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【夢想世界】  作者:
第壱章
12/16

ガゼルの憂鬱

今回は短めです。






 ――――昼。


 


 何事もなく朝起きて、ジジイに感謝を言った。

 ええよーみたいな感じで返事され、去って行くジジイを見送って朝ごはんの用意を始めて皆で食べる。

 当たり障りない朝だ。


 そういえば、どうしてか【夢想世界】には行かなかったな。本当に不思議だ、あの世界は。

 行く時と行かない時がある。

 まぁ、気疲れしないので行かない方が助かる。






 今はガゼルと最後尾を歩いている。

 珍しくオレに話があるそうだ。

 前の方でラーグがイーグスを背負っているのを見ながら、ガゼルの話を聞くことにする。


[ボクと兄さんはね、”ユイラス村”で育ったんだ。凄い長閑なところで、周りには何もない村。母さんは薬師で、狩人の父さんにいつも薬を塗ってた]


 ユイラス村か、地図で見たことないな。

 地図に載ってない閉鎖された村。


 これは、身の上話か。

 自分のことを知ってもらいたい。

 そんな気持ちが伝わってくるな。


 無下にする訳にはいかない。

 こちらとしても仲良くはなりたい。

 黙って聞くことにする。


[兄さんは村の中じゃみんなの英雄だったんだ。大きな鳥を狩ったり、おばあちゃんを運んだり。ボクから見れば凄いことだけど、兄さんからすれば小さなことを積み重ねだけみたい。でもみんなが兄さんのことを英雄の卵って言ってた]


 英雄。

 オレよりかは素質が有りそうだ。

 見ず知らずのやつなど助けたくもないからな。

 人を助けるのには理由が有る。

 打算と借りを返す、オレの場合はそれだな。

 ラーグが人を助けるのは、なんというか……正義そのものだ。

 

[兄さんと比べられることは何度かあったけど、ボクは別に気にしていない。兄さんは気にしてるけどね。本当に、兄さんは優しい……]


 悲しそうな声だ。

 今更ながら【伝心】でガゼルは話している。

 練習も兼ねているんだろう。


[兄さんの根元には、お世話になった騎士団の人が居る]


 …………騎士団?

 馬鹿な。地図で名前が載っていないような村に、なぜ騎士団の奴が居るんだ。サボりだろ。仕事しろ。


[その人は元団員で。片足が無くて、義足をつけている人で……とても優しい人だった。暖かくて、相談を気軽に持ちかけてしまうような人かな]


 なるほど、ラーグの正義は元騎士団の団員の影響か。

 しかし、ラーグに騎士らしさは無いな。

 騎士道なんかどうでも良さそうだ。偏見だが。


[実際、名前すらわからない人なんだよね。

 別れの時まで教えてくれなかった。

 優しいから、ボク達を巻き込みたくなかった(・・・・・・・・・・)

             そんな気もするよ]


 名前を教えれば巻き込むと思ったと考える。

 そんな稀有な奴がいるんだな。面倒な奴。

 お前と関わった時点で既に巻き込まれてんだよ、そう言ってやりたい。


 

[あの人が居なくなって、兄さんは更に身体を鍛えるようになったんだ。焦ってる様だった。でもボクも兄さんも結局なんの力にもなれず、眼帯の人(・・・・)に捕らえられちゃった]


 ガゼルは困ったような笑みで遠くを見つめる。

 戻れやしない過去に、どうしようもない気持ちを抱えてる。あぁ、ここに居るヤツらは皆がそうだろう。


 眼帯の男か……。

 ラーグもガゼルもリューネもあの男には因縁が有るのか。

 働きすぎだろあの男。もっと休め。


[母さんは目の前で斬られた。たぶん、凄い嫌な偶然が重なってたんだ。眼帯の人が家に入ってくる前、実は盗賊の人が来ててね。運が悪いって話じゃなかった。きっと神様に嫌われてる]

 

 嫌なこと重なり過ぎだ。

 

[ボクと兄さんの誕生日で、目の前には美味しそうな料理がいっぱい並べられてた。母さんの自信作だったみたい……食べたかったなぁ]


 誕生日で、盗賊が来て、眼帯の奴も来たと。

 最悪な誕生日だな。

 

[ジーク君が牢屋に来る十日ぐらい前に、ボク達はあの場所に居た。どれいもん?を押されて、痛くて死にたかった。兄さんも痛かったみたいで泣いてた。でも、ボクをずっと抱きしめて……だから、仕方なく生きた]


 ……【奴隷紋】を押されるのはとんでもなく痛い。

 鉄の棒の先に【奴隷紋】を形作られている。

 その鉄の棒を熱し、身体の部位に押される。

 オレの場合は左頬で、ガゼルは身体の何処かに。


 火傷の痛みは我慢できたが、身体の奥底を塗り替えられる感覚が半日ほど続く。気持ち悪い、痛い。嘔吐感と頭を押しつぶされる感覚。嘔吐感は有るが、口を開けば叫び声しか出ない。頭を両手で抑えても現状は変わらず。両手で力いっぱい抑えてる所為で、外からも内からも痛くなる。後は勝手に鼓動が早くなり汗が止まらなくなるんだが……とあるイーグスは耐えていた。



