奴隷未満達との冒険・後
目を覚ます。
【思考加速】発動。
すぐに【思考加速】を解除する。
完全に寝ぼけていた。
魔力がガゼル一人分は無くなっている、たったの数瞬で。
寝ぼけて魔力を使うなんて経験は初めてだな。
立ち上がって意識を覚醒させる。
――――朝、だな。
[英雄ジーク殿、おはようございます]
遠くにいるハクキから【伝心】が来た。
【伝心】を発動し、挨拶を返す。
[見張りご苦労。変わりはないか?]
[えぇ、平穏な朝です]
[そうか、皆が目覚めるまでオレが見張りをしておく。身体を休めとけ]
[御意]
ゆったりと立ち上がるハクキを視界に入れながら、真上に居るジジイに【伝心】を飛ばす。
[ジジイ、朝が早いな]
[当然じゃ、ジジイじゃぞ?]
[誇るな。それより、後どのくらいで街につきそうだ?]
[むっ、暫し待て…………37時間じゃの]
相変わらず細かい。
だが、後二日で着くのか。
ようやくだな。
あぁ、胸が踊っている。
[助かる。ではな]
[待たんかコラ。ワレェは年寄りを労る心遣いないんかい]
[朝まで見張りご苦労だったな。まぁあんまり意味なかったと思うがカッコワラウ]
[馬鹿にしとんかい。まぁええがの、これも何かの縁じゃ。何時でも呼べい]
去っていくジジイを横目に、【魔力視】を発動する。
北、十二体のゴブリン発見。
東、大量の鳥発見。害はないと思われる。
南、ゴブリン二十五体発見。
西、スライム三匹発見。
……初めてだ。
こんなに魔物が居るのは。
これはやばいな。
南からゴブリン達が遅い歩みで迫ってきている。
仕方ない、殺るか。
その前に、ラーグに声をかけておく。
ゆっくりとした足取りで奴隷未満達の間を通り抜け、黒いスライムと睨めっこしている男に声をかける。
「ラーグ」
「……っ!?」
とんでもなくオレを警戒して、右に置いてた錆びた剣を持つラーグ。しっかりと左手にクロを持っている辺り配慮ができる男だ。
「こちらに向かってくるゴブリンが居る。――殺ってくる」
「あ、あぁ、ジークか。……わかった、手は貸さなくていいか?」
誰に口聞いてんだ。
ったく、これだから正義野郎は。
「舐めるな、オレを誰だと思ってる」
「……そうだな」
ふっと笑うラーグを背に、オレは南に向かって歩き出した。
一体のゴブリンが手に持った錆びた槍で、隣にいるゴブリンの頭を叩く。頭を叩かれたゴブリンは怒ったように左手でどつく。そして奇妙な声を出す。
さっきから心の中で殺るかとかラーグに『殺ってくる』と言っているが、オレは生き物を殺したことは無い。
思うんだが、ゴブリンはオレに何かしたか。
してないよな。
なら、話し合いだ。
しっかり二十五体のゴブリンを視界に入れながら、【伝心】をしてみる。
[……聞こえるか?]
