目からでもわかる漆黒の髪だ。

 誰だアイツ。


 立ち上がり、隣で寝ているセレスの肩を揺らす。


「起きろセレス」

「ん…………」

 

 起きないな。

 ぐっすり寝てやがる。

 というかコイツはなんでオレの隣で寝てんだ。

 こっちはジジイの見張りを頼んで目を瞑ってただけなんだが。寝ていると勘違いして寝たのか…。


 まぁいい。


[ジジイ、何かあったらコイツらを起こせ]

[……魔物遣いが荒い男じゃ]

[では頼んだ]

[まだうんともすんとも言ってないわい……まぁ寛大なわっちはやっちゃうんじゃけどのう]


 ジジイに頼み、オレは一人で五人の元に歩き出す。





 歩くにつれ、四人の後ろにいる大人の存在感が強くなっていく。

 【魔力視】を発動させ、魔力を見るがラーグと同じぐらいだ。

 しかし、目を離せない存在感が有る。

 なんだ、この異様な感覚は。


 数分歩き、五人の前に立つ。

 リューネはオレから目を逸らし、他の三人も気まずそうにしている。なんだこいつら。やましいことでもあんのか。

 一度四人のことを隅に置く。


 近くで改めて、黒髪の女を見てみる。

 真っ白服装……、”心真(しんま)教会”の正装だ。

 首から上の肌を全て隠す衣装。

 白い靴に白い手袋。

 間違いなく、心真教会の者だ。

 穏やかな目、整えられた眉毛、漆黒の髪。

 

 そうか、ハクキが見つけたのか。

 悪くはない、心真教会に助けを乞うのは。

 手段の一つとしてオレも考えていたからな。


 しかし、なぜコイツらは目を逸らしているんだ。


 【伝心】をするべきか迷ったが、四人がしてこないので大した問題じゃないんだろう。


 数秒、無言の時が流れ……心真教会の女は前に出てきた。

 背が高いな、オリアスと同じくらいの背だ。


 女は笑みを見せ、オレに聞いてきた。


「――――貴方が、英雄ジーク殿ですね」


 ……ハクキが呼ぶオレの名だな。

 女の後ろでハクキが天を仰ぐ、大きく目を逸らしたな。


「……英雄ではないが、ジークだ」

「お会いできて光栄です、英雄ジーク」


 なんだこいつ。

 顔は笑っているが目が笑ってないぞ。

 ハクキのやつ、何を言いやがった。

 言いようのしれない何かが、冷や汗となって出てくる。

 オレは今、窮地に立たされている。

 言葉を待つ。

 下手なことは言えないと。


 かくして、女は笑みを浮かべ口を開いた。




「――――貴方が、この子供達を危険へ飛び込ませた罰は重いです。本来なら然るべき罰を与える手筈ですが、今回は説教のみとさせていただきます。貴方は自分の弱さから目を背け、この子供達を街に行かせました。ここまではいいですか? いえ、答えなど結構。人には弱さがあります、けれど立ち向かわなくてはいけないのです。この子供達からしっかりと聞きましたよ。なぜ身寄りのない貴方達が此処に居るんですか、という問いに対し『英雄ジーク殿の指示で安全な場所を探しています』と。ふざけているのですか、人に指示を出すなど権威有る立場になってからです。貴方は見るに只の子供。この子供達と変わりはありません。なのになぜ、貴方は此処に突っ立って安全を待っている? この子供達は貴方の指示で危険に飛び込んでいるというのに。本当に、偽物の心を持つ人は弱さを隠して強さを飾りますね。虚勢など人が犯す最悪の罪です。嘘を吐かず真っ当に生きる。それは真なる心を持つ人々が極当たり前にやっていること。貴方は――――」



 そこまで聞いて、ようやく意識が戻ってきた。

 何やらまだ話しているが一旦無視しよう。

 【伝心】発動。


[ハクキ、つまりどういうことだ]

[……申し訳ありません。信用を置ける人は見つからず、心真教会に赴いたところでその人と出会いました。どうやら人の話を聞かない人のようです。しばらく待っていてください、先程も糸が切れたように話をやめましたので]

[あぁ、わかった]

[……英雄ジーク殿は、あまり驚かれませんね。この身は此処まで人の話を聞かない人を見たのが初めてで非常に驚いてます]


