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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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駅前ビアガーデン駐車場 5

「え?」

 (まこと)は制服警官が向かった先を凝視した。

「え? え?」

「えじゃないです。防犯カメラの店員さん見て、どこかで見た歩き方だなってずっと思ってたんですけど」

 百目鬼(どうめき)が助手席でタブレットを操作する。

 この件の捜査に加わっている警察官の名前をチェックしているのか。

 かなり時間をかけてスクロールしていたが、しばらくしてから顔をしかめた。

「……誰だ、あいつ」

 顔を上げ、フロントガラス越しに事件現場のほうを見る。

「誰って」

 誠は眉をひそめた。

「このまえも見たことねえ顔だなとは思ってたんだが」

「警官の顔、ぜんぶ覚えてるんですか?」

 花織が目を丸くする。

「管轄内のはだいたいな」

 百目鬼は答えた。

「すごい記憶力ですね」

 誠と百目鬼は、二人で同時に花織の顔を見た。

 人の見分けに関しては、自分の方がよほどびっくりされるレベルなのは分かってないのだろうか。

 大真面目に言っているようだ。

「……あんがと」

 百目鬼がやや困惑した表情でそう返す。

「ニセモノ警官ということですかね」

 誠は事件現場を眺めた。

「ビアガーデンと同じ構図だ。ニセモノが制服着て外部から(まぎ)れこんでも、はっきりおかしいと気づくやつがいない」

「違和感は覚えても、管轄外からの応援だろうかとか、たまたま自分が覚えてない顔だったのかとか思うだけですね……」

 誠は答えた。

「どうします? 警察手帳を見せてもらいますか?」

「このまえの気弱な大学生が、そういうのネットで売ってるとか言ってたからな。用意してる可能性ないか?」

 百目鬼が顔をしかめる。

「手帳をよく調べればすぐに分かると思いますが」

「よく調べられるような決定的におかしい部分が突きつけられるんならな」

 (くだん)の制服警官が、駐車場を横切るのが遠目に見える。

 敷地内から出て行くのだろうか。

「ああやってさりげなく敷地から出れば、そのまま逃げられるか……」

 百目鬼が警察官の歩く姿を睨む。

「捜査報告書のどこにも名前がないと言ってみれば」

「ただの書きもらしだと言われたらどうする……」


「話は聞かせてもらいました。どうやらわたしの出番ですね!」


 唐突に花織が口をはさむ。

「は?」

 探偵ドラマの定番のようなセリフに、誠は目を丸くした。

 後部座席を振り向く。

 聞かせてもらったも何も、仕方がないので花織に聞かれているのを承知で話をしていたのだが。

 花織が後部座席のドアを開ける。

 軽やかにワゴン車から降りると、敷地から出ようとする制服警官に向かって走り出した。

「ちょっ……花織さん!」

 誠はあわてて運転席から降りた。

「何するつもり……!」

 百目鬼もそちらを伺いながら助手席のドアを開ける。


「ねえちょっと! あのときのビアガーデンの店員さんでしょ?」


 花織が制服警官のほうへと走りよりながら声を上げる。

 制服警官がぎょっとした顔で振り向いた。

「わたしこの前ビアガーデンでお食事してて、カルボナーラソースのリグォーリフェットゥッチェとガーリック抜きのフェットゥンタ頼んだのに、どうして持ってきてくれなかったんですか!」

 花織が制服警官に詰めよった。

「え……ちょっと何きみ……」

 制服警官が後ずさる。

「ちゃんと頼んだのに!」

「え……未成年でしょ?」

 制服警官は帽子の(つば)を手で引き、顔を隠すようにした。

「未成年がビアガーデンに入っちゃダメって法律はないです。お食事とトロピカルジュース頼んでなにが悪いんですか!」

 花織がジリジリと詰めよる。

 車から出てきた誠と百目鬼を気にしてか、制服警官はこちらを見て苦笑いした。

 百目鬼がこっそりと誠の背中を小突く。

 相手は殺人に関わっているかもしれない人物だ。詰め寄っている花織は、かなり危険な位置にいる。

 タイミングを間違えるなという意味と誠は受け取った。

 小さくうなずいて応える。


「とぼけてもダメ! 顔、ちゃんと覚えてるんだから!」


 花織が制服警官の顔をビシッと指差す。

 制服警官がこちらをチラッと見る。ほぼ同時に花織の腕をつかみ、羽交い締めにして口をふさごうとした。

「きゃっ!」

 とっさに花織が身をよじり抵抗する。口にブルーベリーのようなものを数粒入れられそうになり、必死に吐き出した。

人見(ひとみ)!」

「はいっ!」

 誠は走りより、花織を抱き抱えるようにして制服警官から力づくで引き離した。

「百目鬼さん、お願いします!」

 花織を百目鬼のほうへと突き飛ばし、逃げようとした制服警官の(えり)を強くつかむ。

「人見さん! その人が持ってんのたぶんベラドンナの実です! トロパンアルカロイド!」

 花織がこちらを指差し叫ぶ。

 制服警官と目が合った。

 逃げようとした制服警官を、誠は体当たりでアスファルトの上に引き倒した。上に覆いかぶさり抑えこむ。

「とりあえずJKに対する傷害の現行犯か? あと持ってるもんについて話聞こうか」

 おもむろに近づいた百目鬼が、抑えこまれた制服警官の顔の前にしゃがみ、そう告げた。





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