表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第8話 いっぱい血にまみれる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/427

グランメゾンやつるぎ一階 エレベーター前

 花織(かおり)がきょとんとした顔で長身の男性を見る。

 (まこと)はさりげなく花織と男性の間の位置に移動した。

 酒々井 令人(すずい りょうと)。 

 ふたむかし前にはかなり警察にマークされていた反社の界隈の重要人物だと聞いている。

 現在はとある企業の代表取締役だが。

 百目鬼がこちらに目配せする。

 「何もしゃべるな」という意味だと誠は受け取った。

 エレベーターの扉が開く。

 花織は乗っていくのだと思ったが、誠のうしろで立ち止まったままだ。

 振り向いて「乗っていかないの?」と誠は目で問いかけた。

 花織は、じっと酒々井(すずい)の顔を見ている。

 「エレベーターに乗っていいよ」という風に誠は花織に手で促した。

「そっちの若い刑事の彼女さんかい?」

 酒々井が百目鬼に問いかける。

 うっと誠は眉をよせた。

「ここの住人のお嬢さんだ」

 百目鬼が答える。

「お騒がせして申し訳ありませんって挨拶(あいさつ)してたとこ」

「お騒がせしてんのは、うちの小笠原(おがさわら)と愛人なのに、何か済まないね」

 酒々井が口の端を上げて笑う。

「小笠原は脱退届を出したんじゃないのかい?」

 百目鬼が問う。

「ああ……間違えた。元うちの小笠原」

「こういうことがあるから、こっちでは脱退届を出したら別の県に引っ越せってアドバイスするんだよなあ」

 百目鬼が軽く頬を掻く。

「やつは円満脱退でしたよ」

「あんたがそれでも、それが気に入らないってやつはいる」

「気をつけますね」

 酒々井が穏やかな口調で言う。両脇に立つ男性たちに目配せすると、きびすを返した。

「エレベーターに乗るんじゃないのか?」

 百目鬼が問う。

「いま乗ったら、そっちの若い刑事が彼女さんの護衛について来そうで」

 酒々井が、はっと息を吐くようにして笑う。

 「いや彼女では」と言いそうになったのを、誠はかろうじて押さえた。




 酒々井がマンションの玄関口から出ていく。

「何しに来たんだ、ありゃ」

 見送りながら、百目鬼が顔をしかめる。

 はーっと誠は息を吐いた。

「ご苦労さん。しゃべっていいぞ」

「しゃべっちゃいけない感じに人見(ひとみ)さんがこっち見るんで、黙ってましたけど」

 花織が切り出す。

 誠は、背後を振り返った。

「何でいつまでもいたの。エレベーターに乗って行けばよかったのに」

「お先に乗るの、なんか悪いかなって」

 誠は(ひたい)に手を当てた。

 マイペースな気づかいするよな、この子。こういうところがやはりお嬢さまなのかなと思う。

「なんかあるんですか? あの人。なんかの容疑者?」

「反社の人」

 誠は短く答えた。

 花織は驚きもせずに酒々井の行った先を眺めている。

「ずいぶん男臭いハーレムでしたね」

「ハーレムって」

 誠は眉をよせた。

「いまはいちおう企業の代表取締役って形になってんだけどな。連れてたのは従業員。いちおう」

 百目鬼が答える。

 へぇと花織が相槌を打った。

「とりあえず、お大事にとお伝えください」

「なにそれ」

 誠は顔をしかめた。

「なにかお薬飲んでるでしょ、あの人。体臭で分かるんですけど」

 百目鬼が「ふぅん」とつぶやく。

「サプリメントなんかでも同じような匂いはするんですけどね」

 花織がそう話す。

「しゃべっちゃいけないのって、なんでだったんですか?」

「最悪、裁判なんかになった場合に揚げ足を取られることがあるから。ああいう人との会話は、不用意にイエスともノーとも取られることを言わないほうがいいの。黙ってるのが無難」

 誠はそう説明した。

「なんか、穏やかに話すんですね。もっとゴラァって感じかと思ってた」

 花織がもういちど玄関口を見る。

「下っ端はともかく、上の方の人間は穏やかで真っ当なこと話すよ。あまりに真っ当すぎて話が変でも、そこを下手にツッコむとこっちが悪者にされる」

 百目鬼がエレベーターのボタンのほうを見る。誠は手を伸ばして改めて五階のボタンを押した。

「上の奴らはやっぱ頭いいよ。自分が不利になるようなことは絶対に口走らない」

 エレベーターの扉が開く。

 百目鬼は、言いながら乗りこんだ。




 五階に着く。

 事件現場の前の廊下に制服警官と刑事が数人ずついた。何かがあった場所だと一目で分かってしまう眺めだ。

「現場検証? 現場検証?」

 花織がワクワクした様子で聞いてくる。

「関係ないの。じゃあ気をつけて。お友達によろしく」

 誠は花織の前に立ちふさがり、この場から離れるようシッ、シッという風に手を振った。

「なにかわたしにご用命は?」

「ないよ」

 そう答える。

 

「イヤ! イヤああああ! 幽霊に殺されるイヤあああ!」


 甲高い女性の声がマンションの内廊下に響く。

 傘井 紫(かさい ゆかり)か。誠はゆっくりとそちらを振り向いた。

「まぁだやってんのか」

 百目鬼が目を眇める。

「幽霊?」

 花織が興味津々という感じで傘井(かさい)の様子を眺めた。

「いいの。早くお友達のところに行きなさい」

 友達の住居が内廊下のどの方向かは分からないが、誠はとりあえず現場と反対方向を指差した。

「あの人、どこかで見た気がするんですけど」

 花織が傘井を遠目に見て首をかしげる。

「いちおう女優さんらしいからね。たまたまどこかで見てる可能性はあるよ」

「それでかな」

 花織が首をかしげる。

 しばらく「んー」と宙を見ていたが、ややしてからポンと手を叩いた。

「去年やってた『男同士で愛し合っちゃいました』って極道もののドラマで、クラブの女の人役で出てた人だ」

「……なにそのタイトル」

 誠は顔をしかめた。

「でも違うんですよね。違うとこで見たような」

 花織はそう呟いて、さらに首をかしげた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