表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/440

警察署四階 署員食堂 1

「学校は?」

人見(ひとみ)さんて、いつも同じ話から入りますね」

 運ばれてきたカツ丼に(はし)で切れ目を入れつつ、花織(かおり)はそう答えた。 

「平日の昼間に学生を見かけたら、それしか言うことないでしょ」

「終わりました。いま帰りです」

 花織がはむはむとカツ丼の肉を食む。

 百目鬼(どうめき)が顔を上げ、カウンター奥にあるアナログ時計を見る。「なるほど」という顔をした。

「トロパンアルカロイドが持ち出された病院ってありました?」

 花織が問う。

 誠は無言で応じた。

「わたしも電話調査してみたんですけど、ないみたいですね」

 花織が無料提供のほうじ茶を飲む。

「なに聞いて回ってんの。そういうのはいいの」

 誠は顔をしかめた。

「あ、それでなんですけど」

 花織が制服のポケットに手を入れて、ごそごそと探る。スマホを取り出した。

 誠と百目鬼のほうにスマホを向ける。

「お二人とも、よろしいですか?」

「え?」

 誠はラーメンを(はし)でつまんだまま動作を止めた。

 百目鬼がタブレットを操作しながら顔を上げる。 

 花織のスマホから、写真撮影時のシャッター音がした。

「え? なに」

「あ、食べてていいですよ」

 花織がそう言いスマホを操作する。

「何してんの」

「このちゃんへ。今日のお夕食は、お二人なかよく醤油(しょうゆ)ラーメンです」

 花織がそう呟きながら親指を巧みに動かし文字を打つ。

「何してんの」

 花織のスマホから受信音がした。

「あ。このちゃん返信、はやっ」

「だから何してんの」

 誠はラーメンを(はし)でつまみ上げたまま眉をよせた。

「 “もしかしてお二人で一つのラーメンですか、ドキドキ” 」

 花織が好花(このか)からの返信と思われるものを読み上げる。

 読み上げてから不意に顔を上げ、誠と百目鬼のそれぞれのラーメンを見た。

「残念。別々のラーメン、このちゃん」

 言いながら花織が文字を打つ。

 すぐに返信らしき受信音が鳴った。

「 “そんなじれじれなお二人も尊いです” 」

 花織が読み上げる。

「すっかりこのちゃんの推しカプですね」

「……頼むから僕らに理解できる言葉と行動をお願いできる?」

 誠は眉をよせた。

「このちゃんから、被害者さんについて情報提供があったんです」

 花織が言う。

 われ関せずという感じでやっとラーメンを食べ始めていた百目鬼が顔を上げた。

「情報提供者さんに、お礼のサービスです」

 花織がスマホを手にピースする。

「肖像権って、前に話したよね?」

「だから撮る前に許可取ったじゃないですか。よろしいですかって」

 誠は溜め息をついた。

 これが裁判なら(こじ)れそうなやり取りだ。今度からは、反社だけじゃなくこの子とのやり取りも気をつけようと思う。

「何の情報だ、お嬢ちゃん」

 ラーメンをすすりながら百目鬼が問う。

「被害者の近江 一登(おうみ かずと)さんについてです」

 花織は身体を前に乗り出し声をひそめた。

「おんざきコーポレーションと取引のある広告代理店、数社の間で言われていた話だそうです」

「……そういう話ってどうやって聞いてくるの?」

 ラーメンを(はし)で上げ下げしながら誠は尋ねた。

 聞き込みの参考になるだろうか。

「簡単ですよお。社員食堂とかに行って、そこに(つど)ってるお姉さまがたに “アルバイトです。エヘッ” ってご挨拶して」

「アルバイトです。エヘ……」

 百目鬼が棒読みで復唱する。まるで宇宙人の言語でも聞いたかのような複雑な表情だ。

「自分からは出しゃばって行かないのがポイントです。お姉さまたちがこちらを見て、あら? なにあの子? って顔したら、控えめにエヘッて。そしてお姉さまがたのご教示をあおぐ(てい)で、聞きたいことを切り出す」

 誠は何となく眉をよせた。

 たぶん参考にはならない。

「このちゃんは、もっとこういうの上手いんです。お偉いさんたちが雑談してる場所にさりげなく(まぎ)れて、“間違えてしまいました、ごめんなさい” って」

「女スパイかよ……」

 百目鬼が顔をしかめた。

「情報って?」

 誠はラーメンを口にした。

「被害者の近江(おうみ)さんは、十年ほど前までとある広告代理店に勤務していたそうです」

 花織が話を始める。

 百目鬼がラーメンを(はし)でつまみながら、指を折って数えた。

「十年前までって、在籍してたの四年くらいじゃねえか?」

「取引先とのトラブルが多くて、なおかつそれをたびたび隠したりするので、何度めかにやんわり解雇されたそうです」

「トラブルメーカーだったの?」

 誠は眉をよせた。

「なぁにが “いい人でした” だ。さっそく襤褸(ボロ)が出てきやがった」

 百目鬼がつぶやく。

「解雇されたあとに、ジャーナリストを名乗り始めたそうです」

「グラフィックデザイナーじゃないの?」

 誠はラーメンの麺を(はし)で上げ下げした。

「はじめはジャーナリストと言ってたそうです。辞めた会社にもトラブルを起こした会社にも名刺を持って現れたんで、当時からいらしたお姉さまはドン引きしたって言ってたそうです」

「お姉さまはドン引き」

 百目鬼がつぶやく。

 話の要点ではないが、何となくのパワーワードなのは分かる。

「そのお姉さまが、今回ビアガーデンで一緒にお食事をしていた方の一人だそうですけど」

「えっ」

 誠はラーメンを口にしようとした手を止めた。

「ん?」

 百目鬼がおもむろにテーブルに置いていたタブレットを手に取る。

「え? 友人の一人?」

 誠はそう聞き返した。急な話の展開について行けない。身体を横にかたむけ、百目鬼が操作し始めたタブレットを覗きこんだ。

「そのお姉さまは、ドン引きしたくせにビアガーデンご一緒したのか?」

 百目鬼が問う。花織につられてか日本語が少々おかしい。

「お姉さま、被害者と同期入社でいまは課長だそうです」

 花織がそう言う。

「誰だ。どの友人」

 百目鬼がタブレット画面をスクロールする。

「広告代理店勤務で同期で女……これか?」

 百目鬼がメモの途中で手を止めた。

染谷 茉希(そめや まき)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