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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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警察署二階 刑事課 1

「株式会社Qnine “近江(おうみ)さんはいい人でしたよ”、つくも社 “近江さん、いい人でしたよ”、斑鳩出版 “いい人でしたよ”、旭プレス……」

 

 署の二階にある刑事課。

 聞き込みで得た話を、先ほどから百目鬼(どうめき)がタブレットを手にブツブツと繰り返している。

 刑事課内には数人ほど刑事がいたが、とくに気にもせずにそれぞれの時間の潰しかたで待機している。

 誠は、そのうち声がかかるんだろうなと思いながら聞いていた。

 壁の一角にあるアナログ時計は、夕方の五時を二、三分ほど過ぎたところだ。

 課長の席の後ろにある大きな窓からは、綺麗なオレンジ色の夕焼けが見えている。

 夕飯を食べに行くのか、二人ほどの同僚がおもむろに席を立ち部屋を出て行った。


人見(ひとみ)


 頬杖をつきながら百目鬼が呼びかける。

 「はい」と(まこと)は返事をした。

 百目鬼が手を上下に振り、こっちに来いと指示する。

「はい」

 もういちど返事をして、誠は席を立ち百目鬼のデスクのそばへと歩みよった。

「やっぱ気持ち(わり)い……」

 百目鬼がタブレットのメモを見つめて口を手で押さえる。

 誠は苦笑した。

 ここ二、三日、聞き込みに行く先々で同じような証言を聞かされ、そのたびに百目鬼はこの反応を示していた。

 突っ込んだことを聞こうとしても、ともかく “いい人でした” と愛想笑いで返される。

 その奇妙さに辟易(へきへき)していた。

「いや……世の中には誰に聞いてもいい人ってのもいるかもしれねぇけどよ、何だこの判で押したような。どいつもこいつも」

「やっぱり口裏を合わせてるとかですかね……」

 誠はタブレットを見下ろした。

「やっぱそう思うか」

「証言の内容が似るのはおかしくないですけど、表現まで同じになることはあまりないですから」

「問題は、何を目的に口裏を合わせてるかだ……」

 椅子の背もたれに背をあずけ、百目鬼が腕を組む。

 安い椅子の背もたれがキッと音を立てた。

「被害者がフリー契約してた出版社やら広告代理店やらがそろって口裏を合わせるって」

 誠は(あご)に手を当て考えこんだ。

「で、トロパンアルカロイド盛ったのは誰だ?」

 百目鬼が眉をよせる。

「それですよね……」

 誠は溜め息をついた。

「病院で持ち出されたところは今んとこなし。園芸店のほうは、自分でベラドンナを育てて毒を抽出したとなると購入したのは数ヵ月前ではないかと」

 ポケットからスマホを取り出し、誠は自身のメモ機能に書きこんだ内容を確認した。

「トロパンアルカロイド盛ったやつが出版社関係だった……」

 百目鬼がつぶやく。

「そう考えんのがいちばん素直な気がするが、何で数社そろって(かば)うんだ?」

「もうひとつ素直に考えるとしたら、被害者が嘔吐する直前にテーブルに来ていた人物が、“一日中書きものをしているかPCに向かう仕事をしていそうな人物” と花織(かおり)さんが見当をつけたってとこが」

「出版かそれ関係ってのに当てはまるか……」

 百目鬼がそう返した。

「もしくは出版社と関わるジャーナリスト、作家、外部ライター、絵師……」

 百目鬼が、キッと音を立てて椅子の背もたれを背中で押した。

 頭のうしろで両手を組み、しばらく考えこむ。

「あ゙ー」

 ややしてから声を上げた。

「分かんね」

 デスクに手をつき、百目鬼は椅子から立ち上がった。

「分かんね。とりあえずメシ食ってからにしようや、人見」

 そう言いタブレットを手にスタスタと出入口に向かう。

「はい」

 そう返事をして、誠は小走りでついて行った。

 



 署の四階、署員食堂。

 夏の限定メニューの貼り紙はとっくにすべて剥がされ、通常のメニューが並ぶ。

 食券をカウンターに置いて、ちょうど空いた窓際の席につく。ややしてから注文したラーメンが運ばれてきた。

「お先します」

 タブレットを見ている百目鬼に向けてそう言い、誠は割りばしを割った。

 画面をスクロールしながら、百目鬼が「おう」と返事をする。

 今年は残暑が長引くといわれているが、それでも夕方のやや気温が下がった時間帯に口にするラーメンの温かさは心地よくなってきた。

 誠は一口めをすすった。


「相席いいですか?」


 テーブル横に来た人物にそう問われる。女性の声だ。

 女性警察官だろうと思った。

 ほかにも空いている席はいくつもあったはずだがと思いながら、誠は「どうぞ」と返事をした。

「あ、カツ丼こっちです」

 カウンターに向けてそう言った相席の相手に、不意にいやな予感がして誠は顔を上げた。

「ご苦労さまです」

 制服姿の女子高生が同じテーブルに着き敬礼する。

 花織だった。





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