 驚きすぎて無心になっていた。

 だがまぁ、話を聞く限り……悪い奴ではなさそうだ。

 おそらくだがハクキの『英雄ジーク殿の指示で安全な場所を探しています』という発言を聞いてから四人の話を一切聞かずに此処まで来たんだろう。


 凄い意思だ。

 オレに文句を言うだけなのに此処まで来たんだから。

 一度決めたら必ずやり通す女なんだ。

 ふむ、好感度上昇だな。


 女の話を聞く。


 素晴らしいな。


 一切の悪意などなく、其処には善意しかない。

 二度目だ、こんな大人を見るのは。

 良い眼だ。

 真っ直ぐとオレと目を合わせている。


 あぁ。


 助けられなかった、あの奴隷(・・・・)と一緒だな――――。

 









 ――――人が通り過ぎていく。


 通り過ぎていく人々は心真教会の女をギョッとした目で見て、すぐに目をそらす。

 有名なやつなのかもな、コイツは。

 もっとも悪い意味で、だろうが。

 

 未だに説教をしている女に声をかける。


「そろそろいいか」

「――――ですからワタシは真なる心を……、人が説教をしている時に説教をされている当の本人が声を発さないでください。反省の色が見えません」

「反省した。今度からは指示など出さず、頼むことにする。あぁ、当然の話だが、どうしようもない時にだけ頼むことにする」


 女は顔に花を咲かせるように笑った。


「よろしい、教えを理解して頂けたようですね。その通りです。人には限界がありますから、限界の時だけ他者に頼むのです。ふぅ……、説教を通じて人が成長する様はいつ見ても美しいですね」

 

 それは知らん。

 だがまぁ、こいつの目から見てオレは成長したようだ。わーい。嬉しくなーい。

 熱が籠った目でオレを見る女に、一つ聞く。


「あぁ、身に染みたよ……。ところで、オレは知っての通りジークだ。英雄ではなく、只のジーク。お前の名はなんだ」


 名も知らぬ奴にずっと説教をされていた。

 いい加減、名前を教えて欲しい。

 人として気に入ったしな。


 女は優美に一礼し、オレの目を覗き込んできた。


「――――ワタシは”アニンネ”です。心真教会で真なる心の在り方を教える、只のアニンネです。よろしくお願いします、ジーク」


「あぁ、よろしく頼む…………アァ?」


 間抜けにも声が出てしまう。

 アニンネ、だと……?


「どうされましたか、人と話す時に間抜け顔を晒すのは愚かなことです。心真教の教え・壱【常に目を合わせ、真なる心で相手を見るのが心を(かよ)わせる】というモノです。理解しましたか?」

「……あぁ、理解した。人の目を見て話すんだな」


 黒髪の女……アニンネの後ろにいる四人を見る。

 驚いてはいない、偶然か?

 もしこのアニンネが、あのアニンネ(・・・・・・)であれば心強い味方となる。


「えぇ、では街へ戻りますか。五人ぐらいなら教会で寝泊まりしても問題はありません」


 背を向け、歩き出すアニンネに声をかける。


「待て、それは無償か?」


 歩を止め、振り返るアニンネ。

 穏やかな顔をしているが目を笑わせてない。


「当然です。ワタシが身寄りのない子供達を野に放る愚か者に見えますか?」


 ふむ、そうか。

 言質はとった。

 オレは笑みを浮かべてやる、ニヤァと。

 

