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【夢想世界】  作者:
第壱章
11/16

奴隷未満達との冒険・中




 別れを告げるジジイを見送り、手に持っているフクリュの実を食べる。


 甘くて瑞々しい。

 手掴みなので手がベタベタすること以外は問題ない。

 フクリュの実に歯型が付き、みるみる内に無くなっていく。最後に果肉に埋まっていた少量の種を噛む。


「うんうん 、凄く美味しいよね」


 隣に居るイーグスが大きく頷き、そう言葉を零す。

 牢屋で出されていたパンに比べると美味い。

 しばらくオレの舌は全ての食材を美味いと思うことだろう。


「まぁな」

「……ところでどうして鳥さんに半分あげたの?」


 感想を返すとイーグスは聞いてきた。

 説明が面倒なので、【伝心】を発動する。

 オレのベタベタな右手から蒼き線が飛び、イーグスの頭に線が刺さる。

 【魔力視】を発動したままだったので解除する。

 魔力は節約しないとな。

 そんなことを考えながらイーグスに声を届ける。


[こんな感じで話してたんだ]

「っ……!?」

 

 目ん玉が飛び出たのではないかと疑うぐらい、イーグスは大きな目を更に大きくしていた。

 驚き、目を輝かせ。

 喧しい声をオレの鼓膜に届けさせる。


「なにこれ!! ジークの声が頭の中で響いたよ! 凄い!」

[…………落ち着け。疲れているから頭に響く]

「……あ、ごめんね。なにこれ、また響いたよ」


 イーグスに聞かれ、説明しようとしたが。

 この魔法は皆が使えるようになった方がいいと考えた。

 【伝心】には可能性がある。

 使う魔力は微量で、その微量の魔力は形になっていないので自分の身体に戻せる。

 つまり魔力の消費がなく使える魔法だ。

 使い方は……少し難しいか。

 声に合わせて魔力の線を揺らす感覚は、なかなか掴めないかもしれない。


 だが、覚えてもらう必要がある。

 これがあれば敵の報告も瞬時に聞け、声を出すことも無いので。声で魔物がよってくる可能性が無くなる。


 それに、これがあれば……まぁいい。

 やってみてるか。

 


「イーグス、着いてこい」

 











 皆を呼ぶと、なんの疑いもなくオレの前に来てくれた。

 ヤトは気怠げに、リューネは何故か怒ったような顔で。

 ハクキは穏やかな表情を浮かべ、セレス・カイゼルは顔を綻ばせ。ラーグとガゼルはクロを交互に撫でながら。


 キョトンとしたイーグスの隣で声を出す。


「お前らにはこれから【伝心】の魔法をを覚えてもらう」


「……なによそれ」

「ふむ、なるほど。魔法を教えて頂けるんですね。不肖なこの身に寛大な心遣い感謝します」

「魔法か……苦手だが、ジークが教えてくれるなら覚える努力をしよう」

「でんしん……聞いたことないかな」


 各々が声を出し、喧しい場となる。

 目を充血させ睨むリューネを無視して、魔力の線を出す。


 ただ魔力の線を飛ばすだけなら誰でも出来るはずだ。

 少し、集中してみるか。


 【魔力視】を発動せず。

 右手から魔力の線を三つ。

 左手からも魔力の線を三つ。

 近くに居る奴隷未満達の頭に付ける。


[――――聞こえるか?]


