朝石駅前アーケード商店街 3
百目鬼がスマホに送られてきたメールの画面をスクロールする。
誠は横から覗いた。
「 “トイレでゲロ吐かせて殺します”、もう一つは “死ぬまで踊らせます” 」
「殺し方というか……」
誠は嫌悪を覚えた。
「クソ変態だな」
百目鬼が吐き捨てる。
誠は商店街の人混みを見渡した。
警察官の配備を嫌がった商店街に配慮して、私服の警察官があちらこちらに張っている。
そのうち一人と目が合い、誠は小さく会釈した。
「同じ人間があちこちに書き込みしてるんですかね」
「んー……」
百目鬼が書き込みの画面を親指で上下にスクロールする。
「文面的には同じっぽい気もするが……」
「IPは」
「別だとよ」
「こんなのあったんですかあ」
突然ソプラノの声が背後から挟まれる。
制服姿の花織が、いつの間にか二人の間からスマホを覗きこんでいた。
「うわ」
誠は思わず引いた。
久々のブレザーに膝上のプリーツスカート、サラサラの下ろした髪。
以前切りそろえた頬の横の髪は、伸ばしている最中なのかカチューシャで留めている。
「花織さん?! お友達は」
「事件みたいだから、みんなごめんって別れてきました」
花織が片手を顔の前に立て、謝罪している仕草をする。
「いや学生に関係ないでしょ」
誠は、先ほど女子高生の集団に詰めよられた場所を遠目に見た。
黒猫の大きな頭部を目印にすれば花織を避けられると思っていた。迂闊だった。
「着ぐるみは?」
「今日のところはみんなで交代で着てたので、さよちゃんと交代しました」
「さよちゃん……」
名前で言われてもと思う。
「編み込みにしてた子です」
「……そ」
あれは三つ編みじゃなくて編み込みっていうのかと思う。
「見ての通りだ、お嬢ちゃん。危ないからお友達ともどもハロウィン終了まで家にいろ」
スマホ画面を上下にスクロールしながら百目鬼が告げる。
「聞き捨てなりません。それじゃ犯人の思うつぼじゃないですか!」
花織が声を上げる。
「いや……犯人は女子高生を殺すのが目的だから思うつぼかな」
誠は宙を見上げた。
どういう方向に考えたんだろう。
「女子高生を外出させたくない犯人なんじゃないですか?」
花織が言う。
誠は顔を上げた百目鬼と目を合わせた。
「言われてみればそういう線の可能性も……」
「あるのか?」
百目鬼が眉をよせる。
「どっちにしろ犯人の動機も人数も分からん状態じゃ、安全なほうを取るべきだろ。お嬢ちゃん、いまからこの変態書き込み、ツイッターで拡散しろ」
「いまはエックスです」
花織がきっぱりとした口調で言う。
百目鬼がきつく眉をよせた。
「名称、エックスに変わったんです」
「……何だそのいちいちドラムセット破壊してそうな」
「わたしも青鳥のアイコンのほうが好きですけど、いまは秘密結社みたいなエックスマークが出てくるんですよね」
花織が制服のポケットをさぐる。
スマホを取りだし、操作した。
「これです」
スマホの画面をかざし「X」のアイコンを見せる。
「ご自宅でお気軽に秘密結社入会の気分が味わえちゃう割に、URLが相変わらずツイッターコムなんですけど」
百目鬼が上体をかがませてアイコンの表示された画面を見る。
「センスわっる」
「ともかくエックスでもツイッターでもいいからお友達に知らせてやって」
アーケードの下を通る人々を眺めながら、誠はそう口を挟んだ。
うーん……と花織が唸る。
「みんな露店のミニバームブラック買うの楽しみにしてるんですよねえ」
「何それ」
「ハロウィン伝統のドライフルーツのケーキです。中に指輪とかコインとか入ってて、それで未来を占うんです」
「露店の食いもんなんかよく食えるな」
百目鬼が顔をしかめる。
「他県の有名なお菓子屋さんの出張販売ですよ。ちゃんと包装してありますし、商店街の組合の許可も取ってるみたいです」
百目鬼がこちらを見る。顎をしゃくった。
裏を取ろうかということなのだろう。
誠はうなずいた。
「今日もいるのか? そのお菓子屋さん」
百目鬼がアーケードの下の人混みを見渡す。
「たぶん」
「んじゃそのベンタブラックとやらだけ買って、お嬢ちゃんたちはさっさと帰ったほうがいい」
百目鬼が荒い溜め息をつく。
「バームブラックですよ。ベンタブラックじゃ見えないじゃないですか」
花織が唇を尖らせる。
ハロウィンに合わせてか、アーケードの各所にあるスピーカーから不気味で不安を煽るような曲が流れだす。
「縁起でもねえ……」
百目鬼がぼやいた。