「ウギャ?」
一体のゴブリンが隣のゴブリンを見ながら奇妙な声を出す。隣のゴブリンが何を言ってんだとばかりに右の肘で腹を小突く。
声は伝わってるが、意味が伝わってないな。
[忠告する。それより前に踏み出たら問答無用で攻撃する]
「…………ウギャアアアアアア!!!」
【伝心】をしたゴブリンがオレを見つけて踊り出てきた。
話し合いは無理だったみたいだな。
ふぅ、嫌になる。
だが、これは殺し合いだ。
恨むなよ。
数秒後、【紅蓮拳】が同時に三体のゴブリンを灰とした。
――――敵ではなかった。
初めての命の奪い合いは、一方的なものだったな。
心は痛む。
このゴブリンにも家族は居たはずだと。
気味の悪いモノが腹を駆け巡るが、口を開かなければどうということは無い。
焼かれたゴブリンの手から錆びた剣と槍を取っていく。
槍が二本で剣が三本、全部で五本。
リューネ率いる遊撃部隊に渡そう。
もう一度、奪った命の数々を見て、
お前らの分まで生きてやる、そう心中で呟いた。
質量を持たせた水で錆びた剣を運び、無手の状態でラーグの前に立つ。
「使え」
水を解除し、地面に錆びた剣と槍を落とす。
「……まぁ、こうなるか」
微妙な顔で頭にクロを乗せたまま、ラーグはゴブリンが持っていた武器を拾っていく。
顔が地面に向くが、頭に乗ってるクロは落ちない。
どんな原理だよ。
そんなことを思いながら【魔力視】を発動する。
北、異常なし。東、スライム三匹が歩いてる。
南、異常なし。西、大量の鳥が飛んでいる。
よし、北に居たゴブリンはどっか行ったな。
安心した瞬間――――肩を叩かれる。
衝撃――――。
「おはよう! ジーク!」
――――下唇を力強く噛んだ。
「あははは! ジークどうしたのその顔!」
無邪気な顔を殴り飛ばしたくなるが、心を落ち着ける。
危うく吐くところだった。
「……」
「あ、ビックリした? あははは! 隙ありだよジーク!」
殺ってしまおうか。
黒い意思が芽生えそうになる。
が、鋼の意思で黒い意思を抑える。
「……目が覚めたか、イーグス」
「うん! おはよう!」
無邪気なやつだ。
先程の殺意が馬鹿らしくなって消えていく。
しかしなんだ、生き物を殺すという行いは慣れないな。
一生、この感覚は付きまとって来そうだ。
――――本当に、嫌になる。
自分の力の無さにも。
――――昼。
何事もなく昨日拾っておいた食料を朝に食べ、出発した。
方角はオレが教え、リューネが舵をきっている。
ガゼルの横を歩きながら、【夢想世界】でのことを思い返す。
結局、オレは【魔術】を使えなかった。
だが、試行を重ねていく中で見えているモノが有る。
空気中に蒼き点々があり、身体の中から出す蒼き点々を触れさせると、空気中の蒼き点々は反発する。
反発する蒼き点々を無理やりくっつけ、魔法は発動する。
身体の中にある蒼き点々と、身体の中にある蒼き点々をくっつけると抵抗なくくっつく。
つまりだ。
外の魔力と内の魔力は別の魔力なんだ。
【魔術】とは、別の魔力を操作する技法だ。
これがわかっただけで、凄まじい収穫だ。
例えばだが、【魔術】が使えるようになればオレは無尽蔵に魔力を使える。
あぁ、なんとも素晴らしい技法だ。
で、どう使うの?
正直、試したいことはあるが、手詰まりである。
今はいいか。
次、【夢想世界】に行った時にまた色々と試そう。
[ジーク君、【魔力視】使えるようになったよ]
純真組二年生ガゼルがオレに【伝心】で伝えてくる。
なになに、【魔力視】を使えるようになった?
そうですか、天才ですね。
数分前に教えた事なんですけどねぇ。
いや、天才か。
念の為、【魔力視】でガゼルを見る。
おっと、アフォより魔力が多くなってますね。
今は気にしないでおきましょう。
ふむふむ、目にしっかりと魔力が纏われてますね。
コレは【魔力視】です! おめでとうございます!
なんでなん。
早すぎだろ。
[というか、これってジーク君の魔力量だよね……]
[身体の中に有るのが魔力だ。見えるか、蒼いツブツブが]
[うん、視えるけど…………凄い回ってて、魔力が圧縮されてるけどボクの1000倍は多くない?]
そのぐらいはあるな。
[こんな魔力どうやって使うの?]
