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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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駅前ビアガーデン駐車場 4

「脅されてた?」

 事件現場の駅前ビアガーデンの駐車場。

 警察車両のワゴン車の運転席で、(まこと)百目鬼(どうめき)の言葉を復唱した。

 事件現場を遠目に見る。そろそろ辺りは薄暗くなってきた。規制テープはすでになかったが、ほかの刑事と制服警官が何人かビアガーデンを出入りしている。

「わたしも脅迫かなって思いました」

 花織(かおり)が後部座席で右手を挙げる。

「花織さん……」

 誠は前方を眺めつつ顔をしかめた。

「はい」

「だから何で乗ってきたの!」

 後部座席を振り向く。後部座席のシートには、制服姿の花織が(ひざ)をそろえ行儀よく座っていた。

「犯人って現場に戻るとかいうじゃないですか」

 花織がピースする。

「わたし役に立つかも」

「……それ、事前に犯人をどこかで見てる場合限定だよね?」

「見てるかもしれないじゃないですか」

 花織がそう返す。

 誠は溜め息をついた。ハンドルに突っ伏す。

 署員食堂で三人で食べたあと、署の駐車場で別の刑事に呼び止められた。

 ワゴン車の鍵を開けたところだったが、目の届く範囲なのでおかしなこともあるまいと油断していた。

 出発してだいぶたった県道のど真ん中で、花織が後部座席からひょっこり現れたのだ。

 近くに交通機関もなく、人通りのある場所も通らない道筋なのでやむなくそのまま乗せてきたが。

「何やってんの、なに……」

 誠はうめいた。

「堂々と乗りこんでたからお前が許可したんだと思ってた」

 百目鬼が真顔でタブレットをスクロールする。

「そんなわけないじゃないですか……」

 誠は眉をよせた。もういちど後部座席を振り向く。

「あとで送るから。仮に防犯カメラに映ってた人を見つけても危ないことはしない。いいね?」

「了解」

 花織が敬礼する。

「あとはなるべく隠れてて」

「わかりました。定員オーバーの車で警察署のまえを通るときみたいに……」

「まえに二回聞いたけど、それよくやる手口なの?」

 誠は顔をしかめた。

 座り直して、溜め息をつく。

「……脅されてたってのはどういうことですか」

 誠は改めて百目鬼に尋ねた。

 「ああ」と百目鬼が返事をする。

「まだ推測だけどな。被害者に仕事回してた企業か担当者のどちらかが、弱み握られてたんじゃないかって」

「あ……」

 誠はつぶやいた。言われてみれば単純な話だが、話のつじつまは合う。

「次々仕事を要求されて殺した……?」

「弱み握ったのは、ジャーナリストとか言ってた時期か?」

 百目鬼がタブレットをスクロールする。

「そんな調査能力があったら、ジャーナリストで充分やれてたんじゃ」

「ラクしたかっただけのやつみたいだからな。お嬢ちゃんの情報を信じるなら」

 百目鬼が後部座席をチラリと見る。

 花織がピースを返した。

「才能使う方向性を間違えてるタイプの人っているじゃないですか。弱みを調査するときだけ有能だったとか」

 花織が後部座席から身体を乗りだす。

「……そういうのタイプ分けで説明されても」

 誠は眉をよせた。

「被害者がそんな調査した動機は何だったんでしょう。解雇に至った逆怨み?」

「と考えると、話の通りはいいんだが……」

 百目鬼は呟いた。

「物的証拠か証言がないうちは、ただの推測だからな。とはいえ、被害者と関わってた企業に行っても、また “いい人でした” 繰り返されるだけだろうし」

「昨日行ったところも同じでしたね……」

 誠はシートに背中をあずけた。

「聞きこみの応対したのって? 一緒にお食事してた方々なんですか?」

 花織が問う。

「いや企業によってだよ。一緒にいた人が出てきたところもあるし、違う人が出てきたところも……」

 そこまで言って、誠は目を見開いた。

「あ……」

 百目鬼のほうを見る。

「違う人間まで “いい人でした”って言ってたってことは……」

 百目鬼が目を見開いた。

「脅されてたのは個人じゃない」

「企業ですか?!」

 誠と百目鬼は、二人そろって同時にそう口にした。

「ぅわ。わたしマジお手柄」

 花織がそう口をはさむ。

「被害者のPCかスマホ見れるか……? いま持ってんの遺族か?」

 百目鬼が(あご)に手を当て前方の事件現場を睨みつける。

「企業の弱みとなると、確たる資料を持ってる可能性が高いですね」

「何だ……? 粉飾決算か? 談合か?」

「ほかの課と合同になりますかね」

 誠はつぶやいた。

 百目鬼がしばらく黙りこんで、真顔で答える。

「……面倒くせえから、うちだけで解決できる方向性で行け」

「そんな無茶な」

 誠は困惑してそう返した。

 運転席側の窓のそばに、制服警官が近づいた。

「ご苦労さまです」

 制服警官が敬礼する。

 誠はパワーウインドウを半分ほど開けた。

 この駐車場で先日、防犯カメラの映像を送信してくれた警官だ。窓を開けてから気づく。

「ご苦労さまです」

「防犯カメラの映像、あれだとちょっと(つら)いですよね。顔が見えないんじゃ、ほとんど手がかりにならないというか」

 制服警官が、はは、と笑う。

「え……ええ」

 誠は、後部座席のほうをチラッと見た。

 花織が窓越しに制服警官をじっと見ている。

 そういえばこの警官には、百目鬼がその場しのぎで彼女だの何だのと言ったんだったと思い出した。

 おじさんの軽口として本気にしてなければいいが。

「あまり捜査の進展ないみたいですね。被害者もいい人で、動機もよく分からないみたいだし」

 制服警官が事件現場のほうを振り向く。

「ああ……ええ」

 

 「じゃ」と軽く会釈をして、制服警官が立ち去る。


「花織さん、隠れててって言ったでしょ」

 誠は顔をしかめて後部座席をもういちど見た。

 花織はなぜか、両手で口をぎっちりと抑えている。

「……何してんの」

「思わず声出しそうになっちゃいました」

 花織がくぐもった声で言う。


人見(ひとみ)さん、防犯カメラに映ってた店員、あの人です」





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