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【夢想世界】  作者:
第壱章
10/16

喋る鳥との出会い




 クロとの出会いから少しして、オレ達は森の中を歩いていた。

 

 調査部隊が嬉しそうに木の実を見つけ、雑用部隊が嫌そうに木の実を手に持つ。

 

「ねぇねぇ! これ食べれるの!」

「えぇ、一般的な”フクリュの実”です。あまり食べ過ぎるとお腹が出ますのでお気をつけください」

「へぇー! そうなんだ! セレスってば物知りだね!」

「ふふっ、わたくしには知識を身につけなければ置いて行かれてしまう人が居ましたので」


 和気藹々と調査部隊と雑用部隊が楽しげに話している。

 イーグスとセレスが話をしている姿を見て、目に嫉妬の炎を咲かせるリューネ以外は和気藹々だ。

 

「そういえばジークと幼馴染(・・・)なんだよね!」

「……えぇ、そうです」

「昔のジークってどんなだったの?」

「今も昔も変わらず気高い人です」


 幼馴染だったのか、知らなかった。

 婚約者として顔を合わせたのが一回目。

 次の日に使用人を蹴った時に顔を殴ったのが二回目。

 そしてこうして顔を合わせたのが三回目なのだが。

 別に馴染みではないな。

 きっとセレスが勝手に言ったんだろう。

 わたくしはジーク様の幼馴染だとか。

 まぁ、婚約者と言わないだけマシか。

 

「……面倒だなぁ」


 隣でぼそりと呟くヤト。

 猫背のため、地面に顔を向けながら歩いている。

 オレは何も持ってないため、ヤトの手から木の実……フクリュの実を取る。


「え」


 驚いたようにオレを見るヤトを無視し、そそくさと前に歩く。


「あ、ちょ待つっす!」


 追いかけて来てオレの手からフクリュの実を取ろうとしたので、躱す。

 

「いや、なんで……?」


 隣を早足で歩きながらヤトが戸惑う。

 面倒だと言うから持ってやったのに、いったいどうしたんだ。

 フクリュの実は一つで手のひらを覆う大きさだ。

 落とすとフクリュの実は割れて、中の果汁が飛び出す。

 いわば自然界の水資源。

 大事に運ばないとな。

 

「あの、返して欲しいんっすけど」

「……何を言っている。コレはオレが運ぶ。お前は手持ち無沙汰で一人歩いておけ。心配するな、落とすような愚かな真似はせん」

「……うっす」

 

 トボトボと歩き出すヤトを追い抜き、リューネの元に向かう。




 が、偵察部隊隊長であるハクキが居たので足の方向を変える。

 穏やかな顔で辺りを見回しながら、ラーグが拾ってきた大きな棒を持っている。

 なぜ最前線に居るはずのコイツは後方部隊に紛れ込んでるんだ。

 

「おい、ハクキ。貴様には部隊を任せているはずだが?」


 隣に並んで慌てて話しかけたから、少し棘がある言葉使いになってしまったが、ハクキは何処吹く風といった感じで返事をする。


「はい、英雄ジーク殿によりこの身は偵察部隊を任されました。ですので、此処で偵察部隊の動きを確認しています」


 ……なるほど?

 ハクキは後方で偵察部隊の動きを確認していると、おそらく何かしらの指示を出しているんだろうな。


「……なら問題ない。引き続き、敵を発見しろ」

「仰せのままに」


 実の所、既に敵の発見報告は二回あった。

 周り道で敵を回避し、一度も戦闘になっていない。

 つまりコイツは仕事が出来るやつなんだろう。

 少し浅はかだったな。

 サボっていると思って声をかけたのは。


 穏やかな顔をしているハクキが、なんでもないような感じで話し出す。



「――――英雄ジーク殿、あの子の名前はリューネと言いましたか?」

「あ? ……あぁ、あの無駄に明るい髪を自慢げに揺らしているのはアフォリューネだ」

「なるほど、可憐ですね。ぜひこの身はお近づきになりたいです。つきましては、英雄ジーク殿からこの身のことを紹介していただけませんか」


 そうか、お前はそういう性格か。

 涼しげな顔をしているが、女に目がないんだな。

 評価を改める必要がある。


「知るか、勝手にやってろ」

「畏まりました、では勝手にやらせていただきます」


 そう言ってリューネに近づいていくハクキ。

 しかし変わっているやつだ。

 あのアフォに気があることもそうだが、自分のことを『この身』と言ったり、魔法も全部使えるなどと抜かしていたし。


 決めた、アイツは奴隷未満達随一の変人と呼ぼう。







 既に遠くまで行っているハクキの背中を見ながら歩いていると、ガゼルがひょこりと前に躍り出た。

 嬉しそうにオレを見ている。

 

