朝石駅前アーケード商店街 2
商店街のアーケード内に、陽気な音楽が流れ続ける。
次の動作に困って、誠は笑顔をひきつらせた。
「えと……気をつけて」
ジリジリと後ずさり女子高生二人組から離れようとする。
「だれ? 彼氏?」
「え? だれの。どこ?」
最寄りの植えこみの影から、花織と同じ学校の制服の女子がわらわらと五、六人ほど現れる。
「うわっ」と誠は脳内で声を上げた。
「わたし的には彼氏は百目鬼さんって妄想したいけど」
好花が、はにかんだように笑む。
きゃーと歓声とも笑い声ともつかない黄色い声が上がった。
「もしかして前に、かおちゃんの家で張り込みしてた刑事さんですか?」
ショートカットの女子がワクワク顔で詰めよる。
「わたしたち張り込み見学したいってかおちゃん通じて言ったんですけど」
「どうしてもダメなんですか?」
「もう張り込みやらないんですか?」
ハーフアップの子とお団子に結った髪の子が交互に声を上げる。
「そしたら、かおちゃん家の周辺ばっかヤバいじゃん」
三つ編みの女子がコロコロと笑い、全員がまたきゃーと笑い声を上げる。
お嬢さま学校の生徒だけあって行儀は良い感じだが、黄色い声と押しの強い女性独特の圧は変わらない。
「法的にダメってことなんですか?」
「見学」
「えと……」
誠はさらに後ずさった。耳にキンキンきて話の要点がつかみづらい。
「あれ、バディの方どこかに行っちゃいましたけど」
ポニーテールの子がやや離れた道の先を見る。
「え?」
誠は彼女の目線を追った。
いつの間にか百目鬼は、ずっと先の道沿いにあるドラッグストアの店頭売り場に退避し、他人のふりをするように背中を向けている。
逃げた━━。
誠の脳内に、百目鬼に対する非難の感情が湧いた。
「あの、ピストルとか持ってるんですか?」
「重いんですか?」
三人ほどの女子が目を輝かせて聞いてくる。
「ふだんは持ってないの。課長の許可が下りたときだけ」
「えーそうなんだ。どうりで見たことないと思いました」
首から下が黒猫の着ぐるみのまま花織が応じる。
「持ってても見せるわけないでしょ」
答えながら、誠は何とかすんなり逃げられないかと脚を真横に踏み出した。
「警察手帳! 警察手帳見たいです! ダメですか?」
女子が何人かで囃し立てる。
「手帳はいいじゃないんですか? わたし何回も見てますし」
着ぐるみの頭部を両手でもてあそびながら花織が言う。
「そんなやたら見せて歩くもんじゃないの!」
「すごーい、めっちゃ刑事」
女子たちがきゃらきゃらと笑い出す。
言ってる意味が分からない。
「人見さん、めっちゃ刑事だそうです。よかったですね」
花織が改めて言う。
「聞こえてるよ。何がいいの」
誠は顔をしかめた。
「お、生きて帰ったか」
ドラッグストアの店頭売り場前。
女子高生たちからようやく逃れ、合流した誠に百目鬼はそう声をかけた。
「いや百目鬼さん、逃げましたよね?」
「逃げたよ?」
百目鬼が平然とそう答える。
「しかし俺があの書き込みの犯人なら、あの場でノルマのほとんど達成できるな」
店頭売り場の百枚入りの絆創膏の箱を手に取り、百目鬼は表示をながめる。
「いやまあ……ええ」
誠は額に手を当てた。
まだ心身にダメージを感じる。
「おまえがハーレムかましてる間、少し聞いてみた。怪しいやつはとくに見てないってさ」
「ハーレムって」
誠は眉をよせた。
「ま、こう人がゴチャゴチャいたら、怪しいも何もないんだけどな」
百目鬼が絆創膏の箱を置く。
誠は周辺を見渡した。
今ですらいつもより人出が多い。これが三十一日のハロウィンの夜となると、前に進むのも厄介なくらい混みあうのだ。
「ただのイタズラって線も」
「そりゃあるだろうな」
百目鬼が答える。
「あんな書き込みしてる時点で偽計業務妨害だけどな」
「ええ」
誠はうなずいた。
「せめて殺しかたを教えてくれたら簡単なんだが」
百目鬼がお徳用の包帯を手に取る。
「書き込みは日を置いて何回かありましたからね。そのうちそういうことも書いてくるかも」
「だからJK限定で外出禁止にしろって」
百目鬼が舌打ちした。
人混みの向こうに、花織の被った着ぐるみの頭部が見える。
ハロウィンの日はあの格好のまま商店街内を歩くと言っていた。
刺された場合だけは安全だなと考える。
「本当は等間隔で制服警官を配置したいところですけどね……」
「お祭りだからな。商店街の組合が、あんまりものものしいのもって渋ったんだとさ」
百目鬼が言う。
誠は溜め息をついた。
百目鬼のスマホの着信音が鳴る。
「──はい」
スマホを耳に当て、百目鬼が宙を見上げた。
「──うゎ、あそ。どうもね」
短く言って、百目鬼が通話を切る。
「追加の書き込みあったとよ」
「ありましたか」
誠は答えた。
「まったく別々のサイト。合計二つ。殺し方は二通り」