「悪いが忘れ物を思い出した、少し待っていてくれ」

「……邪悪な笑い方ですね」


 オレはアニンネの言葉など気にせず【氷足】を発動する。

 両足に纏われた氷を見て、アニンネが目を見開く。

 すっかり置物と化した四人に目配せする。

 お前ら後で覚えとけよ、と睨む。

 一気に顔を歪める四人を背にして、オレは滑走する。








 ――――数分後、穏やかな笑顔を見せるアニンネの前に、四十人の奴隷未満達を連れてきた。


 アニンネの後ろに居る四人が居心地が悪そうにこちらを見ている。


 アニンネは笑顔だ。

 しっかりと目を笑わせている。


「すっごい優しそうな人だね! よろしく! ぼくはイーグス! ジークに名前をつけて貰ったんだ! いい名前でしょ!」


 すっかり人通りが少なくなった道のど真ん中で、元気よく声を発するイーグス。

 誰よりも先にアニンネに近づいて行ったな。


「イーグス、ですね。ワタシはアニンネです。よろしくお願いします。ジーク、少しよろしいですか」


 呼ばれたので近づいてやる。

 ついでに逃げ道をなくそう。


「どうした、アニンネ。あぁすまん、先に礼を言わせてくれ。オレ達が教会に泊まる許可をくれてありがとう」


 奴隷未満達の中で「アニンネ……?」と呟く者が居る中、しっかりと言ってやった。


 アニンネは笑みを深ませ、口を開く。


「えぇ、当然です。四十五人の子供達を野に放る愚かな行いは致しません。先程の言葉に嘘はないと此処に誓います。……しかしジーク、その口から出た『忘れ物』という言葉は取り消しなさい。人は物ではありません」


 ……口で勝てる気がしないな。

 素直に謝っておこう。


「すまん、今度からしっかりと言う。忘れ物ではなく、大事な奴らを連れてくると」


「……よろしい、では次に質問をさせてください。子供達を何処から連れてきましたか?」




 やはり聞かれるか。

 【奴隷紋】のことを話すか悩む。

 人としてアニンネは、オレが考える限りでは信用出来ると思う。


 しかしだ。

 まだ全てを信用している訳ではない。

 もしアニンネが奴隷商人と関わりがある場合、厄介なことになる。

 先ず、そんなことはないと思うが……。


 顔を動かし、奴隷未満達の顔を見る。

 不安そうにしている者がちらほらと居る。


 当然の話だ。

 此処に居るのは奴隷商人に売られた者、または捕らわれた者。

 誰がオレ達を売った。

 誰がオレ達を捕らえた。

 

 つまり、大人に不信感を抱く者(・・・・・・・・・・)ばかり(・・・)

 


 ……隠しておこう、【奴隷紋】のことは。


 布越しにオレは話した。

 

 


「…………オレ達はとある所に居た。尊厳を奪われ、泣き叫ぶ日々に嫌気が差して、このフィンゼル街まで来た。あの場所じゃなければ何処でも良かった。頼む、オレ達に自由の日々を与えてくれ」

 

 頭を下げる。

 隣に居るイーグスも頭を下げた。

 嘘は言っていない。

 皆が【奴隷紋】を押され、尊厳を奪われて泣き叫んだのだから。


 風の音しか聞こえぬ静かな場所に、凛とした声が落とされる。



「わかりました、隠し事が有るのは(・・・・・・・・)。ですが、聞かないでおきましょう。迷う子を導くことは大人の務め。並々らなく事情が有っても、今日から貴方達は心真教会で暮らしなさい。(いず)れ羽ばたく翼を持つまで、ワタシから離れることは許しません……では、着いてきてください」



 ――――案内します、今日から住まう貴方達の家を。


 そう言葉を続けられ、頭を上げる。

 アニンネの後ろ姿を見た。

 綺麗に伸びた背中に、折れぬ意思を感じる。


 ……これで、良かったんだろう。

 まだ言えない。

 【奴隷紋】のことは言うのは、皆がアニンネを信用してからだ。

 オレの一存では決められない。



 皆に先を行くように言い、オレは先程まで奴隷未満達が身を隠していた場所を見る。


 【伝心】を使い、木に止まっているジジイに伝える。


[今日の深夜、其処で待ってろ]

[……なんじゃいったい、まぁええ。どうせ暇じゃしの]


 翼を広げ、ではなと伝えてくるジジイに背を見せ、歩き出す。










 ――――フィンゼル街。


 要塞に囲まれた街の入口には門番が居た。

 アニンネの顔を見て、頭を下げる門番達を見る。

 畏怖の念が視線には込められている。

 いったい、アニンネはこの街で何をしたのか。

 最後尾で門番達を見ながらそんなことを考えた。



 街の中は突飛した建物がなく、パッとしない建物がズラリと並んでいる。

 イーグスを除き、街並みを見て驚く者は居ない。

 当たり障りない街並み。

 王国に住んでた者としては、一つ一つの建物が小さいと思う。


 無駄な建物がないだけマシか。

 闘技場、賭場、浮遊魔法研究所、など。

 世の中には無駄な建物が多いからな。

 その点、この街は無駄がないと言える。

 大きな看板が見当たらず、落ち着いた街だ。

 オレは落ち着いてる方が好きなのかもしれない。

 

