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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第9話 黄身の瞳に乾杯

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駅前ビアガーデン駐車場 1

 昼を少しすぎた時間帯。

 人見 誠(ひとみ まこと)巡査は、事件現場となったビアガーデンの駐車場に警察車両のワゴン車を停めた。

 身体を少し助手席がわに乗りだし、先輩刑事の百目鬼(どうめき)が先ほどから見ているタブレット画面の事件資料を確認する。


「被害者は近江 一登(おうみ かずと)、三十六歳。駅前のビアガーデンで友人たちと飲食中、とつぜん嘔吐しだし救急車で運ばれたが病院で死亡確認。司法解剖の結果、体内からトロパンアルカロイドが検出された」


 百目鬼がタブレット画面をスクロールする。

「……これにより、殺人と断定」

 (まこと)は早口で資料を読み上げた。

「嘔吐する直前、ビアガーデンの店員が近江(おうみ)たちのテーブルに誤ってビールジョッキを落とし、テーブル上の食べかけのロコモコにビールがかかりそうになる。近江があわてて……」

 読み上げて、百目鬼が顔をしかめる。

「ロコモコ」

「何か、ハワイの料理でしたっけ」

 誠は答えた。

「何べん聞いてもモヤモヤする名前だな……」

 そう呟き、百目鬼が画面をさらにスクロールする。

「――近江があわててロコモコの皿を持ち避けた。店員がすぐに台拭(だいふ)きでこぼれたビールを拭きとったが、友人の一人が自身の皿を避けようとしたさいにデミグラスソースをロコモコにこぼし、近江と軽い口論になる……」

「ここまでは被害者は元気だったんですね」

「んだな」

 百目鬼が答えつつ画面をスクロールさせる。

「口論を止めに入った別の友人が自身のビールジョッキをこぼし、ビールが食べかけのロコモコにかかった。さらに店員を呼ぼうとした別の友人が立ち上がり、カクテルをこぼす。ここで別のテーブルの客が話しかける。近江はそれに答えたあと、文句を言いつつもビールとカクテルのかかったロコモコの目玉焼きをフォークで刺して食べ、直後に嘔吐……」

 百目鬼が渋い表情で眉をよせる。

「何だこのやたらドタバタしてんの……」

「まあ、酔っぱらってたでしょうし」

 誠は眉をよせた。

「トロパンアルカロイドが混入されたのは、ロコモコの目玉焼きですか」

「……みたいなんだが、混入されたのいつだ? 食べかけだったんだよな?」

 百目鬼が顔をしかめる。

「食べてる途中のどこかの時点でしょうけど」

 誠はタブレット画面をスクロールした。

「直前はずいぶんと……ゴチャゴチャしてたっていうか」

「このドタバタコントの登場人物の誰かなのか? 入れたのは」

 百目鬼が眉根をよせる。

 昼すぎの時間帯のビアガーデンの駐車場は、人も車も少ない。

 駅前ということを考えると、もの悲しくすらなるほどガランとしている。

 タブレット画面をさらにスクロールすると、事件現場の画像がいくつも続いた。


 コンコン、と運転席の窓を叩く音がする。


 現場を調べている鑑識係か、捜査中の別の刑事だろうと誠は思った。

「ご苦労さまです」

 タブレット画面を見ながら、確認もせずにドアを開ける。

 百目鬼がこちらを見て、珍しく動揺した顔をした。

「ヤバい開けんな、人見(ひとみ)!」

「え」

 誠はドアを半開きにして手を止めた。

「ご苦労さまでぇっす」

 殺人現場にはまるで似つかわしくない、明るいソプラノが耳に届く。

「か……」

 誠は固まった。

 久しぶりの制服姿に、ポニーテールに結ったサラサラの黒髪。

 余目 花織(あまるめ かおり)

 張り込みで自宅の一角を貸してもらって以降、たびたび捜査に力を貸してもらっている女子高生だ。

 好奇心で期待満々という感じの笑顔で敬礼している。

 ついついドアを半開きにしたまま誠は固まり続けた。

「捜査ですか? ご用命はありませんか?」

「……ていうか、学校は?」

「今日は始業式だけなのでお昼には終わりました」

 花織(かおり)が答える。

 誠は顔をしかめた。

「……殺人現場なんて来ちゃダメでしょ」

「規制テープ張られてるの店内の一部だけですし」

 花織がビアガーデンのほうを振り向く。

 誠は溜め息をついた。

 本来、殺人だの反社絡みだのの事件を日常的に扱っているような仕事に、こんな未成年のお嬢さまを関わらせちゃいけないと思う。

 彼女の観察力はありがたいし、何度も事件解決の突破口になってはくれたが。

「学校とは反対方向でしょ」

「でもうちの病院の近くなんですよね」

 花織が目線を上げて余目総合病院の方角を見た。

「病院に何か用事だったの? ならこんなところにいないで病院に行ったら……」

「用事は済ませました。そのついでに看護師さんたちからお聞きしたんですけど」

 閉めようとした車のドアに、花織が指をかける。


「トロパンアルカロイドが持ち出されてないか、病院に聞き込みして回ってるって本当ですか?」





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