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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第10話 来た、見た、買った

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警察署四階 署員食堂 1

「とりあえずわたし、お手柄ですね。授業そっちのけでスマホ見てた甲斐(かい)がありました」

 署員食堂のまえで花織(かおり)がピースする。

「あー授業はちゃんと聞く」

 (まこと)は顔をしかめた。

 食堂に入り、カウンター横の食券販売機のほうへと進む。

 厨房にいる食堂のスタッフが、何となく「ああ」という感じの表情で見た。

 たまに来る女子高生ということで花織はすっかり覚えられているらしい。

 よく一緒にいる刑事二人組とはどういう関係性と思われてるんだかと思う。

「カツ丼、カツ丼」

 歌うように呟いて、花織が食券販売機に小銭を入れる。

「なんですかこの期間限定かぼちゃプリンって」

 横のボタンの表示を指差しそう尋ねた。

「ハロウィン限定なんだろ」

 百目鬼が答える。

「かき氷みたいに、お値段ほぼ据え置きでカツ丼とセットにして欲しかったです」

「ただの水とは原価が違うんだ。物価も上がってんだから察しろ、お嬢ちゃん」

 言いながら百目鬼が小銭を入れる。

 今日はキノコ蕎麦(そば)のボタンを押した。食券を取ると、スタスタとカウンターのほうへ行く。

「ううん……」

 花織がかぼちゃプリンのボタンとにらめっこする。

 ややしてから、決断したのか小銭を入れた。




 花織がいうところの「ムダに絶景」な窓からの景色は、今日はさわやかに晴れて遠くまでスッキリと見渡せる。

 秋に入っても暑い日が続いていたが、青い空にはうろこ雲が漂うようになっていた。

 花織がプリン用のスプーンを片手に持ち、もう片方の手でスマホを操作する。

「続きの書き込みは……まだ見当たらないですねえ」

「花織さん、食べてからでいいよ。ムリしなくても」

 誠は定食の野菜炒めを口にした。

「……ていうか、何で学生がやってるの」

 当然のように捜査に加わっているおかしさに気づいて、誠は眉をよせた。

「何度も言うけど警察官でもない未成年がそんなことやる必要ないの」

「でも今回は、絶対にわたしの協力が必要になると思うんです」

 スマホの画面を見ながら花織が言う。

「ならないよ」

「ハロウィンのイベントといったらコスプレ天国じゃないですか。顔で見分けてるタイプの人は、誰が誰だか分からなくなりません?」

 花織が言う。

 うっと誠は言葉をつまらせた。

 百目鬼がキノコ蕎麦(そば)(はし)でつまみながらこちらを見る。

 確かに犯人が次々と仮装を変えたら。それは当初に心配したことだったが。

「それでも何とかやるもんなの、警察は」

 炒めた野菜と豚肉をかっこみながら誠はそう言い返した。

「それより書き込み拡散してくれた? 協力してくれるなら、そちらの方がありがたいんだけど」

「いちおう拡散希望って書いたんですけど」

 花織が複雑な顔をする。

「わたしのフォローしてくれてるの、スプラッタ平気な人とか毒物エピソード好きとか、医療系のダークなあるある話が好きな人とか、なおかつBLのネタがときどき絡んでもオッケーな人とかですから」

 誠は炒めた野菜と豚肉を無言で口にした。

 いったい普段、何を呟いてるんだろ。

「友達にも協力してもらってますけど」

「ああ……ありがとうって言っといて」

 不意に昨日のキャピキャピ攻めが脳内によみがえる。

 げんなりとした感覚を押さえつつ誠は味噌汁を口にした。

 花織がかぼちゃプリンをひとくち口にしながらスマホ画面を見る。

「死ぬまで踊らせる、真っ黒にして殺す……」

 かぼちゃプリンを口に運びながら花織は書き込みを復唱した。

 自分もターゲットの一人なのに気持ち悪くはないんだろうか。誠は花織の表情を伺った。

「真っ黒ってどういう方法なんですかね。ペストなわけないですよね」

 花織が首をかしげる。

「ペストなら十人といわず無差別に大量やれるだろ」

 百目鬼がそう口をはさみ、蕎麦(そば)をすする。

「ちなみにいうと、ペストで肌が黒くなる症例は全体の一割くらいなんだと。敗血症ペストだけ」

 百目鬼がそう続ける。

「へえ……全部だと思ってました」

 誠はそう応じた。

「焼死させるとか? 真っ黒くろこげ……」

 花織がさらに首をかしげる。

「建物が密集した商店街で?」

 誠はご飯を口に運びながらそう答えた。

「それも十人といわず大惨事になりそうだけど……」

「そっからまず分かんねえな」

 百目鬼が蕎麦(そば)をすすった。

「焼死とか、わたしなら “ボクシングやらせます”って書くかな」

 スプーンを手にしたまま花織がファイティングポーズのような仕草をする。

 生きたまま焼かれると両腕がそういう形になるが。

 死体を見るのが平気とはいえ、気分のいい話ではない。誠は軽く顔をしかめた。

「火災のさいトイレで倒れてた遺体の話なら聞いたことあるな」

 百目鬼が蕎麦(そば)(はし)でつまむ。

「一酸化炭素中毒でよっぽど気分悪かったんだろうって」

「となると、トイレで吐か……」

 最初の書き込みにも当てはまるなと思い誠は口にしようとしたが、食事中には少々言いにくい内容だった。

「あれ」

 花織が呟く。

「リプくれた人いる」

 ツイッターの名称が変わってもリプは相変わらず「リプ」なのか。そんなことを考えながら誠は顔を上げた。


「 “FF外から失礼します。朝石ハロウィン終了まで気をつけてね。ひじきは好きですか?”」





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