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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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警察署二階 刑事課 2

 署の二階、刑事課。

 時間帯は夕方。

 窓の外のムダにいい景色は、夕焼けでオレンジ色に染まっている。

 真夏に比べると、やや日が短くなってきた感があるなと誠は思った。

 百目鬼(どうめき)は先ほどから自身の席でスマホで話をしている。

 漏れ聞こえる会話から察するに、被害者近江 一登(おうみ かずと)のスマホかPCの調べがついたのか。

「──そうか。あんがとな」

 百目鬼がそう言い、通話を切る。

人見(ひとみ)

 スマホをデスクに置き、百目鬼が片手をこちらに向けて上下に振る。

「はい」

 誠は席を立ち、百目鬼のデスクに歩みよった。

「被害者、やっぱ企業脅してたみたいだとさ。PCからいろんな資料やらコピペやらが出てきたって」

「やはりそうでしたか」

 誠は溜め息をついた。

 それで仕事を得て事務所設立にこぎ着けるほどの収入につなげていた。

 自業自得と言ったら気の毒かもしれないが。

「脅してた内容は」

「いろいろだな。助成金の不正受給から粉飾決算、セコいのだと、亡くなった大御所作家の作品をキャラ名までまるまるパクった作品出版、それとディズニー作品の同じくキャラ名まで全部パクった小説を出版」

「……後半のは、よくバレませんでしたね」

 誠は顔を歪めた。

「サイバー課でこの件知ってるやついた。読者の間ではだいぶ前から指摘されてたが、出版社は知らんふりしてたらしい」

「こ……」

「こっちはこっちで」

 誠が言いかけてやめた言葉を、百目鬼が口にして顔をしかめる。

「パクられた側に知らせると言われたとかですかね」

「……まあPCから見つかった資料を突きつけて事情を聞くまで分からんけど」

 百目鬼が答える。

 誠はデスクの上にあるタブレットに目を移した。

「ニセ警官と店員を演じてた九里田 明皓(くりた あきひろ)は。その後なにか言ってますかね」

「ああ……」

 百目鬼がタブレットを操作する。

「被害者に脅されてたデザイン事務所の元社員だとよ。被害者に唯一(めん)が割れてないんで、暗躍を買って出てたらしいが」

 誠はタブレット画面に表示された顔写真を見つめた。

「警官に成りすまして捜査状況を伺ってたんですか」

「大胆だよな」

 百目鬼が眉をよせる。

「脅されてた企業側が殺人教唆したみたいに書いてる記事もあるみたいだけとよ、実行したやつらはやつらで、ずっと被害者が許せなかったんだと」

 百目鬼がそう話す。

 それはそれで納得できると誠は思った。

「一段落して夕飯食ってくるべ」

 百目鬼が席を立ち、スタスタと刑事課の出入口のドアに向かう。

 誠は返事をしてあとを追った。




「んで、主犯って誰になるんですか?」

 署の四階、署員食堂。

 玄関付近でバッタリと会い、当然のように相席してきた花織(かおり)が尋ねる。

 今日は制服姿に久しぶりの下ろしたサラサラヘア。

 まだ夏服の時期なのに長雨で急に冷えてきたので、長い髪が役に立ったというようなことを出会い頭に言っていた。

 よくは分からないが、髪を下ろすと上着一枚着た程度に暖かいそうだ。

「主犯は、これからの供述によるね……」

 誠はそう答えて味噌(みそ)ラーメンをすすった。

「各企業の上の人が殺人を教唆した可能性もあるってネットにありましたけど」

 花織が身を乗り出す。

「その辺は詰めてるとこ」

「教唆だとしたら、なにげに大事件じゃないですか? 今回の」

 花織が頼んだカツ丼が運ばれてくる。花織は割りばしを割った。

「かもね」

 誠はそう返した。

「事件解決の影に有能な女子高生の活躍があったとか、警察発表で言ってもいいですよ?」

「感謝してるけど、そのへんは上に直接かけあって」

 誠は顔をしかめた。

「トロパンアルカロイド使おうって発案した人は誰なんですか?」

 花織がカツ丼に切れ目を入れる。

「店員と警察官に成りすましてた九里田 明皓。実家が園芸店なんだって」

「それじゃ足がつきにくかったかもしれませんね」

 花織がカツ丼の肉を食む。

「カメラの前に観葉植物を置いたのは、店員に扮した九里田(くりた)。ビールジョッキをこぼしたのは、“準備完了” の合図だったんだと」

 百目鬼が醤油(しょうゆ)ラーメンをすする。

「全員でわざとテーブルでゴタゴタ起こして、あとで毒が検出されても誰が盛ったか分からんようにした。テーブルにわざわざ来た、よその客ってのも染谷 茉希(そめや まき)の同僚」

 百目鬼が言う。

「明日あたりワイドショーで再現CGまでやってくれるだろうから見とけ、お嬢ちゃん」

「あのニセ警官さんはベラドンナの実をそのまま持ってましたよね? 見つかったら即バレしそうなのになんで?」

 花織が指で輪っかをつくる。ベラドンナの実の表現だろう。

 無理やり飲ませられそうになったのに、トラウマにはなっていないんだろうかと誠はハラハラした。

「御守りみたいな感覚で持ってたんだと。事件現場ではブルーベリーに見せかけてカクテルに混入してたとさ」

「ロコモコの目玉焼きじゃなかったんだ」

 花織が言う。

「そこにぶっかけたカクテルの添え物」

 百目鬼が答えた。

「それを意地になって食べなければ。被害者さんも」

 花織が溜め息をつく。

「まあ……酔っぱらってただろうし」

 誠はそう答えた。


「これサービスなので。よかったら」


 ふいにテーブルに近づいた食堂スタッフが、ガラスの小皿を三つ置いていく。

 中には、青黒い実が盛られていた。

「あ、ブルーベリー」

 花織が明るく言い、指先でつまむ。

 誠と百目鬼は、顔を歪めた。

「どうしたんですか、お二人とも。ちょっと酸っぱいけど目にいいそうですよ?」

 花織が次々とつまんで口にする。

「……花織さん、よく平気だね」

 引きながら誠は問いかけた。

「なにがですか」

 花織がそう返す。

 カツ丼を口にしつつブルーベリーをつまむ花織を、誠と百目鬼は複雑な表情で見つめた。



 終





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