 

「ジーク君、ありがとね。また(・・)兄さんを助けてくれたんでしょ?」


 ……思えば初めて名前を呼ばれたな。

 気を完全に許したようだな。

 大好きな兄と関わるオレを見て。


「……知らん。ラーグは自分の力で助かってるからな」

「へへっ、そっか。でも外に出してくれたのはジーク君だからね。本当に感謝してる、みんなも」


 オレに向ける満面の笑みも初めて見る。

 ラーグと瓜二つな容姿をしているので、ラーグに感謝されたみたいだ。

 

 あまり気負わせる必要は無いので事実を言っておく。


「そうか、だがアイツらはオレの手を取ったに過ぎん。助かったのはアイツら自身が抱えていた希望のお陰だ」


 此処(牢屋)から出たい。

 そんな希望をずっと抱えていたに過ぎない。

 オレは手を差し伸べただけで、感謝されるようなことはあまりしていないな。


 そんな気持ちでガゼルを見る。

 ……もう一切怯えていない。

 話しかけただけで怯えていたというのに。

 さすがはラーグの弟だ。

 成長が早い。


「それでも、だよ。ジーク君がみんなを助けてくれて、兄さんを助けてくれたんだ。ボクと共に歩みたい(・・・・・・・・・)と兄さんが言ってくれた。本当に、ありがとうね!」


 ……あぁ、そうか。

 ラーグは言ったのか。

 皆が寝静まった後に言ったんだろうな。

 

 口角が勝手に動いた。


「……あぁ、その気持ちは受け取っておく。


         これからも共に歩め」



「うん!」



 清々しい笑顔だ。

 これが本来のガゼルか。


 誰、なんだろうな。

 この清々しい笑みを奪った奴は。

 あぁ、やはり許せないな。


 奴隷商人が。


 気恥ずかしくなったのか、手を振って離れていくガゼルを見ながら思い返す。


 オレは一度だけ、奴隷商人と会ったことがある。

 クソ親共に売られる間際、その顔を見た。


 もみあげだけ髪が生えていて、目がギラギラ輝いて。

 黒い服の上からでもわかる飛び出た大きな腹。

 魔力を無くしたオレを見下ろす愉悦の表情。


 一度見たら忘れない風貌の太った男だった。

 なんというか、気持ち悪い奴だ。

 今度からクソデブ野郎とでも呼ぼう。




 今日は呼び名でも付けるか。

 アフォはアフォで、ハクキは変人。

 ガゼルは、そうだな……イーグスと二人合わせて純真組とでも呼ぼう。純真組一年がイーグスで純真組二年がガゼルだな。ちなみに”魔法学園”の組み分けから名を取った。


 ヤトは怠慢代表で、ラーグは正義野郎でいいか。

 あとは……誰かいたか。

 まぁいい。

 どうせ心の中でしか言わないだろうしな。



 それよりも、魔法に名前でも付けるか。

 現在、名前があるのは【思考加速】【魔力視】と。

 オリアスが付けた【紅蓮拳】【土壁】か。

 使う魔法と言えば、火の玉などか。

 と、大事なヤツを忘れていたな。

 両足に氷と風の魔法を纏い、地面を滑走する魔法だ。

 なんだかんだよく使うからな。

 如何せんオレは身体能力が悪いので、逃げる時はこの魔法を必ず使う。

 

 さて、名前か。

 単純に氷を足に纏うから【氷足(ひょうそく)】でいいな。


 ……試しに使ってみるか。

 本当に魔法の発動が早くなるかどうか気になるからな。



 ――――【氷足】発動。


 両足に氷が纏われた。

 なるほど、たしかに発動が早い。

 【魔力視】などで既に知っている事実だったが。

 改めて考えると素晴らしいな。

 