[ある魔法を使うと一瞬でなくなる。ガゼルの魔力が今の100倍増えたら教えてやろう]
[100倍かぁ、長いなぁ]
【思考加速】は今のガゼルの魔力量でも、一秒が十秒ぐらいの感覚になって”魔力切れ”で倒れるだろうな。
懐かしいな、魔力切れ。
五歳の頃なんかほぼ魔力切れで一日が終わってたな。
と、過去に思いを馳せていたらガゼルが不思議そうに伝えてくる。
[――――アレって、なんだろ?]
ガゼルは前を見ている。
視線を追うと――――大量の魔力が蠢いていた。
ゴブリンの魔力、姿形では無い。
見たことがない姿形だ。
偵察部隊、遊撃部隊、調査部隊がオレに集まってくる。
【魔力視】を発動しているリューネが切羽詰まった表情で走ってきている。異変を感じたハクキが、【魔力視】で気づいたセレスが。
皆がオレに向かってきていた。
脱獄してから見ていない、皆の慌てぶり。
あぁ、平穏が崩れるのかと心の中で溜息を吐く。
「人狼よ!!」
[ジーク殿! 人狼です!]
同時に二人が伝えてくる。
リューネは声で、ハクキは【伝心】で。
なるほど、人狼か。
心を落ち着け、この場に居る誰よりも静観する。
イーグスはよくわかってなさそうだ。リューネは血相を変えて、目に怯えが混じっている。ハクキは覚悟を決めた表情。ラーグは剣を構え、人狼に向かって睨んでいる。セレスは普段の澄ました表情ではなく、オレに助けを求めている顔。ガゼルはオレの発言を静かに待っている。ヤトは怯えている遊撃部隊の一人から錆びた槍を奪い、怯えた目で構えている。
そして人狼は、恐ろしい速さでオレ達に迫ってる。
時間はないか。
【伝心】はこの場で意味が無い。
ならば声を出すのみ。
「―――― 全員、オレより前に出るな!!」
初めてかもしれない。
ここまで声を張り上げたのは。
出るもんだな、そんな能天気なことを考え……前を歩いた。
先頭に立っていた、唖然としているハクキの横をゆっくり通り過ぎた。
獣の耳を生やした人の形をした魔獣が、四足歩行で雄叫びを上げる。
「「「ガォォオオオオオオオオン!!!」」」
本で読んだ人狼と呼ばれる絵にそっくりだ。
だが、人狼は言葉を解すると聞いたんだがな。
なぜこうも敵意を剥き出しなんだろうか。
オレ達は何もしていない。
夜以外は人の姿、文献通りだな。
思考が混雑しているが、オレの中ではまとまっている。
こいつら、平穏を邪魔する敵か?
「――――ゴミ共、一度だけ聞く。お前らはオレ達の敵か?」
【魔力視】解除。
人狼は魔法を使うと聞いたが、もう関係ない。
五十以上の人狼が居る。
だが、人狼全員を合わせた魔力でも。
オレには届かない。
三十分の一ぐらいだな。
圧倒的な魔力量の差だ。
だが、侮る訳にはいかない。
数の暴力が有る。
――――【紅蓮拳】発動。
直感が告げる。
”視野を広く持て”と。
つまり、オレが勝てる戦いだということか。
「ガォオオオオ!!!!」
叫び、飛びかかる人狼。
油断など一つもなく、身体は想像した通りに動く。
瞬時に、右手に広がった焔をぶつける。
氷の翼を生やし、後ろに飛び散った焔を翼で消す。
一体の人狼を吹き飛ばすと、五体の人狼が動く。
オレを囲うように動こうとしている 。
巫山戯るなと、左手で【紅蓮拳】を発動する。
大きくなる氷の翼を見て、誰かが呟いた。
「……綺麗」
誰かは知らない。
今はそんなことに意識を割けない。
両手を振るい、囲おうとした人狼五体を一秒もかからず焦がす。
「「ガァ!」」
魔力を操作する。
五体の人狼を焼き飛ばすと、二体の人狼が飛び掛ってくる。
視野を広く持つ。
右手の【紅蓮拳】だけで、空中で人狼二体を焼き焦がす。
間を空けず飛び掛ってくる三体の人狼へ、左手の【紅蓮拳】を放つ。
獣の毛が焼けた匂いを肌で感じる。
異臭だ。風の魔法を使い匂いを押し出す。