 声を届けた感覚が伝わると同時に、奴隷未満達六人が驚く。


「な、なに!?」「声が来た!」「34ひく12は……22!?」「あ、ジークさんの声だ。イケボおつ」「おぉおわ!? なんやこれぇ!」「ひぇ……」


 よし、届いてるみたいだな。

 他の奴隷未満達が訝しんだ目で六人を見ている。


「……何をしたのよ」


 アフォが聞いてくるが無視して順番にやっていく。

 魔力の線を回収し、次は右手と左手から四本ずつ魔力の線を出す。

 まだ行けそうだなと思い、五本ずつにする。

 奴隷未満達十人の頭に魔力の線を付ける。

 【伝心】で声を届かせると皆が驚く。

 順番にその工程を繰り返していく。



 数分後、皆が驚いた顔でオレを見ていた。


「ということだ、お前らはこの【伝心】を覚えろ。やり方はわかるよな?」




 そう聞くと皆が「わかるかぁ!!!」と大きく声を響かせた。


 ……何故だ。









 改めて、仕方なく説明してやる。


「魔力の線を出し、対象の頭に魔力の線を付ける。後は魔力の線を声に合わせて揺らすだけだ」


「「「「……」」」」


 説明してやったのに理解してない顔だ。

 オレは視て理解したというのに。

 ……そうか、【魔力視】を使えないから視ることが出来ないのか。


「セレス、【魔力視】を発動しろ」

「ま、まりょくし……。なるほど、わかりました」

 

 右手から一本の魔力の線を出し、セレスの頭につける。

 目を見開かせるセレスの声を届ける。


[理解したか?]

「…………わかりました。試してみます」


 魔力の線をセレスの頭から回収し、目を瞑って待つことにする。 

 

 待つ。


 ……声が来ないな、そう考えた瞬間――――轟音が響く。

 ゴォン、ゴォンと低い音が頭の中で響く。

 驚いて目を開け、即座に【魔力視】を発動する。


「――――大きく揺らすな」


 ピタリ、魔力の線が止まる。

 低い音が鳴り響いてたのはセレスが魔力の線を大きく揺らしていたからだ。


「申し訳ありません!」

「…………いや、いい。模索するのは良い事だからな」

「あ、有り難き幸せ!」


 何が幸せなのかは知らないが、思えばオレもジジイに同じことをしていた。

 誰もが通る道なんだろう。


「届ける声に合わせて魔力の線を揺らせ、自然な感じでな」

「……声に合わせて……自然な感じ…………」


 考えるように自らの手から出現している魔力の線を睨むセレス・カイゼル。

 

 ゆるりと魔力の線が揺れる。

 

[……っ…………あ…………ゃ…………]


 微かに声が聞こえた。

 これは。


「もう少しだ」

「は、はい!」


 嬉しそうに薄紅色の髪を揺らすセレスを見て。


 変わりすぎだろ、と内心で呟く。

 高飛車で馬鹿みたいなやつだったんだがな。

 他所様の使用人の膝を蹴りながら『黙って蹴られなさいこの木偶の坊! このワタクシの前に立つなんて生意気よ! お父様に言いつけてやるんだから!』などと言っていた奴が、何をどうしたらこうも変われるんだ。謎だな。


 三年前の出来事に思い馳せていると。


[――――聞こえますか……?]


 しっかりと声を届かせてくれた。

 口角が上がる。

 これで証明された。

 オレ以外にも使えることが。


「上出来だセレス、よくやったな」


 心の底から賞賛する。

 本当によくやってくれた。

 きっと皆も……、ラーグも使えるだろう(・・・・・・・・・・)


[…………]

「よし、では此処に居る奴らに教えるぞ」


 指示を出し、周りに目を向けたところで。

 周囲の目線に気づく。

 暖かく見守られているような、居心地悪い視線。

 なんだ、こいつら。


「…………なんだ」


 不機嫌な声を出すが、周りの奴らは気にせずニヤニヤと笑う。

 その中の一人であるリューネが気味悪い顔で口を開く。


「あら、お構いなく。どうぞ二人の世界で楽しんでくださいませ、ニヤニヤ」


 …………気持ち悪いやつだ。『ニヤニヤ』と声を出すやつなんて初めて見たぞ。

 二人の世界などと訳の分からぬ言葉を無視し。

 ラーグの前まで歩く。


 微かに笑みを浮かべているラーグの頭の上にはクロが居る。ブルブルと震えていて、どことなく気持ちよさそうだ。

 ラーグの頭上が気に入ったんだろう。


 

