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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第10話 来た、見た、買った

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朝石駅前アーケード商店街 4

 ピエロやニコニコマークの仮装をした者たちが、通報で駆けつけた警察官に連れられていく。

 三人……四人かと(まこと)は目視で数えた。

「大丈夫?」

 女子高生二人に話しかける。

 助けた子は青ざめていたが、花織(かおり)はわりと平気そうな様子でデパートの入口のあたりを見つめている。

「なに?」

 誠は、花織の見ている方向に視線を移した。

 先ほどから周辺がずっとざわめき続けている。少しずつだが通行人が立ち止まり、人だかりができてきた。

 「あの子たち?」と小声で話しながらスマホをこちらに向ける者も何人かいる。

「こっち」

 誠は向けられたスマホに背を向け、二人を物陰に誘導した。

 このあと事情を聞くことになるだろう。だいたいこういうときは近くに停めた警察車両の中で聞くのだが、自分たちが聞くことになるだろうか。

「ご苦労さん」

 百目鬼(どうめき)が近くのドラッグストアの入口から連行される者たちを目で追う。

 来てたんだと誠は思った。

「ピエロって、ジョン・ゲイシーか」

 百目鬼がケッと吐き捨てる。

「商店街の組合にバレちゃいましたね。私服警官が張ってたって」

 誠は周囲を見渡した。

「あ゙あ゙?! しょうがねえだろ」

 百目鬼が険しい表情で声を張る。

「もし商店街からの抗議の電話をおまえが取ったら、俺に代われ。JKの代わりに真っ黒になって殺されたいのかって小一時間問い詰めてやる」

 誠は苦笑した。

「書き込みした犯人だとして、あれで全員ですかね?」

「取り調べてみなきゃ分からんが……」

 百目鬼が眉間に皺をよせる。

 誠の肩越しに、花織がデパートの方向を見ていた。

「なに?」

 そういえば先ほどからそちらを見ていたと気づく。

「あそこにいた人は、警察の人じゃなかったんですね」

 花織が誠の背後を指差す。

「どこ」

 誠は振り向いてそちらを見た。

「富士崎デパートと、となりのテナントビルの間あたりにいた人です」

 花織が答える。

 誠は、周囲でそれぞれの仕事をしている私服警官を一人一人見た。

「顔は?」

「顔は分かりません」

 そうだった。誠は眉をよせた。

「格好は?」

「うしろ向いてましたから。カーキ色のモッズコートみたいな上着。それとチェスナットブラウンのスラックス、スニーカー」

「チェス……なに?」

「栗皮色です」

 花織が答える。

 それはそれで(そら)では想像できないんだけどと誠は内心で返した。

 つまり茶色系ってことでいいんだろうか。

「なにかの行動を狙ってる人って、動きが不自然になるじゃないですか。とくに奇妙な動きじゃなくても、ただ歩いてるだけの人に囲まれてると浮くんです」

 花織が説明する。

 以前、警察署のまえで襲われたさいにもそんなことを言っていたなと誠は思い出した。

「浮いた動きをしてたの?」

 誠は問うた。

「だから警察の人だと思ってたんですけど」

 しばらく誠は、人混みと私服警官たちの動きを眺めた。

 はたと一つのことに気づく。

「つまり私服の警官が誰なのか、花織さんは気づいてた……?」

 頬がひきつる。

「全員気づいてました」

 誠は脱力して眉をよせた。

 百目鬼のほうを見やると、無言で顔をしかめている。

 花織が犯人じゃなくてよかった。

「こちらにピエロとニコニコマークが襲ってきて警察の方が駆けつけてくれたときに、そのモッズコートの人も来るのかなって思ったんですけど」

「そいつは何してたの?」

「スマホを道路側に向けていたのでなにかを撮影してたのかと思うんですけど、スッとビルの間に入っていなくなっちゃいました」

 誠はもういちど周囲を見渡した。

 見知った顔ばかりだ。知らない警官はいない。

「うちの署の人じゃないと思うな……応援かな。一般人かもしれないけど」

「なんですかその、このまえのビアガーデンを踏襲(とうしゅう)したみたいなパターン」

 花織が唇を尖らせる。

「う……」

 誠は言葉を詰まらせた。

「ぜんぜん改善してないんだ」

「いや……こういうのは時間が」

 誠は(ひたい)に手を当てた。

「そのカーキのモッズコートは特徴ばっちり覚えたのか、お嬢ちゃん」

 百目鬼が問う。

「もちろんです。いちばん怪しい仕草の人でしたから、センサーが働いて脳内に自動保存しました」

 花織が真剣な顔でピースする。

「じゃ、これから事情聴取だから担当の警官にいちおうそれ話してくれ。お嬢ちゃんの説明の仕方でいいから。わけ分からん顔されるかもしれんが」

 百目鬼が言う。

「花織さんの事情聴取は別の人ですか」

「俺らはもう一人のお嬢ちゃんのほう」

 百目鬼が助けたほうの子を指す。落ち着いてよく見ると、花織よりも幼い感じだ。

「この辺の高校か、お嬢ちゃん。中学?」

 百目鬼が質問した。怖がられると思ったのか、あとはおまえが話せというふうに誠に向けて(あご)をしゃくった。

「聖マリア女学園の中等部です……」

 女の子が(かす)れた声で答える。

「同じ学園? わたし高等部の二年だけど。私服だから分からなかった」

 花織が声を上げる。

「わたしは先ほどから上級生のお姉さまだなって……」

 女の子が両手で口元を押さえる。

 まあ、制服にそのまま耳と尻尾をつけた仮装だからなと誠は思った。

 花織がガバッと女の子にハグする。

「事情聴取がんばってね! 後輩ちゃん!」

「お姉さま! わたしがんばります!」

 女の子が抱き返す。

 百目鬼が横で思いきり顔を歪めた。





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