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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第8話 いっぱい血にまみれる

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警察署四階 署員食堂 1

 警察署四階の署員食堂。

 いつものごとく学校帰りに寄った花織(かおり)は、無理やり同席するとカツ丼についてきた小さな器のアイスを口にした。

「かき氷じゃなくなったんですね」

 ガラスの器に軽くスプーンをぶつけるカツカツという音を微かに立てながらそう言う。

「お盆期間限定な」

 冷やし中華の麺を(はし)でつまみ百目鬼(どうめき)が答える。

「ということは、お盆が終わったらかき氷に戻るんですか?」

「そろそろ夏限定って終わりじゃないかな」

 同じく冷やし中華を食べながら(まこと)は答えた。

「夏が恋の季節とかいうじゃないですか。でも夏だからって、とくに恋とかしないですよねえ」

 花織がアイスを口にする。

「あ……うん」

 誠は顔を上げて答えた。唐突の話題の転換に困惑する。

 先日、酒々井(すずい)に彼女さん云々言われていたのは、案外どうでもいいことなのか。

「結局、今年は海まだ三回しか行ってないし」

「おっさんたちが、むさ苦しいおっさんの捜査やら取り調べやらやってる間に三回も行きゃ充分じゃねえか」

 百目鬼が無料の麦茶を飲む。 

「その合間に捜査協力してるんですよ、わたし」 

 (から)になったアイスの器を置き、花織がポーチをさぐる。

 スマホを取り出した。こちらに画面を向ける。

「この前言った『男同士で愛し合っちゃいました~お前のためなら命を張れるぜ。究極の極道ラブ~』のネット配信、このちゃんに教えてもらいました」

 誠と百目鬼は、そろって手を止めて顔を歪ませた。

「何だ……タイトル何だって?」

 百目鬼が珍しく困惑した顔をする。

「……すみません。タイトルまでは話してませんでした、百目鬼さん」

 誠はそう返した。

「タイトル長いんで覚えにくいですよね。『男同士で愛し合っちゃい……』」

「タイトルはいいから。傘井 紫(かさい ゆかり)が出てたってやつだよね?」

 誠は花織のセリフをさえぎった。

「参考にいちおうと思いました」

 花織が答える。

「高級クラブのシーンのモブですけどね。BLって女の人あんまり出てこないから、目立つんで覚えてました」

 言いながら花織がドラマを表示させる。

 画面いっぱいに薔薇(バラ)の花。

 引いていくと、薔薇の刺青(いれずみ)のある男性の背中に。

 いかつい長身の男性と、女顔の青年が甘い言葉を交わし合っているシーンが延々と続く。

 百目鬼のほうをチラッと見ると、傘井(かさい)が出たら教えろと言いたそうな表情で、さりげなく目を逸らしていた。

「あっ、ここここ。人見(ひとみ)さん!」

 花織が画面を指差す。

「傘井?」

 誠は身を乗り出して画面を見たが、映っているのは男性ばかりだ。

「……どこ?」

「このシーン、このちゃんがキャーキャー言ってて。男の人から見てどう思います?」

 誠は顔をしかめた。

「……悪いけど花織さん、傘井が出てるシーンまで早送りしてくれる?」

「おっけぇ」

 花織がスマホを操作した。

 男性だらけの画面が早送りされ、きらびやかな高級クラブの内装が画面に現れる。

 画面では、着飾った女性が数人ほど行き来していた。

 誠はホッと息をつく。

「傘井……」

 マンションで泣きわめいていた女性の顔をさがす。

 ややして、眉をよせた。

「……傘井はどれ? 花織さん」

「さっきから画面うろうろしてるじゃないですか。歩き方のガサツな紫色の服の人」

 花織が一人の女性を指差す。

「え……?」

 誠は当惑した。

 花織が「ど?」という感じにこちらの顔を見る。


「……ぜんぜん顔が違うんだけど。花織さん」


 花織が軽く目を見開いた。

 百目鬼がようやくこちらを向き、画面を覗きこむ。

「どれだって? お嬢ちゃん」

 花織がもういちど紫色の服の女性を指した。


「この人に間違いないです」

 



「おいおい……?」

 百目鬼がスマホ画面を見て顔をしかめる。しばらくして思い出したように冷やし中華をすすった。

「整形……?」

 誠はつぶやいた。

「単に綺麗になりたいとかの理由で整形しただけかもしれないけど」

「顔、そんなに違うんですか?」

 花織が問う。

「別人だな」

 百目鬼が答えた。

「けっこう美人なのに整形する必要あったのか?」

 そう百目鬼は続けて冷やし中華をすする。

「美人でも、本人はコンプレックスを持ってるってこともあるみたいですしね」

「醜形恐怖症とか鏡恐怖症とかってのもありますけど。自分がものすごく醜いと思いこむ精神症状」

 花織が言う。

 誠と百目鬼は、無言でスマホ画面を見つめた。


「あっ」


 花織がとつぜん声を上げる。

 なに、という風に誠と百目鬼はほぼ同時に花織を見た。

「どこで見たか思い出しました。この女優さん、有名な映画監督と一緒にホテルに入って行ったの見たときがあって」

 誠と百目鬼は、そろって複雑な表情で花織を見た。

「……どんなところ歩いてんの。変な通りに行かない」

「ふつうのホテルですよ。海外で」

 花織が唇を尖らせる。

 誠と百目鬼は無言で顔を歪めた。

「バレンシアのトマト祭りを見に行ったときです。日本人の泊まるホテルってだいたい決まってますから」

「トマト祭りに血糊(ちのり)ドバドバ殺人……」

 百目鬼が冷やし中華をすする。

「関係ねえか」





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