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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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警察署四階 署員食堂 2

「トラブルメーカーの同期と一緒にビアガーデン……」

 タブレットのメモを見つつ(まこと)は眉をよせた。

「まあ、面倒くさい相手でも仕事絡みならそれはそれってのはあるけどな」

 百目鬼(どうめき)が言う。

「ほかの友人は。ちなみに素性は」

「待ってろ」

 百目鬼がタブレットをスクロールする。

 スクロールしながら、徐々に顔をしかめていった。

「広告代理店勤務、デザイン事務所、雑誌社、雑誌社系列の印刷会社……」

 誠と百目鬼はしばらく二人そろってタブレット画面の資料を見つめた。

「……被害者と関わりのありそうな職種ばかりだったんですね」

 なぜ気づかなかったのかと誠は思った。

「まあそもそも日常的に付き合いがあるなんてのは、関連する職種のやつってのがふつうだろうが……」

「だから事情を聞いたさいは、とくにおかしいとは思わなかったのかな」

 誠は呟いた。

「ふつうなら全くおかしくはない」

 百目鬼がそう返す。

「ただこのメンバーで一緒に食ってて、毒物盛られたのが業界内のトラブルメーカーだったとなると」

 百目鬼がきつく顔をしかめた。

「お二人とも、ラーメン伸びますよ」

 花織が首をのばし、こちらのドンブリの中身を覗きこむ。

 誠と百目鬼は、とりあえずラーメンの麺だけは平らげようと急いですすった。

「被害者の近江 一登(おうみ かずと)さん、はじめはジャーナリストって名乗ってたんですけど、一年ほどしたころに今度はグラフィックデザイナーとして仕事を回してって言ったそうです」

 花織がカツ丼の肉を食む。

「いい加減なやつだな」

 百目鬼が顔をしかめる。

「そういうのってそうコロコロ転向できるもんなの?」

 誠は問うた。

 花織がテーブルに置いていたスマホを手に取る。

「素人のおっさんとしては、単に才能のあるなしかなってしか」

 百目鬼が眉をよせる。

「被害者はどうなの? 絵心とかあったの?」

「そこです」

 花織が人差し指で誠を指す。さすがに(はし)で指したりしないところは行儀がいいなと誠は思ってしまった。

「絵心どころか、グラフィックデザインの勉強なんか一切したことない人だったんだそうです」

 花織がカツ丼に(はし)で割れ目を入れる。

 誠は困惑した。

「えと……具体的にグラフィックデザインの勉強って? 絵の勉強とか?」

 花織がそこまで知ってるかどうか知らないが、誠は尋ねた。

「そうくるだろうと思って、おんざきコーポレーション販売促進部のお姉さまがたを訪ねて、お話を聞いてみました」

 花織が教育番組のオープニングのようなノリでそう言い、(はし)を持った手でピースする。

「お姉さま転がし無敵だな……」

 百目鬼がラーメンをすする。

 花織がスマホを操作した。メモ機能を開いたと思われる。

「手描き主流の時代は、画材の勉強からだったんだそうです。アクリル絵の具の特性とか、カラーインクの特性とか。絵筆で線を引くやり方、定規の使い方。あとデッサン、色彩の勉強。そこから派生して色彩心理学、マーケティング、コピーライティング……」

 結構あるんだなと誠は思った。

「いまはデジタルで描くのが主流だそうです。あと、まだちょっと独学の人が多いみたいだけどAIとかって」

「そういうの、例えばぜんぶ独学でもやれるものかな」

 誠は問うた。

 「ええと……」と花織がつぶやき、スマホをスクロールする。

「勉強は不可能ではないでしょうけど、仕事の人脈をつくるのは難しいんじゃないかなだそうです」

「人脈……」

「単にデザインができるなんて人は山ほどいるから、やはり専門的に学んだとか、賞でも取ったとか具体的なポイントがないとって」

「いきなり素人がフリーデザイナー名乗って事務所設立するほど稼ぐなんて、ほぼあり得ないんだ……」

 誠はつぶやいた。

「人脈はあったろ。解雇された広告代理店とトラブル起こした取引先」

 百目鬼がほうじ茶を飲む。

「そんな人に仕事回しますか?」

 誠は顔をしかめた。

「すみません、話戻しますけどいいですか? いっぱい聞いてきちゃったんで」

 花織がスマホをタップする。

「被害者さん、ジャーナリストがラクな仕事だと思って名乗ってみたら取材が面倒くさいので、簡単そうなグラフィックデザイナーにしたってヘラヘラ言ってたそうです」

 百目鬼が顔を歪める。

「手描きの時代ならともかく、いまはPCあれば楽勝そうって」

「ほら……そんな人に仕事を与える企業がどこに」

 誠は眉をよせた。

「でもいちおう仕事もらって稼いでたんだろ?」

 百目鬼がラーメンをすすった。

「ちなみにですね」

 花織がふたたびスマホをスクロールする。

「あのビアガーデンでのお友達同士のお食事会、企画したのは染谷 茉希(そめや まき)お姉さまの上司だそうです」

 誠は眉をよせた。

「……どういうこと?」

「後ればせながらの内輪だけの事務所設立のお祝いって感じみたいだったそうです。被害者と関わってる各企業の担当者にも声をかけて」

「おいおい……?」

 百目鬼が顔をしかめる。

「歓迎されてるのかされてないのか分かんないな」

 誠は無料サービスのほうじ茶を口にした。

「俺はなんか見えてきた」

 百目鬼がなるとを口にする。

「わたしもなんか、話してるうちにもしかしてって」

 花織がカツ丼のドンブリを手に持ち、ご飯を(はし)でかき集めた。





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