「いい街だ」


「……そうね」


 最後尾、隣で歩いてるアフォがオレの発言に返事をしてくる。


「いい人選だな、アニンネは信用できるぞ」

「別に、私が呼んだんじゃないし……」


 コイツは何も出来なかったのか。

 ふぅ、使えないヤツめ。


「まぁ、そんなことはいい。さっさと金返せ」

「……言い方悪いわね。これはもう私の手元にあるから私のモノよ」

「そうか」

「…………冗談よ」


 渡した時と同じように、投げつけられる金貨を難なく右手で受け取る。


 右手の金貨を見て、確認する。

 氷を手に纏い、火の魔法で金貨を熱する。

 金貨は特殊な金属で作られており、火を吸収する。

 手元にある金貨は然りと、オレが出現させた小さな火を吸い取り青く光る。本物だな。当然、金属なので熱量のある火を当てると溶ける。

 ともあれ、


「よし、すり替えてないか」

「んなことするか、死ね」


 ほんと口が悪いやつだな。

 

「アフォ、【魔力視】で見たか」

「えぇ、アンタが馬鹿だってことがわかったわ」


 何故そうなる。

 まぁ、見渡す限りオレより魔力が高い者は居ない。

 魔力馬鹿ということか、悪くない。


「敵が居ないということはわかるな?」

「……異形居たらどうすんのよ。言っておくけど異形が敵になったら、魔法の数なんて関係ないんだから」


 実感ある言葉に訝しむ。

 なにかあったんだろうか、異形と。

 

「そんなことはわかっている。基本的に異形が人に危害を加えた場合、手配書に載るのだから先ず手を出してこないだろ」

「楽観的ね。言っておくけど、アイツら(・・・・)の仲間に異形が居たから」


 ……何?



「どいつだ」

「気づかなかったの? あの――――赤髪の男よ(・・・・・)


 

 あいつか……。

 オレ達を唯一見下さなかった、あの赤髪の男か。


「……なぜ、異形だと思うんだ。何処からどう見ても人族だったがな」

「それは……」

 

 顔を伏せるリューネ。

 言いたくなさそうだ。


 理由は話せない、か。

 

「確信はあるのか」

「……えぇ」

「わかった、ならば頭に入れておく」


 不安そうに見てくる隣の金髪に言ってやる。


「同じ痣を持つ者は信じる。嘘を言う理由も無いしな」


 同じ【奴隷紋】を持つ者まで信じれなくなったら、全てが信じれなくなる。

 隠し事するのは結構。

 だが、皆には嘘を言えない。

 クスリと笑うリューネがオレを見て、言ってくる。


「……アンタって、馬鹿よね」


 いつもの憎まれ口。

 慣れてしまって、なんとも思わない。

 コイツに不安そうな顔は似合わないな……。


 



「ねぇ、アンタ――――」



 リューネが口を開き、オレに何かを言おうとした瞬間。





「――――テメェだな」


 


 声が頭上から落とされた。

 何一つ気配を感じず後ろに立たれていた。


 【思考加速】を発動し、一秒も満たぬ時間で【紅蓮拳】を発動した。すぐに【思考加速】を解除し、【紅蓮拳】を上に放つ。


 手応えはなく、焔を頭上に咲かせただけだった。

 氷の翼で降り注ぐ焔を防ぎ、振り返る。



「……警戒心が強いこった」


 目にしたのは、白き外套をを羽織っている男。

 背が高く、外套の中を下から覗き込める。

 金の目、金の髪。歳は三十半ば頃。


 氷を纏う大きな盾で焔を防ぎ、オレを見下している。


「頭が高い」

 

 口が勝手に動いていた。

 感情的になってしまってる。

 目前の男が、得体の知れぬ者に見えて。


 男は嘲笑う。



「――悪ぃな、チビにわざわざ頭下げて話したくねぇんわ」

 

 




 




 斯くして出逢う。

 


 ――――異形”ゼノグレイブ”。



 フィンゼル(いち)の冒険者と。




 この時のオレは知らない。


 遠くない未来で、剣を交わすことを(・・・・・・・・)――――。



 





 

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