 地面が即座に凍り、勝手に前へ進んでいく。

 素足だから少し冷たい。

 氷を直に纏っている訳ではない。

 氷との間に風の塊があり、冷たさは少しだ。

 靴でもあればまったく冷たくないんだがな。

 さておき、このまま進むか。


 滑走していると奴隷未満達がオレを驚いたように見ている。


「すごい」

「なにあれ、格好いい」

「ジークさんスゴすぎワロタ」

「52たす34は……85!」


 奴隷未満達の声を浴び、悪くない気分だ。

 しかしまた計算している奴がいるな。答えは86だ。精進しろ。


 手に持っているフクリュの実を落とさないように滑っていき、リューネの少し後ろで【氷足】を解除する。

 ゆっくり地面が凍らなくなり、丁度リューネの後ろで止まった。さすがオレだ。


 リューネの隣に居たハクキが穏やかな顔を崩し、オレを見ていた。

 中々お目にかかれない魔法だろうな。

 なんせオレが一から作ったのだから。


「その魔法は……いったい…………」


 ハクキの呟きを聞いて、ようやくリューネが振り返る。


「うわ、何してんのよ馬鹿」

「はっ、見てわからないのか。オレはフクリュの実を運んでいるんだ」


 開口一番に憎まれ口を叩くリューネに、見せびらかすようにフクリュの実を持ち上げる。


「で、なんで此処に居んのよ」


 それはわかったからさっさと用件を言え、という感じだな。

 長話はオレもゴメンなので、此処に来た用件を言う。

 丁度良いところにハクキも居たので同時に教えるか(・・・・・・・)



「――――お前には今から【魔力視】を覚えてもらう」

















「……はぁ? まりょくしってなによ。ダサい名前ね」


 …………。


「…………いいから覚えろアフォ」

「わかったわよ、さっさと教えなさい馬鹿」


 減らず口を叩くアフォを睨み、【魔力視】のやり方を教える。


「目に魔力を纏え、以上だ」

「頭おかしいんじゃないの。魔力が暴発したら目が潰れるじゃない。そんなこと普通に考えて危険よ。馬鹿じゃない?」


 ……何を言っているんだ。

 魔力の暴発だと。

 なんだそれ。


「アフォが、意味のわからんことを言うな。魔力の暴発など聞いたことがないぞ。なんだそれは」

「……は?」

 

 何言ってんのこいつ、そんな目で見てくるリューネに殺意を抱く。今からでも力の差を教えるべきかと悩む。

 悩むオレに、リューネの隣にいるハクキが説明する。


「英雄ジーク殿は、天性の才能を持っているので魔力の暴発をしたことがないのでしょう。魔力の暴発とは……魔力を込める加減を間違えると、魔力が爆発してしまう事象のことです。きっと普通の魔法使いなら誰しも経験していることでしょう」


 ふむ、なるほどな。

 不憫な奴らだ。

 つまり、オレが天才ってことか。


「そうか、知らなかった。説明感謝する、ハクキ」

「いえいえ、これぐらいのことは幾らでも。それより英雄ジーク殿は本当に魔力の暴発を経験されたことがないんですか?」

「ない、痛いのか?」

「……痛いですね。何度か経験してますが、衝撃で吹き飛んで身体が三回転ぐらいします」


 うわぁ、痛そう。

 逆になんでそれで死なないんだ。生命力つよ。

 

「受け身の鍛錬と、即座に土の魔法を使えるようになればなんとか擦り傷程度で済みます」

 

 なるほど?

 オレが納得する間際に、訝しんでいた目をしていたリューネが顔色を変え口を開く。


「普通はそんなに回転しないわ! どんだけ魔力を込めて暴発させたのよ! 馬鹿じゃない!」

「ご安心を、麗しのリューネ様。この通り身体は無事です」

「誰も心配してない! あと『麗し』言うな! キモイ!」

「コレは手厳しい」


 すっかり仲が良くなったみたいだな。

 変人とアフォ、悪くない組み合わせだ。

 頑張れ変人。


 応援するが、話は進まないので結論を出しておく。



「喧しいアフォだ。それより【魔力視】は出来るようになっておけ。魔力の流れが見え、遠くの敵も発見しやすいからな。更に相手の魔力量も知れて、敵と戦う時は必ず役に立つ。アフォは絶対に覚えとけ。使い方がわからないようであればセレスに聞け。アイツは【魔力視】を扱える。では、後方部隊に戻る。精々、このオレに楽をさせろ」