「ラーグ、お前には【伝心】を絶対に覚えてもらう」

「……ふむ、何故だ」


 ラーグの目前に立ち、言ってやったがピンと来ていない顔だ。察しが悪いな。

 仕方なく答えを聞かせ、同時に問う。



「――――クロと話せるぞ、覚えなくていいのか?」
















 ――――次の日の朝。


 小鳥の囀りで目を覚ます。

 コッコッコッと鳴いている。

 寝転がった状態で、木々の上を忙しなく動き回る小鳥を見る。

 平和な目覚めだ。


 何処かから聞こえてくる、すすり泣く声で目覚めないのだから。


 身体を起こし、遠くに居るハクキの後ろ姿を見る。

 ちゃんと寝ているんだろうか。

 魔力の線を飛ばし、ハクキに【伝心】をする。


[警戒ご苦労。魔物が寄って来ないようなら身体を休めておけ]


 微かに肩が揺れ、振り向く。

 しばらくし、声が聞こえてくる。


[……少し眠ったのでこの身は大丈夫ですが、ラーグ殿がだいぶ無理をされているようですね。昨夜はあまり眠らず、クロ殿とずっと睨めっこをしていました……そして今も]


 遠くで目配せするハクキの視線を追うと、座ってクロに右手を向けているラーグが居た。

 【魔力視】を発動し、魔力の流れを見る。

 

