駅前ビアガーデン駐車場 3
花織が警察車両の後部座席に乗りこむ。
百目鬼がうしろに身体をねじり、花織に見えるようタブレット画面を向けた。
花織が身を乗りだしてタブレット画面を見る。
「このテーブルにいる全員の仕草を覚える感じですか?」
「被害者と一緒に食事してた友人らは、全員身元も分かって事情を聞いてる。ビールジョッキを倒したっていう店員と、ドタバタしてる間に話しかけてきたほかのテーブルの客ってのが誰か分からん」
百目鬼が説明する。
「顔が映ってれば早かったんでしょうけど……」
誠は眉をよせた。
こんな未成年の女の子を巻きこんではといつも思うのだが、仕方ないかと思う。
「店員さんの身元が分からないって、めちゃ怪しくないですか?」
花織が眉をよせる。
「怪しいよ」
誠は答えた。
「履歴書がデタラメだった感じなんですか?」
「今のところの経営者の話だと、雇った覚えのない人だと言ってる。ほかの従業員も証言は同じ」
花織が顔を歪めた。
「それ、めちゃめちゃおかしくないですか? わたしアルバイトとかしたことないですけど、知らない人が制服着て紛れてたら、なにあの人ってなるんじゃ」
「アルバイトしたことないんだ……」
どうでもいいことだと思いつつ、誠はそこにツッコんでしまった。
「うちの学園、アルバイト禁止です」
画面を見つつ花織が答える。
「おっさんが高校生の頃は、禁止でもみんなやってたけどな」
「不良さんだったんですか?」
花織が真顔で問う。
「不良だったのは人見のほう」
「いいから、画面見て」
誠はタブレットの画面を指差した。
「店員さんというと、白シャツに黒ベストのバーテンダーみたいな格好した方ですか?」
花織が問う。
「それだな」
百目鬼が答えた。
スラリとした体型の男性だが、観葉植物で隠れている上にこちらに背中を向けている。
「防犯カメラ意識して背中向けてんのか?」
さかさまから画面を見ながら、百目鬼がつぶやく。
「だとしたらカメラの前の観葉植物は、たまたまですかね。置いてあることが分かってたら堂々と顔を向けるんじゃ」
誠は言った。
「まあ念のためってこともある」
百目鬼が答える。
「ううん? ん?」
花織が首をかしげる。
「これ、巻き戻しどうやるんですか?」
タブレット画面をあちこちタップする。
百目鬼がタブレットを花織に手渡して持たせ、自身で操作した。
「んー」
花織が見よう見まねで操作し、何度も巻き戻す。
「何かあった?」
「この歩き方と腕の引きかた、どこかで見た気がするんですけど……」
花織が宙を見上げる。
「やっぱり病院関係者?!」
誠は声を上げた。
「たぶん違うと思います」
「園芸店か」
百目鬼が問う。
「それも違うと思うんですけど……」
「駅前のホームレスか」
「通りすがりの人たちのデータを集める捜査方法はやめたんです。なんか効率悪いですし」
花織が答える。
誠は顔をしかめた。
そもそも学生がそこまでしなくていいんだけどと言いたかったが、彼女の協力を仰いでいる真っ最中に言っても説得力がなさそうだ。
「ていうかこの店員コスプレの人、ビールわざと溢してますよね」
花織が言う。
「わざと?」
「溢す直前、歩幅を不自然に小さくしてます。あと、ほんの少しテーブル側に方向転換もしてます」
花織がタブレット画面を巻き戻す。
たしかに店員の足は、言われなければ分からない程度だが歩幅を縮めていた。
「ねらいを定めてるとこうなりますよね」
花織がそう言う。
「わざとだとすると……?」
百目鬼が低い声でつぶやく。
「かなり疑わしいですね」
誠は答えた。
「お嬢ちゃん、もう一人。被害者が嘔吐する直前に話しかけてた客だ。特徴つかめるか」
百目鬼が手を伸ばしてタブレット画面を早送りする。
テーブルに着いた人間が、立ち上がったり手を左右に動かして倒れたグラスを起こしたり店員を呼んでいる間、割としゃんとした動きで近づく男性がいた。
カーキ色のシャツを着た男性が顔を上げたのが観葉植物の葉の隙間から見える。
このカーキ色のシャツの人物が被害者。
「けっこうちゃんとした足取りですね。酔っぱらってテーブルを間違えたのをイメージしてましたけど」
誠は言った。
「んだな」
百目鬼が答える。
「関節可動域が狭そう。たぶん普段から歩幅は狭い感じですね。少し前屈みになるクセがあるみたい。視線がつい鼻先あたりになってしまう感じ。相当に本を読む人とか文筆業の人とか、一日中PCを使ってる仕事の人とかにこういう人多いみたいなんですけど」
花織が一気に特徴を口にした。




