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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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駅前ビアガーデン駐車場 2

 (まこと)百目鬼(どうめき)は、目を合わせた。

 病院への聞きこみという時点で花織(かおり)にある程度の話が伝わるのは想定しておくべきだった。

「トロパンアルカロイドって、ベラドンナのでしょ? 園芸店も回ったほうがいいんじゃないですか?」

 花織が言う。

「そっちはそっちで別の人が行ってるの。役割分担があるんだから、意見があるなら改めて担当の窓口に電話して」

 誠は強引に車のドアを閉めようとした。

 花織が両手でグイグイと押し開こうとする。

 誠は顔をしかめた。ケガをさせるかもと思ったら、力いっぱい引くわけにもいかない。

「何なの」

「被害者の人って、フリーランスでグラフィックデザイナーの仕事してて、一年前に事務所を立ち上げたんでしょ? そのへん絡みの怨恨? 逆恨み?」

「しらない」

 誠はぶっきらぼうに答えた。

 実際、フリーランス時代から強引な仕事の取り方で(うと)ましがられていたような話はチラホラ出たが、関係者の話ではない。軽いウワサのような感じだ。

 動機と決めつけるほどではまだない。

「フリーランスから事務所に切り替えるって、年収一千万あたりが目安なんだそうです。このちゃん情報ですけど」

「……ありがと」

 ドアをやんわりと引っ張りながらも誠は礼を言った。

「一千万を越えると事務所のほうが税金がお得とかなんとか」

「情報提供ありがとう。閉めるよ」

 誠はそう告げた。

「フリーランスになったのコロナ禍がきっかけってネットニュースにありましたけど。三年以内でいきなりそんなに収入上げられるもんですか?」

「それをいま調べてるの」

 誠はそう返した。

 

「あの」


 花織の背後から、困惑したような男性の声が聞こえた。

 制服警官が立っている。間違って花織に触らないよう半歩ほど後ろで両手を出しつつ(あご)を引いていた。

「ご苦労さまです」

 誠はそう挨拶した。

 制服警官が敬礼する。

「えと関係者ですか? ……被害者の遺族?」

 制服警官が、花織のほうをチラチラと見る。

「ナンパされてましたっ」

 花織が制服警官に向けて敬礼した。

「なんっ……! なに言ってんの! さっさと帰りなさい!」

 誠は声を上げた。

「知り合いの家のお嬢さん。たまたま通りかかって声かけてきたとこ」

 そう弁明する。

「何か出たのかい?」

 百目鬼が顔をかたむけて制服警官に問いかけた。

「店側に防犯カメラの映像を提供してもらいました。送信してもよろしいですか?」

 制服警官がそう尋ねる。

「ああ」

 そう返事をして、百目鬼がタブレットを手にした。

「このお嬢さんは気にしなくていい。人見(ひとみ)の彼女だ」

 百目鬼がタブレットを操作しながら言う。

「百目鬼さん!」

「彼氏のマコくんには、かおちゃんって呼ばれてます」

 花織がもういちど敬礼する。

 制服警官が、さらに困惑したような表情をした。

「花織さん! なに乗ってんの!」

「いいよ。送信してきて」

 構わずに百目鬼が制服警官に言う。

 制服警官が手にしていたタブレットを操作した。ややしてから、百目鬼のタブレットから受信を知らせる音がする。

「防犯カメラか。死亡前後?」

「いちおう当日の営業時間内のものをすべて提供してもらいました」

 制服警官が答える。

「あんがと。じっくり見るわ」

 百目鬼はタブレットをスクロールした。

 制服警官は敬礼してきびすを返すと、事件現場のほうに去って行く。

「百目鬼さん、変なこと言うのやめてください」

 いまだドアを花織につかまれつつ誠は抗議した。

 バッテリーが上がるのを心配したのか、百目鬼が思い出したようにルームランプを切る。

「あの説明がいちばん通りがいいだろうが。いちいち長々と関係性の説明すんのか」

 タブレットを操作しながら百目鬼が答える。

「未成年ですよ?! 下手したら淫行を疑われ……」

「お前ならまだいける。俺の彼女とか言ったらヤベェけど」

 百目鬼が答える。

 そういうことを言っているんじゃない。脱力しながら、誠は改めてドアを見た。

「……閉めるよ」

「協力してあげるって言ってるのに」

「要らないから。気をつけて帰って」

 こちらにはまったく構わず百目鬼が助手席でタブレットをスクロールする。

「ん……?」

 しばらくしてから、百目鬼が小さく声を漏らした。

 何か映っていたのかと誠は横目で見る。

「あーこりゃ……」

 百目鬼がつぶやいた。

「何ですか?」

 ドアを押さえつつ誠は百目鬼のほうを見た。

 百目鬼がタブレットの画面をこちらに向ける。

 オレンジ色のランプで照らされた薄暗いビアガーデン内。

 被害者が嘔吐し始める数分前らしかった。とつぜん観葉植物がカメラ前に運ばれ、テーブル周辺の人物は葉に隠れてほとんど手足の動きしか見えなくなった。

「これは……」

 誠はタブレット画面を見つめた。

「犯人か共犯者か、たまたまか……」

 百目鬼が、無言でゆっくりと花織のほうを見る。

「らじゃ」

 言いたいことを察したのか、花織が敬礼した。





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