 魔力の線は出ているな。

 少し太い線だが問題ない。

 昨日の夜に太い線でも【伝心】ができている者がいたから。少し聞こえる声が大きかった。きっと魔力の線が太いほど声が大きくなるんだろう。

 さておき、クロの身体にしっかりと魔力の線が繋がっている。


 微かに揺れる魔力の線。

 クロに声は伝わってるはずだ。

 ブルブルと身体を震わしているクロの身体をしっかりと見る。


 魔力がゆっくりと回っている。

 クロなりに頑張っている。

 だが【伝心】が使えないんだろう。

 もどかしい。


 しかしこれは仕方が無いことだ。

 本来、魔物は知性があまりない。

 ジジイとクロは特別なんだ。

 人の言葉を解するだけでも天晴れと言いたい。


 【魔力視】を解除し、時間が解決すると決めつける。


 当然だ。


 努力は報われる。

 オレが力をつけたように。

 クロが【伝心】を使える日は来る。


 それに、傍に語りかけ続ける男が居る。

 想いは繋がる筈だ。













 しばらくし、皆が起き上がる。

 寝ぼけ眼で調査部隊が用意したキノコを食べていく。

 火で焼かれ、アツアツのキノコだ。

 美味しくないはずがない。

 皆が美味しそうに食べている中、ヤトだけは今にも吐きそうに食べ続けている。

 間違いなくアレは嫌いだな。どんまい。

 まぁ、本人も食べなければ倒れると思って無理やり食べている。その生きる力に内心で拍手をしよう。


 穏やかな顔をしているハクキは目を瞑ってキノコを食べている。眠気が限界なようだ。

 今はどうすることも出来ないので、今日の夜にゆっくり休ませよう。


 他の奴隷未満達は楽しげにキノコを食べており、中心に居るガゼルとイーグスが皆と話している。

 すっかりあの二人は中心人物だな。

 二人は無意識だろうが、士気を上げてくれている。

 危険潜む街までの旅だが、二人のお陰で楽しい旅に。

 ふむ、感謝しとくか。サンキュー。

 心の中でシュラ特有の感謝をしておいた。





 昨日の夜に寝たあとオレは【夢想世界】に行っている。

 いつも通り草原で目を覚まして、遠くで木の棒……木刀を振るっているシュラが居たので話をしていた。

 少しの間だったが様々な話を聞き、アヴァロンが不意に現れたことで【夢想世界】で意識は途絶えた。

 あのアヴァロンとかいう男、やはり頭がおかしい。


『隙あり!!』


 などと抜かし、突如として黄金の剣を振るって来たのだから。頭がおかしい奴以外の何者でもない。

 お陰で首が有る奇跡を今噛み締めている。

 知らなかった。

 頭が宙に浮いた感覚があんなにもおぞましいとは。

 クルクルと頭が回転し、視界もクルクルと回っていた。

 そのくせ首には痛みがあり、死ぬまでに時間がかかった。

 二度と経験したくない感覚だ。




 首を擦りながらキノコを食べ終え、口の中で出した小さな水の玉を口に入れていく。

 飲み、出現、飲み、出現。

 口の中で水を出しているので周りは気づいてないだろう。

 やはり口の中で魔法を使うのは便利だな。

 これからも練習しよう。


「…………アンタ、なにしてんの」


 遠くに居たはずのアフォがいつの間にかオレの前に立っていた。

 考え事をしていて前を見てなかった。

 気をつけよう、いつ攻撃されるか分からないからな。


「……ゴクッ」

「飲んだわね、口の中で水の魔法を作って」


 …………ふむ?

 まぁ、気づくか。

 何も無いのに喉が動いてるんだから、察しの良い奴なら口の中で水の魔法を作って飲んでることぐらい気づく。


「あぁ、便利だぞ」

「なんか汚いわよ」


 …………そうか。

 

「……で、なんだ」


 コイツが用もなくオレに話しかけるはずがない。

 手短に話せと睨む。

 充血した目でオレを見下ろすアフォは自信満々に言ってきた。


「覚えたわよ、【魔力視】」


 どやぁ顔だ。

 腹が立つな。


「精々役に立て。以上だ、もう話は済んだな。どっか行け」

「……ほんとムカつくやつね。死ね」


 軽口を叩いて背を見せるアフォに言ってやる。


「頑張ったな――――まぁ、オレは五歳の時からできてたがな」


 肩が震えだすアフォは背を向けたまま怒りを耐えるように呟く。


「……いつか絶対に殺す」


 怖いやつだ。

 一応味方なんだがな。

 去っていくリューネを【魔力視】を発動して視る。


 ……増えているな、魔力が。

 身体の中にある魔力は回っていない。

 中心に魔力が押し込まれている感じだな。

 隙間ができたところに蒼き点々が増えていってる。

 オレは魔力をぐるぐると回して魔力を溜めるが。

 リューネは魔力を圧縮して溜めるらしい。


 元々、身体に魔力を溜め込む体質なんだろう。

 昨日の朝と比べると倍以上増えている。

 さすがは半分耳長族だ。


 ……しかしアイツ、自己紹介で魔法を使うと耳が長くなると言っていたが未だに見てないな。

 

 まぁいいかと【魔力視】を解除した。











 ――――昼。


 

 歩き疲れている何人かの奴隷未満達が居た。

 死にそうな顔で歩いてる奴の筆頭はイーグスだ。

 これでもゆっくり歩いているんだがな。

 

 イーグスの隣を歩いているヤトが心配そうに「大丈夫っすか?」と聞くと、イーグスは「ゼェ……ッ、ゼェ……ッ」と息を吐きながら右手の指で丸の形を作る。


 まったく大丈夫そうじゃないな。

 仕方ない、助けてやるか。


「イーグス、止まれ」

「ゼェ……ッ、ゼェ……ッ…… へぇあ?」


 奇妙な顔で身体の動きを止めるイーグス。

 オレは近づいて行きながらも、魔力をイーグスの真下に送り込み。

 想像する。

 土の椅子を。

 形は【夢想世界】の椅子と同じでいいな。

 なるべく薄くて強固なものにしよう。


 


