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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第8話 いっぱい血にまみれる

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グランメゾンやつるぎ玄関前 3

人見(ひとみ)さん、見えない」

 花織(かおり)が顔を上下左右に動かし、(まこと)の手を避けようとする。

「だめ! こんなのは見ちゃだめ!」

 誠は百目鬼が手にしたタブレットのほうにも手をかざし、花織から見えないようにした。

「大丈夫です。ドラマみたいとしか思いませんでした」

「ドラマじゃないの!」

 誠は大声で(いさ)めた。

「現場はこのマンションじゃなかったのか……」

 百目鬼が低い声でつぶやく。

「ここまで運んだんでしょうか」

 花織の目を手でふさぎながら誠は問うた。

 花織が大きく上下左右に顔を動かし、タブレット画面を見ようとする。

「何でわざわざ移した……?」

 百目鬼が(あご)に手を当てる。

「会社の社長室だと何かまずかった? ……場所を移せば都合のいいように現場を作れるから?」

 誠は言った。言い終わらないうちに動画が終わる。

「なんですか? いま部屋のはしにあったやつ」

 誠の手を避けてタブレットを覗き見た花織が声を問う。

「何?」

「動画が終わる直前、二人が部屋のはしの方に歩き出してませんでした?」

 誠はもういちどタブレット画面を見た。

「あとでな」

 百目鬼が次の防犯カメラ映像を表示させる。

 小笠原のマンションの玄関口。向かいの棟のベランダから撮したものらしく、玄関口は遠目にやっと見える感じだ。

 玄関の前にスーツケースを引いた女が来る。カードキーと思われるもので解錠し、ドアを開けた。

 状況的に傘井 紫(かさい ゆかり)と思われるが、遠くて顔がはっきりしない。

「あの愛人のお姉さまです」

 前部座席のシートに頭を乗せて身を乗り出し、花織(かおり)が言う。

「確かか? お嬢ちゃん」

「歩き方、手の振り、横を向くときの角度、間違いありません」

 ここで防犯カメラ映像は終わった。

「これだけか」

 百目鬼が動画の一覧を見てつぶやく。

「ケチくせえ。もっとよこせ」

「百目鬼さん……」

 誠は顔をしかめた。

「ともかく殺人そのものについては立証できますかね、これ」

「顔がはっきり映ってないから弱いとは思うが。本人に突きつけりゃ動揺して何か話すかもな」

「どこ行きますか」

 誠は車のギアを入れた。

「八巻監督の個人事む……」

 百目鬼が後部座席を見る。ハッと気づいて誠も後部座席を見た。

 花織がいたことを忘れていた。

「花織さん……」

 誠は声をかけた。

「はい」

「僕たちこれから行くところあるから。自宅の近くでいい?」

 まだ昼間ではあるが、ここでまた捜査だの何だの言ってうろついて反社の人間にちょっかい掛けさせるわけにもいかない。

「わかりました。自宅に近いあたりになったら降ります」

 花織が言う。

「ああ、うん。言って」

 誠はホッとしてそう答えた。




 繁華街から外れた少し(さび)れた界隈。

 バブルのころはにぎやかだったらしいが、今では空き店舗や人がいるのかどうか分からないテナントビルが目立つ。

 「八巻 諫也(やまき いさや)スタジオ 」と看板の掲げてある小さなテナントビルの前で、誠は警察車両のワゴン車を止めた。

 停車させたとたんに、ハンドルを握りしめてうなだれる。

「花織さん……」

「はい」

 後部座席の花織が返事をする。

「自宅の近くになったら言ってって言ったよね……?」

「近くは通りませんでしたよ?」

 花織がそう返す。

 ウソだ。方角的には近かったのだ。土地勘のあるあたりは通ったんじゃないだろうか。


「たっ、助けてください! 殺される!」

 

 テナントビル二階の小窓から、初老の男性が顔を出してさけぶ。階段の窓だろうか。

 八巻 諫也(やまき いさや)監督だ。

「お嬢ちゃんはここにいろ。絶対出んなよ。人見、行くぞ」

 百目鬼が助手席から降り、先にビルの入口へと向かう。

「はい」

「了解しました」

 花織が敬礼する。

「本当に動かないでよ。もう危ないことはしない。いいね?!」

 誠は念を押して百目鬼のあとを追った。

 ビルの階段にさしかかると、脚を(もつ)れさせるようにして八巻が降りてくる。

 愛人の一人や二人いるのもまあ納得という感じのおしゃれな初老男性という感じだ。


「八巻監督、最初から素直に返してくれれば良かったんですよ」


 八巻が怯えながら振り向く。

 後ろから降りて来たのは、酒々井 令人(すずい りょうと)だった。

 「従業員」を従え、懐に何かを入れている。

酒々井(すずい)! 何やった!」

 百目鬼が声を上げる。

「監督が小笠原(おがさわら)の社長室から取ったものを返してもらいに来ただけですよ」

 酒々井がそう言い、百目鬼とすれ違う形で階段を降りる。

「強盗殺人になっちゃったな、八巻監督。そこの反社っぽく見える刑事さんにちゃんと話してね」

 酒々井が言う。

「てめえも何持ってんだ、コラァ!」

 百目鬼が声を上げる。


「ああ、エキストラさんの件も俺らに話した通りに話してね、監督。女使って小笠原に罪を被せようとしましたって」


 誠は八巻監督のほうを振り向いた。

「お前も今回は見逃せねえことチョコチョコやってたろ、酒々井」

 百目鬼が酒々井の背中に手を伸ばす。

 酒々井に付き従っていた男性の一人が、百目鬼のシャツの胸ぐらをつかんだ。すかさず誠はその男性の腕を取る。

「やめろ」

 酒々井が声を上げた。

「百目鬼さんに変な容疑かけられるじゃねえか」

 男性が百目鬼から手を離す。

 百目鬼が「ケッ」と言いながら襟元を直した。おもむろに誠のほうを見る。

「お前ももういい。どうせこんなあからさまな登場の仕方したってことは、言い逃れする用意してる」

 誠はうなずいて手を離した。

「じゃあね、百目鬼さん」

 酒々井が手を振ってビルの玄関口から出ていく。

 八巻は、その場に座りこみ縮こまっていた。

 百目鬼がこちらに目配せして内ポケットから警察手帳を取り出す。

 誠も同じように取り出して開いた。

「警察だ。八巻 諫也さん、ちっと話聞かせてもらえるか」





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