隙ありとばかりに襲ってくる人狼一体に、右手の【紅蓮拳】で遠くに弾き飛ばす。
魔力を定着させる。
後ろで声が聞こえる。
「……なにあれ」
「わからん」
「…………コイツ、馬鹿でしょ」
イーグス、ラーグ、リューネだな。
気づいたか。
オレが創った魔法を。
何も気づかず、戦いに集中している人狼達は襲ってくる。
両手の【紅蓮拳】を振るう。
飛び散る人狼と焔。
こんなに長時間【紅蓮拳】を使ったことがない。
戦いの最中だというのに反省点が見えてきた。
後で改正しよう。
そう決め、魔力の操作を切らす。
――――天空に留まっている溶岩を落とす。
戦いが始まって、空に魔力を送りながらもオレは【紅蓮拳】を使っていた。
これは一重に【夢想世界】での経験が活かされた。
【思考加速】を現実世界で目が覚めるまで使えば、このぐらいは成長する。
言いたくないが。
【夢想世界】での経験は、オレの糧となっている。
いやな奴の顔が目前に現れ、振り払うように飛び掛って来た人狼を【紅蓮拳】で吹き飛ばす。
後押しするように、溶岩の上に風の魔法を使う。
落ちる勢いが心なしか速くなる。
いや、速くなっているか?
そんな気の抜けたことを考えていると。
溶岩が着地する。
一時の無音。
数瞬後の爆音。
地面に着地した溶岩が周りを人狼諸共、焦土に変えていく。
ヒュウガとの経験で培った判断力が問われる。
即座に両手から【紅蓮拳】を拡散させた。
氷の翼だけは残し、両手を前へ翳す。
氷の壁を、皆を護るように前へ出現させ。
「屈め!!」
後ろに振り返って、声を張り上げた。
全員が困惑した目だ。
しかし、リューネが率先して屈んだことで皆が屈む。
――――衝撃。
氷の壁から微かに伝わってくる衝撃に目眩がする。
誰だよ、こんな強い魔法考えたの。
ってオレか、いっけね。
なんてことを考えながら、氷の翼を広げる。
氷の壁の後ろに土の壁を出現させると、幾らか安心できた。
数十秒、誰も声を発しなかった。
既に衝撃は無い。
オレは縮こまる皆に言ってやった。
「……すまん、屈んでも大して意味なかった」
全員がオレを殺さんと睨み、平穏がまた戻って来たことを悟った。
氷の壁と土の壁を拡散させ、酷い有り様を見た。
倒れ伏せる人狼達。
焦土とかした、森の一体。
オレは振り向き、リューネに言う。
「手加減しろアフォ」
「アンタがやったのよ!! 私がやったみたいに言うな!」
「……罪を擦り付けるのは良くないぞ」
「うるさい馬鹿!! どんな魔法使ってんのよ!」
リューネのツッコミで緊張の糸が切れたのか、奴隷未満達がくすくすと笑う。
うるさいと言われたので、オレは再び前を見る。
凄まじい威力だ。
明らかに魔法の熟練度が上がってる。
兄貴に溶岩を放った時は衝撃などなく。
地面が狭い範囲で焼け焦げているだけだった。
おかしいおかしいとは薄々思ってたんだ。
魔力が回復する量も日に日に増えてった。
そう――――【奴隷紋】を押された時から。
なにか【奴隷紋】には有るのかもな……。
「……これは、凄いな」
ラーグが話しかけてくる。
錆びた剣を肩に置き、頭にはブルブルと震えるクロを置いて。
「あぁ、自分でも驚いている」
「……のわりには、人狼を睨んでいるな」
睨んでないわ。
ただ、見ているだけなんだが。
えらく頑丈な奴らだ。
周りは焦土と化しているのに、姿形が残っている。
焦っているようにガゼルが叫んだ。
「――――まだ生きてる!」
【魔力視】発動。
……凄まじい生命力だ。
人狼の身体の中で魔力が動いている。
生きている。
これだけ被害を及ぼす魔法を放ったとしても、か。
【紅蓮拳】を発動し、一体の人狼に近づいていく。
よく見ればピクピクと動いている。
いや、よく見なくてもわかるな。
数歩距離を空けて語りかける。
「おいゴミ、生きているなら返事をしろ」
「…………クゥゥン」
なに可愛く泣いてんだ。