 返事を聞かず、どうしてか固まっている二人を捨ておく。

 【氷足】発動。

 滑走し、風が気持ちいいなと思った。















 ――――夕方。



 二十三個のフクリュの実をセレスが調理していく。

 風の魔法で茶色い皮を慎重に切っていき、白いフクリュの実となっていく。

 セレスは瑞々しいフクリュの実を調査部隊の者に渡し、指示を出す。


「こちらのフクリュの実を火で温めてもらえますか」

「わかりました、やってみます」


 白いフクリュの実を受け取ったのはガゼルだった。

 なぜ敬語なんだろうか。

 セレスはオレと同じ十歳だ。

 ガゼルはラーグと同じで十二歳のはず。


 まぁ、本人が敬語で良いなら別に気にする必要ないか。


 ガゼルは右手一つでフクリュの実を持つ。

 兄も兄なら、弟も弟だな。

 大きな手で力強くフクリュの実を持っている。

 オレならば力なく足りず落とすだろう。

 

 空いてる左手で火を出現させる。

 ぼぉっと燃え盛る火だ。

 右手に持ったフクリュの実に左手の火を近づけ焼いていく。


 冷たい風が甘い匂いを運んでくる。

 いい匂いだ。

 周りの奴らも心地よさそうに匂い嗅いでいる。


 しかしこれは、魔物を呼び寄せる可能性があるな。

 いざという時の為に【魔力視】で周りを見ておくか。

 西、何もなし。北、遠くに魔力を持った個体が三体。

 東、何もなし。南、何も……うん?










 ――――なにか居るな。


 南の方向、木の上でこちらを見ている生物が居る。

 少し遠いが目が合う距離だ。

 顔の大きい鳥。

 本では見た事がない魔物だ。

 そもそも魔物なのかさえも怪しい。


 火の玉をオレの真上に出現させる。

 右手から発動した魔法だ。

 魔力の流れを上空まで作り、真上で魔法を形作った。

 時間がかかるのが難点だが、こんな時に使える。

 火の玉を操作し、ゆっくりと顔の大きい鳥に近づける。

 避ける素振りはなく、当たった。


 が、当たっただけだ。

 煙が微かに出ている。

 【魔力視】で見る限り、あの鳥……魔法を使った(・・・・・・)

 火の玉が当たる瞬間、水の壁を出現させた。

 今は蒸発して無くなっている。

 魔法を使う物、魔物だな。

 魔法を使う獣で、魔獣の可能性はあるが。

 限りなく低いだろう。

 どう考えても獣じゃないもの。

 鳥やん。


 じっくり観察していると、鳥から魔力の線が伸びてきた。

 蒼き点々の線となってこちらに向かってきた。

 初めて見る、なんだこれは。


 動かず、蒼き点々の線がオレの頭に触れた。


 ――――瞬間、図太い声を聞いた。







[おんどりゃ! わっちに火の玉をぶつけやがったの! わっちじゃなかったら怪我じゃすまなかったぞわりゃ!!]







 ……ふぅ。

 オレはきっと疲れているんだろう。

 何処かから幻聴が聞こえてきたぞ。

 それはそうだ。

 イーグスと出会ってから怒涛の毎日だ、疲れもする。

 夢の世界とかにも行くからな。

 あぁ、疲れない方がおかしい。


[無視すんじゃねぇわりゃぁあ! 聞こえてんだろうがァ!]


 ……ふっ、幻聴じゃない。

 もう一度、鳥を見る。


[おう目が合ったなわりゃあ! 落とし前はどうつけるつもりじゃあ! ミミズ一匹じゃ足りんぞぉぉお!]


 声が聞こえる。

 あの鳥から。

 と言うよりも、オレの頭に繋がっている線から聞こえるな。不思議だ。


[おうおうわっちの少ない魔力が減ったのう! おんどりゃの火の玉の所為でのぉぉおお!!]