[生きててよかった、今は心からそう思える。毎日が楽しい。みんなのお陰で時間が経つのが早い。いつかは無くなる幸せだとわかっても、楽しまずにいられない。村にいた時では感じなかった暖かさがあって……]


 【伝心】の所為でガゼルの物言いがいつもと違う。

 まぁ、それはいいか。

 一つ、気になったことでも聞く。


 【伝心】発動。


[お前の父親は何処に行ったんだ]


 聞いた瞬間――――直感が告げた。


 ”この世に居ない”と。

 


 ガゼルは、伝えてきた。


[――――旅をしてるんだ。ボク達が十歳の時に置き手紙があって、旅に出るって書いてた。ホント、今は何処を旅してるんだろ]


 笑みを見せ、父の所在する地を想う子。

 しかしどういうことだ、直感が告げるには”この世に居ない”とのこと。

 直感が嘘を吐くなんて経験、オレには無い。

 つまり、ガゼルの父親はもうこの世に居ない。

 ならガゼルが、父親が亡くなったことを知らないのは何故か。


 ”信じる”。


 ……信じる?。

 直感が何を言ってるかわからないのはいつもの事だ。

 いつもオレは一つ一つ整理して、暗号を解いてきた。

 が、今回ばかりはお手上げだ。

 言ってることがサッパリで。

 

 が、ふと頭に考えが浮かぶ。

 

 ……生きていることを信じているのか?


 ”騙す”。


 あぁ、そうか。

 自分を騙して、父親が生きていることを信じているんだな。もう死んでるってのは心の底で理解しながらも。

 受け入れる覚悟がないのか。


 ラーグに後で聞いてみよう。

 あの正義野郎であれば受け入れてるはずだ。



[そうか、いつかまた会えるといいな]

[うん]


 聞かないでおこう。

 今は、まだ。




 なんとも言えない空気が数秒流れ、ガゼルは【伝心】で本題を伝えてきた。

 

[――――そうだった。ジーク君、魔法教えてよ]

 

 これまでの話は世間話だったか。

 おかしいもんな、ガゼルが一人でオレに話しかけてくるのは。そもそもオレに話しかけるやつってあんま居ない。やだ悲しい。


[……別に教えるが、なんの魔法だ]

[出来れば魔物が殺せる魔法(・・・・・)がいい]


 役に立ちたいからか。

 断る道理は無い。

 しかし殺せる魔法か……、それは本当に魔物だけなんだろうか。

 そんなことを考えながら質問に答えてやる。

 

[殺傷能力の高さであれば風の魔法が良い。制御が一番難しい魔法として有名だが、極めれば魔物の胴体を真っ二つにすることも可能だ。それに、魔力の消費量が他の魔法と比べて少ない。更に風の魔法を制御出来れば他の魔法も簡単に出来るようになる]


 もっとも、人には得意な魔法と不得意な魔法が有る。

 オレは最近まで知らなかったが、治癒と水が不得意だ。

 使えないことはないが、引っかかりが有る。

 本などでは一度も見たことはないが、もしかしたら適性があるのかもしれない。人それぞれ。


[……うん、わかった。先ずは何をしたら良いのかな? ボクは火の魔法と水の魔法が少ししか使えないから、魔法についての知識が少ない]


 ……魔力の持ち腐れだな。

 仕方ない、先ずは魔力の操作から教えよう。

 


[魔法を使う際、身体の中で魔力が動く感覚は有るか?]

[うん、その魔力を操作して魔法を使ってるから何となくわかると思う]


 感覚だからな、魔法なんか。


[なら、身体の中で魔力を回してみろ]

[……回す?]

[いいからやってみろ]

[わかった]


 【魔力視】発動。

 魔力の動きを視る。


 ……ダメだな。


[もっと回せ] 

[難しい]

[……では、魔力を身体の中で圧縮してみろ]


 オレのやり方はリューネもしていない。

 人によってり方があるのかもな。



 できたな、ものの数秒で。

 

[上出来だ]

[これって、ずっと圧縮してないといけない?]

[圧縮したら魔力を身体の中で固めてみろ]

[……なるほど]


 ずっと圧縮しておくと集中力が保たない。

 身体の中で圧縮した魔力を、身体にくっつけ固めるようにしたら意識を割く必要は無い。

 そのことを教えたら、瞬間的に覚えた。

 

 

[こんな感じかな]

[あぁ、それでいい。寝ている時に魔力は大幅に回復し、隙間があるところに魔力が勝手に増えていく。それをすることで、普通の奴らよりか多く魔法が扱えるようになる]

[……えっと、みんなやってるの?]