そっちから手を出してきたというのに。
「なぜ襲ってきた」
「……ごべんな゛ざい」
いや、喋れんのかい。
――――数分後、オレの前では土下座をしている人狼達が居た。
改めて人狼を見る。
人と同じ形をしているが、服は着ておらず大量の毛で身体を隠している。腰にだけ布を巻いてるな。
魔力の量は一体一体が大体同じ量で……ガゼルの二十五倍は魔力を持っている。
たしかに脅威ではあるが、オレがいる限りは大丈夫だ。
再度、襲ったわけを聞いた。
「なぜ襲った」
一番前に居る人狼が顔を地面につけながら答える。
「ふぉぐふごごふご!」
何を言ってるかサッパリだ。
「地面から顔を離すことを許す」
「ありがた!!」
なんや『ありがた』って。
睨み見下ろすオレの前で、人狼は毛だらけの顔を上げて叫ぶ。
「殺傷するつもりはないでござんでした!!」
何語だ。解読班は居るか?
まぁ、殺傷するつもりは無かったってことだろうが。
「それで?」
「はっ! 我らは貴方に忠誠を違うでありごん!!」
なに、ありごんって。
ありますってことか……?
「それはどうでもいい。さっさと襲った訳を話せ」
やはり知性は有るんだな。
ちゃんと会話……できてないが、言葉は通じる。
まぁ、人の形をしてるから言葉は通じるか(?)。
「はいよ! 我らは実は今日は姫はあれは――――」
「――――要点だけ話せゴミが、お前ら全員焼くぞ」
顔を伏せている人狼共が一斉にびくりと跳ね上がる。
地面からオレの顔まで飛んだぞ、舐めてるだろ。
「ひぇぇえええ!! そんな殺生なこと言わんとって!や!」
駄目だ、話が進まない。
が、オレ以外が喋ると一斉に飛びかかろうとするのだ。
さっきラーグが話そうとして、とんでもなくビビってた。
「……わかった。で、なんだ」
早く話せと先頭の人狼を睨む。
先頭の人狼がオレの顔まで飛び上がる、やっぱ舐めてるだろ。
「ひぇぇ……実は我らは姫を探してる、みたいなぁ?」
さて、殺すか。
【紅蓮拳】を発動すると一斉にオレの顔まで以下略。
「すみません!! 悪気はないんです! 我らは姫の命令でふざけた話し方なんです!!」
……なるほど、ふざけた話し方というのは自覚してるのか。よし、まだ救えるな。
【紅蓮拳】を拡散させ、疲れ果てたオレは聞く。
「ゴミ共が姫というやつを探しているのはわかった。だが、なぜオレ達を襲った」
先頭の人狼は申し訳ないように答えてきた。
ふざけた理由を。
「実は我ら、人を見ると力を試したくなるんでござん。これは姫など関係なく、男として人狼に生まれた者の性でんす」
ござん、でんす。
特有の言葉遣いは聞かなかったことにしよう。
それで、なるほど。
人を見ると力を試したくなる、と。
人狼は昔、人を食べると言われていた。
しかし、基本的には無害ということになった。
「……お前らは人を食べないのか?」
「滅相もないでんす。我らは誇り高き人狼、人でありながら――――」
「「「――――狼!!」」」
一斉に全員が立ち上がって右手を上げた。
そして狼、と声を上げる。
【紅蓮拳】発動。
先頭の人狼を吹き飛ばす。
「ゔぃえ!!?」
上空を吹き飛んだ人狼を見て、他の人狼は即座に土下座に戻った。
吹き飛んだ人狼が身体を引きずりながら戻ってくる。
暫し時間を置き、聞く。
「で、お前らはオレ達に借りがあるってことだな?」
にっこり笑ってやると、
どうしてか人狼達の顔が青ざめた。
――――駆ける。
凄まじい速さで森を駆けている。
人狼達の背に乗って移動しているが、衝撃は無い。
イーグスとガゼルは楽しそうで、リューネは嫌そうだ。
女は嫌だろうな、人狼は全員男だし。
特に耳長族であるリューネは男が大嫌いだから、人狼を殺さんと睨んでいる。
まぁ、貴重な足が手に入ったんだ。
感謝して欲しいな。
リューネから【伝心】が飛んできた。
[アンタ絶対殺す!!!]