 ……声に合わせて線が微かに揺れているな。

 なるほど、種はわかった(・・・・・・)


 ――――魔力の線を瞬時に出現させ、鳥の頭に付ける。


[おぉん!?]


 魔力の線を大きく揺らしてみる。


[ぎゃああああ! やかましいわァ!]


 喋れないな。

 鳥は声に合わせて線を揺らしている。


 ”声に合わせろ”。

 直感が告げてきた。

 意味はわからないが、感覚でやってみる。


[あ、あ、あ]

[うおぉぉおおおい!? なんで【伝心(でんしん)】使えるんじゃわれぇえええ!!]


 なるほど、こんな感じか。


[聞こえるか、ゴミ]

[ゴミ言うなやぁああ! わっちはゴミを漁るがゴミじゃないわあい!!]


 伝わっているようだな。

 なるほど、コレは良い魔法だ。


[どういうつもりでオレに話しかけた]


 一つ聞くと。

 木の上にいる鳥は身動きせず伝えてくる。


[お、お、おんどりゃが火の玉をぶつけたんじゃろうがぁああぁあああああああ!!!]


 あ、そういえば。

 いかん、数分前の出来事なのに忘れていた。

 

[すまん、滅多に見ない鳥だったのでな。なんとなくで魔法を放った]

[われはなんとなくで人殺すんかぁ!? 鬼じゃぞぉぉお!]


 と言われましても、敵の可能性もありますし〜。


 全体的にオレが悪いな。

 ここは素直に謝っておこう。


[申し訳なかった。次からは無闇に魔物を攻撃しないことにする。本当にすまなかった]


 少し頭も下げておく。


[…………なんじゃいわれ、めちゃくそ素直じゃの。もうええ、寛大なわっちは許しちゃる。次からは気をつけいよ、わっちみたいに心の広い魔物はおらんからの]



 ふと冷静になったが、なぜオレは鳥に頭を下げているんだ。謎だ。

 頭を上げ、やっぱり魔物だったのかと納得して声を届ける。


[あぁ、気をつける。しかしこの魔法は使えるな。なんだこの魔法は]

[われ知らんのに使えとるんか。やべぇ魔法の才じゃの]

[よく言われる]

[謙遜せぇよ……まぁええ。これは【伝心】と呼ばれる魔法じゃ。心を繋いで、人と魔が話をする為に作れた魔法じゃぞ。とんでもなくえれぇ人がわっち達に教えてくれたんよ]


 【伝心】か。

 世界にはオレが知らない魔法がまだまだ有るな。

 というかあの鳥めちゃくちゃ律儀に教えてくれるな。

 なんだか、鳥の爺さんに見えてきた。


[んまぁ、その人のことはいつか話してやんよ。それよりもわれ、頬についてるのはなんじゃ。どっかで見たことあるんじゃが思い出せんわい。うっかり忘れ鳥ってやつじゃい! ひゃひゃひゃっ!!]


 ……なにわろてんねん。

 なにか鉄板のネタだったんだろうな。

 華麗に無視して、オレの左頬にある【奴隷紋】について教える。


[これは【奴隷紋】だ。三十年前に失な[【奴隷紋じゃと!?】]れた…………]


 話に割り込むな、ぶっ飛ばして焼き鳥にするぞ。

 知ってるような雰囲気なので黙っておく。




[馬鹿な! あの方(・・・)が失くしたはずじゃろうがい! なぜ未だそんなもんがあるんじゃ! どこのどいつじゃ! 忌まわしき【奴隷紋】をこの世に呼び戻したのはぁああ!!! ]



 随分な怒りようだ。

 なにか【奴隷紋】と確執があるんだろうな。

 それにしても、あの方が失くした、か。

 【奴隷紋】を失くした者なんて、三十年前に奴隷制度を撤廃した英雄しかいない。

 つまり、鳥の話に出てくる『あの方』は偉大な英雄のことだろう。もしかしたら『とんでもなくえれぇ人』もそうなのかもな。知らんが。


[さてな。オレは忌まわしき【奴隷紋】の被害者だ。【奴隷紋】を呼び戻したのは誰なのかは、オレが聞きたい]