[此処に居る中だとオレとアフォ以外やってないな]


 牢屋に連れてこられる前、【魔力視】で街の中を歩いてる奴を見てたが身体の中で魔力を回しているやつなんか居なかった。圧縮も同様で。

 それに、オレ以上魔力を持ってるやつは見た事がない。

 魔力だけなら世界一かもしれない、さすが天才。


[……頑張ってみる]

[そうしろ。魔法を多く使えれば必然、研鑽も重ねる。周りの奴らよりかは自ずと魔法の扱いが上達する]

[やっぱり、ジーク君って凄いんだね。ボクにもジーク君みたいに魔法使えるかな?]


 自信なさげに見てくるガゼルに、事実を伝える。


[ガゼルはオレが見た中で、三番目に魔力が多い。きっと魔法の才能がある筈だ。精々、風の神鳥に恥じぬよう努力しろ]

[……うん]


 童話【照らす神鳥】の主人公である風の神鳥。

 最後の場面で魔の大陸で光を照らした神鳥が、なぜ風の神鳥と呼ばれるのか。

 単純に作中で、風の魔法をよく使うからだ。


[風って、なんだか想像できないんだよね]


 ガゼルは風の神鳥らしからぬことを伝えてくる。

 たしかに風の魔法は形が無くて一番難しい魔法と言われている。

 オレから言わせれば簡単だったがな。


[今、頬に当たる風を想像しろ。最初は小さな風でもいい。少し少しその風を強くしていってみろ。思っているよりかは簡単だ] 

[……この風かぁ、やってみる]


 ガゼルの魔力が揺れ動く。

 やはり魔力の放出は問題ないな。

 以前、火の魔法を出現してる時も思ったが。

 発動が早い。


[うん、できた。ジーク君は教えるのが上手だね]

[…………出来ているな。初めてか?]

[初めてだよ、案外簡単だったかも]


 たしかに魔力が形になって、小さな風を起こしている。

 一発で成功させやがった。

 五歳の時のオレよりか才能があるかもしれん。


[なら、次は風の玉を作ってみろ。丸く、球体にするんだ。圧縮する想像をしろ]


 これは流石に難しいかもしれない。

 天才であるオレでさえ、三日はかかったからな。



 ――――が、こちらも一発で成功。


[……これかな?]

[…………]


 …………なんだこいつ。

 ま、まぁ、オレの説明が上手すぎるのかもしれない。

 さ、さすがはオレだ。


[……本当に初めてか?]

[うん、やれば出来るもんだね]


 できるかい。

 しかし、そうか。

 やはり魔法の適性というモノは有るのかもな。

 オレが炎の魔法を、本を見ずに習得したように。


 まぁいい、風の玉はあまり使えない魔法だ。

 次に行こう。


[火の魔法であれば、火を飛ばすことも出来る。水と土も同様で、遠くに飛ばせる。一番応用が効くから風は便利だ]


 土の椅子も飛ばせるようになるしな。


[……そっか。たしかに便利かも]

 

 そう言って、左手で水の玉を出現させ。

 右手で風の玉を出現させるガゼル。


 ……知ってたか。

 魔法ってのは本来、利き手でしか発動できないんだぜ?

 ウチのクソ親共なんか右手でしか魔法を発動できなかった。

 なんでも、使い難いみたいだ。


 左手で出現させた水の玉を右手で出現させた風の玉と合わせるガゼルを見ながら、なるほど……”才能の塊だ”と頷いた。


 ちなみに直感が仕事した。

 しっかりと”才能の塊だ”と告げてきた。

 ふっ、まぁオレよりかは”才能の塊だ”…………まじっすか。


 思わずヤトの口調が移るぐらいは衝撃的だ。


 風の玉に水の玉が合わさった、風と水の玉を両手で持ったガゼルが歩きながら笑いかけてくる。


[見てこれ、なんか出来た]

[……そこら辺の木にでも投げてろ]

[なんか急に冷たいね、まぁいいけど]


 ポイっと、大木に風と水の玉を投げるガゼル。

 風と水の玉が当たった大木は大きく揺れる。

 大木の真ん中が丸く抉られている。怖い。


[まぁまぁだな。だが、今の魔法でも魔物ぐらいなら殺せるだろ]

[……強いね、魔法って。もっと早く覚えたら良かった]


 悲しげに自分の手を見つめるガゼル。

 もっと早く覚えていたら、なにか役に立てたかもしれない。そう考えているんだろう。


[……過去は変えれないぞ。今を見とけ]

[だね。わかってはいるんだけど……]


 なんとも言えない顔だな。

 

[これからだ。言っておくが……このオレが魔法を教えた限り、役に立ってもらうぞ]


 当然だ。

 無駄なことはしたくないのだから。

 

[……うん、任せて]


 憂鬱を振り払い、真っ直ぐと前を見るガゼルの横で頭を搔く。


 儘ならない世界だ、本当に。

 そんな思いで足を動かす。





 

 

 

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