あのアフォだけ置いていくか。
器用に魔力の線を太くして伝えてくんな。
こちらもお返しとばかりに魔力の線を限界まで太くして【伝心】を使う。
[やってみろ!!!!!!!雑魚が!!!!!!!]
[あああああ!!!!!! うるさい!!!!!]
クソ、あっちも魔力の線を太くしやがった。
なんて不毛な争いなんだ。
[英雄ジーク殿、この身は夢でも見ているんですかね?]
ハクキからも【伝心】が届いてくる。
疲れた頭に響く。
[安心しろ、現実だ]
[……信じられませんね]
まぁ、人狼の背中に乗ってるなんて確かに信じられないな。
[ジーク!!!]
次から次へと暇を持て余した奴らが【伝心】をしてくる。
ラーグのは無自覚に魔力の線が太いので文句も言えない。
[……なんだ]
[夢みたいな出来事だな!!]
お前もか。
[現実だと受け止めろ]
[あぁ!!!]
それだけかよ、まぁいいが。
しかしこの速度ならすぐにでも街に着きそうだな。
真上に飛んでいるジジイが居る。
実はオレが人狼に襲われている間も空を飛んでいた。
【伝心】を飛ばす。
[ジジイ、お前は事前に人狼が来ることを知ってたな]
アイツは遠くから見ていたはずだ。
なのにオレに教えなかった。
[仕方なかろうが。人狼なんちゅう野蛮な奴らとは話しとうないんじゃから。そいつらめっちょ話聞かんしのぅ。じゃが危害は加えんから放っておいたのは確かじゃ、すまんかったの]
……まぁ別にいい。
なんとかなったんだから。
[……許してやる]
[寛大な心遣い痛み入るわい。しっかし、この調子なら日が暮れる頃には着くぞい。良かったの]
……まじか。
もうすぐじゃねぇか。
笑みが零れる。
ようやくだ。
長いようで短い日々だった。
服の裾を風の魔法で破る。
服の切れ端で口元を――――【奴隷紋】を隠す。
【伝心】をイーグスに飛ばす。
[イーグス、【奴隷紋】を隠せ]
ピクリと肩が動き、前で人狼に乗って居るイーグスが振り返る。
オレの口元を見て、笑みを浮かべる。
そして自分のボロボロになっている服を手で容易く破る。
オレの服は高級なものなので生地がよく、手で破れなかったが。イーグスの服は安物で、朽ちていたから簡単に破れた。
イーグスは笑みを浮かべたまま破った服の裾で口元を覆う。
「――――これで一緒だね!!」
そう大声を出すイーグスに、笑みを返した――――。
第壱章\(^o^)/オワタ。
ようやくですね。
はい、誤字脱字の報告欲しいっす!
たぶんめっちゃある気がします。
評価、良ければお願いします!