 発動。


 土が動き出し、形作られていく。

 ヤトがやる気のない目を大きくしている。

 そういえばヤトが使える魔法は土だったな。

 力の差を見せつけてやろう。


 創成、圧縮。

 周りの土が一つの場所に集まり、徐々に椅子となっていく。形が壊れないように魔力で囲い、圧縮する。

 まだ脆い。

 隙間なく魔力を囲う。

 リューネ一人分の魔力を込める。


 圧縮。


 

「こんなこと、ありえるんっすか……」

「……ぜぇ」


 死にそうな顔で椅子を見るイーグスと、口を半開きにしているヤト。

 二人の姿を見ながら、土に含ませた魔力を固定する。



 近づき、椅子を軽く殴る。

 硬い、上出来だ。


「イーグス、乗れ」


 座れ、とは言わない。

 今からこの椅子は乗り物になるのだから。


「……すぅ……ハァ。えっと、コレに座れば良いんだね」


 疑いなくそう聞いてくるイーグスに頷く。

 イーグスは息を整え、椅子に座る。

 ヤトが困惑した目で、今から何をするんだろうかと見守っている。


 土の椅子は魔力を固定したので、もう意識を割く必要は無い。しばらく放っておいても崩れやしないだろう。

 次は風の玉を出現させ、椅子の下に設置する。

 ここからが大変だ。


 果たして、風だけで浮かすことはできるんだろうか。

 椅子の下にある風の玉を上に押し上げる。

 風の玉は平べったくなり、上に行こうとしている。

 だが、力が足りない。

 火、水の魔法を追加すると、火は火傷の可能性が出てきて、水は土が崩れるかもしれない。


 待てよ、土と風を合わせれば良いのか。

 土の椅子は魔力を固定したので、魔力で操作できない。やろうと思えばできるが圧縮をしながら操作をしないといけないので集中力がもたない。

 しかし、操作できる土と風で押し上げれば椅子は浮くはずだ。


 試す。

 何事もそうしてきた。

 【紅蓮拳】も【氷足】も全て試して、あの形にしたんだ。


 オレが考えた魔法で、形なく消えた魔法は無い。

 全て、創造できた。

 ならば椅子を浮かせ、イーグスを運ぶ魔法を創ることも出来る筈だ。


 創造、圧縮。

 風の玉の中に極小の土を混ぜていく。

 風の密度を圧縮し、極小の土も圧縮する。

 操作。

 風の玉と極小の土を操作し、椅子を押し上げる。

 少しづつ魔力を増やしていき、押し上げる力が増していく。


 行ける、そう思った瞬間――――浮いた。


「わぁ!!」


 声を上げるイーグスはオレの頭上に居た。

 安心せず操作を続ける。

 魔力を込める量を大きく増やすと少し少し浮いていく。


「うわあああああ! たかーい!!」


 はしゃぐな、落ちるぞ。


「……自分は、何を見せられてるんっすか?」


 オレの魔法だ。


 魔法を少し少し拡散させる。

 拡散させた魔力は戻ってこないので勿体ないが、今はいい。鍛錬を兼ねてだからな。


 低くなっていくイーグスの位置を見定め、このぐらいかと魔法の拡散を止める。

 地面からオレの腹辺りに椅子の足がある。

 椅子の足までイーグスの足は届かず、怪我の心配はない。

 イーグスが椅子から身体を落とせば怪我をするが、そこまで馬鹿じゃないだろう。


 続けて椅子の後ろにオレは手を添える。

 ぼーっと立っているヤトに声をかけた。


「何をボサっとしている、一緒に押すぞ」

「……え、動かないんっすか? 自分の想像じゃ勝手に前へ進んで行くと思ったんっすけど……」

「魔力の無駄だ。手で押した方が速く、危険もない」

「できないことは無いんっすね……、めちゃくちゃすぎる」


 ぼそりとヤトが何か呟いたがよく聞こえなかった。

 気にせず二人でイーグスが座る椅子の背中を押して進む。

 重さはない。手を添えているだけで一緒に進んでくれる。

 