[むっ……すまぬな。わっちにとっても因縁の有るモノでな。しかしそうか、【奴隷紋】は今もあるのか……。あの方がやったことは――――無駄じゃったんかのぉ……]



 …………無駄なことあるか。

 英雄が掲げた奴隷制度撤廃がなければ、歴史を見る限り……オレ達は街に入れなかったのだから。

 三十年前であれば、脱走した奴隷未満だと思われて衛兵に捕まってた筈だ。

 つまり。



[――――オレ達はとある英雄のお陰で希望を持てるんだ。無駄なことなどあるか]


 希望を持てるのは、英雄のお陰なのだ。

 


[…………ひょひょっ、何を言っておるんじゃわっちは……あの方の軌跡を見てきて戯言を抜かすとは。……あいわかった、先程の戯言は撤回じゃ。無駄なことなどあるもんかい!]


 どうやら元気が出たようだな。

 少し、聞いてみるか。


[何も聞かなかったことにしてやる。

 それより”ジジイ”、街の方角は南西か?]


 オレ達は南東に向かって歩いている。

 奴隷商人達とばったり会わない為、迂回している。

 安全にフィンゼル街に行けるのならば、仕方ないことだ。

 奴隷商人達を殺すのは後で考えればいい。


[うむ? フィンゼル街に向かっておるのか。つーか待てや、まさかじゃがあそこに居るの全員奴隷未満かわれぇ!?]

[そうだ、とある小屋から脱獄してきた]

[くあぁああ! 許せんのぅ! いつか八つ裂きにしちゃる。で、なんじゃったかの?]


 話が進まんジジイだ。


[フィンゼル街の場所だ。ついでにオレ達の足で着くのにどのくらい時間がかかる?]


 木の上にいる鳥は少し頭を動かし、声を届けてきた。


[むっ、そうじゃの。此処から……方角は南南西じゃ。到達する時間はざっと――――八十四時間じゃ!]


 めっちゃ細かい。

 どんな計算したんだよ。

 だがそうか、方角が少しズレていたか。

 この情報はかなり助かるな。


[助かる、またなにかあれば聞いていいか]

[そうじゃの、短い余生をわれらと共に過ごすのも悪うないの。遠く離れた場所で見守っておるわい]


 心強いな。

 

[しかしあの子供が持っておるスライムは変じゃのう]


 お前が変とか言うな。

 クロもお前にだけは言われたくないと思うぞ。

 なんだ喋る鳥って、聞いたことないわ。


[うむ、しばしのお別れじゃな。また逢おうぞ、非凡な子供よ]


 急に別れを告げてくる鳥を見ていると、隣から声をかけられた。


「――――ジーク、ご飯できたよ! 一緒に食べよ!」


 ……あぁ、イーグスが来たから別れを告げたのか。

 羽を広げた鳥に、


[待て]


 と伝える。

 羽を戻し、身体を動かさず鳥は伝えてくる。


[なんじゃい、かっけく別れの挨拶したっちゅうのに]


 かっけく? ……格好よくか。

 大して格好よくなかったぞと伝えたいが、はぶててどっか行きそうなので黙ってやることにする。

 イーグスが持ってきた半分に割っているフクリュの実を受け取る。


「すっごい美味しいよこれ!」

「あぁ、美味いだろうな」


 受け取ったフクリュの実を風の魔法でスパりと半分に。

 四分の一となったフクリュの実を風と水の魔法で包み込み。

 宙に浮かせ、ジジイに渡してやる。

 大きな口でフクリュの実を咥えたのが見える。


「あぁ! ジークもったいないよ! ちゃんと食べなきゃ!」


 一般的な母親みたいなことを言うイーグスを無視して、声を届ける。


[お詫びだ、気にせず受け取れ]


[……なるほどのう、義理堅いやっちゃ。ちゃんと食わんや成長せんことを知らんのか――――だがしかし! われぇの好意は受け取っておく! 決してわっちが食べたいわけじゃないからのぉ! 好意を受け取らん鳥は死んだ方がマシじゃから受け取ったんじゃ! ではの! うっひょー! 久々のご馳走じゃぁああ!]


 …………おう。


 かくして、オレは喋る鳥――――ジジイと出逢った。


 この出逢いがもたらすモノをオレはまだ知らない――。









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