表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第10話 来た、見た、買った

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/425

朝石駅前アーケード商店街 1


「二日後の朝石ハロウィン終了までに、女子高生を十人殺します」


 駅前商店街の駐車場に停めたワゴン車の中。

 百目鬼(どうめき)刑事は、タブレットをスクロールしながらネットにあった書きこみを読み上げた。

 ビル一階、屋内にある駐車場は薄暗い。ずっと先にある出入口から、秋口の穏やかな陽が射している。

「こんなマイナーな郊外のイベントご指名するとか。変態が」

「やはりこの辺りの人間でしょうかね……」

 人見 誠(ひとみ まこと)巡査はにぎわう商店街の様子を見つめた。

 渋谷ハロウィンに影響を受けて、数年前から駅前を中心に自発的に仮装した者たちが集まるようになった。

 今のところ大きなトラブルは起きず、近くの商店街にとっては稼ぎ時の一つになっている。

「女子高生はハロウィン期間中ずっと外出禁止っておふれ出しとけ」

 百目鬼がぼやく。

「今どきは男子高生も同じく外出禁止にしないと通らないんじゃ……」

 誠は溜め息をついた。

 ハロウィンは明後日だが、今日は前々夜祭と称して商店街がいろいろなイベントを催している。

 そろそろ夕方四時半。

 商店街を歩く人の中には、学校帰りと思われる制服の者もいる。

 ハロウィン限定のお菓子やグッズを手に各店から出てくる者、期間限定メニューを食べにスイーツ店へと入るグループ。

 高校生だけハロウィン禁止となったら、本人らよりまず商店街から抗議がきそうだ。

「しかし三十一日にはここ、仮装した人で(あふ)れかえるわけですよね……。もし犯人が次々と仮装を変えたりしたら、十人なんてすぐに」

 はたと誠は、ある人物を思い浮かべた。


 余目 花織(あまるめ かおり)


 失顔症、正確には相貌失認のため人の顔の見分けがつけられないが、そのぶん顔以外の部分に驚異的な観察力を発揮して人を見分ける女子高生。

「……おまえ、いま不吉なもの思い浮かべたろ」

 商店街の人混みを睨みつつ百目鬼が言う。

「え……いえ」

 誠は苦笑いした。

 何を察しているんだ、この人はとたじろぐ。顔に出ているんだろうか。

「ここまで何度かあったパターンだ。まずおまえが事件から不吉なものを連想する。それで召喚されたかのようにお嬢ちゃんの人見(ひとみ)さーん、百目鬼さーんって声が」

「ぐっ、偶然じゃないですか」

 誠は苦笑した。

「知ってるか? ハロウィンってヨーロッパでいうお盆なんだと」

 百目鬼が億劫(おっくう)そうに座りなおす。

 つまりこの人にとって、花織は異世界の化け物ということだろうかと思った。




「車から外眺めてても仕方ねえな。聞きこみして来んべ」

 そう言い、百目鬼が助手席のドアを開ける。

「あっ、はい」

 誠はそそくさとドアハンドルに手をかけた。

 ドアを開け、車から降りる。

 とたんに商店街のアーケード内でかけられている大きな音楽が耳に飛びこんだ。

 賑わってるなと感じる。

 それだけに、夜になると少々治安にも問題が出てくるのだが。

「まずは怪しい人間か車両でも見てないか、地道に聞き回るか」

 そう言い百目鬼が先を歩き出す。

「はい」

 ワゴン車のドアをロックし、誠は百目鬼のあとを追った。

 駐車場を出て広い通りに出ると、すでに仮装して歩いている気の早い者もいる。

 犯人は「朝石ハロウィンが終わるまで」と書き込みしているのだ。いま人を襲っても不思議じゃないのかと緊張する。


「あっ! 人見さーん、百目鬼さーん!」


 商店街の入口を入ってすぐ。賑やかな音楽に乗せて、聞き覚えのあるソプラノが耳に届く。

「うっ」

 誠は眉をよせた。

「出た」

 百目鬼が顔をしかめる。

 最寄りの地域の住人がこぞって繰り出しているのだ。いつもよりも偶然会う確率は高いだろうとは思っていたが、こうも早々にとは。

「捜査。これ以上はノーコメント。協力は要らないからね、じゃっ」

 誠は言いつつ横目で声のしたほうを見る。

 

 予想したサラサラ黒髪の制服姿はなかった。


「って、あれ?」

 商店街の人混みを見回す。花織の姿がどこにもない。

「人見さーん、こっちこっち」

 二、三メートルほど後方で、吸血鬼のようなマントをつけた黒猫が大きな肉球の手を振っている。

 着ぐるみだ。

 そのうしろには、魔女の三角帽子を頭につけたシャム猫。


「ハッピーハロウィーン! お菓子くれないと何かしちゃいますよー!」


 黒猫が両手を大きく振る。

 ややしてから、両手で頭部の被りものを取った。

「お二人ともどうしたんですか? DJポリスやるんですか?」

 少々ハイテンションの花織が中から顔を出す。

 誠と百目鬼は、無言で引いた。

「何……その着ぐるみ」

「おんざきコーポレーション系列の会社で作ってる着ぐるみです。モニターやってるとこ」

「おんざき……?」

 百目鬼が顔をしかめる。

 誠は、ハッと気づいて二歩ほど後ずさった。

 魔女の帽子をつけたシャム猫が被りものを取る。

「ご無沙汰してます、お二人とも」

 中から顔を出したボブカットの美少女がお辞儀をする。

 大企業おんざきコーポレーション社長の姪にして、なぜか二人を気に入っている腐女子。

 温崎 好花(おんざき このか)だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