「これ、自分いるっすか?」

「あぁ、少しでも傾いたら椅子が回転するからな」

「……欠陥品っすね」

「言うな。改善点は幾らでも浮かんでくるが、今はこれが精一杯だ」


 まず、鉄製の椅子が良いな。

 別に椅子じゃなくても良いんだが、安定しているのは椅子だろう。椅子の四方と真下に炎と風の魔法を使えば簡単に浮くような気がする。炎を使う以上、熱に強い金属がいいな。


 まぁ、今こんなことを考えても仕方がない。


 奴隷未満達の後ろ姿は既に遠い。

 時間をかけすぎたからな。

 

「よし、走るぞ」

「……嫌っすよ、自分達裸足だから痛いっすもん」

「五月蝿い、行くぞ」

「……めちゃくちゃだこの子」


 ぶつくさ言いながらもヤトは一緒に走る。

 走りながら、なるほどと納得した。

 やる気のない奴だが、なんだかんだ言ってやる奴らしい。


 ふと、イーグスの顔を見ると……寝ていた。

 いいご身分だな。

 先程まではしゃいでた筈なんだが。

 いつの間に寝やがったんだ。

 

 置いて行くことは出来ないのでヤトと一緒に走る。

 本当に、仕方がない奴だな。

 












 ――――夜。


 皆が寝静まっている。

 起きているのはラーグとハクキ、オレだ。

 後は寝ているフリをしているガゼルも居るな。

 

 今日拾ったのはキノコとフクリュの実、野草。

 それと、金貨を拾った。

 とんでもない幸運だ。

 見つけたのはオレである。

 独り身であれば金貨一枚は、街で百日暮らせる金だ。


 皆に見つからないよう拾ったことは、さておき。


 今日もハクキとラーグは見張りをしている。

 いい加減休んで欲しいので、オレは寝ていたフリをやめる。

 立ち上がるとハクキがすぐさま振り返ってきた。

 なぜわかった。音を立てずに立ち上がったというのに。


 

[英雄ジーク殿、如何なされましたか]


 【伝心】を使い、聞いてきた。

 声を出したら皆が起きるからな。


 【伝心】発動。


[一度だけ伝える――――寝ろ、ハクキ]

[…………仰せのままに]


 物分りが良くて助かる。

 ハクキは音を立てずに立ち上がり、奴隷未満達が集まっている場所まで歩いて寝転がった。

 よっぽど疲れてたんだろう。

 数秒で寝息を立て始めた。


 さて、残るは正義野郎(ラーグ)だ。


 【魔力視】を発動し、魔力の動きを見る。

 とりあえずは周囲の確認だ。

 北よーし、東よーし、南よーし、西よーし。

 なんて平和なんだ。

 こんな平和な時に見張りなんかしてても意味ないな。


 夜に溶け込んでいるスライムを険しい表情で見る男。

 今日の朝に見た時と比べ、スライムの魔力は増えている。

 既に正義野郎より魔力量が有る。


 しかし、だ。

 スライムの身体からは、視た限り魔力が一切出ない。

 たしかに、魔法を使うスライムなんてのは見たことも聞いたこともない。

 

 だがまぁ……、いつかは使えるようになるはずだ。

 今は、正義野郎を殴ってでも眠らせよう。


 【伝心】発動。



[――――寝ろ]


 スライムを持つ手が震えた。

 驚いたようだな。

 しばらくし、正義野郎の右手からゆっくりと魔力の線が出てくる。太い線だ。きっと奴隷未満達の中で一番太い線だな。……もっとも、奴隷未満達の中に一名――魔力が使えないやつがいるんだが。


 チラリとイーグスに目を向け、すぐに視線を戻す。

 今は考えないようにしよう、純真不思議生物については。


 正義野郎から放たれた魔力の線がようやく到達した。


[寝ない!!!]

 

 ……五月蝿い。

 たぶん、普通に『寝ない』と言っただけなんだろう。

 魔力の線が太いので、迫力ある声になっている。


[休息は誰にでも必要で、今は休む時だ……ラーグ]


 暗闇の中、月に照らされた正義野郎の顔がはっきりと見える。


 シュンとし、スライムに目配せをしている。

 力不足な自分に腹でも立ってるんだろう。

 責任感の強い正義野郎だ。

 だが、堪えたように声を届けてきた。


 

 

[……わかった!!!!]


 喧しい。


 頑固なやつだと思ったが、案外話を聞いてくれるな。

 オレの言い分を理解し、その通りだと納得したか。

 やはり好感が持てる男だ。


 名残り惜しそうにオレの頭から魔力の線を外し、正義野郎はその場で横になった。

 いや、場所考えろ。

 ハクキでさえ寒いようで皆と一緒に寝たのにな。

 後、もしも魔物の襲撃があったら最初に襲われる。

 怖くは、ないんだろうな。

 まぁ、オレが居るからな。


 などと考えていたら、正義野郎は目を瞑りながら口を開く。


「……あ……たか……だ」


 ……暖かいんだ?

 なるほど、クロは暖かいのか。

 そういえば触ったことないな。

 まぁ、オレに触る権利はないんだが。


 ともあれ、見張りするかぁ。


 なにか楽な方法はないものか。

 わざわざ、起きておくのは怠いしな。

 魔法でも考えるか。



 っと、その前に索敵しておこう。

 北、西、南、東、問題なし。

 真上、ジジイ発見。



 魔力の線が飛んでくる。


[どうじゃ調子は]


 【伝心】発動。


[今日は見張りをやることになって起きている。暇だからなんか魔法を教えてくれ]

[子供は寝て育つというのに、やれやれじゃの。朝まで起きとくんか?]

[そうなるだろうな]

[しゃーなしじゃの、わっちが見張っとくわい。ワレェは寝とくんじゃの]


 ……やはりお節介焼きジジイか。

 これは助かるな。

 

[対価はなんだ?]

[……老いた鳥は対価など求めんのじゃ。強いて言えば、ワレェがしっかりと眠ることじゃ――――キリッ]


 何格好つけてんだこの鳥。

 昨日も格好つけてたな。

 その後すぐに台無しにしたが。

 

[好きなもんはなんだ]

[好きなもんじゃと? そりゃワレェ、胸が張っていてどデカい尻のお姉ちゃんじゃよ]


 気持ち悪い鳥だな。

 

[他には?]

[うむ、酒じゃな]


 なるほど、酒か。

 街に着いたら買ってやるか。

 鳥なのにどうやって酒を飲むかは知らんが。

 嘘ではないだろう。


[そうか、オレは寝るぞ。本当に見張りをしてくれるのか]

[なんじゃい、興味無いなら聞くんじゃないわい。まぁええがの……、二言はないから寝れぇ]


 やけくそ気味に言われ、即座に寝転がる。


[はや!?]


 今日使った魔力を回復するには寝るのが手っ取り早い。

 結局、今日はリューネが保有している魔力の五倍は使った。五時間ほど寝れば回復するだろう。

 さて、寝よう。


[ではな、ジジイ]

[うむ、ではの]

[なにか有ったらすぐ起こせよ]

[心配性じゃのぅ。安心せぇ、こう見えてわっちは――――]




 何やら言っていたが眠気が限界でオレの意識は途絶えた。





 寝る前に考えていたことは、今日も平和な一日だったなという陳腐な事だった。





 


しばらく忙しくなりそうなので、

ちょいと更新遅れますm(_ _)m

ですが必ず更新を再開するので、

いつかの12時に会いましょう(* 'ᵕ' )☆


評価お願いしますm(_ _)m

感想ありがとうございます!


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